皇太子殿下と第3皇子殿下
―幼き日のディルとレオくん―
「・・・お前が俺の弟か」
「・・・ひいっ!?」
暗闇の中から、ずいっと姿を現したのは、
金色の瞳に、笑みのひとつも浮かべない、
コワモテの少年だった・
「お前は、第3皇子ではないのか」
「えと・・・そう、そうです」
素直に答えるのもどうかと思ったが、
その気迫に、第3皇子・レオハルトは
拒否することはできなかった。
「では、お前に名をつけてやろう。
兄上が、弟だけに呼ぶことを許す名だ」
「えぇと・・・もう、レオハルトって、名前がありますが」
「名前が・・・あるのかっ!?」(くわっ)
「んひいぃぃっ!?」
(な、何でそんなことに驚いているの!?このひと!!)
レオは、いきなりくわっと顔をこわばらせた少年に、
思わず身をこわばらせる。
「・・・では、お前の愛称は、何だ」
「・・・レオです」
「レオデスか」
「ち、違います!“です”はいりません!“レオ”!」
「うむ・・・レオ・・・か。よし」
そう言うと、少年は手を伸ばしてくる。
そして、レオハルトの頭に、手を乗っけた。
「あひいいいいぃぃぃぃっっ!!!」
その瞬間、レオハルトは恐怖のあまり、気絶した。
その翌日、レオハルトは母に連れられ、“あちらが皇太子殿下よ”と
物陰からその姿を見て、戦慄したのは言うまでもない。
その後、社交デビューの折、“皇太子殿下”に挨拶したところ、
いきなり“皇太子殿下”が立ち上がり、レオハルトの頭を捕らえた。
「弟皇子はすべからく、“兄上”と呼ばねばならない」
と、コワモテで顔を近づけられたため、
レオハルトの恐怖はMAXになり、
初めての社交デビューで失神し、
当時の婚約者のアナスタシアことアナに介抱されたらしい。
―あのピンク髪事件後のディルとレオハルト―
「レオ」
ディルは母・ユリアナに謹慎させられ、
しかも、イザナからも手紙で怒られたレオハルトは、
素直に自室で勉学に励んでいた。
「は、はい、兄上っ!!」
ピンク髪にそそのかされて浮ついていたレオハルトだが、
ディルに対するスライディング平伏の精神は、全く揺らぐことはなかった。
今日も今日とて、レオハルト自室に現れたディルに、
ははは―――っとスライディング平伏する。
「レオ、お前に聞きたいことがある」
ディルは腰を下ろし、そしていつものように、
レオハルトの頭に掌を乗っける。
「はいっ!何でもどうぞっ!」
「・・・あの先日のピンク髪のことだが」
「はいっ!もう未練など何もありません!ぼくは兄上一筋でいきます!」
※あくまでもスライディング平伏の意です
「・・・そうか。だが、何故あのピンク髪がお前を“レオ”と呼んでいた」
「俺が、愛称で呼んで欲しいと、あの女にいいました」
「何だと・・・?」
兄の機嫌が急激に悪化した気配を、平伏しながらも察知したレオハルトは、
ぶるぶると体を震わせる。
「そ・・・その・・・当時は、親しい・・・仲、だったので」
「許さん」
「ごめんなさあああぁあぁぁぁぁいっっ!!!」
「それは、“兄”にのみ許された呼び名だ!」
「え・・・母上もそう呼んでおりますが」
ふと顔を上げる。
「え・・・?何故・・・それは“兄”のみに許された呼び名だ!」
くわわっ!!
「そ、そうです!ごめんなさあああぁあぁぁぁぁいっっ!!!」
もう、それでいいような気がしてきたレオハルトだったが・・・
後にそれを、仲良くなったアナたち兄の婚約者4人娘に相談したところ、
彼女ら4人から、ディルが説教を受ける羽目になったらしい。
その後、アナからディルへのスライディング平伏を禁じられたため、
立ったままディルのコワモテ掌を受けることになったのだが、
後にそれは“なでなで”のつもりなのだと
アルダから告げられたレオハルトは、ちょっとだけ苦手意識を克服したのだった。




