798 いよいよ始まります
◆◇◆◇◆
「いよいよですね」
アリスが、戦艦スーパー・ギャラクティカの窓の外を見た。
私はうなづき返す。
「・・・うん、100層だ」
ついに、99層でフロウポイントが見つかったという連絡がきた。
私がサード・ゾーンから戻ってこれなくなっている間のことだったらしい。
そうして私達は連合の戦艦で、100層に転移してきた。
マザーグースは壊れちゃったんで、私達は戦艦がもうない。
戦艦スーパー・ギャラクティカのショッピングモールの通路の長椅子にアリスと2人で座りながら、雑談中。
ちなみに背後は巨大なガラスで、宇宙の姿が見えてる。
アリスはたこ焼き(エイリアン・クラーケンの)をもきゅもきゅしている。私がアリスに向かって脅威を見たような顔をしても「美味しいですよ?」と、彼女はすっかり慣れたものである。
私はエイリアンを遠慮して、ハンバーガーで腹を満たしている。ピクルス大好きなんだよ~。
本場のテキサスバーガーらしくテキサスワックって言うらしい。なんか、アニメ本編では普通に喋ってるのに、ゲームになったらエセ外国人みたいな喋り方しそうな名前。
バンズにトースト(食パン)を使っており、パティをベーコンとチーズで挟んでBBQソースを塗って、野菜がほぼ入ってないという、テキサスの心を表現した逸品――『いい仕事してますね』。
でも、
「あれ? ピクルスが入ってない」
私は豚さんみたいな顔になって「しょぼーん」とした。
「連合は100層攻略は、私が完全復活するまで待っていてくれたんだね」
「そりゃ・・・涼姫ちゃんがいないと、〖協力〗も、〖再生〗も使える人がいないので」
「あ、そっか」
「たまに抜けてますね、涼姫ちゃんは」
「よく言われる」
私も窓からの外を見る。――幾層もの色の輪――降着円盤を纏った、巨大な黒い穴。
さらに降着円盤の周囲のガスは、なんと数十光年も広がっている。
距離にすると、地球から1番近い恒星、プロキシマ・ケンタウリと地球の距離より遠くまで広がっている。
戦艦の下は、まるで濃い霧――いや、周囲すら、まるでガスの霧の中だ。
ついに来た。ここが銀河の中心、射手座A*だ。
「でっかいね」
「いやなんかもう、でっかいなんて次元じゃないですね・・・中心から事象の地平までの範囲が、太陽から金星軌道の半分くらいまでの距離に匹敵って・・・宇宙ってサイズ感が意味不明です――あと、あの荒ぶってる恒星達はなんなんですか」
かなり遠くなのに猛スピードで移動していく恒星たち、完全にブラックホールの重力に弄ばれている。
私は、宇宙的恐怖の光景からちょっと目を逸らした。モールの通路の中央には大輪のひまわりが沢山咲いている。
そんなヒマワリ達に、私はアイリスの笑顔を思い出した。
「もうすぐだからね」
私がつぶやくと、マイルズが通り過ぎた。
テキサスワックを噛じりながら歩いている。
流石アメリカ人、似合う。
向こうはこちらに気づいていないようで「ふむ、やるな銀河連合。たしかにこれはテキサスの味だ。脛肉を実に柔らかく焼き上げている」なんて呟いている。
これ、脛肉なのかぁ。
え? 声? 掛けないよ? 私を誰だと思ってやがる。
「マイルズー!」
あ、アリスが声を掛けた。まぁ、マイルズなら問題ないけど。
「おっ、これは奇遇だなアリスとスウか」
〔ヤホー〕
「ははっ、スウは声が小さいな。相変わらずか。――と、おおっ、スウもテキサスバーガーか」
「ウン。これ美味しいね」
ピクルスも入ってたら、もっと幸福度があったけど。
「この美味さが、スウにもわかるのか!!」
なんかマイルズ嬉しそう。
「うん。なんていうか、男の子の味?」
「ははは! 男の味と言ってやってくれ」
「もしかしてマイルズってテキサス出身?」
「その通りだ」
「西海岸辺りでブイブイ言わせてるイメージだった」
「ぶいぶい?」
「上にはオクラホマ州ですね」
言ったアリスが、急に立ち上がった。
そして私の手を取り踊りだす。
「ちゃかちゃかちゃかちゃん、ちゃかちゃかちゃかちゃん」
「ほう、ターキー・イン・ザ・ストロウか」
「アリス、歌は色々怖いよ」
「安心してください。とっくの昔に著作権は切れてます。というか誰が作詞作曲したかも、不明です」
マイルズが〈時空倉庫の鍵〉からアコースティックギターを取り出して、愉快そうにに歌い出す。
〈時空倉庫の鍵〉にアコースティックギター入れてるとか、なにこの人。ナウなヤングなの?
「そういえばスウ、〖無敵〗のレベルを3に上げておいたぞ」
「上げたんだ?」
「ああ。リアトリスの時、使えなかったからな。強力なスキルなんで、かなり大変だったが――バーサスフレーム内からでも惑星の自転を反転させられるようにしておいた
「大丈夫なのそれ・・・」
「ああ。もうとっくに大丈夫じゃない。以前惑星を破壊して以来、地球に帰るにはスキルを封じておかないと、駄目になってしまった」
「私があんな作戦やらせたから・・・・ごめんね」
「ボクが望んでやったことだ。構わん――というか、ああでもしないと勝てなかったからな。あとレベルを上げると使う体力も減る見たいんだな」
「そうそう」
なんてやりとりをしながら、私とアリスとフォークダンスしていると、みずきの声が遠くからした。
「おーい、そこで風船配ってたぞ」
振り返ると、みずきが、フワフワ浮いた風船を右手に走ってきた。




