737 蹴り壊されます
◆◇sight:鈴咲 涼姫◇◆
前回の配信で壊されたフェアリーテイル。
「無理です〖ザ・ワン〗のスウさん。フェアリーテイルはコックピットくらいしか回収できませんでした。ほぼ回収不可能です。買い替えるしか無いです」
「そうですか・・・・」
兵士さんにフェアリーテイルの回収は無理かと尋ねたけど、不可能と言われてしまった。
買い直しかあ・・・。
「・・・・ここ基地ですし、機体の購入とかできますか?」
「はい、ここから近いですよ。ここを出て突き当ったら右に、向かえば正面に機体ショップがあります。試乗もできます」
「なるほど、基地なら試乗もできるんですね」
いい事聴いた。
「じゃあちょっと行ってきます」
私は、私の後ろで、なんか「いわはた」「みつお」「ナハナハ」とか言ってゲームをしていた二人を振り返る。
ねえそのゲーム、二人じゃ出来ないでしょ? ずっとリッカが「ナハナハ」してるじゃん。最早リッカが「ナハナハ」するだけの行為じゃん。
という訳で私は、無為な愚行を繰り返す二人に声を掛ける。
「アリス、リッカ行こ」
「はい」
「わたしも何か買おうかなあ『ナハナハ』」
「色々試し乗りしてみますか?」
「だなあ『ナハナハ』」
リッカが「ナハナハ」しすぎて、語尾が「ナハナハ」になってんじゃん。
試乗はまあ、VRでも出来るんだけどね。でもやっぱ本物とは違うかもしれない。
かくして、私達は機体ショップまでやってきた。
まあ、他に選ぶ機体もないので、すぐにフェアリーテイルの前に来る。
そして黒体が塗られて上から塗装もされていない真っ黒なフェアリーテイルを購入するため、決定ボタンをおそうと、
「スウさん、いけませええええええん!!」
なんか後ろから、物凄い大声が聴こえてきた。
「え?」
振り返るとアイビーさんが、猛烈な勢いで走ってきている。
あなた、自分がどんなスカート履いてるか忘れてませんか!? あかん、見える見える! いま配信中なんですよ!?
私はカメラを、アイビーさんから背けた。
❝スウたん、ごるぁぁぁ!!❞
❝なにすんじゃぁぁぁ!!❞
❝鬼か、貴様ぁぁぁ!!❞
コメントに巻き起こる阿鼻叫喚。
「うるさい、この魑魅魍魎ども・・・」
私は今日も視聴者と、妖怪大戦争。
言い合いをしていると、アイビーさん、私の眼の前。
アリビーさんが膝に手をつきながら前かがみになって、汗をダラダラ流している。
「・・・・ス――さ――、ごほ――っ、・・・・ゲホォ」
嘔吐くほどの息の切らし方。
「ア、アイビーさん!? だ、大丈夫ですか!?」
あまりにしんどそうなので、私は思わず尋ねていた。
「い、えっ。おか、まい、なく」
アイビーさんが息を整え始める。
なんか時間かかりそうなので、その間にフェアリーテイルを買っておこうかな。
思って販売機に向き直ろうと――したらアイビーさんが、販売機の画面にかかと落としをして破壊した。
な!? なにしてるのこの人!?
❝視えたッ!!❞
❝観える、観るぞ!!❞
❝ピンクッ!!❞
あちゃぁ・・・。
「アイビーさん、配信にパンツが映ったそうですけど・・・」
「そんなこと、今はどうでもいいです」
「いえ、私がBANされたらどうしてくれるんです、コノヤロウ」
「そしたらすみません」
言ってアイビーさんが私の肩をガシっと掴む。
「いいですか? フェアリーテイルは買ってはいけません」
「え・・・Why?」
「来て下さい」
アイビーさんに手を引かれ、機体ショップの奥へ奥へ連れて行かれる。
アリスとリッカも「「なになに、何事?」『ナハナハ』」と付いてきている。
ズンズン奥へ、ズンズン奥へ。
やがて「立入禁止」と書かれた扉の前まで来た。
するとドアの近くで控えていた兵士さんが「おい・・・・そこの女性士官、なにしてる『立入禁止』の――」言いかけて直角の敬礼をした。
「これは、アイビー・アドミラー少将――並びに、スウ特別権限ストライダー様!! どうぞ!」
アイビーさんは兵士さんに頷いて、扉の横にカードを通し、私達のドローンに「回れ右」と言ってからパスワードを入力。
指紋認証、網膜認証。
さらにアイビーさんに、赤いレーザーの筋が頭の先から足の先まで照らすと、
プシュッ
と、タイヤの空気が抜ける時みたいな音がして、扉が開いた。
「皆さんどうぞ、入って下さい」
アイビーさんが私達を奥へ誘う。
広い倉庫だろうか? そんな場所で「カツーン」、「カツーン」と4人の足音が響く。
「く、暗いなあ」
真っ暗で何も視えない私が〖暗視〗を使おうかなと思っていると、アイビーさんがウィンドウを開いた。
「ああ、いま点けますね」
言って電源ボタンらしきものを押した。
すると、私達の前方で、スポットライトのようなものが四方から放たれた。
「えっ、なにこれ」
そしたら現れたのは、スワローテイルのような機体。
前進翼の複葉機。
ただし、色は空のような青色。
「第16世代、先行試作機――アイステイルです!」
アリスとリッカが驚く。
「16世代機ですか!?」
「『16世代機、完成していたのか』みんなが持ってる15世代機の次かぁ・・・」
あ、そうそう、16世代機。二人は知らなかったのか。
私はその名を呟いた。
「アイス・・・テイル?」
アイビーさんが、真剣な表情で頷く。
「はい、新世代機です。本当はルジェルナとの戦闘中に届ける予定だったんですが、工場を移転したばかりで、間に合いませんでした。すみません。――あ、名前は、正確にはアイス・テイルではありません。アイ・ステイル。つまり、I still。――しかしスウさんの本名的には、アイス・テイルが合ってるかもしれませんね。――それからアイリスさんの思考を元にしたAI強化を行っているので、アイリスからアイスというのが来ている部分もあります」
アイビーさんの説明に、イギリス人だから英語に詳しいアリスが顎に手を当てて頷く。
「I still――なるほど・・・・〝それでも、私は〟ですか・・・」
「はい。24000時間も諦めず、〈発狂〉デスロードをクリアして――さらにどんな困難にも負けず、90層という途方もない階層までわたくしたちを導いてくれた――そんなスウさんに、ピッタリの名前ではないですか?」
アリスとリッカが頷く。
「ですね、ピッタリです」
「だなあ」
「そ、そうかな」
唯一違和感を受けて、首を傾げている私の瞳をアイビーさんが見た。
まっぐすな視線が私に向かっている。
「そして、ルジェルナというベクター最強のエースにして撃墜クイーンにフェアリーテイルを壊された。それでもスウさんは、このまま負けている気もないのでしょう?」
それは・・・、
「・・・はい」
「―――ならば、この機体を使って下さい。XIS-0 スウ専用・アイステイル――貴女の新たなる翼です!!」
私は迫ってくるような迫力を持って鎮座している、青い戦闘機を見上げた。
「私の・・・新たなる、翼」
「早速、試してみますか? ちなみに、コックピットだけは回収したフェアリーテイルの物です。使いやすいはずです」
「はい、試してみたいです!」




