ミフェイの告白
「・・・それで、何故、ダメなのだ」
ディルは、ミフェイとふたりっきりの寝室で問いかける。
「・・・とても・・・恐ろしいものを、見たのです」
「見た・・・?」
「夢の中で・・・何度も・・・何度も・・・
これは、きっとただの夢だと・・・そう、思っていたのです。
けれど、だんだん、それが、ただの夢ではないと、わかりました・・・
私はたまにこういう夢を、見ることがあるんです。
スキルか何かだとは思っていますが・・・」
「その・・・その夢とは」
「最初に見たのは・・・メイリィさまとそっくりな女性です」
「・・・」
(まさかメイファ妃か・・・?)
「竜帝陛下に愛され、“キーシャ”と言う白い髪に金色の瞳、
金色の竜の角を持つ、幼子を抱いて、幸せそうに、微笑んでいました」
「・・・」
(まさか・・・キーシャの名まで知っていたとは・・・)
「だけど・・・幸せは長くは続かなくて・・・
恐い・・・女のひとが出てきて・・・メイリィさまにそっくりな女性は、
段々と心を病んでいきます・・・」
「・・・」
(・・・その恐い女とは・・・まごうことなく、元皇后のことだろうな)
「目の前に広がるのは、幸せそうに抱かれていた、幼子の死体。
王墓にも埋葬してもらえず、ただ、誰も近づかない城の片隅に埋葬された。
その場所は・・・実際に、ありました・・・
そして、何日も、何日もそこに通い、泣き崩れた、
幼子の母親は、段々と、竜帝陛下すら、
拒否していくようになりました・・・
後宮の自身の部屋に閉じこもり、獣人族の侍女だけを傍に置き、
毎日、毎日そこで泣いていました・・・」
「・・・」
(獣人族の侍女・・・やはりいたのか)
「ある日・・・そこへ、ひとりの男が・・・入ってきたのです・・・」
ミフェイの声は、震えていた。
「・・・大丈夫か」
ディルは優しくミフェイの手を握る。
「そして・・・乱暴を・・・したのです」
「・・・は・・・?」
「メイリィさまによく似た女性は、妊娠していました・・・
何度も、何度も自ら死のうとした。
けれど、幼子の死体が脳裏をよぎり、
お腹の子を、殺すことができなかった。
お腹が大きくなるにつれて、
竜帝陛下には、決して見られてはならなかった・・・
最後は、男が闇医者を手引きし・・・そのお腹の子を、取り上げました」
「・・・では、メイファ妃には、もう一人、子が、いたのか」
「・・・その方のことを・・・ご存じ・・・なのですか」
「・・・あぁ・・・父の・・・竜帝陛下が最初に迎えた第2妃。
ツェイロン王家の・・・姫・・・メイリィの叔母だ」
「・・・メイリィ・・・さまの・・・?」
「そして、キーシャの母親でもある」
「あの子は・・・本当に・・・キーシャ皇子なのですか」
「・・・本人だ・・・信じられないだろうが、キーシャは一度、確かに死んだ。
だから、埋葬された・・・けれど、魔物として、神龍として、生き返った」
「・・・神龍・・・?」
「殺された第2皇子は、神龍となるべく、産まれた皇子だった」
「あぁ・・・だから・・・」
「どうした・・・?」
「男は、しきりに言っていたのです・・・
これで、神龍の呪いから、解放されると・・・」
「・・・どう言う、ことだ・・・?」
「・・・わかりません・・・もしかしたら、
神龍を産んだメイファさまに御子をもう一度産ませることで、
もう一度神龍を手にしたかったのではないでしょうか・・・?」
「だが・・・神龍は、竜皇族からしか産まれない。
メイファ妃は、人族であり、竜皇族ではない・・・
・・・待て・・・その男と言うのは・・・」
「・・・会ったのです・・・この、帝国城で。
そして、私の顔を見て、驚いているようでした。
そして、私にこう、問うたのです。
“ミーナ”と言う名に、心当たりがないか、と」
「・・・それは・・・まさか・・・。
・・・父は・・・即位の際に・・・
政務を投げ出し、享楽に走った先代竜帝を自ら屠り、
兄弟姉妹、妃も全て殺した・・・」
「・・・存じております」
「・・・有名な話だからな・・・
だから、残っているはずがない・・・が、
ひとりだけ・・・心当たりがある・・・」
「えぇ・・・男が、それで神龍をもう一度、
手にできると思ったのであれば・・・答えは、ひとつです」
「・・・その男の名を、確認してもいいか」
「・・・お耳を、こちらに」
「あぁ・・・」
ミフェイが囁いた名に、ディルが嘆息する。
「・・・やはり、そうか・・・
・・・念のため聞いておくが・・・子どもをとりあげた後・・・
その男は、どうしたんだ」
「証拠が残らぬよう、全身を醜く腫れあがらせる毒杯を、
メイファ妃に、飲ませました。
男が言うには・・・邪竜の血だそうです」
その名を聞いて、ディルはつい先日も、
同じ名前の物を聞いたことを思い出す。
「その毒を・・・何故。
・・・メイファ妃は、自害したと聞いているが、
その死因は・・・メイファ妃の最期は、秘匿されている。
それほどまでに、酷い惨状だったのだろう・・・」
「はい・・・あの・・・美しかった・・・
メイリィさまにそっくりだった・・・あの方が・・・
そして、それを最初から、最後まで見ていた侍女がおりました」
「それがもしや・・・」
「・・・メイファ妃が、最期に、名を呼んでいました・・・
“ミーナ”“ミーナ”と・・・何度も・・・」
「・・・そう、だったのか。その、ミーナは、どうなった」
「メイファ妃を看取り、その後、男に殺されました」
「・・・そう、だったか・・・辛いものを、見せたな」
「殿下のせいでは・・・ありません」
「だが・・・俺は、原因を作った女の息子だ」
「・・・殿下は、殿下です。メイリィさまに向ける気持ちは、
本物だと・・・思いました・・・それに・・・変わられましたね」
「・・・俺は、変われたのだろうか」
「・・・以前の殿下なら・・・こうして、
手を握ってくださることもなかった」
「俺が・・・愚かだったから」
「いいえ・・・きっと、メイリィさまのお陰だわ。
あの子は・・・昔から、ずっと・・・
周りを巻き込んで、それで、幸せにしてくれる子」
「メイリィのことを、知っていたのか」
「・・・えぇ・・・一度だけ、
帝国城に連れていかれたことがあります。
庶子とは言え、ランディアの王族の血を引くもの。
実の父は、母が城を飛び出した後、
母が亡くなったことを知り、私を王族として認めようと、
何不自由なく暮らせるように取り計らおうとしてくれました。
育ての父と、弟も呼びよせ、ランディアで暮らせるように・・・と」
「だが、実際にはツェイロンで暮らしていた。
戸籍は、ランディアのものであるのに・・・」
「はい・・・その曲解された記録が・・・私の命を、助けました」
ミフェイは、苦し気に眉を顰めた。




