736 子猫
一方、ルジェルナとコーレルリヒは膠着状態にあった。
コーレルリヒは、ルジェルナほどの銃の腕がない。
ルジェルナは、コーレルリヒほどの接近戦の腕がない。
コーレルリヒは遮蔽にしているデブリから出れば、即座に狙撃される。
だから遮蔽から出てこれない。
ルジェルナが位置を移動しても、コーレルリヒが位置を移動して撃たせない。
近づきたいコーレルリヒに、絶対に近づかせないルジェルナ。
互いに膠着状態。
しかし、コーレルリヒが焦れた。
『絶対に当ててくるなら――目視で躱せばいい!』
『出来ますかしら? あの化け物ではあるまいし。――加速の落ちない宇宙で、〝レールガンを目視で躱して接近〟などと』
『やらねば貴様に勝てぬではないか!』
『ではいらっしゃい。その挑戦、受けて差し上げますわ』
コーレルリヒがデブリの陰から出た。
ルジェルナは後退しながら〈連式・超電磁銃〉を連射する。
『下がりながら撃てば、弾丸の速度が落ちるぞ!』
『それでも貴方を撃ち落とすには十分ですわ』
『目視で避けると言っているのに、速度低下をさせてくるなどと、舐めているのかッ!!』
『不可避の終焉・ルジェルナを侮るなんて、甘いですわよ? キャンディーの様に』
『貴様ァ!!』
コーレルリヒが、〈連式・超電磁銃〉の弾丸を躱しながら迫る。
少々当たるが、バリアは貫けない。
『みたか!! 舐めるなぁ!!』
『ちなみにわたくし、キャンディーは舐める派ではなく――』
ルジェルナの銃口向きの様子が変わる。
『――噛み砕く派なんですのよ』
銃口が、まるでコーレルリヒの未来を読んでいるかのように動く。
コーレルリヒの向かう先に飛んでくる、銃弾。
滑る宇宙でコーレルリヒは止まれない。
『無駄ですわよ、宇宙は急に止まれない。そんな場所でわたくしの銃弾が躱せる訳ありませんわ――慣性を打ち消す方法でも無い限り』
『ならば、全力の反転でぇぇぇ!!』
コーレルリヒはリミッターを外して、急反転時にエンジンを全開にする方法を取った。
そうすると、コーレルリヒのAUⅢの軌道が左右にブレ始める。
『繊細な操作が必要な宇宙で、そんなにエンジンを噴かして、わたくしの精密射撃から逃れられるとでも¿¿』
コーレルリヒに、次から次へと襲ってくるルジェルナの弾丸。
『おのれぇぇぇ!!』
『それほどわたくしに向かって叫んで、憎いなら付きまとわないでくださいまし』
『否ァ! ――この〝おのれ〟は、俺自身、つまり己への怒りだ!!』
『ふっ、貴方のそういうとこ嫌いでは無いですわよ。――ですから、確実に仕留めて差し上げます』
〈炸薬波動銃〉を取り出すルジェルナ。
だがコーレルリヒも、ルジェルナに迫っていた。
『あと少しでこの刀が届く!! チェストォォォォォォ!!』
刀を振り下ろすコーレルリヒ。
だが、ルジェルナが突如前に飛んだ。
一撃を躱しながら迫る、コーレルリヒの意表をついた動きに、銃口が、白いAUⅢの胸を叩いた。
『この距離は躱せないでしょう。接近戦での対処法も、一応考えておりますのよ。長期戦は出来ませんけれど』
『しまっ―――』
『貴方の才能では、このルジェルナには届きませんわ。アディオス』
コーレルリヒに、撃墜判定が下った。
一方シャーリーもスコルを下していた。
豪傑隊メンバーがざわつく。
「またルジェルナ中佐と、シャーリー中尉の勝ちだ。あの2人の戦闘センスに勝てる人間なんているのか?」
「なんでヒール偏重の機体で、スコル大尉を倒せるんだよ」
「本当にわからん・・・」
◆◇◆◇◆
豪傑隊をボコボコにして、シャーリーにボコボコにされた後、スコル大尉は占領したルルアの街を歩いていた。
雨の中だった。霧雨煙る、水墨画のような雨模様。
スコル中尉が素っ気のない黒い傘を差して、歩いると「ミーミー」という鳴き声に気づいた。
「ん?」
道端に、子猫が落ちていた。
ここは管理されたコロニーだ。そもそも野良猫がいる可能性は少ない。
なら取るものも取らず逃げたルルアの避難民が置き忘れたのだろうか。それとも本当に捨て猫だろうか――近くに子猫の親がいるのだろうか?
ただ、子猫はずいぶん弱っていた。目はあまり見えている様子がなく――いわゆる猫風邪に冒された状態だった。
放っておけば、長くはないだろう。
たとえ野良猫で、親猫がいたとしても厳しい。
スコル大尉は猫の前にしゃがみこんだ。
「食べますか?」
抱いていた紙袋から差し出したのは、フランスパン。焼き立てなんて良いものではない、硬い。
弱った子猫が食べられるわけがない。
子猫は、香ばしい匂いを嗅いでかじろうと歯を立てたが、通るわけがなかった。香ばしい匂いのする石だと判断したようで、かじるのを止めた。
「要りませんか」
スコルは、「別にお腹は減っていないのだな、では自分にできることはない」と、立ち上がる。
「ではお元気で」
スコル大尉は立ち去ろうとしたが、子猫は「ミーミー」と鳴いて付いてくる。
スコル大尉が、空を見上げた。
「ああ。雨ですか――雨風をしのげる場所が欲しかったのですね」
スコル大尉が子猫を持ち上げた。
「屋根と壁くらいは、用意してあげられますが――」
子猫は、必死にスコル大尉に体を擦り付ける。
「――来ますか?」
子猫が大きく鳴いた。
こうしてスコル大尉に同居人が増えたのだが、スコル大尉は子猫の育て方が分からなかった。
そうしてコーレルリヒに相談したところ、怒鳴られる。
結局、あらゆる子猫を飼う準備は、コーレルリヒがすることになった。
スコル大尉は、コーレルリヒがなぜ怒鳴るのか、そもそも自分はなぜ猫を拾ってしまったのか――理解に苦しむのだった。




