忘れられた名
不思議なもっふぃの楽園にて、神弟・キーシャくんに出会った
私とルゼくんの元に飛び込んできたのは、何だか妙に懐かしく、
とても馴染んだ面々でした。
「あぁ・・・メイリィ・・・ルゼ・・・!」
ディルが感極まったように私たちに近づくと、
キーシャくんがそっと身をよけ、
ディルは私とルゼくんをぎゅむっと抱きしめました。
あぁ・・・なんだか懐かしいです。
ディルの抱擁・・・
そして、ディルが抱擁を解き、顔を上げると、
後ろには、シア、アナ、キャロル、エクレール、アルダさん・・・
みんな勢ぞろいです。
そして、もっふぃのもふちゃんとふぃーくんも
私たちの腕の中に抱き着いて来て、
もふぃもふぃしてくれています。
あぁ・・・かわいらしいですね。
「それにしても、ディル、どうしてここが・・・」
「あぁ・・・もふたちが教えてくれた。
今、メイリィとルゼを連れてきたと」
「連れてきたって、どう言うことですか?」
「ぼくがもっふぃたち・・・
あ、もふとふぃーって名前をもらったんだったね・・・に、連絡したの」
そう言うと、キーシャくんに、もふちゃんとふぃーくんが飛びつき、
キーシャくんが優しく2匹をなでなでしています。
「どうして、キーシャくんが・・・」
「もっふぃたちは、ぼくの使いだよ?」
そう言えば・・・不思議な生き物・もっふぃは、
魔物の一種ではありますが、神龍の使いとして、
竜帝国で大切に保護されているのです。
と言うことは、キーシャくんは本物の神龍ということです。
では、私たちが出会ったあの少年は・・・
おっきなもっふぃに思いっきり突き飛ばされていましたし・・・
偽物・・・と言うことでしょうか・・・?
「だって、ディルお兄ちゃんが困っているようだったし、
もっふぃたちもお兄ちゃんとお姉ちゃんを
探しているみたいだったから、ぼくが手伝ったの」
「あぁ・・・ありがとう・・・キーシャ」
ディルがキーシャくんを抱きしめ、髪を優しく撫でると、
キーシャくんははにゃりと笑って・・・
ぐはっ
ルゼくんと一緒にツボに入りました。
あれ、アナもぐはっときてましたね。
早速キーシャくんの魅力に、メロメロなようです。
さすがは神弟ですね。
「ディルは、キーシャくんのことを知っていたのですか?
キーシャくんは・・・亡くなられた・・・私の叔母の、
息子・・・御子さまなのですか?」
「・・・あぁ・・・そうだ。昨晩、紹介したいと言った弟だ」
ディルが頷きました。
いや・・・お会いしてみたい・・・とは言いましたが、
まさかその翌日に、助けられる形で
もっふぃたちの楽園へ招かれるとは思いませんでした。
しかし・・・
「・・・御子さまは、従兄は、亡くなったと・・・
それに、年下・・・みたいですよ?」
ディルの話を聞いた限りでは、
確実に17歳のレオくんよりは年上で、
20歳のディルより年下のはずなのです。
ですが、キーシャくんは12歳くらいの見た目なのです。
「ぼくは・・・一度にんげんとして死んで・・・魔物として復活したから」
さっきも、“死んだ”とキーシャくんは言っていましたね・・・
「神龍は、竜帝国の始祖・・・神と同等の存在だ。
だが、元を辿れば、神に限りなく近い、高位の魔物の一種だ」
えぇ。魔物の括りにはいるとは、聞いたことがありますね。
「神に限りなく近いから、にんげんとしての生は終えたけど、
魔物になって、復活したの」
どうやら、神龍とは、人知が及びそうにもない存在ですね。
「あのね、好きな年齢で成長をすとっぷできるから、こうしたの!」
「・・・何故・・・その姿になったのか、
参考までも聞いてみていいでしょうか・・・?」
「弟萌えできるでしょ?」
はにゃりっ!!
な・・・なんと・・・っ!確信犯ですと!?
「一度死んだから、その肉体を頼りに再構築する必要があったけど、
死んだとき、ぼく、幼児だったから!
生きている時には会えなかったの。だけど、会いに来てくれたから!
だから、ディルお兄ちゃんが弟萌えできるように、こうしたの!!」
え・・・生きている時には、会えなかったって・・・どういう・・・?
「キーシャと出会ったのは・・・キーシャの墓で・・・だった・・・
事情があって、王墓に埋葬できなくて・・・
皇帝城の、一郭に、ひっそりと、建てられた」
そんな・・・皇族・・・だったのに・・・
「おとうさまは・・・おかあさまが死んでから、
会いに来てくれなくて・・・ずっと寂しかった・・・」
竜帝陛下にも、叔母の死に関連して、
何か引きずるものがあったということでしょうか。
「けど、ディルお兄ちゃんはぼくに会いに来て、
なでなで、してくれたの」
「え・・・なでなで、できたのですか?」
「・・・あぁ・・・肉体は埋葬されていたから、墓石を」
あぁ・・・そう言うことですか。
「だから、すっごくすっごく嬉しくて・・・
いつでも神龍として復活はできたけど・・・
復活するのも嫌になっちゃってた時に、
お兄ちゃんが来て、なでなでしてくれて、
嬉しかったから、復活することにしたの!」
神龍とは、どこまでも自由なようです。
しかし・・・復活・・・ですか。
まばゆい光に包まれて御光臨!みたいな感じでしょうか?
「あぁ・・・墓石の前の土から、ある日腕が出てきたから・・・引き上げた」
と、ディルは淡々と告げます。
あの・・・それ、軽くホラーではありませんか?
「年齢のことは、先ほどの説明は受けたので、特に気にしないことにした」
むしろ、気にするところは別にあるのでは・・・?
ちょっとずれているディルだからこその反応なのでしょうね。
「・・・だが、さすがに父に言えなかった」
「それは、何故・・・ですか・・・?」
「・・・父は、第2妃を・・・
メイリィの叔母上を、愛していた・・・と、思う。
・・・だから、メイリィの叔母上の・・・死が、
その原因のひとつであるキーシャを会わせるのが・・・
正解であるのかわからなかった。
現に、父は、キーシャの話は一切、しない・・・
キーシャの墓に行くこともなかった・・・今も・・・ずっと」
「・・・」
つまり、キーシャくんを、怨んでいるかもしれないと・・・?
「そんなことをするのなら、父さまに言いつけて、
また叱ってもらえばいいのです!」
「え・・・」
「使えるものは使いましょう!」
「自分の・・・父親だろう?」
「えぇ、もちろんです!けど・・・父さまにとっても、
キーシャくんは大切な甥っ子です。
父さまは、叔母上が亡くなったことは、
悲しんだかもしれません。今も悲しんでいるかもしれません。
けれど、父さまは、一度だけ、私を他の名前で呼んだのです。
その瞬間、私であることに気付いた瞬間、
酷く涙され、抱きしめて、とても辛そうに“忘れてくれ”と仰いました・・・
あの時は何のことだかわかりませんでしたが・・・
さすがにわかりますよ・・・
父さまは、今でも、叔母上と、キーシャくんを愛していますよ」
「・・・その、名前と言うのは・・・?」
「メイファ」
「あぁ・・・メイファ妃だ・・・」
それは、紛れもなく、私の叔母・・・
忘れられたもうひとりの妃・・・
忘れられた皇子・キーシャくんの・・・
お母君の名前でした・・・




