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雑竜種《デミドラゴン》とスマートフォン  作者: 皇 咲麻
Ver 2.1 竜と王城と紫黒魔術《ヴラックマギア》
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#90 朝食

貴方(あなた)は「未来が見える眼を授けましょう」と知らない男に突如、人気の少ない夜道で言われたら受け取るだろうか?

ここまで読んでくれた方ならお察しの通り、例によって回答は無い。能力の使い勝手によって選ぶ、と言う人もいるだろう。

実はこの質問、本当に内容を聞いている必要がある。現場から怪しさがするのはそうだが、本当に未来が見えるとしても『どのように未来が見えるのか』が分からない。

見える未来は何時頃?明日、数時間後、それとも5秒後?数年後や没年の姿、もしかしたら来世が見える可能性もある。

さらには『何の未来が見えるのか』も教えられていない。自分か他人か、鉄筋コンクリートビルの様な無機物でも可能かもしれない。数えだしたらキリがない程に可能性は無限大。

でも、こんな話を充実した生活を送っている人に話したらきっとこう言われる。「そんな叶うことの無い妄想より現実を見ろ」と。

そんな回答は実に阿呆(あほう)らしくて馬鹿馬鹿しい。叶いようがない妄想だからこそ、確かめられないのだから妄想として考えるのだろう?




どうも皆様おはようございます、アサカヒサメです。もしかしたらお久しぶりでしたか?

ただ今現代地球時間で午前九時、朝陽が窓から的確に顔面目掛けて差し込むので、眩しさに耐えきれず身を起こしたところです。

一年半の長い永い睡眠からようやく目覚めて早速任務―――というわけでは無く、ここ最近は国の中も安定していて自給自足体制が整っているらしく、この元ウェルギス領に移ってからは任務の全体的な数は減少傾向にあるんだとか。まあ、困り事が無ければ以来は減りますよね。

やることも無いし急ぐことも無い、という訳で本日は王城に出向いて国民登録をしてこなければならないそうです。いつの間にかそんなシステムが出来てたのは驚き。……見知らぬ平原からの旅人を国民認定していいのかは謎ですが。

ルリアさんに聞いた情報ではそんなに時間はかからないらしく、それ以外の時間は様々な所に「生き返りましたよ」と御挨拶にでも。いつぞやの時に隕石を売っていたあの古物商のお爺さんがお孫さんに店を譲ったと聞いたのもあって、ひとまず今日はそんな感じ。

「……朝九時。朝飯食いに行くか。今日は目玉焼きが食いてぇんだが……レイラに作り方教えたら作ってくれるかな……」

窓の外を眺めながら無意識に握っていたスマホのアラームを止め、ベッドから腰を下ろして壁の衣文掛(えもんか)けに掛けてあるお馴染みのパーカーに手を伸ばす―――のだが、何か違和感が。

「…………あれ、俺のパーカーって紺色だったか?」

フックの一番右端に引っ掛かっているパーカーがいつの間にか紺色、正確には群青色になっている。腕の部分のラインやフードの紐部分は白くなっていて、色合い的には嫌いではない。

「古くなったから新しくされたか?まあ、あの黄緑のパーカーも結構雑に使っちゃったしなぁ……」

恐らくだが、死んだときに服だけが安全とは思えないからあの制服っぽい戦闘服もボロボロになってしまっただろう。記憶が無いので何とも言えないが。

「……まあいいや、この紺色のパーカー着させてもらおう。俺の部屋にあるし俺が着ていいやつ……だよな?だってこの世界でパーカー着る奴なんていないはず……いや一年半死んでたんだしわかんねぇな……」

悩みながら呻き声を出しているとドアのノック音が。この時間で来るとしたらルイラか、パターン表が変わってるとしたらシャルかもしれない。

「はーい、どうぞー」

「ヒっくん朝ですよー…………」

パーカーを着ている最中にドアを開けてゆっくりと入ってきたルイラは、こちらを見るなり口を開けて棒立ち。直後に顔を抑えながら若干俯く。

「……えっ、このパーカー俺が着ちゃダメなやつだった?えっ?」

「……ヒっくんが、動いてる……すごい、ちゃんと動いてる……」

口から何か言葉を発しようとしてうまく言葉に出来ないのか口をもごもごさせて、そのまま足の力が抜けたのか膝から座り込んでしまった。

「えっ!?いやそりゃ動くだろ、生きてんだから……えっ、俺なんかした!?」

「いや、そうなんです、そうなんですけど……ぐすっ……」

部屋に入って来て突如泣き出すルイラに困惑、これは俺が何かしたかと焦っている最中にドアを思いっきり開けてミズキが廊下から叫ぶ。

「やーい!ヒサメがルイラちゃん泣かしたー!!!!!!!」

「朝からうるせぇ!と言うかお前は何も変わって無さそうでむしろ安心したわ!!!」

何を言っているのか分からないと思いますが、今日一日ずっとこんな感じらしいです。


ひとまず騒ぎ立てるミズキの頭に拳骨を一発叩き込んで黙らせ、本来の目的である朝食の為に地下の食堂に向かう。ギルドの基本的な部分の構造は変わっていないようで安心した。

常に人がいるギルドと言えど朝なので食堂は比較的静か。ここからうるさくなるだろうな、と思いつつカウンター席に座る。

「あらヒサメ、おはよう」

カウンター席に座ると同時にレイラは使用済みの皿を洗いながらこちらに挨拶。うん、レイラは全然違和感が無くて安心する。

「ああ、おはよう……ほらミズキ、こういうのだぞ。『普段と全然違う存在がそこにいても決して動じない胆力』ってのはこうだぞ」

「頭いってぇ……え、その話題俺に関係ある?あ、俺ビーフサンド」

「俺パンと目玉焼き……そもそも目玉焼きって伝わる?」

「卵をそのまま鉄板に落として割らずに焼くやつでしょ?知ってるわよ」

レイラはカウンターと反対側の鉄板に卵を投げ入れ、それを放置してパンをナイフで四角くカットしていく。卵を投げる軌道が明らかにおかしかったが、それでもちゃんと黄身が割れずに鉄板に乗っているのは魔法か何かだろう。

「はい、ビーフサンド。目玉焼きはもうちょっと待ってなさい」

「来た来た、これよこれ。最近は朝にこれ食ってないと腹が持たねぇんだ」

ローストビーフのように見える生焼け肉を二枚のパンで挟んだ超スタミナメニューをミズキが食べている間、とある事が気になっていた。

……気になっていたというか、驚愕している、と言う言葉が近い。この世界で元のあの世界の常識が通じると思ってはいけないが、時々似ている部分がある。もしあの世界の常識がここでも通用するのだとすれば、それは―――。

既に驚きで口が塞がらない状態だが、外れないように顎を下から一度突き上げて質問する。

「あの、えっと……あー……レイラ……さん?」

「何よ、顔面固まってるわよ」

「……その、薬指のものは…………」

先程から料理をしている際にちょっとだけ見えていたもの。左手の薬指に見慣れない金色の金属光が見えた。そういう知識がないから詳しいことは分からないが、左手の薬指とは、もしかして、もしかしてそういう事だろうか?

「レイラさん…………俺が寝てた一年半の間に、結婚……」

「あ、これ?ただの装飾よ、気にしなくていいわ」

「……………………」

「おいヒサメ、顔が死んでるぞ」

「……こちとら顔だけじゃなくて全身が一年半死んでたんだがな」

装飾ってなんだ、装飾って何だ、装飾って何だ……?まあ、別に結婚してたらしてたでお祝いして終わりだろうが……なんだろう、自分のいない場所で劇的な変化が起こっているとアウェーな気分で堪らないのだ。

「装飾の意味もあるけど、正式な用途は護身用の魔法道具よ。魔法攻撃を受けた時に少しの間だけ魔法防御を展開するの。使い切りだけど性能は高いわよ」

「ほーん……え、装飾の意味もあるのか?」

「こんな場所でこんな仕事してたら変な男に絡まれたりもするのよ。旦那持ちって装っておけば大体寄ってこないから便利なの。そう言う話になったらルイラが叩きだすんだけどね。はい、目玉焼きとパン」

「ほいほい。へぇ~……接客は大変なんだなぁ……」

パンの間に目玉焼きを挟んで口に頬りこむ。口に含んだ瞬間に広がる塩のしょっぱさと君の組み合わせがパンによく合う。

個人的に目玉焼きには塩のみで食べる派、この世界に醤油などが存在するかは知らないが、それはそれとして久々に食べたい気もする。

「……なあ、ヒサメ」

「ん?」

既にビーフサンドを食べ切ったミズキがこちらに話を振ってくる。振り向いて表情を伺うと何かこちらを窺うような表情だ。

「……さっきの指輪の話、お前なんか反応しすぎじゃなかったか?」

「そうか?俺は『結婚してたら祝う時期逃しただろうなー』って」

「いや、今のお前のリアクションだと……狙ってたみたいな……」

言われて数秒脳内で思考、そしてミズキの言いたいことがなんとなく視線で伝わる。なるほど、殺気から微妙に冷たい目でこっちを見ているのはそういう訳か。

「えっ?いやいやいやいや、俺は別にわざわざ聞きたかったわけじゃないし、そもそもレイラはそんな感じの対象として見てるわけじゃないからな!?」

「あら、そうなの?ちょっと残念」

「「えっ!?!?」」

予想外の事態に話が転がってる最中にまさかの爆弾発言、さらには食堂の入り口でドアが勢いよく押し開けられる音と共にルイラが乱入する。

「お姉ちゃんのいやらしい話が聞こえました!」

「「えっ!?!?!?!?」」

「今更ながら元気な妹よね……」

朝からそんなことがあって既に王城に行く前からちょっと疲れ気味。今日一日で体力が足りるのか不安になってきた。

Q.ミズキはなぜ剣道じゃないのか

A.ミズキは決まった型を動かすのが嫌い、って話は散々してるので元ネタの話を。

高校の時の剣道部にいた友人に「ファンタジーで剣道ってどう?」と聞いたことがありました。その答えが「いや、めっちゃいい場面で足を前後にスッって動かして剣を真上から振ったらたらそれはそれで嫌じゃん」と言われました。確かにそうだな、と。

それ以来、私が書く日本刀を使うキャラは全部居合道です(正確に言えばミズキは『居合』をするだけで居合道ではない)。剣道よりも動きがパターン化しにくいから動きのバリエーションが多くて書きやすいんです。あとスピード感が出る(ここ重要)。

刀の抜き方や振り方、躱し方や急所の解説などは友人にその都度聞いてます。それとヒサメの名前アイデアを貰ったりと何かとお世話になってます、感謝。

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