788 失敗します
幾何学模様が、リアトリスの上空に、花火のように広がった。
「魔法陣?」
後光のように、巨大な幾何学模様を背負うリアトリス。
『連理演算機能――全て、私の機躯に計算能力を集中するのよ!!』
「えっ、銀河連合の3分の1を支えている計算を全てその体に集中させるの!? ――そんなことしたら、銀河連合が大混乱になるんじゃ!?」
『お前を倒すことが最優先よ、スウ!!』
「イルさん、〈汎用バルカン〉!」
『イエスマイマスター!』
ま・・・全く当たらない。さっきまでの比じゃない。
完全に私が狙う場所、弾丸の弾道まで計算している。
まるで弾が飛ぶ道が完全に見えてるみたいに。
あ、でも――1発だけ、かすった。
連理演算器の計算能力は無限に近い。でも無限ではない。
カオスは計算しきれないんだ。空気は流体だ――流体はカオスだ。初期値の誤差が指数関数的に増幅する。
クナウティアさんでも、カオスは計算できないって聞いた。
なら、リアトリスも同じはず!!
「そうだ――シュネちゃんの言っていた、正解に罠を敷け・・・・」
相手には弱点がある。その弱点は、計算力の高さだ。
計算能力が高すぎるから、最適を選ぶ。
なら、最適に罠を敷く!
わざとランダムに失敗するんだ。
リアトリスは、常に最適解を出してくるだろう。なら、最適解では勝てなくすればいい。
どれだけ分岐を計算できても、選べる答えは1つだけだ。
彼女が矛盾を許容できるほどの超越者でもない限り、未来は1つしかない。
ここが私たちの知る宇宙である限り、ヤツが取れる行動はたった1つ!
お前の弱点は、この宇宙の法則を超越できないことだ。
神でないことだ!
「 Ai’s、カオスで私を邪魔して!」
わざと弱くなって、相手にこちらの行動を読ませない!!
こっちは最適で動かない!! 不条理で動く!!
『了解、カオスアルゴリズムにより、ランダムにマスターの邪魔をします。――――コード完成。――命名〝コードofバタフライ〟。これより、コードofバタフライで、マスターの弱体化を開始します』
リアトリスには、さらなる弱点がある。
「どれだけ凄い演算能力があっても、別の場所で計算して通信してるんだからラグがある」
未来を計算しても、届く頃には過去になる。
通信を遮断できれば、もっといいけど、それは難しそうだ。
「Ai’s、リアトリスの機躯をハッキングできる!?」
連理演算器にはAi’sじゃ太刀打ちできないだろうけど、あの機躯とかいう体なら脆そうじゃないか。
ラグのある思考で、連理演算器の3分の1の演算能力を誇るAi’sのハッキングを防げるかな?
『了解。ハッキングを試みます。イル先輩、コードofバタフライの方をお願いします』
『わかりました。これよりイルがマイマスターを邪魔します』
「りょ! ――リアトリスおつむがどんなに優秀でも、その体には限界があるでしょう!」
私はよく知ってる、頭に体がついて行かない現象を!
リアトリスに機銃を撃ちながら接近――って、勝手に右の横転舵が勝手に持ち上がった!
イルさんの邪魔だ。
私の不条理に、リアトリスが目を見開いた。
『なんなの!? ・・・・その動きは!?』
リアトリスがビックリしてる。
こっちもビックリだよ。
失速しかけて、急いで回復。
コブラ状態になった・・・。
よし、このまま横転だ。
どれだけ膨大な計算を一瞬でできても、リアトリス、その体には限界があるだろう!
例えば、質量!
軽そうじゃん、その体!! 翼でリアトリスをビンタするようにぶっ叩いた。
もちろん、励起状態でだ。
当たった! やっぱ近接攻撃なら、位相歪曲フィールドも抜けた!
リアトリスは、クロスガードで耐えた。
それでも、やつの腕が焦げている。ヤツの計算を超えて、一撃が、届いた!
『この状態のボクにダメージを与えた・・・・の?』
そこでリアトリスが、気づいた顔をした。
「そうか! AIがランダムにパイロットを邪魔しているのね!? ふざけるな、ランダムアルゴリズム程度、解析してやるわ。さあ、何のランダムアルゴリズムを使っているの? 晒しなさい――演算開始!!」
またイルさんの邪魔が来た! 左右振り舵が揺れる!
スピンに入った! こうなったら、範囲攻撃だ!
私は粒子加速ヨーヨーを伸ばして、リアトリスに叩きつけた。
ランダムアルゴリズムを特定するためだろう。演算中だったリアトリスが吹き飛んだ。
『いや、これは違う――まさか、そうか!』
リアトリスが、こちらを憎々しげに睨む。
『あ、貴女・・・貴女達、これはカオスね・・・! ・・・しかも界分桁にも及ぶ素数。こんなものは一般的なAIでは、瞬時に計算できないわ。その機体に積んでいるのは、ただのAIではないわね!?』
「そのとおり、超AIのAi’s、宜しくね!」
『――おのれ、おのれ、おのれぇぇぇ!!』
そうだ。敵の燃料切れを待つのはどうだろう・・・・難しいか。
『たとえカオスでも!!』
リアトリスの背後の幾何学がスパークし始めた。最早、落雷も伴って。
❝な、なんだよあれ・・・❞
「カオスを計算する気か! イルさん――」
私は作戦を伝えた。
『了解しました。マイマスター!』
「――よし。イルさんお願いね!」
私は、後ろで私の背後を守ってくれているアリスを確認。
「今はアリスが側にいるから使える! いくぞ・・・・――入れ、セカンド・ゾーン!!」
世界の余計な物が消えていく。その時、Ai’sの声が聞こえた。
『ゾーン強化、始動します』




