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フェイテルリンク・レジェンディア ~訓練場に籠もって出てきたら、最強になっていた。バトルでも日常でも無双します~  作者: 毘沙門 子子


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794 おとがする

   ◆◇◆◇◆


「――目を開けて、もう雨は止んだよ

傘をどけて、空は晴れたよ

もう独りにしないから。・・・・お願い、目を開けて」


〝ずっと歌えなかった歌〟を歌い続けていたアリスが、やがて、


「・・・涼姫ちゃん、帰ってきて」


 懇願のように、嗚咽の声で涼姫を呼んだ時だった。

 涼姫がみじろぎをした。


「涼姫ちゃん!」

「涼姫! おい、起きろ、涼姫!!」

「スズっち!」

「スズっちさん!」

「スっちー!」

「スウ!」

「スウさん!」

「コケーーー!!」


 皆が、涼姫の名前を呼ぶ。

 けれど、涼姫は目を覚さない。

 それどころか、涼姫の表情がどんどん苦しそうになっていく。

 そうして、歯を食いしばり、とうとう脂汗まで噴き出した。

 涼姫の苦しそうな呼吸が、どんどん激しくなっていく。

 脳波計が、嵐のように乱れ、異様な数値を示しだす。

 アリスが急いでハンカチを取り出し、苦しげに顔を歪める涼姫の汗を拭く。


 やがて、涼姫が一際苦しそうにした時――涼姫の顔が絶望するかのように歪んだ。その時、アリスとみずきが叫んだ。


「戻ってきて下さい! 涼姫ちゃん―――ッ!!」

「戻ってこい! 涼姫ーーーっ!!」


 2人の叫びに、荒い呼吸をしていた涼姫の呼吸がゆっくりと落ち着いていく。

 脳波計が、穏やかに凪いでいく。


 ――長い静寂。


 時計の針の音だけが響く静寂の中、涼姫の体が跳ねた。

 アリスとみずきが、驚き、涼姫の体を支えようとした瞬間。

 涼姫が、ゆっくりと、目を開けた。


 病室中の人が、彼女の名前を呼ぶ。


「・・・涼姫ちゃん!」

「涼姫!」

「スウさん!」

「スウ!」

「コケーーー!」


 誰ともなく、涼姫の名前を繰り返して表情に喜色をたたえた。


 ベッドの上の涼姫が、アリスとみずきに支えられながら上半身を持ち上げた。


 涼姫が、周囲を見回す。

 そこには、涼姫が会いたかった人たちがいた。

 確かに、皆が涼姫を待っていてくれた。

 涼姫は、病室のみんなに、柔らかな笑みを向けてから・・・「心配かけてごめんなさい」と謝った。

 みんなが首を振ると、涼姫は少し表情を崩し、アリスに向き直る。


 そして小さく息を吸ってから、眩しそうに微笑み、告げる。


「ただいまっ」

「おかえりなさい! 涼姫ちゃんっ!」


 まるで陽に輝くひまわりのような笑顔が、2つ咲いた。

 自分を呼び戻してくれた人物への「ただいま」を終えて、さらに他の待っていてくれた人々に「ただいま」を告げる。

 皆、ただただ、嬉しそうに答えてくれた。


「「「おかえり!」」」


 みんなの「おかえり」が重なった。


 最後に、みずきがいたずらっ子のように笑って、涼姫の前に立って尋ねる。


「おかえり涼姫。――ご飯にする? お風呂する? それとも、わ・た・し? アウチッ」


 アリスにチョップされたみずきを見た涼姫が吹き出すと、今度は病室が、笑顔の花束に包まれた。


「おかえり」それは、世界が涼姫を受け入れた音だった。――涼姫が、世界を受け入れた、音だった。




 次の日、宇宙に浮かべたアイステイルのワンルームで、お菓子の食べ比べ配信をしていた、涼姫と、アリスと、みずき。


 涼姫はふと、キノコの形をしたチョコビスケットを齧りながら困った顔をした。


「でも今後、サード・ゾーンが必要になったらどうしよう」


 アリスは、タケノコの形をしたチョコクッキーを口から離して、言い淀む。


「えっと・・・涼姫ちゃん――できれば使わないで欲しいかも、と」


 みずきがふと、チョコで船の絵の描かれたチョコクッキーを齧って折りながら、涼姫の瞳を覗き込み言った。


「涼姫。お前、今なら明鏡止水を身につけられるかもしれない」

「えっ」


 そこからみずきが座禅で指導すると、涼姫はあっさり明鏡止水を身に付けた。


 アリスが驚く。


「・・・こんなにあっさり?」


 しかし、アリスは、涼姫の瞳を見て言い直した。

 あの世界で、何かが変わったのだと、直感した。


「――いえ・・・あっさりではないのでしょうね」


 みずきが喜ぶ。


「完全に帰ってきたな! 涼姫!」

「うんっ! ――よし、入りやすいようにゼロ・ゾーンと名付けよう!」


 慣れた名前にして、ルーティーンに組み込む、涼姫。


「あっはっは!」

「おうおう、なんとでも名付けとけ!」

「じゃあ、行くよ。入れ――、――ゼロ・ゾーン―――ッ!!」


 言った涼姫の瞳は、透き通ったような輝きを映し、世界との境界を消していく。

 かつてそこにあった暗黒の淵は、どこにも見当たらない。

 世界の輝きを受け入れた涼姫の瞳は、今―――星々にも似た、たくさんの(ひかり)を宿し始めた!

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― 新着の感想 ―
自分の内面と対峙して打ち勝ったからこその明鏡止水の境地ですな
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