796 えのプロが炸裂します
「貴様! なぜエスカーに向かう!?」
「知ってんだよ! 江の島の階段はエスカーを使わないと酷い目に遭うってな!」
「来たこともないくせに、どこでその邪智を手に入れた!! 貴様は大人しく我の策略に嵌まれい!」
「嵌まるかボケェ!」
「みずき・・・涼姫を知略で嵌めるのは無理ですよ・・・。つい最近も見たでしょう。この人、無限に近い演算をする相手をカオスで打ち破ったんですよ? もう、知略の権化みたいな存在ですよ」
「く・・・っ。たまには涼姫がヒィヒィ言う姿を見たい」
「ヒィヒィならよく言ってますが。――人の多い場所で」
みずきがポンと手を打った。
「確かに。だけどさ涼姫、わたし達〖飛行〗があるぞ?」
「あっ、そうか」
でも、あの子に言われるのは悔しい。
「・・・・みずきに言われた・・・みずきに」
「失礼だな君は。エスカー結構、値段が高いからな・・・エスカーに乗るなら、〖飛行〗にしよう」
「結構儲けてるクセに案外みみっちいなぁ」
「それでもわたしの財布はカツカツだ」
というわけでみんなで〖飛行〗。
〖飛行〗なんて使っちまったら一瞬で頂上だ。
「風情も何もないな」
「風景は綺麗だけどね」
私は言って、緑がこんもりした江の島を見つめた。
するとアリスが唇に指をあてた。きゃわ。
「わたしは地上から見た江の島が好きですけどね。特に大橋から見た風景が好きです。そもそも地上から見た時に綺麗に見えるように設計されてると思いますし」
「なるほどぉ」
納得涼姫。
「でもまあ、あまり高く飛ばないようにしましょう。ここって神社ですからね」
「んだなぁ」
という訳でお参りして、アリスとみずきに連れられ海鮮のお食事処へ。
その間に私は、スマホで「パタタ」と情報収集。
「あそこに、美味しいケーキを出すらしいカフェあるけど」
海鮮じゃなくてあっちじゃないの? 女子高生として。
「ここで、まずオシャレなカフェに行かないのが、〝えのプロ〟なんですよ。江の島は海産物が美味しいですからね」
「なんか新しいプロが発生した。――あとカフェに謝りなさい」
みずきが、江の島の奥を指さす。
「えのプロなら、江の島に来たら海産物を食べないとな。目の前海だぞ、海。さあ、旨い店を知っている。案内してやろう」
「えのプロが、この世界に定着した。――あと、カフェの敵だともわかった」
「安心しろ、あそこは海鮮を食べた後のデザート店だ」
「カフェが勝手にデザート店にされている!?」
「ですね。海鮮を食べた後に、カフェでデザートとしてケーキを食すのが、えのプロとしてのマナーです」
「マナーだな」
えのプロは、マナーにも厳しいらしい。
迷わない足取りでみずきが進む。よく来るんだろうなぁ。
そうして、いかにも日本料理屋さんっぽい店構えの料理屋さんに入った。
店員に案内されて席へ。
「でもここ、本当に美味しいの? グルメサイトで調べたら点数3.5位だよ?」
私が言うとみずきにスマホを奪われる。
「なんでもかんでもネットで知れると思うな! ここは旨い!」
「そうですよ。それに涼姫、日本人は3を基準に考えますから、3点で普通。そんな中で3点を超えたらそこは名店です。しかも、日本人は点付けが厳しい厳しい。味と関係ないことでも減点されますからね。酷い時はアクセスが悪いとか――ここなんか、106メートルもの丘の上ですよ」
「あー・・・」
日本人ってそうか。平均からの加減点方式か。
「マイルズが言ってました。『日本のグルメサイトは、独特なルールを知らないと、酷い店ばかりに見える』って」
マイルズ、日本によく来るんだ?
「スウの国を知りたいとか言って、すっかり日本マニアですよ」
「マジかぁ。私、あんまり外で食べないからなぁ」
私が自分の日常を暴露すると、2人が頷く。
「でしょうね」
「だろうな」
私は自虐に笑う。
「外国人みたいに日本のグルメサイトの見方を知らないJKw 草w」
でゅふふ。
するとアリスが目尻を拭いて、みずきが歯を食いしばった。
「くすん」
「くっ、もう見てられん」
「えっ!? アリス、泣かないで!? みずきは現実を直視して!?」
というわけでアリスと私で、海鮮丼を注文。なんと今日は生しらすがあるそう。
しらすは足が早いから、江の島でも時期と運が良くないと生では食べられない。
生が無い時は、釜上げしらすという茹でた方になっちゃう。あっちも美味しいけど、やっぱ生がいい。
で、みずきは迷った末、
「生しらすがあるのか。・・・・だが、今日はテンプ~ラが食べたい」
謎の外人になりながら、テンプ~ラ丼を頼んだ。
しかも、「・・・ここ、徒歩数分だしな。いつでも来れる」と。――まて、いくら近場のマンションに住んでると言っても、徒歩数分?
――ここ106メートルの丘の上だよな? 徒歩ってことは階段使うんだよな? どうなってんだ、アンタの筋肉の乳酸醸造場。
で、アリスは追加で刺身盛り。
私は、タコの刺身盛り。
私たちが追加を注文しているのを見て、みずきが「ハッ」とした。
「なるほど。――メイド、生しらすの小鉢を追加してくれたまへ」
注文取りに来てるのメイドじゃないし、そもそも男性だけど?
「生しらすを天丼に乗せれば、天丼でも、生しらす丼でもある可変丼になる!」
「やりますね!」
「江の島を攻略してるね! さすが、えのプロ!!」
是非、江の島の攻略サイトに載せてほしい。
さて、料理が来たので舌鼓。
「わっ、トロも盛られてます!」
「生タコの食感って、最高!」
「せっせ、せっせ」
みずきはせっせと私の丼に、シシトウとカボチャのテンプ~ラを載せて、生しらすを天丼に乗っけてる。
私、プチ文句。
「野菜の天ぷらも食えよ」
「涼姫はシシトウ好きだろ?」
「カボチャは微妙」
「甘いぞ?」
「なら食えよ」
まあ、食料が増えたのには文句ない。しかも高級品のテンプ~ラだし。
シシトウもぐもぐ。おっ、辛いのに当たった。超・美味しい。
生しらす丼も美味しい。ぷりっ甘っ、トロッ。ほんのり苦くて、芳醇な磯のかほり。
そんな風に舌鼓を「ポンポコ」打って楽しみました。
その後、本当にカフェでケーキを食べてた。――甘~~~い。
さらに江の島のシンボル、江の島シーキャンドルという塔で、群れなす観光客を見下ろしながら、
「見ろ、人混みのようだ」
とやって、〖飛行〗を使ってあっさり低地に戻ってきたんだけど、アリスが爆弾投下。
「さあ、温泉行きましょう、温泉」
「え」




