690 えっ・・・どうします?
宇宙の変化はあんまり分からないけど、結構近めに恒星があるのはわかった。
輝きが一際大きい恒星が、正面に見えたから。
私が「あそこに向かえばいいんだな」と思って加速を開始しようとしていると、
『マイマスターこの空間は凄まじい速度で移動しているようです。通常空間との時間の隔絶がさらに酷くなっています』
「えっ」
そういえば、さっきから「キンコン」が早い。
さっきまで30秒に一回位だったのが、3秒に一回くらい鳴ってる。
「で、でも銀河連合に戻れば、地球の元の時間に戻れるよね?」
『イエス、マイマスター。銀河連合ならば、地球に飛ぶ時に時間を指定できます』
「よ、良かった」
私が安堵した瞬間、コックピットに警報音が鳴り響いた。
そうして視界にDANGERと書かれた三角がARに現れ、行く先を指し示した。
ウィンドウを開くボタンがあるので開いてみると、
耳を引っ掻くビープ音と共に、沢山の小さく真っ赤な三角が視界に広がる。
――それはもう、まるで蜂の巣をつついたかのような騒ぎだ。
数え切れない無数の三角が壁のように視界を埋め尽くして、前が見えない。
「な、なにこれ!」
一面赤になったウィンドウを小さくして、3Dで回転させると、本当にまるで壁。
『マイマスター、タイラント・キューピィです!』
「キューピィの最強種ってわけ!?」
『そ、総数、G(3)――危険です!!』
「え、G(3)・・・・? なにそれ」
知らんこと言われても、危機感を全く感じられない。
白い執事姿のイルさんが、空中に字を書く。表示されていく文字。
『3↑↑7625597484987』
「あ、巨大数!? 理解できない数だ!」
『はい! 宇宙の全粒子が毎プランク時間――5.39 × 10⁻⁴⁴秒に1回カウントして、宇宙が終わるまでカウントしても0.000…%しか進みません!! この敵の数の前には、宇宙の全原子数すら誤差です! ――どうしますか、絶望的状況ですマイマスター! 〖壊劫〗発動まで残り20分――このままでは〖壊劫〗が発動してしまいます!!』
億とか超とか、無量大数どころか不可説不可説転(ゴーゴル数――某検索エンジンの元になった数)なんか目じゃないほどの数だってのはわかった・・・。
――なら、
「無視!」
『えっ?』
「そんなのと戦ってらんない!」
『えええっ!?』
「名言を知らない!? 『どんなに敵が多くても、こちらに手出しできるのは、四方多くとも上下加えても、六方のみ!』――気にすべきは近くの敵だけ、それを躱していけばいい!」
私は、ひしめく敵の中に、突っ込んでいく。
四方八方、縦横から、レーザーが飛んでくる。
遠くの敵は、距離が離れすぎていて、光の速さすらゆっくりに見える――いや、光が到達してないから私からは見えないんだけど。
遠くから見れば、私に向かって殺到する無数のビームが見えることだろう。
「でも残念! バーサスフレームには熱武器は通じないっ!」
光は避けられないけど、当たっても大丈夫!
こちらにレーザーが通じないと見た敵から、実弾が飛んでくる。
私は、躱す躱す躱す躱す。
「弾幕を躱すのが、私の特技なんでね!」
しかも、敵を配置しすぎ、多すぎ。敵が盾になってくれて、弾丸がこっちに届かない。
甘い甘い!
これならまだ、首領死路蝶、難易度〈発狂〉、最終章、デスロードの方が難しい!
「敵の密度が高すぎる」? 人型モードで蹴りながら進めばいい! ――触れてもいい障害物なんて、私からしたら道と同じだ!!
「過ぎたるは、及ばざるが如し!」
通信からアリスの焦った声が漏れてくる。
『スウさん! 敵の数がなんかグラハムとからしいです!! 抜けられません!』
さらにリッカも。
『てか、数えられない敵の数を、どうやって数えたんだ、このAI!』
1人、若干余裕あるのがいるけど。
宇宙が滅びるかって時だっていうのに、相変わらずリッカが傾きよる。
「戦わないでいいよ! 躱して抜けてしまえ! 気にするのは、自分に攻撃の届くやつだけでいい!」
私が返すと、アリス&リッカ。
『――あっ!』
『今言おうとしたところ』
「――それからリッカ。たぶん敵の数は一個一個カウントしたんじゃなくて、範囲内の密度を測って、そこから敵の広がりに当てはめてカウントしたんだと思うよ!」
『今言おうとした所』
などとリッカが、へうげよる。
こうして、私たちは敵の大群をなんとか抜けて――亜光速航行開始。
『マイマスター、ドライブアウトします』
そこにいたのは恒星だった。
巨大で歪な、赤色超巨星だった。
巨星の表面に歪な表情を浮かべ、巨大なコロナのような腕を持った赤色超巨星だった。
『マイマスター、〖壊劫〗発動まで残り10分』




