793 あいたい
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膝を抱えて動けない涼姫に、ふと、歌声が聞こえてきた。
涼姫は、膝を抱え、下を向いたまま呟いだ。
涼姫がうつむいたまま呟く。
「アリスの声?」
歌は、今にも千切れそうで、嘆きをはらんでいた。
『比翼の羽根なのに一人で飛べるから
一人になってしまう
でも、もう独りにしないから
寂しくないの嘘で自分を傷つけないで――』
涼姫はうつむいたまま、光のない瞳で呟く。
「アリス、泣いてる?」
アリスが、ふと歌うのを止めて、呟いた。
「お願い、目を開けて・・・涼姫ちゃん、帰ってきて」
涼姫が目を見開いて、顔を上げる。
その瞳に光が戻ってくる。
「――帰ってきて?」
アリスの言葉に、思い出す。
「そうだ――私に帰ってきて欲しいと思ってくれてる人は、いる。・・・・私は、」
ふと背中から、誰かの声がした。
「スウ、俺を負かしたお前は、そんな情けないヤツだったのか?」
コーレルリヒの声だった。
涼姫が立ち上がった。
「コーレルリヒ・・・!?」
涼姫は、振り返った。そこには誰もいない。
だけど誰かがいる気がした。だから涼姫は、頭を振ってみせた。
「――ち、違うコーレルリヒ! 私、大事な人のヒーローだったんだ! そうだ、・・・・こんな場所で負けてられない! ――大事な人を、私が守らないで、誰が守るんだ!!」
涼姫が、過去の自分の叫びに、言い返す。
「待ってる人がいる! ――もう、一人じゃない! 1人が嫌だったんだろ、お前!!」
涼姫が、正面を向く。
「待ってる人に『自分のために生きろ』って言われたじゃないか! 私は、友達がほしかったんだ!! こんな場所にいちゃいけない!!」
――パキン。
「こんな寂しい場所に、いちゃいけない・・・・! ――立ち上がれ!!」
鎖が、割れた。
涼姫は、コーレルリヒが、自分の背中を押した気がした。
「ありがとうコーレルリヒ。私ね―――アリスに会いたい!! みずきに会いたい!!」
涼姫が重い壁を押して、一歩、踏み出す。
すると、周りから再び「クスクス」という笑い声が響いてきた。
「命理ちゃんに会いたい――!!」
涼姫の心の中で、命理の声が返ってくる。
「戻って来れるわ」
声が、胸の奥で灯る。
涼姫が暗い世界を、一歩、また一歩と、歩いていく。
そうして、親友たちの名前を呼ぶ。
「チグに会いたい!!」
「帰ってこいよ」
「フーリに会いたい!!」
「またお弁当一緒に食べましょう」
「カレンに会いたい!!」
「戻ってこいって!」
「みかんに会いたい!!」
「まってるで!」
親友達の名前を呼ぶと、足元に、1条の光が走った。光は道になった。――ぬくもりのある光だった。
だけど、自分の声が、心のなかに、響き渡る。
『親友? お前に? また裏切られるよ?』
「ティタティーに会いたい!!」「戻ってきて、スウ」
「プリティ・ギルティちゃんに会いたい!!」「スっちーなら、戻ってこれるって!」
涼姫は、温かい光の道を、一歩一歩踏みしめていく。
時折、息が詰まる。
笑い声に、怖気づきそうになる。
それでも、見えない壁を押す。涼姫には、彼女の帰りを待つ人達がいる。
また、自分の声が囁く。
『外に出たら、また繰り返すんだよ? そうなったら今度は、もっと痛いよ?』
涼姫は、1歩1歩会いたい人の名前を呟いて、それを力に変えていく。
「リイムに会いたい!!」「ママ戻ってきて!」
「アルカナくんに会いたい!!」「戻ってきて下さい! 涼姫様!」
「江東さんに会いたい!!」「貴女が戻ってこないと、自分は、誰のために働けば良いんですか!?」
「楓ちゃんに会いたい!!」「戻ってきて下さい、先輩!」
「コハクさんに会いたい!!」「スウさん、戻ってきて下さい!」
「リあンさんに会いたい!!」「いいから戻ってこいって!」
「空さんに会いたい!!」「もたもたしてないで!」
「オックスさんに会いたい!!」「さあ、戻ってくるんだ」
「さくらくんに会いたい!!」「スウさんがいないと、ボクの目標がなくなってしまいます!」
「綺雪ちゃんに会いたい!!」「戻って来て、スウさん! また色々教えてよ!」
「綺怜くんに会いたい!!」「スウ姉ちゃん、戻ってきてくれって!」
温かい光が、涼姫を中心に広がる。
冷たい光が、弾ける。
それでも、自分の冷たい声が、また響く。
『戻らなければ、もう傷つかないよ』
「音子さんに会いたい!!」「戻ってくるまでが、遠足やで!」
「ヒナさんに会いたい!!」「私は、スウちゃんの強さを知ってるよ!」
「ハクセンに会いたい!!」「疾く戻ってくるでござる!」
壁の反発が少し、軽くなった。
歩く。
一歩ずつ。
確かに。
『あの世界は痛いよ。お前じゃ、幸せになんかなれないよ?』
「エレノアさんに会いたい!!」「行くんです、Ms鈴咲!」
「マイルズに会いたい!!」「安心しろ! お前ならできる!!」
「マリさんに会いたい!!」「君を誰だと思ってる!」
「柏木さんに会いたい!!」「信じて、待ってるよ!」
「ヴィックに会いたい!!」「スズ、君は私の誇りだ!」
涼姫の全身に力が、満ちていく。
視界に、光が満ちていく。
「エレガントなスウ、お前ならできる」
一切、スウを疑わない声だった。
「呼んでもないのに・・・。――ふふっ。でも、そうだね。アンタも待っててくれてるよね! ユー!」
笑ったスウが、ゆっくりと長い息を吐いて、一気に息を吸って、渾身の力を、体にみなぎらせた。
ファンの声まで見えてくる。
❝頑張れ!❞
❝頑張って!!❞
❝頑張れ、スウたん!!❞
涼姫は思い出す。――知らない人にだって、自分の帰還を待ってくれている人がいる。
そう思うと、知らない誰かのパーソナルスペースの壁も、どんどん反発が軽くなる。
気づくと、囁いてくる自分の声は聞こえなくなっていた。
足が、止まらない。
止まらない!
涼姫の足が、出口の光に差し掛かる。
温かい光が、涼姫の頬を照らした。
届く! ――涼姫が、温かい光に包まれていく!
が、
突如、涼姫の顔が、光の中に、黒く浮かんで『アハハハハハハハハ!!』一番聞きたくないケタタマシイ笑い声で、嘲笑を上げた。
涼姫の背中が跳ねた。――たじろぎ、足が凍る。
地面の感覚がなくなり、体が、背後の闇に引かれる。
闇が、涼姫の背中を掴む。
涼姫の体が、闇の中に吸い込まれそうになった。
その時、出口の光が揺れた。
光は、アリスとみずきの形になった、
「戻ってきて下さい! 涼姫ちゃん―――っ!!」
「戻って、こいっ! 涼姫ーーーッ!!」
2人が、涼姫の両腕を掴んだ。




