#77 乱入
「……まあ、そんなことがあったわけだな」
「姫様、まずはコウキに謝ったらどうですか、その無茶振り任務俺だったら絶対達成できませんよ」
「上に立つ者、謝罪はせぬ」
「反省はしてください」
なんでこの人は他人をここまで巻き込んでおいて笑えるんだ、そして当の本人もなんで笑えるんだ。
「で、その話を伝えに帰ってみたら姫様は消え、なぜか警邏は全滅。一体何がどうなってんのか全然分かんないから数日ずっと原因を探してたら今日だ」
「二人揃って別の国にいたとか笑えないな……」
「妾が知りたいのは今の国の状況なのじゃが……わかるか?」
コウキが知っていたのは「『鈴林』はトップがいなくなったせいで独立団体としての力はとっくに弱まっている」ことと「政治の権力は今は西の武道場にある」ことだった。
「……武道場……よりにもよって西……」
「ミズキはあまり行きとうない場所じゃろうな、神薙流の当主とミズキは最高に馬が合わなかったはず」
カガミマチの剣術には大きく分けて二種類の流派が存在する。
東に武道場を構える、刀を振って相手を抑え込んでこその剣術を主流とするのが東の「落葉流」、西に武道場を構える、足捌きや体の動かし方を生かして鋭い一撃で勝負を決めるのが西の「神薙流」。ミズキが習っていたのは西。
「……まあ、大嫌いなジジイではあります」
「いやいや、顔が急にありえない曇り方したぞ」
あのジジイには随分と痛い思いをさせられた、物理的にも精神的にも。
そのせいで残った痣が全身にあるし、何より普通に強いのがまた腹立つ。
口だけの能弁を垂れるジジイなら顎を切り落とせば解決するが、腕が立つジジイはそうはいかないのが癪。
「頭が固いし硬いし堅いしでどうしようもないんだよあのジジイ……」
「いや、今の話を聞くだけでは頭が固いことしか分からなかったのじゃが」
「まあ、攻めるなら今だとは思いますよ。俺の眼もそう見えてるし」
そう言えば実際に見せたことなかったですね、と言いながらコウキは両目をゆっくりと閉じ、そのまま鼻から息を吸って、呼吸の同じリズムで両目をゴムで引っ張るように開く。
その瞬間コウキの眼は普段の目に赤っぽいハイライトがかかり、少しした後に溜め息をついた後に目を閉じる。
「やっぱり視界が揺れるのは西側ですね。当主の爺さんは武道場にいると思いますよ」
「それよりもお主、魔法道具とはいえその能力はなんか……」
「……カッコいいっすね、アレ……目が赤くなるんだ……」
「いやいや、俺も外し方分かってないから呪いの眼鏡とかと同じ類だぞ、これ」
普段から視界がブレないだけ親切には出来てるけど、とコウキは笑いながらミズキが剥ける興味の視線を振り払った。
「それより。なぜか知らないけど今の政治の中心が武道場にあるのは確かです。突撃してみる価値はあるんじゃないでしょうか?」
「ほれミズキ、お主はどうじゃ?国を出たんじゃからどうでもいい、『私怨で』考えてみればよい」
確かに、会いたくはない。嫌な記憶だって散々にある。だけれども―――。
「……丁度いいや、俺の一年間をぶつけてやりますよ。国を抜け出してただ愚迂多良していたわけじゃないですからね」
そう、今まで散々にやられていたような自分ではない。外に出て魔法を学び、人に教えを乞い、そして自信と武器を貰った。
それだけの事、それだけだが、竹刀で叩かれて痣を残すような今までの俺とは違う。それを見せつけてやる、
「ならば決まりじゃな。コウキ、武道場前の見張りを頼むぞ。五月蠅いならば斬っても構わん」
「えっ俺も行くんですか!?ってか斬ってもいいって……この国にいられなくなりますよ!?」
「構わぬ、この国に留まる気も理由も無い。それは妾もそうであるし、お主だってここを追い出された程度で自害するような輩では無かろう?」
カリンはコウキの方を振り向いてニヤリと笑う。本人の言っていることはともかく、コウキ自身の思惑をすべて見抜いたうえでの発言の様な薄ら笑い。
「……まあ、それもそうですね。俺が帰ってきたら同胞はみんな死んでるし、今更ここにいる理由もありませんね」
「そもそもお主、人斬りに躊躇する性格では無かろう。今回の二年で何人殺めておる?」
「話が通じない奴とかも含むから……三桁はありそうですね。殺したらマズそうな奴は生き返らせましたけどそれ以外は首か芯を一突きですねー」
ハッキリ言って返り血が面倒だから居合で辻斬りが一番楽ですよ、とコウキはケラケラ笑いながらぼやく。一般的な自慢とは違う、ネジがどこか飛んでいるタイプの人間特有の変に透き通った笑い声。
(コウキってあんなにヤバい人でしたっけ……?)
(うーむ、妾の下にいた頃は普通じゃったが……あやつは先祖に殺人鬼がいくつもおるからの、遺伝かもしれん)
(いや、あの狂気を含んだ笑い方は完全に笑うしゃれこうべって感じしますよ)
「行かないんですか?」
急に笑いが止まるなり前を向いていつも通りの話し方に戻るコウキ。ミズキは「狂気とは時折垣間見えるからこそ狂気なのだな」と実感した。
カガミマチは殆どの建築を木造に頼っている。伝統の文化を保つ意味もあるのだろうが、多くの場合はいつ消えても問題の無いように、ということらしい。
国の領土が少ないのが原因であり、そのために様々な場所に様々な建物が建っては消えを繰り返して百年経てば店の配置は殆ど変ってしまうほど。
その中でも、木造でありながら「消えないように建て直しをされている」建物がある。
それがカリンが経営していた風俗店「鈴林」と、東西にあるそれぞれの流派の武道場。
実はこの武道場、街の人の噂話として「どちらの流派も建て直しを幾度とされても常に壁に傷がある」と言われている。
街の人は修行の厳しさを見せつけるためにその部分だけそのままにしていると解釈しているらしいが、本当はいくら壁を張りかえてもすぐに傷が付くのだとか。
そんな武道場は休みも無く慈悲も無い。……はずなのだが、西の武道場「荒神道場」はなぜか静まり返っていた。
「遅い……いくらなんでも遅すぎる!あやつら一体どこで何をしておる!!!」
荒神道場の道場主、荒神歳三は怒りが頂点どころではない程にイライラしていた。……少したりとも微動だにせずに正座の状態で。
門下生たちを道場の裏にある広場で素振りの練習に行かせてからなかなか帰ってこない。まさかとは思うが、全員揃って逃げ出したとか?
「私が見に行かねばならぬとは、これで真面目に取り組んでいなければどうしてくれよう……む?」
無い髪が怒髪天を衝くほどに怒りが込み上げてきて、ゆっくりと立ち上がって入口の方に視線を向ける―――。
「……よう、久しぶりだな、クソジジイ」
そこには、刀を支えにして入口の壁にもたれかかるように経っているミズキがいた。
「…………クソガキに言われたくはない。腰をついて逃げ出した奴が今更何をしに来た」
「よく言ってくれるぜ、姫様がいなくなってから数時間で情報統制が敷かれて、俺に極秘任務って名目で国を追い出した奴が何を言う」
「口煩い売女を外に流しただけだ。それに、剣の道すら諦めた奴がこの荒神に少しの間でもいたことが恥で仕方がなかったものでな」
「そりゃあ失礼、咳をしただけで木刀で殴られる理不尽な場所は俺には合わなかったのさ」
お互いに久しぶりに会った事の驚きと、そして予期していたであろう罵倒の押し付け合い。
(……おかしい、なぜこいつがここにいる?そろそろ門下生の一人にでも遭遇してもいいはず……)
「門下生ならたぶん来ないぜ?」
ミズキは苦笑いで言葉を発する。まるで、全てわかり切っているような、そういう表情と言葉。
「お前が人殺しか、どうやら道場の癌が正式に消しされそうで安心だ」
「残念ながら俺じゃないけどな。ジジイは知らないだろ、東の道場の『素材を消された一番弟子』の話。生憎知り合いなもんで」
「それは驚いた、家族も友人もいないようなお前に知り合いがいたとは」
二人揃って一気に笑いが込み上げる。その場に立っていることを嗤う、少なからずとも純粋な笑いではない何か。殺気を含んだ意志の解放に近い。
笑いが収まると共に、両者同時にゆっくりと鞘から刀を抜く。差し込む光でお互いの刀は鮮やかな銀色に輝いていた。
―――そしてこの銀色を、アイツの血で紅く染めてやる。
「ハーァ…………今は世を歩く無秩の旅、鈴林店主華林が主、瑞己、―――参る」
「荒神の名に錆びる刀は無し、主が我で在るが故の情け。荒神歳三、参る」
両者同時に左足を前に出して右足で地面を蹴り、相手の剣先を見据えながら刀を振り抜く。
え、これ次回から真面目な戦闘?キッツい……。
そういえばさりげなくミズキの漢字表記出ましたね。カガミマチの人は全員に漢字で名字と名前があります。読める人がほぼいなくなったのでただの記号と思われてるみたいですが……。
もはや世界観の話になりますが、カガミマチにおいて捨て子は名字を名乗ることが出来ません。国を正式に出るか親との縁を取り戻したら名乗ることが出来るようになります。
でもミズキが名字を名乗らないのは国を出てないとかそれ以前に本人が知らないだけです。ついでに名前はカリンが命名したもの。
拾ってくれた恩人に対する敬意が少ないと思われそうですが、むしろ高校~大学くらいの男子だからこれぐらい素直じゃない感じでいいんじゃない?(適当)
Q.Ver 2は?
A.これ書きながら同時に考えてます。ついでにオクト・エキスパンションもやってます。エイトボール許さねぇ。




