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雑竜種《デミドラゴン》とスマートフォン  作者: 皇 咲麻
Ver 2.1 竜と王城と紫黒魔術《ヴラックマギア》
96/126

#92 勉強

図書館とは、何なのか。

いや、図書館が図書を並べてある施設だということは理解している。だが、目の前に広がっている光景はそんな疑問を抱きたくなってしまう。

首を垂直に振り上げて見えるか見えないかのような天井、そしてその天井に突き刺さるように生える本棚の樹。この場所を設計した人物はよほど図書館を利用したことがないのであろう、機能性の欠片も感じられない。

「ここが図書館、正式な名前は『国家指定中央地下大図書館』。一部の人しか使えない場所なんだよ」

「あの、それはいいんですけど……なんでこれが王城の地下に?」

そう、この首が痛くなるような高さのフロアが、巨大な王城の地下にある。王城がある中央区域の実面積はどうなっているのだろうか。

「詳しいことは分からないんだよね~……ウェルギスの人たちは何を思ってこんな構造にしたのか……」

「ってことはこのフロアは大戦前からあるってことですか」

「そういうこと。王城も実は修理と改造をしただけで、ベースは旧ウェルギス王城を使ってるんだよ」

まあ、確かに王城や地下空間は造ろうと思ってから完成するまでに数年単位の時間を要する。いちいち壊して建ててをしていれば時間の浪費になるだけ、と言えなくはない。

「これ上の方とかどうやって取るんですか……?」

「本棚横にあるレバーで本棚の高さが変更できるからそれを使って手が届く高さまで持ってくるって感じ」

「なんかハイテク……こういうレバー操作ってアズドラークにありましたっけ?ウェルギスには独自の技術があったんですかね」

「元アズドラークには無かったね、今のところは旅人が知恵だけ残してどこかに行ったって事にしてるよ」

ルリアは本棚の横に張られた種別分けの表示を眺め、一瞬で目的地を理解したらしく誘導するように歩き始める。

「亜人種に関する種別はコードZA、その中でも竜種の特殊個体研究例だから90番台……お、これかな?」

少し歩いてルリアが手を当てた本棚に書かれていた番号は『ZA991』。本は数冊しか用意されておらず、そのすべてが表紙から古さを窺(うかが)えるほど。

「えーっと、どれだ?これは……『竜族亜人種の火球投射の放物線観測』……違うね、これかな?……『竜種型亜人の半永久寿命再生サイクルについて』……これも違うね」

既に読み上げられたタイトルにヤバそうなのが紛れ込んでいるがそれについてはノータッチ。いつかまた読みに来る機会があるかもしれないのでその時の楽しみにでもしておこう。

「お、あったあった。『竜型亜人種変異個体の研究結果とその考察』。それにしても随分古いね~……何百年前の本かな?」

「いや、そんなに紙が残るわけ……え、俺のやつって変異個体なんですか?」

「あー、黒龍自体は変異じゃないよ。ただ、黒龍の要素を含んだ亜人が歴史的大発見レベルってだけで。どれどれ……」

ルリアは本棚から抜き取った古くて黒い本を左手に持ち、指を挟んで一ページずつめくってゆく。じっくり読みこんでいるわけではなさそうだが、かといって読み飛ばしているようにも見えない。

「……うんうん、まあ書いてあることは予想通りだね。……なんかつまんない」

「えぇ……で、何が書いてあるんですか」

どうやら新しく入手した情報が予想以上に少なく、少々機嫌を損ねたルリアにどんな感じの内容でしたか、と聞く。文字が読めないので読める人物に聞くしかない。

「私が考えていることとほぼ同じっぽいね。まずヒサメ君、君が亜人の能力を使うときに黒い煙みたいなのが出るでしょ?」

そんなもの出ていたかと考えたが、確かに右腕だけ竜化したときに角から塵のような煙が吹き出ていた。それ以外の竜化したときは意識が無かったから知らないのも当たり前と言える。

「あぁ……確かにありましたね」

「それは竜特有の魔力。種類がいろいろあるみたいだけどそれらを総称して『竜属性』と呼ぶらしいわ」

「特殊属性ですか……」

「特殊属性だね」

こう、何と言ったらいいものか。自らスマホを異世界に望んでしまうほどバカなのは認める。カッコつけて戦って無残に戦死したのも納得。だが―――。

なんで、こうも世界の一般常識から外れたものばかり身に宿しているのか。

「……なんだ、前世がモブ過ぎたのが原因か?だからと言ってここまで逸脱されたものばかり渡されても扱いに困るだけだぞ……?」

周囲の平均より秀でている部分があればそれは褒められる。しかし、それも行き過ぎると褒められなくなるどころか批判されることもある。前世で学んだ教訓だ。

漫画やアニメの主人公の鉄則は『他よりも少し優れている』か『他よりも劣っているがそれを克服する』ことだ。主人公だけが別格に強すぎてもいけない、他者と比べて『周囲よりも主張が強いポジションにいること』が絶対条件。

ならば、明らかに他よりも群を抜いて秀でている奴はどうなる?バトル漫画とかだとそういう奴は敵にいることが多くないだろうか?つまりそういうことだ。

「『竜属性は通常の魔力属性と互換性がなく、竜属性の魔力は通常魔法に使用不可。それと同様に、竜属性を使用する魔法は通常魔力では代用不可』。だってさ」

「つまり専用の魔法があるってことですかね?」

「そういうこと。で、これが問題だね。『竜属性の魔力は個体の角から生成される。常に循環するものと戦闘時に噴き出すものがあり、どちらも魔力が空になると個体は機能が一時完全停止する』」

「えっと……つまり?」

「使いすぎたらクールタイムが必要。しかもこの本。クールタイムがどれくらいなのかが書いてないんだよね。個体差なのかな?」

研究報告書ってこれくらいアバウトの方が返って信頼感増すけどね、と苦笑いで頭を掻きながらルリアは本のページをめくる。

どうやらその最中に興味深い文章を見つけたらしく、一点を凝視して何度も読み返し、そして本から目を離して一回唸り、そしてまた凝視。

「……どうかしました?」

「いや、その『竜属性の魔法』ってページを見てるんだけど……驚くくらいに魔術派生樹(マジックツリー)が長いんだよね。四大属性と同等か、あるいはそれ以上……」

「出来れば解説しながら読んで欲しいんですけど……俺も戦闘系は知りたいので」

「あ、確かにそれもそうだね。じゃあこの本持って私のデスクに戻ろっか」


呆れるほど長い階段を上下に往復し、王城のルリアのデスクに戻ってくるまで図書館から約20分。ずっと階段を上り続けてこの長さ。

移動の最中に魔術関連のページは理解できたらしく、デスクに一枚の紙を用意してそこに図を描き始める。大きな丸の中に四つの丸、その大きな丸の外に小さな丸がいくつか。

「じゃあ解説。どうやら竜属性にも四大属性があって、それらには互換性があるんだって」

「ちょっとストップ。通常と同じ四大属性ってことは、竜が使う四代属性って事になっただけじゃないですか」

「うーん、これは魔力の使い方が関係してるのかもね」

ルリアは紙を裏返し、二人分の人の絵を描く。片方には分かりやすいように頭部に角を生やして。

「通常の魔法は唱えてから目の前に生み出したり、あるいは武器に流し込んだりするんだ。でも竜属性は違う、竜種は自らの『身体に魔術を書き込む』んだって」

「えっと……え?」

「風を使う竜は翼に竜巻の魔術を書き込む、火を吐く竜は口に火炎放射の魔術を書き込む。魔術を単体で使うことはできないんだって」

なるほど、自分の体などを干渉させて発動するしかできない魔力なのか。そう考えると、通常の魔力などとはそもそも生み出し方や出力形式から違っているのかもしれない。

「へぇ~……一応そういうルールがあるんですね……」

「で、肝心のヒサメ君の黒龍種なんだけど……これだね、『紫黒魔術(ヴラックマギア)』」

「……なんか、名前が既に情報過多なんですけど」

紫なのか黒なのか、そして名前の字面がラスボスが使いそうなほどに禍々しい。四文字でここまで黒く染まってそうな雰囲気が出せるものか。

説明された内容を纏めると、『通常属性のような追加効果があるわけではない』『結構好き勝手に動かせる』『使いすぎるとデメリットあり』との事。他にも説明はされたがどれも魔術知識ゼロの頭に叩き込むには難易度が高すぎる内容だった。

「……要するに、ヒサメ君のその能力は前例がなさすぎる。回数を積んで自分の動かしたいように動かせるようになるのが一番かな」

「また練習ですか……」

「いいじゃないいいじゃない、やったら確実に成果が出るってわかってるんだからさ。人生でいつ使うかわからないような無駄な教養ばっかり教え込むような教育課程よりよっぽど有意義だよ?」

そもそも国が定める教育課程をドロップアウトしてる奴なのにこんな役職貰えるんだから読み書き計算ができれば何も問題はないよ、とルリアは皮肉を込めながら鼻で笑う。きっと元アズドラークの教育機関がよほど気に食わなかったのだろう。

「あの、当時の教育機関の人間って……」

「全部私が飛ばした。具体的には機能停止、強制退去、あと人事権の強制剥奪。頭の悪いルールを作る奴は新しい国になっても頭の悪いルールを作ると思ってね、連中にはすべて離れてもらって私が『国民教育部署』って名前の部署を新しく作った」

指を折りながら数える内容はどれも強烈で破壊力のある言葉。しかもこの人だったら反対意見を力技で押さえつけそうな気がするからまた怖い。

「今のルリアさんそんな権力あるんですか!?」

「どうだろ、アルバと私が女王補佐だから実質国のナンバー2ってとこじゃない?」

とても教えてほしい、どうやったらその重役でここまでストレスフリーで、のほほんとした雰囲気で生活できるのだろうか。自由奔放とかのレベルじゃなくて、もはや自由そのもの。

「ギルドにはちょっと行きにくくなっちゃったけど、自分の意見は通せるし何かやらかしてもそんなに大問題にはならないし、結構便利だよ!」

「自分の役職に対して『便利』って言葉はどうかと思いますけどね……」

「まあまあ、やりたいことを通せない世の中なんて生きてて辛いだけだよ?……あ、そうだ。ヒサメ君はこれからどうする?」

「へ?どうするって…………どうしましょうか」

スマホのロック画面に表示された時刻は午前十一時半、当初の予定がほとんど形を成してないので予想以上に時間が余っている。これならギルドに戻って昼飯が食堂で食べれそうなくらいだ。

「この後の予定がないんだったら工房に行ってみたら?ヒサメ君の魔導書を修理してたのはあのチームだし、魔術系統の専門家もいるから何か分かるかもよ?」

「あ、確かに復活してからあそこに行ってないな……スマホを修理してもらったお礼も言いに行っておかなきゃ……」

確かシャルも工房班と言っていたはずだ。魔術の勉強ついでに挨拶と武器開発の視察にでも行ってみよう。

「決まった感じ?」

「午後は工房覗いて、そこから地下使って練習って感じですね」

「了解、じゃあ外まで送るよ!」

笑顔でそう言いながらルリアはデスクの後ろにある大きな窓を開く。……いや、まさか、まさかとは思うが、この窓は―――。

「あの、外まで送るって、まさか……」

「さあ行くよッ!」

椅子から立ち上がった状態で襟首を掴まれ、そのまま柔術の投げ姿勢のような体勢で窓から外に射出。回る視界、眼球が捉えるたびに徐々に接近する地面。顔がどちらに向いているのかすら混乱して分からなくなる。

「どぅぁわああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?」

パニックを起こした脳内で回る意識がうっすらと結論を捻りだす。人間とは、地を歩いてこそなんだ、と。

Q.竜と龍の違い

A.時々表記が違うこの話。『竜』は翼竜などの小型、または未熟段階の個体。『龍』は成熟段階の個体、大型の個体を指します。ヒサメはの『竜化』は黒龍にはなるけど幼体(見た目がワイバーンっぽい)なので竜化。バージョンが上がったら表記も変わる……と思います。設定覚えてなかったらそのままです。

黒龍の魔法は火水風雷のような追加属性はないけれど『汚染』状態が付与できます。……この説明だと完全にゴ〇・マガラですね。

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