ナナとカオリ1
『カオリ、今いいかしら』
日曜日の朝。委員長からテレパシーが届いた。
シュールな文だが事実だからしょうがない。
あの集会の後、俺は魔法少女たちとテレパシーを通じて共闘するようになった。
彼女たちからの連絡であったり逆に俺が適当に念を送って近くにいる子に伝えたりだ。誰かと一緒というのはかなり気持ちの面でも楽だった。
いくら自己再生能力があろうとも厄妖の種類は千差万別。見た目である程度予測はつくものの。さっぱりわからないときや一人だとどうしようもなさそうな攻撃や弱点を持っていたりで、対策を考える隙や囮役など一人ではないだけでかなり戦いの幅が広がるものだ。
それでも本当に手がなかった場合各々必殺技みたいなごり押しで倒す場合もある。というかそっちのほうが多かった。基本的に倒せればなんでもいいのだ。別に誰かに魅せる戦い方をする必要はない。こちらは命をかけているのだから。
『どうした? 使い魔でも出たのか』
俺はカオリに変身して委員長のテレパシーに応えた。
『あ、そういうわけじゃないの。せっかくの日曜日だしお買い物にでも行かないかなって』
『……買い物』
『だめなら断っていいのよ。私も突然だったし何か予定でもあったら悪いから』
妖魔か使い魔かと思ったらお買い物のお誘いだった。こんな連絡くらいスマホですませてくれよって思ったけどカオリへの連絡手段がないからわざわざテレパシーなんて使っているんだった。
しかしどうしようか。向こうはオレが女だと思っているから気楽に誘ってきているが、こっちからしたら女の子と出かけることになる。静永さんの家に行ったように女の子関係のことは今まで全然なかったわけで。
『嫌ってわけじゃない……今までそういうのに行ったことなかったから』
『……今まで行ったことがない』
とても悲しそうな感じで委員長はそう言った。これ絶対勘違いしてる。気軽に友達と買い物にすら行けないほどの生活、そして男みたいな話し方でなにかいらない誤解を与えてしまったようだ。
オレとしては今まで(当たり前だが)男だったから女の子と買い物に行ったことがないという意味で、男みたいな話し方は実際男だからで。
とても誤解を解きたいが解いたら男だとばらすようなものだから話せないわけで。
『ナナが思っているようなことじゃないよ。けど行ったことがないのは本当だし買い物には行くよ』
『本当に大丈夫なの?』
『だあーもう今日は何にもなくて暇だから行くよって言ってんだよ。さっさと場所と時間を教えてくれ』
元々は放課後に謎の着物少女を探し回っていて付き合いが減っている武に会おうと思っていたが、変な勘違いをされ続けるのも気持ちが悪い。武のことはいつでもいいし委員長と出かけることにした。
「悪い、待たせたか?」
「大丈夫よ。私が早く着いていただけ」
時間よりちょっと早めに待ち合わせ場所に着くと委員長がそこにいた。なんだかんだ私服の彼女を見るのは初めてだ。いつもは制服や魔法少女形態ばかりだったからな。
「なにか変かしら」
「いや、そんなことない。むしろオレのほうが変じゃないか不安だよ」
「あなたこそ変じゃないわ。似合ってるから大丈夫」
「そ、そうか」
素直に褒められるのも照れるな。服は悪断が用意したものだけど。毎回違う格好にしてくれて本当に素晴らしい刀だと思う……普通の刀は変身なんてできないけど。
「それで、買い物って何をするんだ?」
「こういうのは初めてなのよね。まずは洋服でも見に行こうと思うんだけど」
「洋服ね、行こうか」
オレたちが待ち合わせ場所に決めたところは東幾重市の中にある大きなショッピングモールだ。他にも幾重市は北、西、南とあってそこにも同じような規模のショッピングモールがある。
今まではここには武とかと一緒にゲーセンコーナーで遊んだり本を買いに行ったり、たまに服を買いに行ったりした程度で、女子が行きそうなアクセサリーだとか洋服とかの店になんか興味の欠片もなかった。どれもどうせ一緒だろうと思っていたが改めてみると結構種類も豊富で、全部見て周るだけでも時間が掛かりそうなものだった。
「これなんてどうかしら」
「あ、ああ。いいんじゃないか」
「こっちは?」
「そっちもいいな」
「もう、カオリは本当にそう思ってるの?」
「そう思ってるって」
同じようなことを色々な店舗で言った。
なんかカップルで来て感想を求める女の子に適当に言っている男みたいだ。見た目はちょっと違うが実際そうだし。しかしオレは適当に言ってない。正直委員長はどれを着ても似合っているのだから。
「なんかカオリって本当に男の子みたいね」
「正直洋服にはあんまり興味はないな」
「じゃあカオリが興味あるとこに行きましょう」
「もう服はいいのか?」
「あなたがあんまり楽しそうではなかったからいいの。それにまた今度みんなと来ればいいわ」
「皆か。どうして今日オレのことを誘ったんだ?」
『お前のことを観察するためさ』
「うお、ミフトか」
突然頭の中にミフトの声が響いて驚いた。そういえば委員長と一緒にいる妖精がいないなと思っていたが、カバンの中にいるのか。
『突然話しかけないでよ』
『今まで黙ってやっていただけありがたく思え』
『そんなことより観察ってなんだよ』
『お前はナナと学校が違うし集会の時以降、戦闘の時しか見ない。だから素のお前を知るためにナナがここに呼んだのだ』
『発案お前じゃないのか』
『あ、あなたがそんなこと言ったらカオリと仲良くしたいために呼んだの分かっちゃうじゃないのよ』
委員長はそう言ってから顔が真っ赤になった。
傍から見ると女子二人が目線だけ合わせて黙々と歩いているが、その実テレパシーで会話をしている。なので周囲からは突然顔を赤くして下を向いた風に見えるだろう。可愛い。
要するに今日誘ってきたのは委員長が俺ことカオリと個人的に仲良くなるためか。こっちも同じこと考えてたからいいけど、ミフトはなんでこうペラペラ話すんだか……わざとか、わざとなのか
「それでオレの興味あるとこは本屋だけど、その前に飯行かないか?」
「もうそんな時間だったのね。ごめんなさい長い時間をかけちゃって」
「見てるだけでも楽しかったからいいって」
オレたちはフードコートのコーナーへ向かった。学生にとってレストランコーナーは高いからな。個人的には服も高いし安く済ませるべきだとは思うけど、女の子にとってはお洒落は大事なのだろう。
「あら、斉藤君」
「おお、委員長」
ばったりと武と出会った。本当に偶然だ。それにしてもこういう人の多いところには一人では行かなかったのに来るとは、よっぽど『着物の少女』に会いたいらしい。実際会ったとしてもあの症状が治っているわけでもないしどうするつもりなのやら。
「そっちは?」
委員長と軽く雑談をした後オレについて聞いてきた。委員長とは最近学校で一番近くにいる女子だからか距離が近づいても多少平気なんだよな。これを機に治ればいいが……焦ってもしょうがないことだな。
「友達のカオリっていうの」
「へぇカオリさんね。俺は斉藤武。よろしく」
「よろしくね」
オレは内心気持ち悪くなりながらも女の子っぽく話した。それを見ている委員長は目を見開いていたけど。
「じゃあ俺は用事があるから」
「ええ」
武は爽やかな笑みを浮かべて去っていった。いつも身近にいたから忘れていたがあいつはかなりのイケメンだ。女子が落ちそうな表情や仕草を自然としてしまうのだ。だから学校ではこっそりとファンクラブなるものができていて、それのおかげで女子たちが牽制しあってあまり武に女子が近づかなくてすんでいるのだ。恐怖症になったのは女子にモテすぎるせいもあるが、現状それによって守られているというのはなんという皮肉だ。
委員長は普通に話しているがファンクラブ的には委員長は全くの無害という扱いらしい。
「それじゃあ飯行くか」
「ちょっと待って」
「どうした?」
「どうしたじゃないわ。どうしてカオリはさっき斉藤君にはいつもの話し方じゃなかったの?」
「いやあこの話し方だと変に思われるかなって」
「そんなの今更じゃない。私たちはもちろんだけど、さっきのお洋服店の店員さんにだってその話し方だったわよね。もしかしてあなた、斉藤君のこと好きになっちゃってたり……」
「ないないない! オレがあいつを好きになるのはないって」
誰が同性の親友に惚れるんだっての。いくらあいつがイケメンでも冗談きつい。
「その慌てよう」
「本当にないからこれ以上はやめておくれ」
「まぁいいわ」
委員長は渋々納得した。オレが武に対して口調を変えたのは少しでも『着物の少女』とオレを結び付けないためだ。悪断の効果で戦闘時と一般時は見分けがつかないとはいえ、委員長たち魔法少女らみたいに両方を認識されると効果がないというか知られているので意味がなくなる。今まで恐怖症のせいで外に出たがらなかったあいつがあんなに精力的に探すなんて見つかったらかなり面倒になるし、まともに会話をしたらオレが俺だとボロが出て隠しきれなくなる。
「それで何食べようか」
「そうね。今はどこも混んでいるからまずは席を確保しましょう」
やはり昼時とフードコートには人が大勢いたが二人ならいくつか確保できそうな席があるからそこまで大変ではなかった。
長時間立ちっぱだったからかようやく座った委員長はふぅと息を吐いた。
「大丈夫か?」
「ええ、途中休憩をはさんでもよかったかもしれないわ」
「夢中になってたのを止めづらくてな」
「あなたが悪いわけじゃないからいいのよ。それよりもカオリは大丈夫なの?」
「オレは平気さ」
「普段は運動部だったりするのかしら」
「部活には入ってないけど、運動は少々ってとこかな」
オレは全く疲れてない。一般モードとはいえ悪断での変身状態だ。おそらくは身体性能は戦闘モードと同じな気がする。全力で行動したことないが、変身して長時間戦闘をしていても全く疲れがないのだ。特に生身でも影響はないみたいだし。
「私は運動が苦手で普段は動いてないから体力があんまりないのよ」
「その割には妖魔とかとは戦えてるじゃないか」
「それはそうよ。変身しているんだから」
「やっぱり変身すると全然違うのか」
「変身するとその状態のときだけ感覚的に自分がどう動けるのとか魔法をどう使うのかがわかるのよ。そして解くとその感覚がなくなるの」
「ちゃんとオンオフしっかりしているから日常生活での感覚の齟齬がないわけか」
「そうね。無くなるのは惜しいけどオンオフ切り替えられないと困るから」
オレ自身も大体そんな感じだ。体自体変わるからなまじ感覚を覚えていると困るが。戦闘に関する知識は全く与えてくれないとこは違うかな。
「休んでいるうちに店の前の人が減ったな。どれにするかね」
「私はカオリと同じようなものでいいけど」
「いいのか? ナナが苦手なものを頼むかもしれないぞ」
「私の好みを知らないでしょ。それに大抵のものは食べられるから大丈夫」
「ふむ、じゃあ無難にカレーにしますかね。じゃあちょっと行ってくる」
オレは注文を取りに席を立った。




