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雑竜種《デミドラゴン》とスマートフォン  作者: 皇 咲麻
Ver 2.1 竜と王城と紫黒魔術《ヴラックマギア》
99/126

#95 人造

「構造自体はお前が死ぬ前から大して変わってないから気にするな」

「いや、確かにそうなんですけど……こんなに生活感溢れてましたっけ?」

並べられた金床、相変わらず物の置き場がない作業台。床には用途不明な工具と細かいパーツがいくつも散らばっている。……それに加えて、見慣れないゴミ袋や誰のか分からない脱ぎ捨てられた作業着など。

「ああ……総員徹夜作業の最中と直後はこんな感じだ。実際に今日の朝くらいまで徹夜作業だったからだな」

「……あの、ジルオさん寝れてます?」

「今の話を聞いて寝れてると思ったか?……少しばかりはルリアに近づいてきた気がしたな、三徹くらいまでなら平気だ」

そう言うジルオの目は笑っていない、というか虚空を見つめている。前は向いてい積んだけど視線が定まってないというか、無意識に目が動いている状態に近い。

「ジルオさんは寝ないと精度が落ちるタイプなんだから定期的にちゃんと寝なきゃだめですよー?」

「……俺に溶接作業ブン投げてそのまま寝た奴はどいつだ」

「まさか私とか言わないですよね?」

「お前以外に誰がいると思ったんだ?」

皮肉を逐一付け加えたマシンガントークを繰り広げる寝不足のジルオと、すべて的確に皮肉を受け流すイザベラ。この慣れ切った感じがこの空間の「いつも通り」を教えてくれる。

「あの、ところで俺のスマホを修理してくれたもう一人って……」

「今は確か動力室にー……お、丁度いいな」

ジルオが指さすのはごちゃごちゃになった工房の中でも唯一綺麗にドアの前が掃除がされている部屋。そして指をさした直後にドアノブがゆっくりと傾く。

外開きのドアが傾き、部屋の中の電気を消す音がした後にドアの陰から現したのは―――。

「……ん、どうしたこちらを見て。……見知らぬ奴がいるな」

全身やつれて骨格が浮き出てるようにすら見えるガリガリな体の銀髪の男性。髪の毛はイザベラほどではないが肩より下はあるだろう、男性にしてはかなり長い。

「……え?あの人が……ん?いや……うん?」

ただそれだけ、ただそれだけなのだが……どこか見覚えがあるような?

「……オイ新人、コイツ気づいてないぞ」

「新人と呼ぶなと……思い出さなくてもよいだろう。既に滅んだ貴族の末裔なんて名前を残すのは文献だけで十分だ」

その男性は右手にボロボロになった紙の束、左手に四角い謎の機械を持って作業机に向かって歩き、椅子に腰を掛けて近くにあったスナック菓子のようなものを袋の口から胃に向かって流し込んだ。

「久しいな、俺の左目と人生を狂わせてくれた少年」

足を組んでこちらを眺めながらニヤリと笑うその顔。青色の右目とは別に、違う光り方をする左目がこちらを見つめる。

「……あっ!?えっと、あの、カリンさんが攫われた時の犯人!!!」

そう、左目。水晶玉が埋め込んであるルイエ・アンシェリア。随分痩せ細って風貌が変わってしまったが、どうにか認識はできる程度には面影が残っている。

「なんでこの人が!?……というかこの人生きてたんですか!?」

「死んださ。あの日からコイツは『死んだまま動いている』」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


遡ること一年半と少し前、ヒサメとルイラが城の中でルリアから逃げ回っていた頃。

ギルドメンバーがカリンの安全を確認して全員が撤退、誰もいなくなった静かな城の中でジルオは一人、脊髄を貫かれた死体を眺めていた。

(心臓が残ったまま脊髄だけ縦に裂けている、傷を塞いだ後に人工血液と樹脂脊髄で蘇生ができるか?)

ルリアにすら打ち明けていなかったが、この時すでにジルオは延命治療の研究をしていた。血管にペースを同期させる人工心臓や破損した部分に溶け込んで治癒力を上げる簡易脳細胞、さらには神経を繋げば正常に機能する樹脂製の人口脊髄まで計画していたのだ。

(たとえ蘇生できなかったとしても解剖して神経接続の方法に何か発見があるかもしれない。なんにせよここまで綺麗に部位が残った死体は稀だ、使わせてもらおう)

決断したジルオは周囲に人がいないことを確認し、城の窓にあったカーテンの布を引きちぎって死体を覆い、臭いをなるべく消すために個室に転がっていた香水を瓶ごと使い切った。血が染みてこないように背中周辺には特に熱く布を巻き、右肩に担いでギルドへ。

「あれ、ジルオさんどうしたんですかそれ、戦利品ですか?」

「ああ、良さげな作業台と面白そうな魔法道具があったから貰ってきた。用途がなくても売ればある程度の金にはなるだろう」

ギルドメンバーにそう言っておいて工房に入り、その中の個々に分割された部屋の一つに投げ込んでカーテンを外す。

「ジルオさんなに持って帰ったんですかー?うわっ!?……死霊系ですか?」

「合ってると言えば合ってる。こいつを解剖するぞ、立ち入り禁止の札出しとけ」

「はいはーい、ルイラちゃんに貸してある武器はどうします?」

「そっちで受け取っておいてくれ。あとコイツの設計できるか?」

ジルオが個室の戸棚にある束の中から一枚の紙を取り出してイザベラに渡す。イザベラの反応はその一瞬でジルオのやりたいことが目に見えているようだった。

「え?…………これ、心拍固定装置(ペースメイカー)ですよね。まさか死体(それ)、動かすんですか?」

「……生命の進展に必要な一歩だ。次にいつ研究の機会があるかもわからない」

「……わかりました。でも、これ一つだけ作ったらこの設計図燃やしますからね」

「それでいい。心臓の硬化が始まるまでに頼む」

イザベラがここまで死者蘇生系の魔術・機械開発に嫌悪感を抱いているのは『彼女がエルフであるから』なのだ。

魔術に囲まれて育ち、魔法がすべての世界で生きてきた種族。それならば、一度くらいは死者蘇生の研究が行われていても何も不思議ではない。たとえそれが成功していようが、はたまた失敗していようが。

犠牲無くして死の壁を突破することは叡智を結集させても叶わなかった。その歴史を知っているからこそ彼女は苦い顔をする。死の壁から何かを引き出すことは、同時に自分も引きずり込まれていることと同意義であることを知っているから。

(請け負っちゃったけど何この設計図、これを心臓が硬直するまでに!?今あるパーツでこんな細かいのを作るなんて……)

そう、ジルオは死者蘇生・延命治療の研究を隠れながら何年も行っていた。そのために幾度となく空想(イメージ)で磨き抜かれた設計図はどこから手を付けていいのかすら分からないほどに細かく、素材の種類指定が多すぎるのだ。

「……ああもう、組み立てる暇なんてない!こうなったら生み出す(・・・・)!」

机の下から取り出したるは彼女の伝家の宝刀とも言える最強最大の魔法道具、インスタント錬金作業機『セフィロトマップ』。現存枚数は一桁、魔法道具の効力の強さ故に国から使用制限がかかったほどの紙だ。


イザベラは散らかった作業机の上をどうにか押し分けてスペースを作り、セフィロトマップを敷いてその上に材料として設計図で指定された金属片を山のように用意。

「こんなに細かく生成できるか分からないけど実際に組むよりかは絶対マシ!材料よし、構造理解よし、錬金機構よし!いざ……!」

すべての安全確認を一巡してから深く深呼吸。そして目を見開き、両手を体の正面で打ち合わせながら魔力を指先で回し続ける。

「フゥーッ……『我が主よ、我の行く末を見届けたまえ。輪廻する無を有に、この世界に巡る魔力(アルカナ)を我に授けたまえ。ケテル、コクマー、ビナー、ケセド、ゲブラー、ティファレト、ネツァク、ホド、イェソド、マルクト。我に真なるダアトを授けたまえ』……いざっ!」

詠唱とともにセフィロトマップが光りはじめ、完全な詠唱が完了するとともにその光は虹色に。風を切るような音が周囲から生じ、魔力を巡回させている両手と輝くセフィロトマップの光り方が一致。息を吸い込んで、両手を作業机に叩き付ける。

「……ッ!魔力が、吸い取られ……うわっ!」

膨大な魔力を一転に押し込みすぎた反動か、逆流した魔力の流れに体が弾き飛ばされる。机に積んであった本や書きかけの設計図は波動で吹き飛び、作業机の足に少しばかりヒビが入った。

「いたた……あっ!今の錬金は……」

後頭部から床に落ちたことによる衝撃を和らげるために頭を撫でながら急いで机の上を確認。そこにあったのは―――。

「……完成、してる……のかな?」

セフィロトマップの上に転がっていたのは銅色の四角い機械。隙間から見える内部は歯車だらけ、実際に組んでいたら数日はかかっていそうなほどに精密なつくりだ。

「完成したか!?」

「えっ、はい、おそらくしました!」

すぐさま急いでいることを思い出して出来立てほやほやの謎の機械を手に取り、すでに異臭が立ち込めている個室の中へ。個室の中に転がっていた死体は破損した脊髄の部分にクリーム色のパイプのようなものを繋がれた状態で転がされていた。

「やっぱり錬金したか。予想通りだ」

「えっ、錬金するの想定してたんですか!?」

「設計図読み込んでパーツ揃えようとしたら二日はかかる代物だ。手のひらサイズに収まること自体も奇跡なんだがな」

受け取った銅色の立方体を脊髄の右、胸の裏側に回り込むように入れる。心臓とは逆の位置、設置すると赤い光が点滅しながら甲高い音を発した。

「おそらくだがこれで大丈夫だ。あとは自動修復が間に合わない皮膚をこっちでつなぐだけだな」

「それ自動修復機能もあるんですか!?」

「全部挙げると……自動修復、神経再編、心肺機能保持、あとは……錬金したんだったらスイッチが一緒に出てこなかったか?」

言われてセフィロトマップを見てみると、生成したときに同時に生み出されたであろう謎のボタン型スイッチ。青い直方体に赤いボタンが二つ。

「これですかね?これが一体……」

「それが必要、どころか不可欠レベルかもしれん。本人にもよるがな」

とにかくこれで一段落だな、と立ち上がって背伸びをするジルオの裏で、イザベラはやはりあまり乗り気ではなかった。

「……安心しろ、死者蘇生でもなければ延命でもない」

「……え?じゃあ今のは何を……」

「死者蘇生は魔術だ。これは魔術を練りこんだ機械化学……つまり『死んだまま動かす』ことになる」

この二つの違いがこの当時はイザベラにはよくわからなかったが、この言葉の意味が徐々に意味を帯びたことになってくる。

魔術による死者蘇生は死を生にする、つまり『完全に元に戻す』行為だ。それと比べる今回のジルオが行った『死んだまま動かす』手段。これは死んだ体を動かせるようにいくらか機械的な身体強化を死体に行い、意識を引き戻して死んだ直後の体を傷をなくしたまま動かせるようになる。つまるところゾンビに近い。

「おそらく完全起動まであと一週間弱だ。気を抜いてられないぞ」


装置を挿入してから三日、死体の外的損傷は半分ほど修復、ジルオの設計図によって作られた機械の自動修復により脊髄が早くも修復を始めている。

「ここで俺があらかじめ作っておいた人工心臓を元の心臓と入れ替える」

「え、心臓は無事だったんじゃないんですか?」

「……実を言うと、作りたてだから性能テストをしたいということでもある」

「さてはそれが十割ですね?」


装置を入れてから一週間、外的損傷は完全に修復完了。ペースメイカーも問題なく稼働しているようであり、意識が戻るまであとはひたすら待機になる。

「……そういえばジルオさん、あのスイッチって何に使うんですか?」

「左のスイッチはペースメイカーの緊急停止スイッチだ」

「えっ、じゃあ右は?」

「右のスイッチは人工心臓の緊急停止スイッチだ」

「えっ!?……何に使うんですか?」

「命令を聞かなかったときに脅しに使う」

何の飾りもないボタンが二つくっついた直方体を見て苦笑い。設計図の段階からすでに脅し用の装置を仕込んでいたと考えると、本当にパーツから組んでいたらとてもじゃないが数日で終わるようなものではなかっただろう。

「……ところでこの人どうするんですか?ギルドメンバーには出来ないですよね?」

「何名かに顔を見られているから無理だろうな、少々面倒だが工房の中でどうにかするしかない。言うことを聞かなかったら脅す」

「対等に話を聞く気は最初からないんですね……」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……という訳だ。原理は何となく理解できたか?」

「原理は分かるんですけど、人工心臓とか樹脂脊髄とかってそんな思い立ってすぐ作れるようなものなんですか……?」

「元より『そういう類』の研究は昔からいろんな奴がやってきたからな。先人たちのデータを集めて合わせればどうにかならないことの方が少ない」

データをどこから集めてきたとかそもそもどうやって活用したのか、などかなり聞きたい部分があるがひとまず魔術的な禁忌を犯していなかっただけよかったと思っておこう。

いや、気になる部分もあることにはあるのだが、この人は未知の金属を使って未知の武器のさらに改造したものを作り上げる人だ。技術的な質問は素人には絶対に理解できない範疇の答えが飛んでくるに違いない。

「ところで、ヒサメ君は今回何のご用で?」

「あーっと……何だったっけ……ああ、ルリアさんに工房に行って魔術の話を聞けって」

「てことはイザベラの案件だな」

「あ、ルイエじゃなくて私なんですね……はいはーい、何について話すのかわかりませんけどもお話ししますよ」


椅子に座らされて作業机にメモ用紙を敷き詰められた状態で図書室で得られた情報を記憶に残っている範囲で解説。話を聞くとほぼ同時進行で手を動かして関係図のようなものを書いていくその光景は科学の研究者に近い。

「……竜種の属性は特殊扱いでさらに細分化されている?出力の違い?ならば魔力の質が根本的に違うか生成機関が違いますね、その中でもヒサメ君の角が特殊、黒龍の……」

そこまで筆を進めた時点でイザベラが一つの疑問点に引っかかった。

「……あれ?黒龍って厄災種指定されてませんでしたっけ」

思いついたように作業机から離れて個室に入り、少しした後に辞書並みに厚さがある本を取り出してきた。珍しく使い込まれた形跡があまりない。

「えっと、厄災種……あ、これですね。ブラックドラゴン。今じゃ絶滅種みたいですね」

「すでにいくつかヤバそうな単語聞こえてきましたけど?厄災とか絶滅とか」

文字は相変わらずと言っていいほど不明。ただ、おそらく名称が書いてるであろう文字の横にイラストが載っている。頭部から生える竜の象徴たる角、全身を纏う強固な鋼殻。見た目はいかにも夢に描くような四足歩行の竜だった。

「実は大昔にですね、神々が『この生物は生存させていては生態系の維持が難しい』と判断した動物がいるらしいんですよ。それが厄災種と言って、まあ何千年も前に神々と戦争をしてほとんど駆逐されたってやつですね」

「それはまた……確かに絶滅種ですね」

「他にも悪魔の巨人(ゴグ=マゴグ)や輪廻する大蛇(ウロボロス)とかいたらしいんですけど……もはや今となっては伝説ですね」

「え、俺のこれその類なんですか?殺意の塊みたいなメンツでしたけど?」

「そもそも竜種で殺意が高くない種族の方がいませんからね?」

三拍置いてもう一度頭を回転させ、そこでようやく理解。確かに生物を殺したり食したりするのにここまでとやかく言われる生物って人間くらいなんじゃないのか。

「で、魔術のお勉強……なんですけど、ヒサメ君は特殊すぎて普通の魔法理論を教え込んだところで大した効果は望めません。なので―――」

イザベラは椅子から立ち上がり、作業机に積まれていた本の中から一冊の本を取り出す。これまた分厚いように見えて、先ほどの本とは違い、イザベラは本の表紙を指先でなぞるとその本は机から浮き上がり、右手を払うような動作をすると本のページが風で煽られたように次々と捲(めく)れていく。

「私と実践練習しましょう!私もその竜属性を見てみたいですし!!!」

「え、あ、はい……えっ?」

「気をつけろよ、イザベラはルリアを除いたらトップレベルに強いぞ」

「えっ!?!?!?」

昨日は物理戦闘のプロ、本日は魔術戦闘のプロ。なんだろう、普通の高校生はバトル漫画のごとく格が違うくらいの人に連れまわされて修行させられるものだったか?

今回は二本分の文量が詰まってるんです(分割場所が見つからなかっただけ)。

ところで、創作意欲に関する個人的な話なんですが、


1.「今書いてるとこあんま面白くねぇな……でも次の部分のアイデアめっちゃ出てくる」

2.「次の部分書きてぇけど今の部分を先に書かないとな~」

3.一区切りついて次の部分を書き始める

4.「あれ?なんか書いててめっちゃつまらないしアイデア全然来ないんだけど」1に戻る


なんか最近、すごくこれ↑のパターンによくなります。一番いい解決策は「現在の部分と少し先を同時並行で書く」事なんですが、これをするとそこに至るまでに導入しなければいけなくなった設定とかによって苦しめられたりします。というか私がVer 1.7の時になりました。

結局の所、モチベーション維持の為にも読者を楽しませるとか以前に自分が楽しく書けなきゃ書いてて苦痛だしいいものにもならないってことですね。時間に迫られながら書いててもいいもの出来ないって。うん。

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