表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/188

兄皇子と弟皇子

※ルゼくんの子どもの頃の、ルゼくん視点のお話です。



幼い頃から、俺はずっとひとりだった。


周りに大人はいたし、恐い女もいた。


だけど周りは、俺を闇魔力を持った“呪われ皇子”と恐れ、

恐い女は、“お前こそが皇太子になるんだ”

“お前は皇太子に選ばれる存在なんだ”

“今の皇太子から、早くその座を奪い取れ”

と、毎日のように怒鳴ってくる。


毎日膨大な量の知識や作法、武術、魔法の使い方を叩きこまれ、

自由に過ごせる時間なんて、ほとんどなかった。

やっと解放されても、俺は冷たい床の、

檻のついた部屋に入れられる。

恐い女は、“私が皇后になれないのはお前のせいだ”

“闇魔力なんて持っているから、皇太子にかなわない”

そう、俺を罵った。


ひんやりと冷たい床に頬をついて寝転がっていると、

不意に、牢の外にひと影が見えた。


「・・・」


ひと影は牢の格子に手を伸ばす。

俺はそっと立ち上がり、

前へ進んだ。


そのひと影が声を出した。


「お前が、俺の弟か」


「・・・おとうと?」


「ここに、俺の弟がいると知った。お前が第2皇子か」


「・・・うん」

俺自身が第2皇子であることは知っていた。

そして、俺を弟と呼ぶのは・・・


「皇太子」

第1皇子である、皇太子しかいない。


「あんたは、俺を殺しに来たのか」

皇太子は敵だと教えられていた。

皇太子を押しのけ、俺が皇太子の座を奪え言われて来た。

皇太子は俺のことが邪魔で、殺しに来るかもしれない。

だから、魔法や武術を習わされた。


「俺は、死ぬのか」

死ねば、楽になるだろうか。

勉強も武術も、魔法もやらなくてよくなるのだろうか。


すると、皇太子は、俺に向かって手を伸ばしてきた。


あぁ・・・殺されるのか・・・


死んだらせめて・・・

自由になりたい・・・


そう願いながら、目を閉じた。


しかし、やってきた感触は、予想外のものだった。

頭の上に、何かが触れて、優しく髪を撫でた。


何をされているのだろう・・・

そう思って、うっすらと目を開けると、

皇太子は俺の頭を撫でていた。


「俺を、殺さないの?」


「お前は俺の弟だから、俺が守る」


「・・・俺を、守ってくれるの?」


「そうだ。俺は、兄だから」


「・・・うん」

その言葉が、何よりうれしくて、

頭を撫でられていると、何だか安心した。


そして、次の日も、その次の日も、皇太子は、

兄は俺に会いに来てくれた。


だから・・・会いたい・・・会いに行きたい・・・

もっと、兄に会いたい・・・そう願うと、

自分の中の魔力が反応して、

あの、優しい手を持つ兄の元へと、

魔力の触手を伸ばしていた・・・


ふと、目を開けると、兄がいた。


「・・・あに!」

と、俺が叫ぶと、兄は俺を振り返った。

兄は俺に近づくと、いつものように優しく撫でてくれた。

ここに、鉄格子はない。

兄に、たくさん触れられる。


俺は、恐る恐る兄に触れた。

何だか嬉しくて、ずっとなでなでしてくれる兄に、

そっと身をゆだねた。


・・・あたたかい・・・


やがて、兄とふたりだけの空間に、何かが入って来た。

それは、俺を見て心底驚いているようだった。


「その、あるじ、その子・・・誰ですか?

竜帝陛下に・・・似ていますけど」


「・・・弟」


「は・・・?弟って・・・第何皇子殿下でしょうか」


「第2皇子。この前、見つけた」


「見つけたって・・・第2皇子殿下は・・・その・・・」

それは、何故かもごもごしていた。

俺の兄との会話を独り占めして、憎い・・・

俺はいつの間にか兄の体に腕を抱き着かせ、

闇の魔力を放っていた。


「うわっ」

それは、何もないところから急に剣を取り出し、

まるで手を添えるように不思議な持ち方をして、

俺の魔力を防いだ。


「・・・おとうと


「・・・あに?」


「・・・あれは、俺の従者」


「じゅーしゃって何?」


「俺の手足。だから、魔法はだめだ」


あにが言うなら・・・」

魔力は向けない。

兄の手足は、いつの間にか不思議な剣をどこかに消して、

こちらに近づいて来る。


「恐れながら、あるじ


「何だ、アルダ」


「弟君なら、お名前で呼んで差し上げては?」


「・・・名前・・・第2皇子」


「・・・それは名前じゃないですよ。俺はあるじの手足以外に、

“アルダ”と言う名前があります。あるじにはツェイロン王陛下が

名付けられた、“ディラン”さま、と言う御名みながございます。

言うならば、“第2皇子”と言うのは役職名のようなもので、

あるじが“皇太子殿下”と呼ばれるのと同じです。

竜帝陛下は、主のことを、“ディラン”さまの愛称“ディル”さまと

お呼びになります。その“名前”とは、すなわち、“ディランさま”に

あたる御名みなにございます」


「・・・そうなのか・・・では、弟、名前は?」


「名前・・・?」


「第2妃殿下に呼ばれていらっしゃる御名みなでございますよ」

それは、確かあの女が呼ばれている名だ。


「・・・“お前”?」


「それは・・・その、御名みなではありませんね」


「じゃぁ・・・なに・・・?」


「・・・」

兄も黙っている。


「・・・あるじ・・・恐れながら・・・主は、ツェイロン王陛下にお会いになるまで、

御名みなをいただいていなかったとお聞きしております」


「そうだ、アルダ。俺はシャクヤから名をもらった」

※ツェイロン王陛下=シャクヤ


「もしかして・・・第2皇子殿下も同じなのでは?」


「名がないのか・・・?では、シャクヤに・・・」


「・・・ツェイロン王陛下も、属国の国王陛下でいらっしゃいます。

現在は国にいらっしゃるはずですから、

今からそのために急遽お呼びだてするわけにも参りません」


「では、どうすればいい」


「・・・そうですね・・・仮の名として・・・

あるじがお名付けになるのは、いかがでしょう?

そして後程、第2皇子殿下の呼び名について、

竜帝陛下にお伺いをたててはいかがでしょうか」


「・・・わかった」


「・・・あにが俺のみな、つけるの?」


「あぁ、そうらしい。だが、何にしよう・・・

そうだ・・・この前・・・ツェイロンの王太子が言っていた、

名付け方がある」


あるじ、それはちょっと・・・」


「・・・大丈夫だ」


「え・・・大丈夫なんですか?」


「犬なら“ポチ”、猫なら“たま”と言っていた」


「恐れながら、第2皇子殿下は犬でも猫でもなく、

強いて言うのならば、竜ですが」


「では、竜ならどうすればいい?」


「・・・なにか・・・小説などの好きな名前からとる・・・とかどうですか?」


「では・・・竜姫はどうだ」


「それは絶対違います。歴史上の英雄からとるとか・・・」


「・・・歴史上・・・じゃぁ、イルゼ」


「・・・誰です?それ」


「銀色の竜の昔話に出てくる、竜の名だ」


「あぁ・・・確か、以前ツェイロンの文献とか、あさってましたね。

銀色の竜の伝説と言えば、ツェイロンですよね」


「あぁ、そうだ。ツェイロンの昔話だ」


「確かに。竜帝陛下とお揃いの銀色の角を持つイルゼ殿下にはお似合いですね」


「いるぜ・・・?俺の、名前?」

俺は兄を見上げた。


「そうだ」

兄はそう言って、なでなでしながら頷いてくれる。


「弟君なのですから、愛称で呼んでみてはいかがですか?」


「・・・愛称・・・“ルゼ”・・・がいいな。昔話でも、そう呼ばれていた」


「では、決定ですね。それと、イルゼ殿下」


「・・・いるぜ・・・俺?」

アルダと言う手足は、俺に目線を合わせてくる。


「はい。あるじのことですが」


「なぁに?」


あるじのことは、どうぞ“兄上”とお呼びください」


「・・・あにうえ?」

俺はそう言って兄を見上げると、

兄はきょとんとして、そして次に手足を見た。


「何故、“兄上”なんだ?」


「弟殿下が兄殿下を呼ばれる際の、基本形です。

他にも、“お兄ちゃん”“おにーたん”“にーに”などが

ございますが、竜皇族に相応しいのは“兄上”でしょう。

呼ばれていれば、あるじもそのうち慣れますよ」


「それは、愛称みたいなものか」


「えぇ。あるじの弟殿下だけに、許された呼び名です」


「俺だけ?」

それを聞いて、俺は何だか嬉しくなった。


「あぁ、そうだ。ルゼは、俺の弟だから」


「・・・うん!あにうえ・・・!」

そしてまた、兄上が俺の頭を撫でてくれた。


・・・それからも、俺は度々兄上に会いに行った。

忙しくて兄上と過ごす時間が取れない・・・と伝えると、

“手足”は、兄上と同じように、教育係をさっさと凌駕して

追い出せば大丈夫、と言っていた。

その言葉の通り、教育係の頭も腕も、魔法も、

忌み嫌われていた闇魔力を使って

時に操り、時に催眠をかけ、時に思いっきり叩きのめして、

兄上との時間の弊害になるものをコテンパンに叩きのめしていった。


それ以来、あの女は俺を恐れて近づけさせず、檻の中に閉じ込めておくようになった。

けれど、そんな檻は俺には意味をなさない。

あの女が近づいてこなくなったのを見計らい、

兄上と過ごし、兄上の書斎で兄上にた~んとなでなでしてもらい、

兄上とご飯を食べ、お茶をして、兄上のベッドで一緒に寝るようになった。

もちろん、あの女が牢に近づけばわかるように魔法をあんでいるので、

近づいてきたら即帰るようにしているが・・・


そんな時、手足が、せっかくだから兄上のために

魔法の研究でもしてみたらどうか・・・と勧めるので

兄上のためになるのなら・・・と、

魔法の研究を進めたら、ぐんぐんと成果を伸ばした。

名は“イルゼ”を名乗った。

竜帝国では貴族皇族でなければ、姓を持たないことも珍しくはないし、

兄上にもらった俺の名を、あの女が知る由もない・・・

だから俺の名は、魔法研究界に置いて、

表舞台に姿を滅多に現わさない謎の麒麟児とまで呼ばれるようになった。


そんな時だった。あの女が、俺が開発した魔法陣を使って、

俺を牢に閉じ込め、兄上に危害を加えようと画策したのは・・・


だから、早速、あの女や女に侍るカスどもを、

まとめて追い払うことにした・・・


兄上の隣で、うっとりと兄上に擦り寄りながら、

嘲笑いながら、あの女どもに恐怖の宣告を、告げてやったのだ・・・











忍び込んだルゼ「・・・兄上・・・いや・・・今晩はちょっとテイストを変えて・・・

おにーたん、お兄さま、にーにもいいかも♡そうだ・・・!ね、おにーたまなんてどう?」

ディル「すーすー・・・」

ディルの腕の中のメイリィ「(・・・ルゼくん!?

ディルの背中にくっつきながら・・・何か言ってますけど・・・!?

誰ですか!ルゼくんに変なこと教えたのはっ!!)」

闇に潜むアルダ「(はーい)」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ