795 江の島に行きます
「江の島だねぇ」
「江の島ですねぇ」
「江の島だなぁ」
今日は、私、アリス、みずきで江の島に来ていた。
神奈川といえば江ノ島――いや箱根とか、横浜とか、他にも色々見どころはあるけれど。神奈川、名所多すぎ問題。
ただ、湘南といえば江ノ島ってくらいにはウェイトは大きい。
なんだけど。
リハビリというから、陽キャの多い場所に行けるかどうかを試してもらった。
でもまぁ・・・やっぱ相変わらず私は、人混みが苦手のようである。
ただ、みんながこっちを見ている幻覚は見えなくなった。
私は江の島に続く、長い弁天橋を歩きながら、2人に告げる。
「2人とも、1つ告白して良い?」
「ん? なんだ?」
「どうかしましたか?」
「実はさ、私」
「うん」
「はい」
「江の島の本島に来るの初めてなんだよね」
私の一言に、みずきとアリスが、驚天動地みたいな顔をした。
2人とも目が真ん丸。
「ふぁ!? 本気で言ってるんですか!?」
「え!? ――まて、あんなに近くに住んでいて来たことないのか!?」
なんか2人の慌てっぷりが凄い。
えっ、そんなに変!?
「ち、近くまでは来たこと有るよ!? 江の島グルメの美味しいもの食べに」
「いや、おかしい! 江の島付の近くって、江の島駅の方だろ!? なんで島まで来たことないんだよ!?」
「貴女、ここからすぐ近くの高校に通ってるんですよね!?」
「ふ、2人ともそんな、異常事態みたいに」
「「異常事態なん」だよ!!」ですよ!!」
「だ、大胆な告白は女の子の特権って奴?」
私が特権行使をほのめかしていると、アリスが拳を突き挙げる。
「よし、江の島を十分楽しんでもらいましょう!」
さらにみずきまで拳を突き挙げた。
「だな! ――まずはタコ煎食べよう、タコ煎!」
タコ煎餅――名前は知ってるけど、食べるのは初めてだなぁ。
という訳でタコ煎の店に行って注文。私とみずきはタコの煎餅、アリスはしらすの煎餅を頼んでた。
まあ、注文は券売機なんですけども。
結構種類があってややこしい券売機。なんとかボタンを押してチケット購入。
「アリス、しらす好きだね」
「生しらすが一番好きですけどね。ただ、これって沢山の稚魚なんですよね?」
「んだね」
「普通の魚なら一匹でお腹いっぱいだったり、一匹で何人もお腹いっぱいになるのに、稚魚だと何百匹も食べないとお腹いっぱいになれません。これってどうなんでしょう? とても悪いことをしてる気になります」
「あー・・・それ、私も昔、同じ悩みを抱いたことがある」
「ですよね? ・・・・美味しいんですが、良いのかなぁと」
「でもさ、その大きな魚もさ、沢山の命を食べて大きくなってるんだよ。――しかも結構、効率悪く。動物は1匹が1日生きるのに何倍もの生き物を食べないといけない。生きるだけでも食べないと駄目。成長に使うなら、さらに食べないと駄目」
「・・・・確かに。じゃあ大きな魚を食べるのも、結局沢山の命をいただいていることになるんですね」
「大体そうだね」
「ちょっと気が楽になりました」
するとみずきだ。腕を組んで、
「うむ!」
ふんぞり返った。
「なんでみずきが偉そうなんですか」
アリスが笑った。
「涼姫がわたしの教えを守ってるからな」
「そうなんですか?」
アリスが頭を斜めにしながら、私を見た。
「まあね。昔みずきが、リイムに『魚を食べるのは可哀想と思うか? だが、その魚も沢山の命を食べているんだ』って教えたのを聞いて、『あっ』ってなったんだ」
「なるほどです――ただ、その言葉でしらすの問題にたどり着く思考がわかりません」
「うむ!」
なんか偉そうなみずきがタコ煎ゲット、四角くてでっかい。
私もチケットを渡すと、店員さんは、大きなタコを丸々一匹フライパンみたいな機械に乗せる。どうもネジ式のプレス機と焼き用の鉄板が一体になったものらしい。
店員さんが機械を閉じて、ハンドルを回すと、タコから『ギャァァァァァァ』という悲鳴みたいな音が。
なんか残酷に見えて思わず。
「・・・タコって頭いいんだよねぇ」
3~6歳くらいの知能があるらしい。
私は呟いてしまった。すると、みずきだ。
「頭でっかいもんなぁ。脳みそもでっかいんだろう」
タコの頭がでかい・・・?
「え?」
「ん?」
私が「何を言っているんだろう?」とみずきを見ると、首を傾げられた。
あ。
私は店員さんから渡された、私の顔より大きなタコ煎のタコの丸い上部分を指差す。
「タコのこの部分、頭じゃないよ、胴体だよ?」
「えっ!?」
衝撃の事実だったのか、みずきがタコ煎を齧ったポーズで固まった。
「マジか・・・ずっと頭だと思ってた」
「よくある勘違いだけどね」
「くっ、負けた!」
「まあ、知識は運だよ。たまたまその知識に出会えたかどうかだけ。そんな物に勝ち負けはない」
「でも、運も実力の内というが」
「その実力、再現性ないじゃん。実力って、実際に持ってる力のことでしょ? 再現できないなら、それは実際の能力じゃない。再現性のない物を実際にあると信じるのはどうかと思うよ。『運も結果の内』ならまだわかるけど」
「・・・・なるほど」
勝負の話や、実力の話になると興味があるのか、みずきが考え込んだ。
みずきが真剣なので、私は付け加えておく。
「まあ、人生の成功は、ほぼ運で決まるって理論もあるんだけどね」
「・・・ええ」
みずきが嫌そうな顔になった。
「でも、逆に再現性のある運なら、それは実力だと思う。例えば、危険を察知して回避できるとか――幸運は普段からちゃんとしている人の元に来るみたいな話。助けてくれる人も出てくるよね、ポジティブなら頑張れるかもね、とかは思う」
「危険を察知して避けるか――ウチの爺ちゃんだな。真の達人は危険に出会えない。危険に出会わないことこそ、最強」
なにそれ、みずきのお祖父ちゃんマジもんじゃん。
「う、うん・・・・その境地なら、運は実力以外のなにものでもないかも」
「そういう意味なら、わたしは駄目だな。爺ちゃんに勝てないから、その域には程遠い」
「みずきはむしろ、嬉々として危険に飛び込む感じあるからね・・・」
「実際、わたしの攻撃は爺ちゃんに察知されるんだよなぁ。こっちの動きが見える見えないではなく、危険を察知されて返されるから、どうにもならん。――塚原もウチの爺ちゃんと戦ったけど、結局ボコボコにされた。塚原曰く、『次元が違う、同じ土俵にすらいない』ってさ」
銃を持った軍人を、一人で何人も制圧したり、インターハイでほぼ無敗だった塚原さんがそこまで言うとか・・・。みずきのお祖父ちゃん、どんだけなの。
アリスがタコ煎を受け取りながら、首を振った。アリスのタコ煎だけ青い。
「みずきのお父さんの実家の九州まで合宿に行ったんですが、とんでもない事態でしたよ。私たちが『塚原部長は最強だ!』と思っていたら、その塚原部長がボッコボコだったんですから。爽波も百合ヶ浜も部員一同、唖然ですよ。――なんでしょう、みずきのお祖父さんと戦っていると、ボールを転倒させようとしてる感覚になるんですよね」
怖い。――球を転倒させるなんて、絶対無理じゃん。
英雄王コナンみたいに筋肉でクトゥルフの化け物を倒すのではなく、技でクトルゥフの化け物を倒しそうなお祖父ちゃんの話を聴いて、若干震えていると、みずきが階段を指さした。
「さあ次は、江の島の階段を登るぞ!」
私は、とっとと江の島エスカーの窓口に向かう。




