815 攻防します
『しかもそうか、あのおかしな横転で回転しながら上昇することで、横転によるスピンの力も使ってストールターンを早めたんだ。恐らくフラップを起動したのも――』
確かに、ちょっとややこしい事をしたんだけど説明すると、まず人型になって失速。
でも、飛行形態のほうが回転が早くなるので、飛行形態に戻る。
で、私もアイリスも〝左右舵〟という、機首を左右に振る装置を使った。
ただ、私とアイリスの意味は少し違った。
アイリスは、シザース状態という「旋回に時間の掛かる戦闘機が同じ行動をして、膠着状態に陥っている状態」から、反転をして相手の背後に着くためのに単純にラダーで機首振りをした。
私もラダーによって反転して相手の背後を取ろうとしたんだけど、私はここに人型になったせいで発生したストール(揚力を失う状態)を利用した。
なにより私は、機体の運動が早めに〝乱れるよう〟に、横転を加えていた。
だから私は、アイリスより素早く反転し、相手よりほんの僅かに自由にできる時間を手に入れた。
❝わざと機体の動きを乱れさせてバランスを失い、ハンマーヘッドで転げ落ちるのを早めたのか❞
❝そうか、前にスウたんがバランスの悪い機体ほど運動性が高いって言ってたけど、バランスを無理に崩したのか❞
❝この間、僅か2秒の攻防であった❞
『さすがスウちゃん――私、貴女と勝負できる日を待っていて良かった!』
アイリスが錐揉み回転をして、私のガトリングを躱す。
綺雪ちゃんの声が通信から聞こえる。
『あの躱し方を、あんな近距離で・・・・スウさんや香坂 遊真以外に出来る人がいるなんて・・・』
「アイリスって策士としてだけではなく、パイロットとしても超一流なんだよね。それに彼女は、まだ得意な〝策謀〟を見せていない」
『そういえばスウさんが前に言っていましたね。「飛行機の技みたいなものを機動というけれど、そもそも機動とは作戦行動を意味する。――だから機動には〝実施〟とか、〝展開〟という動詞がつく」って「空中戦は作戦と作戦のぶつかり合い」だって。もしかして、空中戦って、アイリスさんの独壇場なんじゃ?』
アイリスが、こちらに通信を入れてくる。
『さすがだね、スウちゃん!!』
「アイリスこそ!」
なんだか口元に、自然に笑みを浮かぶ。
(私、戦いでこんなにワクワクするなんて――初めてなんじゃ?)
私だって、元は生粋のFPSゲーマー。背比べは大好きだ。
『だけど今のガトリングで決めきれなかったのはスウちゃん、まずいよ。悪手だね!』
私は失速させるマニューバを使ったため、速度がない。
ドッグファイトとは速度、高度というエネルギーの取り合い。この点に置いて、私はアイリスに比べ高度も、速度も無い。
完全にアイリスの有利。
『スウちゃんの負けだ!』
私は〈粒子加速・ヨーヨー〉を十六夜テイルにくっつけて、絶対に追い抜かない曳行ドッグファイトをしようとするけど、流石に十六夜テイルが変形して、すぐにヨーヨーを剥がされた。
「ですよねっ!」
私は急加速、ブラックホールを地面として急上昇。
『スウちゃん、いまさら高度を取ろうとしても、もう遅いよ!』
私はアイリスの上を取る。
しかし私を追うように旋回したアイリスは、私の背後を取った。
アイリスが、こちらを蜂の巣にしようとする。
でも、
『えっ!?』
声から、アイリスが私を探す気配を感じた。
『どこ――』
私は、アイリスに向かってガトリングを降らせる。
『!? なに――こ、恒星の光の中!?』
私のアイステイルは、恒星の強烈な光を背に姿を表す。
私の背後にある星は、結構有名な恒星だ。ブラックホールの周囲を回る星が、秒速8000キロ――第一宇宙速度の1000倍というバカみたいなスピードで、私の後ろを通り過ぎていく。
恒星の光から出たので、今度はブラックホールのジェットの光の中に隠れる。
『私の機動を予測して、私の視線から正確に恒星の光の中に隠れた!? このまま光の中に隠れられ続けては不味い! ――AI! 急いで遮光フィルターを!』
『すでに掛けてあります』
『ま、眩しすぎるでしょ、ブラックホールのジェット!!』
下降するアイステイルと、上昇しているアイリスの十六夜テイルがすれ違う。
通信ウィンドウが開いた。ウィンドウの向こうで、アイリスの獰猛な笑みがより深くなる。
『スウちゃん、いいわ! 私が思ってたより、スウちゃんは全然強い!!』
私の機体の速度が、ぐんぐん上がっていく。
ブラックホールの重力で加速してるんだ。
私は旋回してアイリスの後ろを取ろうとするが、アイリスもこちらをお見通し。
『けれど、ここまでよ!』
アイリスが、また私の後ろを取った。
『終わりよ、スウちゃん!!』
アイリスがこちらをロックオンして――まずミサイルを一発、発射。
私はエンジンを止める。
そのまま、自然落下。
『な――』




