↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
113/120

SideB レイド戦の礼儀って大事だと思います21

 巨体というのはそれだけで脅威だ。ボクシングでも重量による階級制があるだろう? それに則《のっと》るとあいつは重量オーバーというかもう重量制をオーバーキルするにもほどがあるぞ?


 おまけに相手は空を飛べる。厄介なことこの上ない。それに脅威はそれだけではない。


 ベキベキッ。


 どこに隠れていたのかと思ったが、周囲の民家の一軒の中から破砕音が聞こえたかと思うとその壁を突き破り現れたラパン。大方水瓶もろともまた地面から現れ出てきたのだろう。空を飛ぶクロエラに地面を潜るラパン? 対極にしてベストカップルなんだが、祝福してやる気はない。


「おい、この中で遠距離攻撃で一番の高火力持ちは誰だ? あの馬鹿でかいのを相手できそうか?」


 怒声のような俺の問いに周囲にいた仲間たちはしばらく考えたのち各々が思う適任者へと視線を向ける。


「うひひっ、劣化したいまの私ではあの馬鹿でかい鳥を支配眼《ドミネート・アイ》で落とすのは厳しそうだ。適任で言えば零華の"ブラスト系"の精霊術式じゃないか?」

「この世界でブラスト系なんて使おうものなら一発でおねんねですわ。この世界にきてわかりましたが……対価の睡魔がひどくなっていますわ」

「ならば摩子の"エクス・カノン"はどうだ?」

「ふん、あれは印を準備するのに時間がかかるしその間私は身動きができなくなる。それよりお前の重ね掛けのハウリングの方が早いんじゃないのか?」

「あの巨体相手、そして距離では対して効果はないだろう。それに、俺の術式も威力そのものがこの世界では劣化している」

「それを言うなら私もこの世界では天恵《ブレージング》が半分しかない。ウェポンライトをさっき使ったから最後の"ライトライト"を含めあと5回だ」


 うん、聞いてはいたが皆一様に術式の力や効果、それに対価とやらが劣化しているらしい。期待できそうなのは摩子さんのエクス・カノンとやらだがその間の時間稼ぎと摩子さんの盾役が必要そうだ。


「おい有栖、摩子さんのエクス・カノンってのはどんな術式だ?」

「印章術式の中でも使い手が限られ、最強と名高いエクスシリーズの一種です! 絵芽と一緒に見てたアニメでレーザーっていうのが出てましたが、エクス・カノンはまさに暗黒のレーザー。触れたものの命を奪う恐ろしい術式です」

「うん、怖い。でも摩子さんの場合は天恵《ブレージング》の残量が減っているようだがその威力がそこまで落ちていないのなら期待大だな。摩子さん、頼めるか?」

「ふむ……あれは言った通り印が複雑で準備に5分……いや、3分はかかる。おまけにエクスシリーズの印はその場にとどまり描き続ける必要がある」

「お前は印を書くのに集中していればいい。その間、迫りくる全てを俺が薙ぎ払おう」


 響が襲い掛かってきていた雛を鮮やかに蹴り飛ばし、摩子さんに険しい表情を向ける。睨み返すようにして明らかに不機嫌な顔で応える摩子さん。しばらくの気まずい沈黙ののち、摩子さんは大きくため息をつき手にしていた二本の剣の一本を響きに投げ渡す。


「手ぶらで戦うお前なんか信じられない」

「ならば武器を手にした俺なら任せられるということか?」

「馬鹿を言うな。私が信じるのはその剣《つるぎ》。我が術式で生み出した武器だ。それを振る以上、約束を違《たが》える真似はするなよ」

「ああ、約束しよう」


 摩子さんはぷいっと響に背を向け俺の方を見ると残ったもう一本の剣を投げ渡してくる。俺は慌てて受け取るも思った以上の重みに思わず体勢を崩しそうになった。


「使うといい。今の私の武器は……この手だ」


 そこからの摩子さんの動きは圧巻だった。光陣を紡ぐ手《ライトニングサーキュレット》とはよく言ったものだ。摩子さんは素早く両の腕を動かし、まるで自身の真正面に見えざるキャンパスがあるかのように素早く印を描いていく。それはうっすらと光を帯びて浮かんではいるが、たしかに複雑な文様、それに見たことのない文字なども織り込まれた複雑な紋章。それを何層も重ね書きしているのだから恐ろしい。


「十字、お前は響と摩子を雛たちから守っているといい。ラパンの相手は我が引き受けよう」

「うひひっ、安心しろ。ラパンの水瓶の矛先がお前たちに向くことはない。瞳ちゃんとみんなの約束だぞ?」

「その言い方でなんか一気にうさん臭くなったんだが?」

「うひひひひっ! 辛辣!」


 力也は歩みを止めることなく俺たちに向かってくるラパン目掛け疾走し、なおも棘を生やした拳で攻撃する。対するラパンは棘があるのもお構いなしでその拳で力也に応戦しているが……痛覚とかはないのか? まさか先日のトライドに続きまた無敵キャラとかじゃないだろうな?


「じゅ、十字さん! 雛が来ますよ!?」


 有栖の警告に俺ははっと剣を振り回し雛を斬り伏せる。元の"クロス"には及ばないのだろうが、それでも素人よりはましだろう。順々に俺たちの周囲を飛び回っている雛鳥がビュンビュンと風切り音を慣らしダーツのように突っ込んでくる。


「案の定、雛は摩子さんを狙ってきていますね」

「ああ、クロエラの眷属だけあって指示でもされてるんだろう」

「でもその割には……」

「うん?」


 俺の背後に隠れ頭を押さえかがんでいる有栖。だが何か違和感に気付いたのかきょろきょろと辺りを見回している。


「クロエラに指示をされているなら雛たちはもっと摩子さんに群がってくるはずなんですよ……」

「なんだ? 摩子さんだけじゃなく飛鳥ちゃんとこにも集まってるからだろ?」

「いえ……たしかに飛鳥さんの所には多くの雛が飛び交っています。でもなんででしょう……残った雛はどちらかというと摩子さんよりも……」


 有栖の視線の先へと俺も目を向ける。なるほど……確かに奇妙だ。どうして摩子さんではなく"零華"の方に雛は向かっているのか。


 零華は手にした扇子で襲い掛かる雛をはたき落している。あれ扇子かと思ってたが……鉄扇かよ。まあ流石に敵がいるとわかってるんだし武器ぐらい持ってくるか。いや、それどころじゃない。あれじゃあ零華も術式を使う暇がなさそうだ。


「おい零華、お前なんかクロエラに恨まれるようなことしたのか? 例えばお嬢様口調が被って不快にさせたとか?」

「知りませんわよ! というか馬鹿なこと言って……ぶっ飛ばしますわよ?」


 あとで全力で謝罪しよう。しかしなんでだ? 雛は確かに摩子さんよりも零華を狙っている。まるで摩子さんを狙っているように見せかけてその実、群れを飛び出す雛の多くが零華へと向かっていく。


「くっ……多すぎですわ」


 いよいよ敵の狙いが露骨になっていく。雛から摩子さんを守っていた響もどうやらその異変に気づいたようで、視線を零華へと向ける。


「十字、何かがおかしい。お前は零華のもとへ。摩子と有栖は俺と瞳でなんとかなる」

「お、おう! 任せた!」


 俺は背後にいた有栖を見ると有栖もこくんと小さくうなずき力強い表情を浮かべる。


「早く零華さんのもとへ」

「ああ、わかった。お前も気を付けてろよ」


 竜承《ドラゴナイズ》を再度発動し、素早く零華のもとへ行くとたがいに背を向けあう形で周囲を警戒する。


「この状況は明らかに変だ。クロエラは明らかにお前を狙っている」

「以前共会荘で私の精霊術式で多くの雛を焼き殺して差し上げたのでそのお礼のつもりかしら?」

「それならF子の方にも雛が行くはずだろう? 何かないのか? 狙われる理由は」

「でも本当に心当たりなんて……」


 突如鳴り響く甲高い方向にその場の全員が天を仰ぐ。おいおい、雛だけじゃなく親鳥まで……。俺と零華がいる場所目掛けその巨対が急降下してくる。そして急転回し再度空へと離れるがその巨大な羽を落としていくのが狙いだったんだろうな。


「大きくなってもやること同じかよ! くそっ!」

「ひゃっ!? あ、あなた女性をそう簡単に抱き上げるなんて……」

「死ぬよりましだろう!」


 クロエラが放った巨大な羽がまるで鋼鉄のバリスタのように地面へと深々と突き刺さっていく。俺は零華を抱き上げ竜承《ドラゴナイズ》のフルスピードで駆け抜ける。やばいやばい止まったら死にそう!


「ま、また来ますわ十字さん!」

「まじか!?」


 垂直に上昇していたかと思うと宙返りしてまた俺たちへと滑空するクロエラ。そろそろ空腹の度合いも無視できない感じになってきてるし早々何度もかわせないぞあんな攻撃。


「十字、ラパンの相手を代われるか?」

「代わるって言ったってクロエラがなんか零華にお熱でそれどころじゃないんだが?」

「熱いなら水でもかけて差し上げましょうか? アクアブラストとかおすすめですわよ?」

「やめれ!」

「くっくっく、敵を前にずいぶんと余裕なのだな。まあ、安心するといい、クロエラは我が黙らせる!」


 そこからの力也の動きは人間離れの一言に尽きる。地面へと向かい来るクロエラから逃げるどころか駆け寄っていく力也。クロエラが放つ羽を新たに左手に生やした刀剣のように伸びた爪でうまく捌《さば》き、地面に刺さった翼を足場に民家の屋根へと飛び移る。


「瞳! 合わせてくれ!」

「うひひっ! アイアイEye(アイ)サー!」


 なるほど、考えたな。力也が飛翔するとすかさずF子が額の第三の瞳を開眼させる。そして支配眼《ドミネート・アイ》の力で力也をさらなる宙へと舞い上がらせる。そしてクロエラと入れ替わるようにして奴の頭上へと浮かび上がる。


 力也の予想だにしなかった接近にクロエラは落下をやめまた空へと戻ろうとするも時すでに遅し。力也は上昇しようとするクロエラとのすれ違いざま、その翼にしがみつく。激しく揺れながらも決してその手を離すことはなく、そのまま構えた爪を翼に向け突き刺した。


 鳴り響く黒鳥の声。苦痛からというよりは自身にまとわりつく脅威への威嚇のためと言わんばかりの咆哮が大気を震わせる。ははっ、俺には到底できないな、あんな真似。


「十字さん、こちらはこちらの相手をしましょうか」


 クロエラの猛攻が止まったことでひょいっと俺の腕から離れ着地するとすっと取り出した扇で口元を隠し、眼前に立つラパンへと冷ややかな視線を向ける。


「……クロ……エラ」

「彼女さんが心配ですの? ふふっ、お優しいんですのね。でも……」


 バチバチという音とともに零華の周囲に輝く紫電の球体が浮かび上がる。


「ご自身の心配をしたほうがよろしいんじゃなくて? "エレキスフィア"!」


 零華が扇を縦に振り上げ、勢いよく振り下ろすとそれをトリガーにエレキスフィアがラパンへと飛来する。それをよけるそぶりもなく真正面からもろにくらったわけだが……。


「ふ、ふふっ……その身で精霊術式を受けたご感想は?」

「あー……雰囲気をぶち壊して悪いがなんか効いてないみたいだぞ」


 零華の一撃で体表に電流が流れているように見えたラパンだが。何をされたかわかっていないかのようにポリポリと頭を掻き不思議そうに首を傾げているように見える……まじで不死身かこいつ?


「せ、宣戦布告はして差し上げましたからあとはやってしまってよろしくてよ十字さん」

「いや、どうせならそのまま終戦させる勢いで倒してくれてもいいんだが?」

「……ちょっと眠くてよく聞こえませんでしたわ」

「いや、それただ対価の睡魔がいよいよやばいってことだろ……」


 頭を押さえうつらうつらと立ったまま頭をカクつかせ始める零華……そろそろ限界か? 俺も空腹からちょっと目が回るような感覚するんだけど? え? 共倒れペアなんですけど俺たち?


 眠たげでうつろな瞳の零華。何とかこらえようと唇を嚙みしめてはいるがとうとう耐え切れず俺に身を預けるように倒れ込む。その身をまたひょいっと持ち上げるが今度はクレームが来ることもなく、瞳こそ閉じてはないがもはや焦点が合っていない。


 響は摩子さんの防衛で離れられない。有栖を守るように雛たちの前に立ちふさがるF子も目をこすっているのを見るに限界は近そうだ。力也はなおもクロエラにしがみついてはいるがそれが精いっぱいという状況で攻撃の手も止まっている。


「兄様っ!」


 状況を打開したのは飛鳥ちゃんだった。雛の攻撃に傷つきながらも凛とした声を上げクロエラへと向かい飛翔する。そしてクロエラの正面へと対空すると勢いよく翼を広げる。


「足を引っ張ってすみません兄様……どうか、クロエラに私の分まで……」


 決意と覚悟に満ちた表情で飛鳥ちゃんはすっと目を閉じたかと思うとすぐ様かっと目を見開く。


「天空光輝《スカイフレア》!」


 光を纏っていた飛鳥ちゃんの翼がまるで閃光弾のように激しくフラッシュする。そのあまりの眩しさにクロエラの動きが失速する。それと同時に翼が消え落下する飛鳥ちゃん。


「飛鳥!」


 減速したクロエラの隙をつき翼からクロエラの背へと移った力也は揺れ動く中飛鳥ちゃんへと呼びかける。


「うひひっ……乙女のきらめきってレベルを超えてるぞ……あとで覚えておけよ……"ソラ"!」


 F子もまた最後の力を振り絞るように落ちていく飛鳥ちゃんに向かい両の手を伸ばす。支配眼《ドミネート・アイ》の念動力により落下速度は緩やかに減衰し、飛鳥ちゃんもゆっくりと体をひねり地面へと着地する。


「ご、ごめんなさいF子さん」

「"ふわふわホワイトフェニックスの翼”5枚分の恩だ……気にするな」


 穏やかな表情を浮かべるF子は口調こそ変わらないがどこか大人びて見える。ゆっくりと瞳を閉じ、そのまま目をつぶったまま立ち尽くす。


「も、もしかして目が!?」

「ああ、限界だ。もう何も見えない」


 飛鳥ちゃんはF子へと急いで駆け寄りぎゅっと抱きしめる。


「ごめんなさい……私が……私が敵の挑発に乗り醜態を晒したせいで」

「あいにく私の瞳はお前の醜態など見てはいない。うひひ……鳥っ娘JKのいい雄姿

を見せてもらったぞ」


 目を閉じたまま頭一つ大きい飛鳥の頭をぽんぽんとあやすように撫でるF子。うっすらと瞳に浮かぶ涙をぬぐい、飛鳥ちゃんはぎゅっとF子の両肩をつかみ身を離す。


「今度は私がF子さんを守ります! 絶対に……絶対にです!」

「うひひ、そんなこと言われたら瞳ちゃんキュン死しちゃうかも?」


 にかっと笑うF子を見てつられるように口の端を緩ませる飛鳥ちゃん。悪いけれどF子は任せた。


 各々が死力を尽くして戦っている。俺も負けてはいられない。俺が今なすべきことは……ラパン、おまえを倒すことだな!


 俺は響の詠唱術式がセットされていた指輪がはまる左手でそっと体勢を崩す零華を支える。そして強く術式の変化を念じる。オッケー、術式が変更されたのを感じる。零華に触れている今、精霊術式が使える。まだ俺も戦うことができる!


「さあ、火と水と雷と……風と土と……どれがお望みだラパン?」


 俺が開いた手を向けたことでのしのしと歩いていたラパンの歩みが止まる。さあ、正念場だぞ俺……。


 


拙作をお読みいただきありがとうございました^^

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。