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SideB レイド戦の礼儀って大事だと思います18

 縦に規則的な間隔で並ぶ窓の数は6つ。外壁もまだ真新しさを感じる目の前にそびえたつマンション。まだ夜の八時を回ったところなので明かりのともった窓が多い。


「なんだかただのマンションがそびえたつ魔王城に見えてくるな」

「この世界の住居は本当に城のように高いものが多いな……元の世界に戻ったならば職場で学んだ建築技術で我が国にもぜひ採用したいな」


 肩に羽織った作業着を風にはためかせ、ドンと正面で腕を組む力也。たまに王族らしい物言いをするがまあ違和感はない。だが元のセブンスフォードにマンション建設のためのコンクリや鉄筋などはあるのか?


「六階建ての最上階に住むとはいいご身分だな、この世界のクロエらは」

「レッドクレアでもないのに随分と苛立っているようだが……戦闘では冷静さを忘れるなよ、摩子」

「黙ってろ。ただでかいだけの鳥など私の敵ではない」


 後ろから聞こえる険悪なやり取り。てか響すごいな。臆することなくあの摩子さんに絡んでいけるなんて。


「飛鳥さん、大丈夫ですか?」

「手、手を離さないでくださいね有栖さん! 絶対絶対ですよ!」


 ちらほらと周囲に街灯はあるがそれでも"鳥目"な飛鳥ちゃんにはきついようで。友達の仇……と力也の静止も聞かずついてきたのはいいが、大丈夫だろうか。有栖の手を取るというかもう半分抱き着くようにして頭一つほど小さい有栖に身を寄せて歩く飛鳥ちゃん。


 でもまあ今回に限って言えば飛鳥ちゃんがいてくれたほうが浦木という美術の先生……この世界のクロエラを呼び出しやすい。


「うひひひひ、聖女とJKの並ぶ姿がなんだか眩《まぶ》しいぞ? 尊いぞ? 精霊族《スピレイス》の王女も同じ考えだろ? ミートゥー?」

「ほんと同じ王族とは思えないその着眼点。参考にしたくもありませんわね」

「うひひ、テンプレ的模範的花丸満点的ツンデレだな、零華」


 呆れ声と対照的な陽気な声の組み合わせにそっと後ろを振り返るとぐっと体を伸ばす零華とケラケラとその横で腹を抱えて笑うF子。共に長時間棒立ちの刑のお勤めご苦労様と労いたいがたぶん嫌味だと受け取られそうなので黙っておこうそうしよう。


 こうして総勢8名で浦木が住むマンションの前までやってきた。そう……8名なんだよなぁ。元の世界でラパンと戦闘経験があるというどら子がよりにもよって今回不参加なのだ。


 なんでもどうしても外せない仕事があるとかいってふらふらと……気づいたらどこかに行きやがったのだ。俺なんか苦労して急遽バイトの交代を探してまで参加してるんだぞ? というか俺だけこういった集まり皆勤賞じゃないか? ずるくない?


「どら子って何の仕事してるんだ? というかあの自由奔放が服着て歩いてるような奴に務まる仕事なんかあるのか? というかその服を脱ぐほど強くなるんだっけかあいつ? え? まさかそっち系の……?」

「じゅ、十字さん不謹慎ですよ! え、エッチです!」

「いや、勝手に聞き耳立てて誤解するなよ。というかお子様に見えて今のを聞いてそんだけ顔赤くしてるとか、有栖さんはなんだかんだ大人なんですねぇ」

「も、もうっ!」


 怒りと照れのダブルパンチで顔を真っ赤にしている有栖。あー、そんなに勢いよくこっちに来ようとするなよ。ほら、しがみついてる飛鳥ちゃんが頼れるものがなくなって涙目だぞ。


「さて、それじゃあふざけるのはこの辺にして、そろそろ作戦に移るぞ」


 マンションの玄関前。F子の言う通り住人しか入れない指紋認証タイプの電子錠がある。幸いにも中からは指紋認証がなくとも錠を回せば鍵が開くタイプのようだ。


「F子? いざというときは頼んだぞ」

「うひひひひ、任されちゃった」


 陽気な受け答えとは裏腹にどこかF子の眼光が鋭く光る。妖艶な笑みを浮かべすっと両の目を細めるとそれに呼応するように額に浮かぶパープルアイ。まさに三幻眼の魔女《トライアイウィッチ》にふさわしいその容貌。でも今はまだ目立つからその光る眼は消してほしい。というかほんと悪目立ちしたらいやだから消して消して!


 さて、なんとかF子の悪乗りも収まったので作戦を説明しよう。内容はこうだ。


 飛鳥ちゃんがまず浦木を呼び出す。あの夜の食堂襲撃の件で証拠があるとでもいえば向こうも黙ってはいないだろう。んで出てきたらそのまま"玄関先で"問い詰める。ここ重要だぞ? こうすれば正体さえ暴けばあわよくば狭くて巨大化できずそのままあっさり倒せるかもしれない。


 どうよこの作戦! 我ながら思う、雑……でも皆なんかあの場では盛り上がってたけどその後冷静になって考えるとさすがに不法侵入とかはた目から見て集団強盗みたいな真似は社会的にまずい。


 なのでそれはあくまで最終手段だ。F子の支配眼《ドミネート・アイ》があれば鍵がなくとも念動力で鍵は開けることができる。まあ浦木があくまでしらを切って部屋に逃げ帰るようならやるしかない。


「飛鳥さん、準備は大丈夫ですか?」

「……はい。皆さんは少し離れて隠れていてください。もしかしたらインターフォンのカメラで私以外にも多くいると知られれば警戒されるかもしれないので」

「ああ、わかった。飛鳥ちゃんも警戒だけはしててくれよ」

「は、はい」


 有栖からそっと手を放し、少しふらついた足取りで一人先へと進もうとする飛鳥ちゃん。その表情はまだどこか硬い。だが俺たちの前を通って進もうとするその肩にぽんと力也の手が置かれる。


「我もいる。でかいだけの鳥などに決して遅れはとらん。それに……我の中では最強の鳥の獣人族《ビーズレイス》はお前だ、"ソラ"よ」


 余裕に満ち溢れた笑みとともに出た力也の励ましはおそらく今の飛鳥ちゃんにとっては何ものにも勝る勇気が出る言葉だったのだろう。そこからの飛鳥ちゃんの足取りはまさに地に足がついたしっかりとした足取り。


 玄関に向かう彼女を見送りつつ俺たちはぞろぞろとばれないように移動する。どこか緊張感が漂うピリピリとした雰囲気。そう、今度はこちらが襲撃する番なのだ。その緊張感に飲まれないよう、すっと目を閉じ息を整えながら歩いていたからだろう。どんと何かにぶつかり俺ははっと目を開ける。


「わ、悪いF子」


 目を開くと皆がすでにあたりの風景に溶け込むように散り散りに移動する中、ひとり立ち止まっていたF子。どうやらF子も俺のように両眼を閉じて高まる気持ちを抑えようとしていたのか? だがその閉じられた瞳は一向に開かれず、いつの間にかまた額にパープルアイが現れている。


「おいF子、いまはまだ三眼は隠しておけとあれほど……」

「避けろ! "ソラ"!」


 聞いたことのない突然のF子の怒号。その言葉に周囲に散っていた仲間たちもはっと視線を俺たちのほうに向けた。俺もなにがなんだかとあたふたと行き場なく手を動かしていたが目の前でとじられていたF子の両眼がかっと見開かれる。その瞳は以前に千里眼《サーチ・アイ》を使用した時のように紫の光を帯びている。


 状況が理解できない俺をよそ眼にF子は飛鳥ちゃんの……いや、そのはるか頭上へと向けて素早く両手を伸ばす。


「下衆な真似を……支配眼《ドミネート・アイ》」


 F子につられるがまま俺もようやく後ろを振り向き飛鳥ちゃんの姿を視界にとらえる。そしてその頭上でゆらゆらと動く物体を見てようやく状況を察した。


 飛鳥ちゃんも自分の頭上に浮かぶ"それ"に気づいた。そして"それ"が何であるかもわかり思わず口に手を当てた。おそらく振り絞った勇気で悲鳴を上げそうになったのをこらえたのだろう。


 俺とF子の横を素早く力也が駆け抜け飛鳥ちゃんへと向かっていく。俺はというと"二人目の犠牲者"の惨状にぐっと吐き気をこらえるのがやっとだ。


その場にへたり込む飛鳥ちゃんと彼女に駆け寄りその身を支える力也。その近くでピチャピチャと垂れる水音が乾いたアスファルトに赤いシミを、血だまりを順に成していく。


「さ……佐々木先生……なんで……」


 悲鳴代わりに聞こえた飛鳥ちゃんの掠れるような声が示した名前。その名に聞き覚えはある。そう、最初俺と摩子さんが犯人ではと勘違いをしていた生活指導の教員だ。


 鋭利な刃物で何度も何度もボロボロになるまで刺されたのだろう。いや、大量の嘴《くちばし》で啄《ついば》まれたのかもしれない。F子の支配眼《ドミネート・アイ》により宙に支えられた佐々木の遺体がゆっくりと地面へと降ろされる。


 それと同時にブーンという振動音。誰かのスマホのバイブであることはすぐに分かった。そしてそのスマホの持ち主である飛鳥ちゃんはゆっくりとスマホを取り出し、その画面を見て表情を青くさせた。


力也に続き他の仲間も二人の元へと駆け寄る。飛鳥ちゃんに代わり彼女のスマホを手にわなわなと怒りから体を震わせる力也。


「どうした? 何があったんだ?」

「受け取れ十字。このまま持ち続けていると握りつぶしてしまいそうだ……」


 そういって俺に飛鳥ちゃんのスマホを渡してきた力也。そしてその画面、表示されたメッセージを見てこれまで抱いたことのないどす黒い感情が俺の中にも芽生えた気がした。


"ありがとう。お前たちのせいでこの男は死んだ。お前たちのおかげで私は生まれることができた"


 送り主は"佐々木先生"と書かれたメッセージ。そういえば佐々木は生徒に親身で面倒見がよく、生徒との相談用のスマホを持っていたと聞いたが、そこから飛鳥ちゃんの連絡先を探して送ってきたのだろう。


「クロエラのやつ……ふざけやがって……ん?」


 再度スマホが通知代わりのバイブで揺れる。追加のメッセージだ。


"グラウンドで待つ。同じ世界の者同士仲良くしましょう。こちらは二人。そちらは全員でよろしくてよ"


 狭いところで巨大化させないようにとか狡《こす》い作戦を考えていた俺が言えた口ではないが、上等だ。流石にこれは俺も、俺の中の"クロス"も許せないのだろう。


 両の手にそれぞれの意志で込められたかのように力が伝わり、ぎりぎりという鈍い音が響く。その怒りに震える拳をそっと小さな両の手で優しく包み俺の顔を覗き込むように見上げる有栖。


「十字さん……」

「ああ、悪い……だがこれは許せない。ここまで馬鹿にされて、黙ってなんかいられるわけがない」


 悲しみと悔しさに嗚咽を上げ震える飛鳥ちゃんを強く抱きしめ落ち着かせている力也。顔こそ見えないものの共に並び立つように背を向け、俺同様にぐっと拳を震わせる響と摩子さん。月に照らされた横顔に冷淡な笑みを浮かべ、どこか遠くを睨むように見つめている零華。"狂気"と"妖艶"が混じりどこかこれから先の展開に昂揚した様子のF子。


 オーケー、どうやらここで臆するものは誰もいないようだ。そうだ、引き下がってはいられない。それが罠だとしても関係ない。ラパンも一緒にいるならむしろ都合がいい

。今晩、元の世界ではなくあの世にまとめて送りかえしてやるぞ、クロエラ。

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