814 始まります
『流石にこんなの使って勝つのは、アイリスの本望じゃないし』
「よ、よかったです。でもそれを使ってアイリスをもとに戻すのは?」
『だから、私にアイリスを元に戻そうなんて感情は無いって』
「・・・・そうですか」
❝この銀河のどこかに、どんな願いでも叶うとかんなスキルあるのか❞
❝俺、探してみようかな❞
❝・・・まず見つからんやろうけどな❞
『じゃあ、始めようか!』
私は操縦桿をゆっくり撫でた。
すると、ダッシュボードの上に扉が現れ、中から青い服の執事が出てくる。
『マイマスター』
「うん」
『御武運を!』
「ありがとう!」
アイリスに似た女の子も出てきた。
『ま、頑張ってね』
「Ai’sもありがと!」
私がスロットルレバーを前に倒すと、僅かなGと共に宇宙へ。
眩しいジェットに向かうと、十六夜テイルが浮いていた。
1万人以上の目が、私達を見ている。
『来たね』
「来たよ」
『周りのプレイヤーさんたち、銀河連合の兵士さん達、手出しは無用! 回復も駄目だからね!!』
「ということです!」
『スっちー負けないでね・・・』
「大丈夫、プリティ・ギルティちゃん!」
『――じゃあスウちゃん、行こう。私達の一騎打ちの舞台へ!』
「うん!」
アイリスと、上昇するようにブラックホールから離れていく。誰もいない―――2人きりの戦場へ。
ここは重力と、大気がある、ならエネルギー理論が通用する。
速度、高さ、加速、3つのエネルギー。この3つのエネルギーを操作、交換、奪い合い自らを有利にする。
だから私とアイリスは先ず、加速と速度を高度のエネルギーにして〝保存〟するため、ブラックホールから離れていっている。
現在の私達の位置は、射手座Aスターの〝シュヴァルツシュルト半径(光も逃げ出せなくなる距離)〟からだいたい50天文単位離れている。
この位置は、大体1Gになる。
アリスとリッカの声が通信から漏れてきた。
『スウさん、頑張ってください!』
『任せたぞ!』
「うん、二人共ありがとう!」
❝スウとアイリスが、美しい螺旋を描きながらブラックホールから離れてていく❞
❝本当に美しい螺旋だ。普通のプレイヤーが描く螺旋は、どこか歪な物なのに❞
❝まるで数学的に計算されたような幾何学❞
❝なんて綺麗な、ヴァーティカルローリングシザース❞
私はフラップ――戦闘機の胴体付近にある、離陸を容易にするための動翼を下げ、さらにエルロンでちょっと変な横転をする。
「その機体、慣性ダンパーがあるんだね」
『無いと、勝負にならないからね――いくよ、スウちゃん!』
「来い!」
ドッグファイトが始まる。
――私とアイリスは示し合わせたように散開、宇宙に花を咲かせるように。
両者、機首を左右に振る舵のラダーを踏み込みんだ。
すると螺旋が折れて、二機はそれまでの螺旋に対して反転し、シザースのでの膠着状態から背後を取る要領で抜け出した。
普通の相手ならばこれだけで背後を取れるけど、私とアイリスじゃ通用する物じゃない。
私は同時に、アイステイルをテーパー翼モードにして、横転用のエルロンをわずかに効かせる。
アイリスは、ブラックホールに向かっての降下を緩めるために水平を維持した。
『水平を維持した私より、降下速度はスウちゃんが速い。だからこれで私がスウちゃんの後を取れる。――まずは、私が先攻!』
アイリスが旋回を終える。――けど、私は既にアイリス背後にいて銃口を向けていた。
『え、なん―――っ』
アイリスが『なんで』と言いながら回避運動に入る。
アイリスは、私が何をしたのか分からず疑問に思っているみたい。
私が、どうやってアイリスの背後を取る時間的猶予を得たか。
それは――
❝スウの動きなにあれ、バグ? まるで転げ落ちるように曲がったんだけど❞
『そういう事!?』
流石アイリス、すぐさま理解したみたいだ。
『いきなり失速ターンをしたの!? ブラックホールに向かって!』
そう。スケさんと戦った時に使った、方法。別名ハンマーヘッドターン。
❝・・・宇宙で失速機動とか。――でも、ブラックホールがあるから出来るのか❞
飛行機が浮き上がるために必要な揚力を、わざと失った状態にし、重力を利用してターンする。
テーパー翼は揚力を失うと傾き、機首を下げる。
この時の傾きは、通常の方法で飛行機の機首を傾けるより速い。
揚力とは浮力であり、飛行機を押し上げる力。
湯船のお湯をなくして浮力をなくすような行為が、ストールターン。
しかも飛行機の様な金属の塊を浮かせる程の浮力を無くすのだ。
当然落下は早くなる。
アイリスが分析を続けている。




