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SideB レイド戦の礼儀って大事だと思います16

「おそらくだが、犯人はあの立花とかいう女のスマホのロックを解除して画像を入れたんだと思う」


 摩子さんはシリアスな表情で俺と有栖を見、静かに言い放った。有栖もまた幼女らしからぬ……ごめんて。有栖もまた場にふさわしい冷静な表情で摩子さんを見返す。俺はというと……。


「おい……あんまり部屋をじろじろ見回すのはよしてくれ。その……勢いで部屋に入れたわけだが、なんだかその……住んでる場所を見られるのは恥ずかしい」


お恥ずかしい! けどまあ女性の部屋に入るって機会が今までなかったし視線が不審者レベルでゆらゆら揺れ動いてもしょうがない……しょうがないのよ? なので俺のほうをロックオンしてジト目で見るのやめてくれない有栖君?


「こほんっ……十字さんにはあとで道徳を説くとして、どういうことか説明してくれますか摩子さん」

「この世界の推理ものでは指紋という人それぞれの指の皮膚の紋様が凶器などからでると動かぬ証拠……というのを本で読んだ」

「指紋?」

「なんだ知らないのか有栖? まあサスペンスとかじゃ犯行現場で鑑識の人たちがなんか耳かきの先の綿毛みたいのを使ってぽんぽんと粉をかけて探してますよね?」


 俺の補足に摩子さんはこくんと頷く。有栖はまだよくわかっていないみたいだが、俺はなんとなく摩子さんの言いたいことが分かった。


「立花さんのスマホの画面に何か粉をまとわせ、犯人の指紋を読み取るってことですね? でもそれじゃあわかったところで指紋がだれのものかなんて俺たちじゃ……」

「ふふっ、指紋なんてとる必要はないさ。重要なのは指紋そのものではなく指で何を描いたかだ」

「え……あ……ああ! そうか!」

「ちょ、ちょっと私にもわかるようにお二人さん!」


 そうだ……立花さんのスマホはマトリクス認証だ。ならばスマホのロックを解除するために画面をなぞる。その形跡さえ読み取ればいいのだから指紋そのものを読み取る必要まではない。犯人を特定するために指紋をとるのかと思ったが、逆に犯人がその手を用いてたということか。


「粒の細かい粉があればスマホの画面に振りかけることで指紋が浮き出るんだよ。だが今回の場合は指紋そのものよりもその軌道。スマホが没収される直前、生徒は中を見られないようにスマホを操作するかもしれない。そして直前に画面を確認するため目の前で解除すれば……」

「たしか生徒指導の佐々木とやらはスマホを没収する際に目の前で家族からの重要な連絡がないかだけ確認させていた。画面だけ開いて連絡が入っていなければすぐにスマホを回収。そうすればマトリクス認証の場合、その解除のための軌跡が画面の上部に残ることになる。多少操作されたところで大方の軌跡が読めれば推測も容易だ。人は意味のない形を記憶するのは忌避する。ましてそれが普段使うスマホのパスワードともなればな」

「佐々木ってのはたしか自分の授業だけでなく他の先生からもスマホを触っていた生徒のことを聞き、呼び寄せていたんだよな」

「そうだな……おそらく認証方法は人によりけりだから……母数を増やしたかったのだろう」


 ぱちんという小気味の良い音が響く。握りしめた拳をあいた手に打ち付ける様は鐘を突く撞木《しゅもく》の如し。俺が気合を入れたのを見てか、摩子さんの表情もどこか戦いに臨む戦士の顔つきのように……んでそのお隣で状況についていけていなかった幼女……おっと成年女性さんは握りこぶしを作りふるふると怒りの瞳を浮かべこちらを……悪かったよ!


「まったく十字さんは……あれ? そういえば皆さんなんだか犯人の目星がついたみたいな感じですが、その佐々木って先生が怪しいんですか?」

「ああ、まず間違いなく"クロ"だろうな」


 "クロ"エラだけに……と続けて言いそうになったのをこらえ、俺は食堂に戻ろうと立ち上がる。このことを力也や零華、そして飛鳥ちゃんにも伝えないと。


「え~っと? その佐々木先生って女性なんですかね? セブンスフォードではクロエラは女性で……"人喰いの魔女"とも呼ばれてましたし」


 有栖の何気ない疑問に俺だけじゃなく摩子さんもはっと目を見開き、おそらく同じ表情であっただろう俺と顔を見合わせる。


「おい十字……この世界の生活指導とやらの教師は女性が務める職務なのか?」

「必ずとは……あ、でもでも? 元の世界でクロエラが女性だからってこちらの世界でも女性とは限らないんじゃ? ほ、ほら、元の世界じゃ馬鹿でかい鳥の化け物でしたしもう性別なんて関係ないんじゃ?」


 こうはいったが正直望みは薄い。多分だが、クロエラはこの世界でも女性という気がする。以前の大地に刺さる三剣(トライアド)。"シーア"はあいつのことをトゥーレと呼んでいた。そして奴はこの世界では女性だったがおそらく元の世界でも女性だったはず。さすがに世界をまたいで性別まで転換というのはないのだろう。というかそれがありなら俺たち共会荘の面々もその可能性があったはずだが……今のところ皆さまお変わりなしなんだよな?



* * * * * *



「あ、佐々木先生は男性ですよ? そういえば言ってなかったですね」


 はい、お疲れさまでした。心の中で同じセリフを考えていたであろう俺と摩子さんは戻って早々であれだがもう食堂を後にしたくなった。


「29歳だっけ? 保健体育の授業も担当してて、マッチーはひどくいってますがいい先生ですよ。ちょっと無愛想な感じですけど生徒への指導も評判いいですし」

「そうだね、真智さんの評価は辛辣だけど。佐々木先生って特定の部活の顧問ってわけじゃなくいろんな運動部の基礎トレーニングやストレッチなんかの指導もしてて面倒見いいよね。悩みがあればいつでも相談して来いって生徒の相談受付用のためだけにサブのスマホまで持ってるんだよね。そして私は連絡先交換済み」

「そうそう、うちの陸上部も雨の日とか校内でトレーニングするときはたまにメニューを考えて指導してくれるし。マッチーの好感度は低いけど、結構女子からの人気高いよ? ちなみに私も佐々木先生とは連絡先交換済み」

「なんか今のお二人の会話内で私の名前がちょいちょい悪評とともに登場してて話があんま入ってこなかったんだけど? あと私だけなんだか先生と生徒の輪に入っていないの確定みたいなんだけど?」

「やだなぁ、悪評って言ってもマッチーの評価が悪いってことじゃないよ?」

「そうそう、真智さんからの佐々木先生への評価が悪いってだけで……マイナー意見だけど」

「最後っ!」


 立花さんの嘆きともツッコミともとれるお話は置いといて、なんだか先に聞いていた話と違って厳格な印象というよりは本当に生徒のことを考えての対応だったように思える。んでそんな人を犯人と決めつけたのがなんだか申し訳ない。


「それで、なんだか摩子さんと内緒のお話をしてきたみたいですが? 何かわかりましたの?」


 三人のJKが会話に盛り上がり注意が散漫になっているのを見計らい、零華がテーブルを指でトントンと鳴らしながら俺と摩子さんを交互に見遣る。うん、どうしようこれ……そう思って摩子さんの方を見たがあー、だめだこりゃ。顔を真っ赤にしてうつ向いている。人見知りにあの取り調べする刑事のような態度はなぁ……正直俺も相手するのヤダ。まして犯人と思った佐々木先生とやらが思ってたよりも善人となると。


「あー、スマホのロック解除の方法に関しては目途がついた。だが佐々木さんってのは聞いた通り男性だ。元の世界ではクロエラは女性だし、他に犯人がいるんじゃないかなと思っている」

「ああ、そうですわね。クロエラとやらはこの世界でもまず間違いなく女性でしょうね」

「そう、元の世界と同じ性別の可能性が高……はい? え? 女性なの?」

「だって先日黒いレインコート姿で来た際も体格や身体的特徴、あとスカートも履いてましたしまず女性でしょうね」

「俺それ聞いてない……てか、え? なんでお前は死角に調和するもの(ランビレオン)の弱点の時といいほんと肝心なことだけ全部事後報告なんだよ」

「し、失礼ですわ! ちゃんと言いましたのよ、この世界の戒律等兵《プライア》には!」

「いや、私たちにも言わないと駄目だろ……」


 あ、摩子さんもホワイトボード経由でなく直で言ってる。その表情は気まずそうではあるがどこか呆れを感じさせる。それに感づいてか零華もプルプルと肩を震わせながら顔が徐々に赤くなっていく。勢い良く立ち上がったはいいものの状況が悪くなんかそのまま座ることもできない様子で……なんか弾劾の場みたいになってるんだが?


「それで……他に何か"警察にではなく私たち"に伝え忘れていることはないか? なあ、"レイア"? おっと失礼、ここでは品格にあふれた王女としての名ではなく庶民である零華の名で呼ぶんだったな」


 ホワイトボードをひざ元に置き、テーブルの上で頬杖を突きまっすぐと零華に目線を向ける摩子さん。あ、やばい、これお怒りの悪魔モードというか天魔族《ダークレイス》モード入ってるやつ。


「え、ええっとちょっとお待ちくださいまし! 今整理してますから……」

「できるだけ"情報不足で見当違いな推理ばかりしている馬鹿な"私たちにもわかりやすく説明してくれると助かる」


 うん、怖い。以前の天魔族《ダークレイス》かわいいな様子とは真逆の冷淡に相手を追い詰めていくその姿に俺だけでなくお隣の有栖も気圧されている。


「おい、これはどういう状況だ? 十字よ?」


 俺の横の椅子にどこか隠密のようにそっと座り、ヒソヒソと聞いてくる力也。そっちはあのJKたちから解放されたのか。こっちは今絶賛拘束尋問中だ。とりあえずクロエラの情報も欲しいから黙って見守っとこうな。



* * * * * *



「あの日襲撃してきたクロエラは顔こそ隠してたものの、鳥たちに指示を出す身振りや体格、衣装……あと胸元が男性のそれとは違ってましたから女性だとわかりましたわ」


 胸元が男性のそれと違うって……あー、把握。んで口に出すと俺の品位にかかわるので無言安定。


「あと、これは警察にも言い忘れ……でなく言ってはないここだけの情報ですが、指示を出す際に見えた指には黒いネイルが見えましたわ。あまりゆっくりは見たわけではありませんが、おそらく何の飾りもない漆黒のネイル……でしたわね」


 いつになくシリアスな表情なんだが……その頬を流れる滝のような冷や汗のせいでなんかそろそろ不憫に見えてきた。でもそういう情報もおまわりさんに言い忘れてちゃ駄目だろ。無論、俺たちにもな?


「その情報、ちなみに飛鳥には伝えてあるんだろうな?」

「え? 飛鳥さんは一緒に現場にいましたし別にわざわざ言うまでもなく……」

「飛鳥は鳥目だから夜目がきかんだろう?」

「え? あ……」


 思わず手を口に添え口元を隠す零華。そしてその覆い隠せていない無防備の瞳に刺さる鋭い眼光。


「摩子よ……零華も戦いの直後で少し高揚していたのもあるのだろう。あまり強く責めてやるな」

「"リーガー"、お前もそろそろ"ソラ"を呼んでこい。学友との雑談はいつでもできるだろう。というかこちらは先日仕事が忙しい中、無駄足を踏まされてるんだぞ? さっさと見つけて殺して終わらせるぞ」

「む、お前も少し感情が高ぶって……」

「リーガー? もう一度同じ台詞を一言一句違えずにいう必要はあるか?」

「……しばし待て。ついでに学友たちには今日のところはもう帰るよう伝えよう。そろそろ時刻も17時を回る」

「ああ……それがいいだろう。ここからは速やかに片づける。学校での犯人探しに必要な情報は零華のそれで充分事足りそうではあるからな。動機や理由なんてもうどうでもいい。必要なら疑わしきやつを痛めつけて吐かせればいい」


 あー……そういえば先日クロエラを迎えうつべく出かけた夜は勤務先の本屋がフェアかなんかで忙しかったって言ってたな。あと推理も無駄足になったのも何気に頭にきてるんだろうな。うん、いつものコミュ障どこへやら。零華以上になんか王族っぽい威厳というか威圧というか。


「なあ有栖?」

「うん? なんです?」

「摩子さんって天魔族《ダークレイス》の境界を分かつもの《アナザーディメンション》だけど、天魔族《ダークレイス》のいいとこ出の戦士の家系とかなのか?」

「え、ええっと王族とかではないみたいですけど、由緒ある貴族の生まれとは聞いています」

「貴族!?」

「十字、有栖、暇なら"アイギス"を呼んできてくれないか。今の私が行くと口より先に"印"から剣が出そうだ」

「あ、はい……俺行ってきます」

「え!? じゃ、じゃあ私も!」

「いや、二階行って呼んでくるだけだしお前はここで摩子さんたちと待ってていいぞ」

「えぇ!?」


 有栖だけでなくなおも立ちっぱなしの零華まで慌てて俺をガン見してくる。


「心配するな有栖、零華。私は別に怒っているわけじゃない。リーガーが言うように少しレッドクレアの時のようにバッドな方に感情が昂っているだけだ」

「そ、それ一番やばい精神状態じゃないですの!?」

「そうだな、どうもこの世界だと元の世界のように一人の時間が少なく、精神の安らぎが足りていないようだ」


 人混みというかあまり大人数でいるのがそこまで好きではないのだろうか。まあともかく今は理由はどうでもいい。先ほどの零華のように指でテーブルをトントンと打ち鳴らし始め、徐々にその音が大きく鳴り出したのを見てやばいと判断しすぐさま食堂を後にする。


 有栖と零華の「あ……」という声が聞こえたけどまあ少しは女子会よろしく楽しく待っててくれ。どう見ても楽しくはなさそうだけどな!


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