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SideA 怨嗟は斯くして連鎖して23

〈結局、今回の騒動はブランとバートって人がクロエラの大切な人たちを傷つけたのが原因なのかなぁ?〉


 シーアが手にした共鳴石《きょうめいせき》はひんやりとした夜の静寂の中、クリアにエメルの声を伝える。青々とした草が点々と生え渡る草原。月明りだけを導に歩き続けるシーアの他は見渡す限り何も、誰も存在しない。


「そうだろうなとは思うけど……なーんかひっかかるのよねぇ」

〈そうなの?〉


 釈然としない表情でシーアは手にした共鳴石《きょうめいせき》のネックレスを振り子のように揺らし、目の前を往復する石をじっと見つめる。


「クロエラが当初仕えていたエイド家の領主であるヴァイス。こいつは昔火事の時に亡くなったと聞いたが……まあブランもバートもこの頃からすでに権力争いにお熱だったらしいから、まず間違いなく二人の仕業だろうな」

〈ふむふむ……一応はあの夜の話だと火事はなんだかクロエラのもたらした災いみたいにあの二人は言ってたみたいだけど?〉

「ああ、ラヴィルの村でクロエラの雛に襲われてた親子を助けた時に聞いたんだ。随分と二人の話してた印象とは違ってたな。クロエラ"様"とか言われてたし」

〈慕われてたのかな……?〉

「領主共々慕われてたんだろうな。それに、ヴァイスが亡くなった後に領主を務めた妻のシルファってのもいたらしいが、そいつも同様だろうな」

〈旦那さんが亡くなった後もめげずに村のために頑張れるなんて、いい夫婦だったんだね〉

「そうだな……まあこの二人は"問題はない"だろう」

〈うん?〉


 石の向こうで首を傾げているエメルを想像してか、シーアはくすりと微笑み近くの茂みに腰を下ろす。羽織っていたマントを外すと地面に敷き、その上にゴロンと横になる。


 そのまま星空が広がる天に向かって伸ばした手。その手の中できらめく共鳴石《きょうめいせき》を指で優しく撫でる。


「この二人ではクロエラの"餌"にはなりえないってこと」

〈どういうこと?〉

「クロエラが言っていた。あいつは人を恨む怨嗟の心が無くなったときその命が終わると」

〈えええっ!? それは……なんだか悲しいね〉

「まあろくな"薬"じゃないんだろうな。"アナザー"も目的のためとはいえろくでもないものをばら撒いたもんだわ」


 脳裏をよぎる様々な"彼女"に関する記憶をたどり、シーアは目を閉じしばし沈黙を貫く。だがゆっくりと目を開け、その口をゆっくりと緩ませる。


〈まあ……それをあてにしている私たちもろくでもないことをしてる……ってことになるのかな?〉

「"捨てる神あれば拾う神あり"……っていうんだっけか? まあどんな厄介な薬でもそれが薬である以上求めるものがいてもいいでしょう。もっとも……私の場合は薬そのものよりもその"薬が生み出したもの"なんだけどね」

〈すごい……シーアがそんな難しい言葉を使うなんて〉


 天に伸ばしていた手をぱたりと地面につけ、大の字になるシーア。無論その顔は苦いものになっている。ふてくされるようにごろごろと地面を転がるシーアだがふと胸元に感じた違和感に手を伸ばし、その正体を取り出しにんまりとほほ笑む。


「傷ついたシーアちゃんはお土産の軍資金をそのまま慰労費にあてて回復するのでした。まる」

〈え? あっ!? まさかお土産用のお金をまた食費にあてようとしてる!?〉

「食費じゃなくて慰労費よ、慰労費」

〈そんなのわざわざお金で解決しなくても私が帰ったらハグしてよしよししてあげるから!〉

「えぇ……なんだか安っぽいというか子供っぽい解決策」

〈え!? 嫌なの!?〉

「……嫌ではないけどさぁ」

〈まあまあ、気を取り直してよシーア。それより、さっきからクロエラについて何か気になってるみたいだったけど?〉


 エメルの問いに体を勢いよく起こし、ぐっと共鳴石《きょうめいせき》に顔を近づける。


「そうそう、クロエラには"ハクア"っていう妹がいたらしいのよ。しかもヴァイスの一人息子だったラパンとは婚約者で……」

〈え!? 妹!? 名前ぐらいはチラッとあの日の会話で聞こえたけど〉

「そうそう……そして二人とも5年前だったかに亡くなったって。この辺が怪しいのよねぇ」

〈怪しい?〉

「最初は妹の敵討ち……って線が濃厚かと思ったんだけど、なんだかクロエラのハクアに対する印象がいまいちよくないのよねぇ」

〈仲が悪かったってこと?〉

「うーん……それも少し違うのかな。仲が悪いとはまた違う気がする。実際ハクアがエイド家に来たのはクロエラの紹介だと聞いた。仲の悪い奴をそもそも同じ職場に……あ」

〈どうしたの?〉

「クロエラ……それにハクアはこの村に来る前はもとは孤児だったらしい」

〈孤児……? もしかして解き放たれた孤児(ロスト・チェイン)?〉

「ああ、しかも奴の術式を見るに天魔族《ダークレイス》との……な」

〈だとしたらちょっと親近感が湧いちゃうなぁ〉

「そうね……同じ"孤児仲間"ってことだからね」


 二人そろって昔を懐かしんでか、互いに言葉を発することもせず時折吹く夜風の音だけが響く。再度共鳴石(きょうめいせき)を指で撫で、少し物寂しい表情で視線を落とすシーア。


「クロエラ曰く、姉妹といっても対外的なもので実の姉妹ではなかったそうだ」

〈そっかぁ……それでも……それでも"家族"として見ていたんでしょうね〉

「そうだな、多少歪な感情はあったのかもしれないがそれでもクロエラはハクアを家族だと思ってたんだろう。あいつにハクアのことを尋ねたが……悪く言っていたようだったが何かを悔いているような印象だった」

〈……シーアは結局何が気になってるのかな?〉

「ああ……ラパンとハクアもまた亡くなったと聞いたが、その死にもしかしたらクロエラが何か関わっているのかなって」

〈ええっ!? 家族なんでしょ!? そんなひどいこと……〉

「家族……家族……そういえば……」

〈うん?〉

「"私の家族"を……"ラパン"様も……そして私をも殺した……。初めてクロエラと会った時に奴が吐き捨てた台詞だ」

〈そうなの? じゃあやっぱりクロエラはハクアさんのこと大切にしてたんじゃないかな〉

「うーん、何だろうこのもやもやとした感じ……まだ何か疑問が……」

〈ふあぁ~……〉

「もうエメルはお眠《ねむ》かな?」

〈そうだね、シーアちゃんていう心配事も解消されたから今晩はぐっすり眠れそう〉

「むぅ……まあ、私もそろそろ少し眠たくなってきたしまた帰ったら続きを話すわ」

〈うん……待ってるから早く帰ってきてね。おやすみ、シーア〉

「おやすみ、エメル……」


 しばらく声を発しなくなった共鳴石《きょうめいせき》を見つめていたが、そっとまた元の胸元に石を戻し、組んだ腕を枕代わりにしてごろんと仰向けになる。


「クロエラとラパンか……まさか二体同時に希源種《オリジンワン》の相手をするだなんて思ってもみなかった。流石に今日は疲れたな……」


 ゆっくりと目を閉じ、ふと考えるのをやめようと口を閉ざす。だがふと浮かび上がる疑問にはっと目を見開く。


「"二体"……? どうして"クロエラとラパン"なんだ? ラパンの婚約者は妹のハクアだったはずだ。アナザーは"誰"に薬を渡したんだ? たしかあの村人の話だとラパンとハクアが亡くなる前にクロエラは美術商とやらに才を見出されてパルラに移り住んでいた。それが二人の訃報を聞き駆け付けた……というのが自然な流れだが……。妹をわざわざエイド家に誘っておいて残すような形で自分だけ去ったというのもなんだかなぁ……それに」


 結局眠ることもできず仰向けのまま枕にしていた腕を胸の前で組みなおし考え直すシーア。頭に浮かぶ思考をそのままタイムリーに声に出すかのように……ぶつぶつと一人つぶやき続ける。


「"私を殺した"……っていうのもどういうことだろう。クロエラは一度ブランとバートによって殺されたとでもいうのか? そこにアナザーが来て薬を……だとしたらクロエラの死因は……ああそうか」


"そこの二人はつくづく人を不幸のどん底に突き落とすことに長けているのだから"


 シーアの脳裏によぎるのは狂気じみた表情でブラン、そしてバートへと投げつけるように言い放ったクロエラの一言。


「谷底に……落としたのか。いや待て……? ラパンとハクアの死後にクロエラが戻ってきたというが本当にそうか? もし最初に落とされたのが"彼女"だとしたら……そしてそのときラパンが"探していた"のが彼女だとして……ああ、もしかしてそもそもクロエラがハクアを残しパルラに去った本当の理由は……そうか! だから奴は"印章術式"を……」


 たどり着いた結論に思わず身を再度起こす。ただその結論が非常に胸糞の悪いものだったようで、その表情は悪趣味な結末に辟易としたかのような表情だ。


「本当にろくでもない薬……道理で"物静か"とは無縁だったわけだ。これなら全て合点がいく……ははっ、だとしたら……悲しいな。でもまあ……"ラパン"は気づいてたみたいだぞ……なあ?」


 ぽつりとつぶやくことしばらく。シーアはようやく悩みの種が消え、今度こそとゆっくりとまた横になる。


 しばらくは無数の星々が浮かぶ夜空を眺め、その中でも一等輝いて見える星を見つめていたシーア。徐々に感じ始めた微睡《まどろみ》に身を委ね、胸元をぽんぽんと指で小突き、ゆっくりと瞼を閉じた。


 

 

 

拙作をお読みいただきありがとうございました^^

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