743 脈動
◆◇sight:永遠の勝者◇◆
「オーレリア様、お見事です。敵の思考を読み切りましたね」
「まあ、デブリ帯があったからな。相手は教科書通りに動きすぎた」
「古代の神話レベルの将軍の作戦を引き出してくる相手を教科書通りとは・・・・恐れ入ります」
「既に使われた作戦など、私に通用するものか。奴ら、奇策の一つも用意していないんじゃないか? ――この人数差なら、教科書通りで勝てると高を括っていたんだろう」
「なるほどです」
「よし、豪傑隊を出せ。相手は、もはや死に体だ」
金髪碧眼のまだ若い将軍は立ち上がり、豪奢な飾りの袖を振って指揮を下した。
フロストは感嘆を漏らす。
「相手を、一手で死に体にするとは・・・恐ろしくも、頼もしくあります」
その頃、前線で敵のエースを斬り捨てていたリッカが、星が輝く奥を見た。
そして目を細くして、睨む。
リッカはふと右眉を上げて、ルミライト・ダーリン・インフィニティの剣を腰に収めると―――小さく呟いた。
「―――スケ副長」
『ん?』
「―――後は任せた」
いきなりの指揮官後退に、辺りがざわめく。
特に、空母の艦長を負かされているビブリオビブレのペィジィが、慌てふためいた。
『えっ、なに言ってるんですか!?』
だが、スケは慌てない。
『わかった』
リッカはスケの返事に満足すると、ペィジィの混乱などどこ吹く風で、明後日の方向にロケットを噴かす。
その行動を見て、ペィジィは叫んだ。
『ちょっ、まって、いきなり何!? ――リッカさん、どこへ!?』
「いる」
『いる!?』
「あっちに私の敵がいる」
『リッカさんの敵ぃ!?』
リッカのちぐはぐな物言いに、ペィジィはいっそ眼を回しそうだった。
しかし戦場はペィジィが混乱している間にも、刻一刻と変化する。
今、敵の主砲が空母をかすめた。
ペィジィは頭を切り替え、すぐさま指揮を開始、
『*右に回頭、30度! 敵の射線を切って!*』
スケもまた自分の戦場に向かう。
『行くぞ、α秀とやら、お前の本当の力を知らしめに』
『ああ、助平!』
「リッカが担当宙域を離れたんですか!? ――あの子、中央から右側を攻める重要な役目ですよね!?」
アリスは報告を、困惑を持って聴いた。
同時、右の軍が壊滅寸前だという報告も入った。
「だけど、リッカの飛んだ方向は右の軍への方向じゃないですし。あの子、何をしてんですか?」
アリスは、リッカが飛んだという方向に視線を送る。
今は静かな宙域。光の筋すらなく、ただ星の輝きを湛えている。
なぜあんな何も起こっていない場所へ、なぜリッカは飛んだんだろう?
「この先にあるのは――」
アリスは気づいて青ざめる。
「スウさんの乗る旗艦マザーグース!」
アリスはリッカの意図に気づく。
「マザーグースが危ない――! 敵はマザーグースに奇襲を掛けるつもりだ!」
静かだからこそ、そこに突然戦いが巻き起これば――。
アリスの言葉に、副長香ナイトが目を見開く。
『なんっ、・・・それは流石に不味いよ!』
「香ナイトさん、わたし行きます! ――リッカの機体はわたしと合体しないと、全力を出せません!」
『分かった、ここは任せて早く行くといい! *プリティ・ギルティ、鳳ヘプバーン。あたしら3人でアリスさんの抜けた穴を埋めるんだ!*』
『*あいよ――可愛くてごめ~んね!*』
『*――女騎士は伊達じゃない!!*』
『*ほーい。――不死身の獣、鳳ヘプバーン、華麗に降臨!*』
鳳ヘプバーンが口上をのべると、プリティ・ギルティが震えた。
『*テメーの決め台詞、鳥肌が立つんだよ!*』
『*そ、そろそろ慣れろ!!*』
「お願いしますっ!」
騒がしい通信を後にして、サンライト・ショーグン・ゼロのロケットが、暗い宇宙に光の筋を描いた。
マザーグースが奇襲を受けた。その報は、戦場を混乱に陥れた。
『だ、大丈夫かよ、右側もヤバイって話だけど・・・・!』
『本当に勝てるのか!?』
戦場全体を見回せないプレイヤー達一人一人の脳裏で、恐ろしい想像が膨らんでいく。
その想像こそが恐慌に変わり、士気の低下に繋がる。
そこへヴィクター・ハリソンの声が轟いた。
『大丈夫だ、マザーグースは簡単に落ちない! 今マイルズ・ユーモアが向かった!』
マイルズ・ユーモア。世界一位。USSFのエースパイロット。その名の強固さは随一だった。
『それに、いざとなればスウも戦うだろう。――あのスウが負けると思うか?』
この言葉に、戦場が落ち着きを取り戻す。
肘掛けに肘をついて、冷たい宇宙に伸びる光の筋達を、静かに眺めていたオーレリアが、小さく息を漏らす。
「ほう」
主の感心するような声を、フロスト副長は訝しがった。
「いかがなさいました、オーレリア様」
「敵が落ち着いた。〝こちらが流した〟旗艦が奇襲されたという情報に、敵が混乱し始めていたのが、瞬く間に鎮まった」
「ま、真でありますか?」
「ああ・・・これは敵の旗艦は絶対に落ちないという自信が、敵の一兵卒にまで行き渡っているな。信頼されている何かがいる」
「何か・・・・ですか?」
「なによりも、感じる――あそこには何かが〝巣食っている〟」




