741 さぼります
「はい。車懸りはまさに端という弱点をなくした突撃形態と言えます。今回は円ではなく球なので、玉懸りとでも言いましょうか」
なんてったって、あの戦の神、上杉 謙信が使ってたんだっていうんだから。
『な、なるほど。円や球にする事で、確かに端を消しているな』
ウェンターさんの納得の声。
「そしてこの回転は、先端を作ればトグロを巻く一列縦隊とも考えられます」
『トグロを巻く一列縦隊?』
「そうです。正面からではなく、側面から毛糸のように巻かれた一本の線が、槍となって本陣に向かって突き刺さってるのです。怖くないですか? ――しかも縦隊にも横隊にも変化できる」
『それは・・・・怖いね』
「それでも、僅かな人数だけが戦っていると、やがてそこが弱点となります」
『そうだね』
「だから、回転して人員を入れ替えるのです。弱点をなくし、弱点になりかけた場所をすぐさま補う」
『待って欲しい――それ凄まじく指揮が難しくないかい!? そんな指揮をできる人間がいるのかい!? 指揮官には、凄まじい能力が要求されないかい?』
「ですね。けれど現状、優秀な指揮官達が、現場に当てられています。なので――ヴィックお願いします」
『ふはっ、良いだろう。スウ君、左側の総指揮は私に任せ給え』
「では残りの人員の割当とか――ハギモトさん、お願いします」
『う、うむ。情報は確かに我々ビブリオビブレは、沢山のプレイヤーの能力を把握しているが――丸投げか・・・』
だってコミュ障の私が、他のプレイヤーの情報とか知るわけ無いじゃん。こういうのは知ってるハギモトさんに投げて口出ししないほうが良いに決まってる。
有能な指揮官とは、適切な人員を配置できる物を言うのだ。
上に立つ者よ、自ら手を出すな、収穫者たれ。
一見「怠惰たれ」みたいな言葉に聞こえるけど、これほど上に立つ者の役割を明確にしている言葉はない。
上に立つものは、必要な場所に必要な人材を配置することに専念すればいい。働く人は配置された人だ。
というわけで私は、一見怠惰になります。しかし決して怠惰ではありません。そう見えるだけです。
「はにゃー」
私は机に溶けた。これは、サボっている訳ではなく『体力温存の構え』という奥義の一つだ。
あと、孫子の攻略本にも掲載されてるし。
『――敵を知り己を知れば、100戦危険じゃない』
なら、自分の無知の知を知っている私は、きっと50戦くらいは、危険じゃない。
でも私は私以外を知らない。だから知ってそうなハギモトさんに丸投げ。
その後、ハギモトさんによって、次から次へと担当箇所が割り当てられていった。
『では、指揮系統はトップダウン型。最終的に各将、各隊長が裁量の範囲内で判断するということで』
『『『ラジャ』』』
ハギモトさんの一言と、それに起こった返事の声が返った後、一斉にウィンドウが閉じられた。
私が座っている椅子に、アリスが腕を乗せて、私の背後にもたれ掛かる。
「やっぱりスウさんは戦略もいけるんですねぇ」
「今のは戦術レベルだけどね」
「?」
アリスの頭の上に「?」が咲いた。
ちなみに、大規模な作戦順に『戦略レベル > 戦術レベル > 戦闘レベル』となる。
私はアリスに一応説明。
「えっと。作戦範囲があるんだよ。戦略は、外交などの政治も含まれる作戦レベル。――戦術は、戦場全体の作戦レベル。――戦闘は、個人や小隊の様な小規模な作戦レベル」
「く、詳しいですね」
「戦記物やボードゲームが好きだからね・・・」
「・・・・またサブカルですかあ」
若干のアリスの戸惑い。
私はアレを、アリスとリッカに伝えておく。
「アリス、リッカ」
「なんですか?」
「なんだー?」
「今回は混戦になるかも知れない。そういう時は前に出て情報を得るのも悪くない」
タタセさんにも言ったこと。今から二人は指揮官なんだから。
「えっ、アニメとかみたいに将が前線に出るんですか?」
「うん、二人の戦闘力なら可能だと思う。ほら、『現場で起こってるんだ』って言葉とかあるじゃん。なら上の人が、本当に現場に行けば良い。上の人が嘘偽りない現場に来て視察するのって大事でしょ」
「なるほど、現場を自分の目で確認して指揮を取るっていう手も有るんですね」
「――まあ、現場を理解してないのに、分かったフリで指示を出されても困るけど、問題が起きてるのに無視するのも困る。だから前線で味方が何に困ってるかとかも聞き出したり、察したりしてあげて」
「なるほど、わかりました!」
「そうそう、あと、昔って伝令を重視しても届く情報の間違いが多くて――だから高台から眺めるのが大事だったり、猛将が前線にでてきたのって、そういう意味があったし」
「そういう意味では高台を取られると怖いですね。高い方にいる人間は全体を見通しているのに、低い方にいる側はまるで五里霧中です」
「ここは宇宙だから、遠くから俯瞰してもいい。まぁ最前線の様子は・・・望遠カメラで見るしかないけど――ただ、フェイレジェはドローンで前線を視るとかもあるから無理しなくていいけど、二人って相手のオーラを肌で感じて何かを感知するトコあるじゃん。最前線なら、焼け付くようなピリピリ感とかわかるんじゃないの?」
リッカが拳を振り上げる。
「感じるぞ! まかせろー」
「まあ、リッカみたいなのがいたら流石に分かりますね――ただ、そのピリピリ感探知とかはわたしよりスウさんの土俵ですよ・・・」
「え?」
「気づいてなかったんですか?」
「流石涼姫だ。自分のことをわかってない」
あ、あれ? 孫氏~、私もしかして90戦くらい危ないですか・・・!?




