#89 人生
「分からねえ」
「分からなさすぎるな」
「意味が分からないです」
「何言ってんのよ」
「気でも狂ってんのか?」
取りあえず各々に聞きたい内容とそれについて自分の知っている限りの事を述べた後に一言。
「どれもこれもこっちのセリフなんだよなァ!!!!!!」
カウンターのテーブル中央を両手でこれでもかと言うほどに拳で叩きつけて叫ぶ。いや、確かに答えられることなら答えるとは言った。
……行ったのだが、復活した理由もタイミングも俺からしてみれば結局分かっていない。ここまで過程を無視して結果だけ残された男はいないのではないだろうか。
「『なんで今更生き返った』だァ!?そもそも俺は死んでた感覚すらねぇんだよ!首にコード差し込んで目が覚めたら一年半後の見知らぬ世界で身体ギシギシの病人スタートだぞ!?」
「いや、それは俺に言われてもな……」
確かにミズキに逆ギレしたところで事実がどうにか変わるわけでもないし解決するわけでもない。でも、さすがにこの事態は俺はどこかに怒りをぶつけても良いのでは?
(でもコードを使ったのは俺なんだよな……画面が明らかにヤバそうな見た目してたから自己責任とも言えるが……いや、だったらせめてスマホを渡してくれた時に……いやそもそもスマホを渡された時には竜の能力までスマホに押し込まれてるなんて聞かされなかったし……)
「ヒサメは何してんの?」
「思うことが沢山あるんじゃないんですか」
「沢山あるよ……変な方向にな……」
まあ、要約すれば今はこうやって生きてるからオッケー、という事にもならなくはない。失った期間が大きすぎる気もするが、五感と脳が生きているだけでマシかもしれない。
「一番最初に復活した時は驚きましたよ、置物としか思ってなかった謎の遺体の目が開いたんですから」
飲み終わったビールのグラスを両手で担ぎながらカウンターの下に置くシャル。確か雑務担当はルイラで食堂担当がレイラだったはずだが……シャルはどっちもやるのか。働き者、というか通り越して働き過ぎな気がしないでもない。
「そういえば、数十時間の間でよく俺が生き返ってるってルイラにバレなかったな」
「アレは中庭の訓練用人形を持ってきて僕のローブを被せただけでしたけど……案外上手くいきましたね!」
「ローブ?……あのさ、さっき被ってた白いローブって魔術道具か何かか?誰なのかが全然気づけなかったんだが……」
「ああ、あれはシャルの持ち物でな―――」
本人曰く、あのローブは『イーベン・グハンジ』と呼ぶものらしく、着ている人物の個人情報を判明させなくなるもの。正式な魔術の原理があるらしいが言葉で説明されても理解が及ばなかったので「そういうもの」として考えよう。
個人情報が特定できなくなるだけで存在自体は隠せないので身分偽装に使ったりするのが普通、とシャルは言っていた。……日常生活で身分偽装をする機会なんてあまりないと思うのだが、異世界を先入観で物語るのはダメ、ゼッタイ。
「まあ、何はともあれこのドッキリ作戦は―――」
「俺達の大勝利ッ!揃いに揃ってどいつもこいつも顎外れそうなほどに口開いていて面白かったな!」
配膳用のお盆を叩きながら笑うシャルに合わせるようにカウンターを手のひらで大げさに叩いて大笑い。そもそも途中で気づかれてもドッキリとしては成り立つ内容だったのもあり、まさか最後まで成功するとは思っていなかったのだ。
「……ん?ヒサメはずっと寝てたんだろ?じゃあ俺の居合に拳で対応できたのはなんでなんだ?お前そんな動体視力良かったようには思えないんだが……」
「あ、それは……」
席の後ろで事実を話そうとするシャルにだけ見えるように隠して人差し指を立てておく。こういうのにはルールがある、王道バトルマンガにもある簡単なことだ。
「努力は見せびらかしてはならない」。見せびらかしてしまえば主人公としての品格が保てなくなる。まあ、俺には保つような品格も主人公の証も無いんだが―――様式美ってやつだ。
それに、普段から努力を毛嫌いしているような奴が修行して急に強くなった、なんて他の人に言ったとしても誰も信じてはくれないだろう?
「さあ、なんでだろうな。ミズキも一年半あったのに全然強くなったように思えなかったが何をしてたんだか」
「俺はきちんと規則正しい生活のリズムで特訓してたぞ!?」
「そうだな、これからは頭の特訓もしなきゃな」
「…………俺、勉強は苦手なんだが」
「ちげーよ、お前が俺に頭突きで負けるの二回目なのに何も思わねぇのかよ」
挑発された犬の如く吠えるミズキの額を左手で抑えながら久々に飲むエナジードリンクを喉で味わう。やはり俺には紅茶とかの高級な奴じゃなくて、こういう若干ヤバそうな飲み物の方が性に合っているのかもしれない。
「ふん、ヒサメに二回負けてても俺は勝ってる部分あるし!」
「身長も勝負も負けてるのに勝てる部分なんかあるのか?」
「年齢」
拗ねたミズキの口から放たれるその二文字は、何か核心を突いているようで全然届いて無くて、数秒間意味を考えてしまった。年齢なんてそんな差が付くものではないのでは―――。
「………………ん?????」
「あ、気づいたわね」
「気づいちゃいましたか……」
ミズキだけに留まらず、ルイラとレイラもなぜかニヤニヤしている。左右と正面を謎の笑顔で囲まれていて不穏な圧力を感じるのだが。疑問を抱きつつ、それを判明させるべく尋ねる。
「…………俺の身体って、死んでたってことは、成長してないから……」
「……まあ、そうなるわね」
「俺だけ、年齢が止まったまま……?」
身体が動いていないという事は人間としての活動が維持できていない。つまり身体の成長が無いまま身体が放置された。言うなれば俺の身体だけが時間停止していたようなものだ。
「だから俺がヒサメより一つ年上、もうちょっとで二つ年上になるな」
「私は少し前に年を迎えたから三つ年上よ。ルイラもそろそろ」
「私もヒっくんと同い年……どころか私の方が早く年上になっちゃうのでは……」
意味が分からない。いや、分かるのだが分かっていない。脳内の情報が完結を拒否している。状況が理解しきれていない頭をどうにか回している最中にミズキが止めの一言を放つ。
「ヒサメ、この中だと多分お前が最年少になったんだぞ」
「嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!!?????」
目を覚ませば見知った世界から少し未来、少年は既に死んでしまったことにされ、大戦の功績と名前だけが独り歩きしていた。一年半のスリープモードを経て、少年の新しい人生が再起動する。
Q.今回は何がメインのお話?
A.ヒサメ視点だと「竜のお話」。角の詳しい話と魔法が多分あります。
ミズキ視点だと「魔法のお話」。ミズキの脇差とカリンについてのサブパートがあります。
あとはいろいろ死んだり隕石降ってきたり腸が裂けたり空を飛んだりするかもしれませんが、まあいつも通り大体ギャグだからどうにかなるでしょ。そんな気分で書いてます。
カフェインで命尽きるまで気合で書き続けるので、まあなんだその、よろしくお願いします!
FGOアーケードやりに行こうとしたんですけど、順番待ちボードに10人くらい名前あったのでしょんぼりしながら帰ってきました。イシュタルどこ……?




