#85 特訓(3)
―――45時間経過。
相変わらず掴んでは投げ掴んでは投げ、突撃するたびに一撃ごとに的確な位置に重心を崩される。今回は特にひどく、一瞬気絶させられたまま壁に投げられ、壁にぶつかった勢いで意識が戻った。チカチカする視界で天井を眺めながら一言。
「……ど、どうすりゃいいんだ……」
「ちょっと体幹が足りてないかもね、普段の筋トレが不足してた?」
「まあそれもそうですけど、起き上がれなくなるほど衰弱してたら当たり前ですね……」
「それでも十分に動けるようにはなってきたね、死ぬ直前より動けてると思うよ?」
確かにそうですね、と空中に両腕を突きだして手を握ったり放したりしながら言葉を返す。
この特訓、数時間に一回『普通の筋トレ』があるのだが、現役高校生だった頃は一桁すら安定しなかった腕立て伏せが三十回くらいは安定してできるようになった。亜人種の補正もあるのだろうが、それでも個人的には劇的な変化。
「さあ次やるよ!起き上がってレッツ竜化!」
「へーい了解でー…………す?」
既に節々が悲鳴を上げている気もするが竜化すればあまり関係の無い話だな、と考えながらスマホを左手で手に取ったその時、ホーム画面にほんの少しだけ違和感を感じた。
「……何だ、このアプリ」
竜化は「設定」から「OSのアップグレード」で行う。のだが……何か、アプリを押す時にホーム画面が右にスライドしかけた気がする。アプリは全てホーム画面に収めているのにだ。
スライドすると横のタブに用意されていたのは「ヘルスケア」ただ一つ。一体いつの間に増えていたのだろうか?
「なになに、どうかした?」
「あー、なんか変な機能が増えてて…………いや、待て」
どうせ使わないだろうと長押しし、つまみながら移動させようとして何かに気が付く。
(ネットに繋がっていないしアプリストアも開けないのに何で増えてるんだ?しかもスマホ本体に最初から入ってそうな普通のアプリが……)
一体何か変わったことがあっただろうか、このスマホにおけるアプリが指すものは俺自身の「魔法」の事。つまり使える魔法が増えた?いや、それならばヘルスケアがむしろ今まで使えなかったのが不思議だ、体調管理ぐらい自分で出来る。
「アプリが増えるとすればー……ダウンロードしたか、OSを上げたか……」
ぶつぶつつぶやきながら何があったかと考える際中、自分で既に答えを見つけている感覚が脳裏に飛来。少し前に口から放った言葉を全力で巻き戻して考える。
「……『OSを上げた』?このスマホのOSは使ったら暴走して、でも……」
開いた口が塞がらない。まさか、まさかなのだが。アプリが増えたという事は、『アップデートに成功した』という事なのでは?
すぐさま設定アプリを開き、ソフトウェアアップデートの項目を確認。そこには―――。
「…………『Ver 2.0β:現在のOSは最新です』……マジかよ……」
「なんかヤバそうなことでもあった?」
「多分ですけど……俺、竜化できなくなった気が……」
「えっ」
いや、確かに信じがたいが、そんな気がしないでもない。だって、今までは「OSアップグレード」を実行して『拒絶反応で竜化』していた。だが、どういう訳かいつのまにかバージョンアップしてしまっている。
「この直前の俺、なんか変な事でもしてました?最後に竜化してた時なんですけど」
「んー…………あっ、なんか急に竜化が解除されたよ?そのせいで思いっきし生身を蹴っちゃったけど」
「痣になったらどうするんですか……まあ、顔じゃなかっただけいいんですけど」
左腕が妙にじんじんするのはそれか、と理解しつつも頭の中は疑問だらけだ。急に竜化が解除、つまりその瞬間にアップグレードが成功して、そしてルリアさんのせいで壁に飛ばされて意識が戻ったという経緯だろう。
「……どうしましょうか」
「まずはその増えたやつを試してみたら?何か分かるかもしれないよ?」
確かにその話には納得するのだが、なんか、こう、ヘルスケアにそんな大層な機能がある気が全くしないのは俺だけだろうか?何故かと聞かれても、そりゃあヘルスケアだから。
(いや、でも写真がめちゃくちゃ強い前例もあるし、ただのアプリだと思って開くのは間違いかもしれないな……)
少々抵抗感がありながらもアプリをタップして、タイトル画面が表示された数秒後に画面に張り出されたのは「ネットワークに接続していません」の一文。
「まあそりゃそうだよな、問題は魔力を入れた時だよな」
ここまでは分かり切っていた。一度深呼吸をして、そして右手で指先からスマホに向かって、じんわりと手のひらを流れる魔力を流し込む。
「…………何でしょうね、これ」
「……何だろうね?」
表示されたのは人間の身体の図と画面下部に謎のゲージバー、四肢と頭と胴体がパーツ分けされて配置されている。背景は白く、文字もBGMも無くてなんか不気味。何がとはうまく言えないが、どこからか湧き出る恐怖が身の毛を垂直に立てさせる。
「人の身体、ですよね……マネキン?」
「パーツがあるのは手足と頭、あと胴体だね。……これって私が弄っても大丈夫なの?」
ふと、ルリアが何かが面白くなったのか興味津々に尋ねながらスマホを持ち上げる。俺が死んだときにスマホが気になって眺めてたら落として壊してしまったとも聞くし、新しい物とか好きそうだから気になっているのだろう。
「一応大丈夫ですけど……その端末って俺自身だから丁寧に―――」
「えいっ」
ルリアが画面の何かをタップしたらしく、スマホからキュイン、と謎のシステム音が鳴る。その瞬間―――。
「えっ!?でぇああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぃぃぃぃいいいいいい!?!?!?」
床に寝そべっていた状態の右腕が何も力を入れていないのにいきなり肘の関節が上に持ち上がり、人体からしてはいけなさそうな破砕音と構成音を撒き散らしながら右腕が回転する。すさまじい音と角から溢れてくる黒い塵が右腕に巻きついていく感覚、そして感じない痛み。
「一体何がどうなってぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ……あ、止まった……」
回転しながら何かを生み出し続けるような右腕の動きが治まり、指や腕の感覚が元通りに戻る。痛みも無い、ただ―――。
「…………なんですか、この腕」
右肩の関節からは、まるで丸太のような太さの腕のような何かが生えていた。
「竜化してた時の腕だね……えっ、腕だけ?」
「腕だけですね、しかも左腕はそのまま」
右腕は腕の直径だけで胴体よりも太いくらいに巨大化し、それに合わせて手のひらや指も元の二倍は少なくともありそうなほどに大きくなった。しかも、それらすべてが毒々しい紫色。若干黒っぽいのがまた気色悪い。
「うーん、これってもしかして押した部分が竜化するんじゃない?今の状態だと画面は右腕だけ黒いよ?」
画面を見せてもらうと、確かに画面に映るマネキンは右腕だけ塗りつぶしたように黒く色分けされている。何故細分化する必要があったのかは分からないが……アップデート内容は明確だ。
「つまり、俺は暴走無しで竜化が使えるようになったって事ですかね?」
「そういう事だと思うよ、でも……全身は使うとまた暴走するかもね、メーターが無理そう」
「メーター?……あ、下にあった白いゲージですか」
「それそれ、なんか右腕押した時点で四割くらい黒くなっちゃったんだよね。これって使いすぎたら危ないんじゃない?」
画面を見せてもらうと、下部にあるゲージバーは確かに少し黒くなっている。見た目的には黒い液体が貯まっている感じ。
「スマホ内臓のジャイロが効いてるのか知らないけど、傾けたら中の液体が揺れるのか……なんか妙に作りこんであるなー……」
「まあ使ってみないと分からなさそうだね!やってみよっか!」
「……そうしましょうか」
百聞は一見にしかず、聞ける相手もいないし開発した人間がいるわけでもないんだからどうせ使って理解するしかない。巨大化した右腕で身体を床から突き上げて、スマホを左手に持って構える。
ヒサメの完全復活、あと15時間―――。
Q.ヒサメの竜化のイメージ
A.ゴ〇・マガラ。黒っぽい紫のオーラとかそういうの意識してます。でも動き方的にはメガリ〇ードンXですね、足して2で割った感じ。
竜化に「ドラゴナイズ」という読み方をしてるのは、分役サイトに直訳を入れたら「
Dragonization」と出たのでいろいろ弄ってこんな感じ。これからこの用語を使うかどうかは謎ですが、そういう技名みたいなのがあると楽しいなあって考えた結果の採用です。
スイッチの新作スマブラやりてぇ!私が最後にやったスマブラはWiiのやつですけどね!!!
WiiUのやつはDLCが強すぎるって友人が言ってたので中古屋に走ろうとしてたけど引き返して新品のPS4を買った思い出があります。




