#76 遭遇
この風俗店「鈴林」は昔は小規模な風俗店だった。ただ国の最奥に位置していただけの店。
ただ、そこで女郎をしている女が大層別嬪だと話題になり、瞬く間に規模は広がった。
だがカガミマチは壁に囲まれている国、店のスペースを左右に展開することが出来なかったのだ。
そこで出た考えが「上に伸ばす」という計画。徐々に階層が増え、そして周辺の女郎屋を吸収しながらどんどん巨大化していった。
最終的に壁を越えてしまうほどの十七階建て超巨大階層式風俗店が完成してしまったわけである。
「姫様が一番上にいたのは一番金額が高かったからだな、下から上がるにつれて値段が上がるんだっけ」
「随分とな。今にして思えばなぜこんな営利方式にしたのか自分でも問いただしたくなる……」
本人が分からないんだったらこりゃあ誰に聞いても分からないな、と苦笑いをしながらミズキとヒサメは階段を上る。一気に回想を移動してくれるリフトのようなものがあれば便利なんだろうなと思いつつも、この国は何かと最新技術を嫌い風潮にあるので諦めたほうが良さそうだ。
「……何やら店の中から視線がするな、どの階層でも」
「いや、さすがにガキ二人が階段登ってたら気になるってもんですよ」
先ほども言った通り、ここは風俗。この国の法律上未成年でも利用できなくはないが金額的には不可能に近い。ましてや階段を上がれば桁が変わるほどの高級な店であれば尚更。
ここを作った人がこんなに興味津々に見渡して何がしたいんだとミズキは思いつつも足を進め、最上階の十七回に辿り着いた。
「ここは……営業前か?」
「いや……壁は修復されてるけど細かい所は片付いてない……当の本人が同時に消えたから帰ってくるまで一時放置って形にしたんだろ」
「まったく、本人が居なくてもいつでも帰って来れるように掃除くらいしろっての」
「帰って来てみてどうですか?」
「大変不愉快だな」
皮肉を込めた笑い声を撒き散らしながら周辺の操作を始める。瓦礫などは片付いてはいるが化粧台などは倒れたまま。中に入っている物も変化は無さそうだ。
細かい捜索は部屋の暗さの関係で出来そうにないが、うっかりふんで転びそうなくらいには小物が転がっている。足の踏み場を探した方がまだ楽だ。
「……理解できないな、なぜ壁だけ直した?」
「見栄えの問題とか……」
ここの風俗店、少し前にどっかの不法入国犯三名によって壁が破壊されている。転がっている化粧台などはその時の騒動からずっとあるモノだろう。しかしなぜ外面だけ?
「あー、それは俺の指示だな。変に装飾品弄ったら怒られるの確定だろうし」
今まで聞いていなかった声の高さが階段の方向からした。言い終わる前にミズキはしゃがんでいた体勢から左足を軸にして体を回し、振り向いて刀を向ける。
「うおっ、いきなり刀を向けるな!ここの部屋小物多くてすぐ転ぶんだぞ!?」
薄暗い部屋で驚くようなリアクションがした後に部屋の明りが付く。そこにいたのは、ミズキもカリンも随分見知った人物だった。
「え?……あっ、えっ!?」
「随分久々に会うたな、コウキ」
ミズキよりも少しばかり身長が高い銀髪のロン毛、そして身の丈に全く合わないかなり短めの小刀を腰に付けた男。名前は紅旗、少し前までミズキと同じく警邏に勤めていた人物である。
「おうミズキ久しぶり、元気にしてたか?剣の腕が上がったんなら兄ちゃんとしても嬉しいぞー」
「うおおおお頭を撫でるな!そもそも血は繋がってないだろうが!」
「血が繋がって無くても兄弟は兄弟だろうが、ところであの少年誰だよ、友達?」
「主に指をさすとは中々無礼な奴じゃのう」
先程までヒサメの容姿を被っていたカリンはいつの間にかいつもの見た目に戻っていてニヤニヤしながら腕を組んでこちらを見ていた。
「うおおおおカリン様なんで!?というかさっきの少年いないし!なに俺幻術にでも当てられてんの!?」
「この騒がしさがもはや懐かしいなぁ……」
取りあえず客人用に用意されていたお茶と座布団を敷いて話し合い。
コウキは今まで二人が今までいなかった理由とこの現状について聞いてみた、そして一言。
「意味が分からねえ」
「でしょうね」
「だろうな」
「そもそもなんでカリン様は逃げ出したんだ?襲撃犯はいいとしてそのキモいオッサンが生理的に無理だったとかそういうアレ?」
「それも無い訳ではないが……んー……」
「そもそもミズキは何で国を出たんだ?」
「いや、姫様を探しに行けって……」
「その指令出したの警邏の元締め役だろ?それってそのキモいオッサンじゃん」
「「標的は定まった」」
「待て待て落ち着いてってば」
すぐさま臨戦態勢に移ろうとしていた二人をコウキは引き留めようとする。二人とも変わらねえなあと頭を掻きつつ苦笑い。
「……今更だけどなんでコウキは警邏から外れて国外にいたんだ?」
「それはその姫様の無茶振りが原因だな。本人から聞け」
「それはだな……」
~~~
カガミマチが侵入される一年ほど前、コウキは「任務がある」と伝えられてカリンに呼び出しを受けていた。その内容は―――。
「……以上じゃ。つまりお主は他国の調査をして来い」
「はい?」
風俗店「鈴林」は政府関係者も集う超高級店。金も権力も持っている客が蟻の如く集まる。
そしてここの店主はカリン。カリンは客から金を搾り取ることを考えに考えた結果、最適なのは「弱みを握り続ける事」だと理解してしまったのだ。
国のトップより高度な情報を所持していれば要人たちはこの店を利用するほかなくなる。今まで来ていた客はさらに来るようになり、今まで来ていなかった客も来るようになる。
その為にはこの風俗店だけの情報で、なおかつ政府要人でも知らないような超重要事項を蓄え続ける。つまり国外調査、という発想に至ったのだ。
「発想がどう考えても風俗じゃなかったのは置いてていいんですね?」
「ここの風俗は国のどことも組んでおらん、よくて警備系統じゃ。この店自体が情報屋となれば利用客は段違いに増えることになるであろう」
「そこで警邏で年齢が一番上の俺を遠征任務と。まあ命令とあれば行きますけどね」
この指揮系統はもはや軍と同じだ。上から押し付ける事だけに特化しすぎた指揮系統、上がやれと仰れば下はやむなく「はい」と答えなければならない。
「お主は警邏を退職扱いにしておく。遠征には記録用紙と物資交換用の金銀系統、それとこっそり回ってきた新武器の試作品を渡そう。今までの太刀では使いにくかろう」
「まあ、刃毀れなんてザラに起こってますからね。新しいものが貰えるのはありがたいです」
警邏の中で人一倍サボリ癖があるコウキは太刀の手入れなどは滅多にせず、そのために支給されていた太刀は既に刃が殆ど欠けてしまっていて、もはや形状はのこぎりに近かった。
「これが武器じゃ。それと記録用紙に……そうだ、お主についでに一つ、追加で任務を与えよう」
「ああはいはい、なんなりとどうぞ」
これは絶対面倒臭そうなお願い事だろうな、とコウキは嫌な顔をしながら新武器と称された小刀を手に取っていた。
「妾の為にいくつか小話を持って帰れ。以上じゃ」
「……こりゃまた、任務より圧倒的に厄介ですね」
そうして、コウキの二年以上に及ぶ遠征任務が始まった。
一番最初に向かったアズドラークでは政治体制や町の構造を学び、武器の性能も確認した。
(カリン様に渡されたこの小刀……魔法ってやつが使えるのか?小さいのに不思議だなー……)
「へいそこのねーちゃん、魔法の使い方について教えてくれ」
「あ、私?うーん……ごめんね、私は魔法全然使えなくて……すごい上手い知り合いならいるからそっちを紹介するけどどう?」
「それでも全然かまわないよ。というか使えない人がいるのか?」
「私は魔力が全然なくって……」
(カリン様の説明書きだと魔力ってものは人間なら誰でも少しはあるらしいが……これは新パターンか?記しておくか)
「こうやって、フォークを持って……先端に力を入れるように、こうっ!」
「こうか!?せいっ!」
紹介してもらった人に魔法の使い方を聞くために、酒場のような場所で酒とつまみを片手にフォークを持って魔法の練習をした。
目を閉じて体の中に流れる血のような何かを手に一点集中させるとフォークの先端から火花が散る。これがなかなか面白い。
「なかなか今のは上手く行ったんじゃないか!?先端四本全部光ったぞ!」
「なかなか覚えるのが早いわね……普通は数日かけて馴染ませる技能なのよ?」
「中々いい筋してるなぁ……ウチのギルドどう?」
「うーん……今は主の任務で旅をしているからなぁ……任務が終わって一段落したらまた来てみるさ、そうしたらまた考えるよ」
オルマトスに行って(現地の人に随分拒まれたが)鍛冶技術を学び、実際に炭鉱で石を掘り、未知の武器に遭遇した。
「何だこの金属は……見た目は他の石と変わらないのにコイツだけ重い!?」
「おう、兄ちゃんやるじゃねーか、タングステンはこの辺りだと結構貴重だぞ」
「この硬くて重い石をどう使うんだ!?」
「これを掘る道具にしてさらに掘りやすくするのさ。それなら掘る速度も上がるし、さらに堅い物が出てきても掘れるだろ?」
(なるほど、掘ること自体の効率を上げるのか……この掘る道具、ピッケル?これも不思議だ、ここまで岩を掘り進むのにいいものがあったとは……カガミマチ周辺は岩盤ばっかりだから大変だったんだよなぁ……)
「やべぇぞハークの旦那ァ!ニビルがマグマ溜まり当てちまった!」
「何ィ!?逃げるぞ新人、液体の岩で焼かれて死にたくなかったら走れ!」
「何だ!?何なんだよ一体!?」
そしてウェルギスに行って未知の魔力や魔法に出会った。
「今日はすごい魔法を使う少年に会ったな~……魔法をあんな足し算感覚で使える魔導書があったとは……」
寝泊りするのも面倒すぎて、どこの国の領土にも属さない芝生にて荷物を枕にして空を見上げながら寝転んでいた。
この頃は旅を始めてからちょうど一年、炭鉱夫をしていた時に貰った金属の山をずっと持ち歩くのは苦行だったのでオルマトスとカガミマチの間くらいの位置に穴を掘って倉庫を作って資材を溜め込んでいた。遠征から帰った時に貴重な金属として売れないかな、という若干下衆な発想も含んで。
「でも、あんな少年が居てもあの国は滅ぶのか……大変だな」
その貴重な鉱石をいくつか持ち歩いて鍛冶屋に行っては「何か面白そうなものが作れないか」と聞いて回っていた。その時に出来た逸品、滅亡を捉える眼、「滅眼」。
オルマトスで「目に付与できる魔力道具が出来ないか」と聞いて回っていた時に偶然生み出されたコンタクトレンズ。付けてみたらあら不思議、その眼で見た物が滅びそうだった場合は視界がブレるというもの。
使い道が限られるけど面白いなとは思っていたが、コンタクトレンズの外し方が良く分からないので結局そのまま。実際、ウェルギスにいる間は右を開いているとずっと視界が歪んでいた。
「別に俺は『右目が疼く……』とかやりたいわけじゃないんだよ……姫様への小話になるから別にいいけど。やっぱ次に行くならあの水平線の先かな……金属はここに置いておくか」
そしてこの後、コウキはウェルギスから出てる船に乗って海を渡り、途中で船が沈没して流され、流された先の大陸でも旅をしていて帰ってきたら丸一年、という事だった。
余談だが、コウキが密かに蓄えていたタングステンはとある火器の弾丸となって活躍することになる。それはもう少し先のお話。
Ver 1.7でウェルギスにいた人はこの人。それ以外にもいろんな場所でいろんな人に会ってるけどその縁の繋がり実際に分かるのはまだ先。
この人に深い設定は無いけどあるとしたら幼少期からミズキの知り合いって事だけ。年が六歳も離れてるし血も繋がってないので兄弟と呼べるかは怪しいけど兄弟らしいです。
Q.結局ミズキに魔法技はあるの?
A.めちゃくちゃカッコいいやつ(個人差あり)があります。少なくともヒサメよりかはちゃんとファンタジー小説してるような技があるのでお楽しみに。




