789 さよなら
アイビーさんの言っていたゾーンに入りやすくしてくれる機能か。
確かに、いつもより〝深い〟。今なら、もっと深くまで行けそうな気もする。
「シャドウ・サークル!!」
スナップピッチ(高速機首上げ)、スナップロール(高速横転)、背面飛行――
『あ、貴女――なぜカオスを使わないの!?』
「虚実を織り交ぜる。相手が虚を追うなら、実をぶつける! ――〖伝説〗!! イルさん! 〈超臨界・励起翼〉!」
『イエスマイマスター! 〈超臨界・励起翼〉!!』
「さあ、リアトリス受けてみろ、これが私の奥の手――」
私はサイドのプラカバーを叩き割り、レバーを引き上げた。
リミッターを解除、全力でスロットルを上げて飛ぶ。
「――真っ向勝負ッ!!」
青いオーラを放つ、アイステイル。
が宇宙を切り裂き・・・・
「こんな物、躱して!!」
「させるかぁぁぁあああぁ!!」
リアトリスが上昇で逃げようとする。
スナップピッチで機首上げ。
「シャドウ・サークル!!」
アイステイルが弧を描くように飛ぶと、リアトリスの体を、灼熱の翼が縦に薙いだ――リアトリスが左右に分かれ、真っ二つになった。
落下していく小さな体。
『*どうして? どうしてボクが負けた? ・・・・正義は――勝つはず。勝つから正義なのに・・・?*』
その目は驚愕に見開かれ、赤い地面に消えていった。
「終わったね」
『終わりましたね』
アリスが私に向かって飛んでくる。
『スウさん、リアトリスの本体に――基地に、とどめを刺しましょう――』
「うん」
あとは、あの基地の中央をぶち抜いて、連理演算器を破壊するだけだ。
私が、〈超臨界・黒体放射〉をリアトリスの基地に向けた時だった。音声にノイズが走った。
『*・・・・正義――は、負けてはいけない・・・*』
「えっ?」
リアトリスの歪んだ声がした。すると、周りのプレイヤー達の機体が、私とアリスに向かって機銃を向けていた。
(これ、リアトリスが周りの機体をハッキングした!? ――不味い!!)
「アリ――」
『なんですか、これ――機体が動かない!』
何百という機銃が、私とアリスを撃ってくる。
「Ai’s、ハッキングを解除して!」
アイステイルのシールドが割れた! 早く!!
『解除完了しました』
よし、動く!
「Ai’s、アリスの機体のハッキングも!!」
『少々お待ちください』
私はわざと弾丸をサンライト・ショーグン・ゼロ・カスタムをギリ掠めるように撃って、オートでバリアを張らせる。――けど、またたく間に周りの機体にバリアを破壊され、サンライト・ショーグン・ゼロ・カスタムが削られていく。――破壊されていく!
「アルハナ、出てきて!!」
ヒールドローンにサンライト・ショーグン・ゼロ・カスタムのバリアを回復してもらうけど、間に合わない!!
(こ・・・このままじゃ、アリスが死ぬ!?)
〈臨界黒体放射〉がサンライト・ショーグン・ゼロ・カスタムの胴体を貫いた。
私の脳裏によぎる、コーレルリヒの死。
私はアリスを助けようと、思わず叫んでいた。
「は、入れ! ――」
Ai'sがあれば行けるはずだ―――。
「――サード・ゾーン!!」
◆◇◆◇◆
気づくと、私は楽園のような浜辺にいた。
「あれ? 私、何してたんだっけ? ――あっ、そうだ、ゲームをしてたんだった。ヒロインを守らなきゃ!」
私が思い出すと、眼の前に「ポン」と、コントローラーが現れた。
なのでコントローラーを握ると、今度は「ポン」と、モニターが現れた。
私はモニターを覗き込んでゲームをプレイする。
「よーし、〈励起翼〉だ――1機撃破、続けて2機――ヒロインを守るぞー!」
◆◇sight:???◇◆
サードゾーンに入った涼姫。
彼女の目は真っ黒だった。
ブラックホールのように、光を一切放たない瞳だった。
――それはもはや人の目ではなかった。
いや、生き物の目とも思えない。
その黒は、そう――まるでMoB。
真っ二つに破壊されたリアトリスが荒涼とした寂しい大地で、嗤う。
「*ボクの勝ちね。スウは、貰っていく*」
◆◇◆◇◆
『涼姫!! 戻ってきて下さい、涼姫!!』
戦いは終わった。プレイヤー全員の催眠も解け、機体のハッキングも解け、リアトリスの連理演算器も完全に破壊し、沈黙した。
だが、涼姫だけが戻らない。
アリスがいくら呼びかけても、涼姫からの返事はない。
『涼姫ぃぃい・・・』
アリスの声は届かない――どころか、アイステイルが人型になり、〈励起剣〉を構えてサンライト・ショーグン・ゼロに迫ってくる。
アリスは必死に呼びかけるばかりで、〈励起剣〉を躱さなかった。
――ギャギギギギギギィィィィィィ。
〈励起剣〉が、サンライト・ショーグン・ゼロの胴体を貫いた。
目の光を失った涼姫は、淡々とサンライト・ショーグン・ゼロに〈励起剣〉を押し込んでいく。
『大丈夫か、アリス!!』
『一式 アリス!!』
リッカやマイルズは、アリスを心配するが、〈励起剣〉はコックピットを外れている。
だが、アリスは返事どころではなかった。
『涼姫、涼姫、涼姫ぃ―――!!』
アリスの必死の呼びかけ。やがて涼姫の頬を伝う、涙。
「・・・・ア、リ・・・ス―――?」
涼姫が、彼女の名を口にした。
だが、そこまでだった。涼姫は、糸が切れるように、意識を失った。
アイステイルが弛緩する。
崩れ去るアイステイルを、サンライト・ショーグン・ゼロが支える。
『涼姫、涼姫、涼姫!!』
アリスは、呼びかけ続けた。




