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雑竜種《デミドラゴン》とスマートフォン  作者: 皇 咲麻
Ver 1.8 終わりと始まりと雑竜種《アサカヒサメ》
77/126

#73 一年

大戦から約四か月、スマホ内時計換算でちょうど一年。ルイラの脇腹の傷の痣すら消えかかっていた頃。

「……へ?新人ですか?」

「まあ、新人・・・どちらかと言えばお手伝いね。まともな戦力は期待できそうにないけど」

ルリアが連れてきたのは金髪の少し痩せ細った少年。孤児らしさが一目でわかる。

「……さてはルリアさん、勝手に拾ってきましたね……」

「いや、その辺にいたからつい……」

よくこんなふわふわした言動で団長が務まっているなと思いつつも心にしまう。

自分自身も同じような状態でここに連れ込まれたから文句を言おうとしても言えない。溜め息だけ吐いて事情を飲み込もう。

「まあいいですけど……名前は?」

「……シャムシール……です」

「名字が無いの?それはまたー……特殊」

「ルイラも無いじゃん?」

「ちゃんとありますよ!名乗るのが面倒なだけで!」

「ルイラにお願いしたいのはとりあえず施設の案内と一通りの仕事の説明。よろしくね!」


「ここが寝室です。二階はどこも寝室になってますよ。これを全部掃除します」

「全部って……布団とか?」

「床の掃除とか洗濯とか。多い日には一日かけても終わりませんよ。日によって任務でいる人といない人がいるからそれを確認してから掃除します」

「うわぁ……」

年端も行かぬ少年からうわぁ、という心から漏れ出る感嘆符を聞くのは心にダメージが入るが慣れてもらうしかない。

「ここの部屋はカリンさんとミズキさんがいる部屋です。基本的に危ない人たちだから部屋に長居してはいけませんよ」

「部屋の前で堂々と悪口を言うのは不謹慎だとは思わぬのか……?」

「あ、カリンさん。別にいいかなって」

「その根拠は一体どこから出てくるのじゃ……」

一つずつ部屋を解説し、全ての部屋に入る時にする一通りのマナーを教える。

「ええと……ルイラ、さん?あの部屋は?」

シャムシールが指をさしたのは南側の通路の角の部屋。

「ああ、あの部屋?あれは―――」

多少説明するのに戸惑い、それでも部屋の掃除はしなければいけないと思って部屋の鍵を開ける。

「ここの部屋は……床の掃除と窓際の花瓶の入れ替えだけで十分です。何かあっても布団や壁にあるものには触れないように」

「え?でも……寝てる人が……」

「いいの、あの人は滅多に起きない人だから。それじゃあルリアさんのとこに戻りますよー」


さらにさらに時が経ち、大戦から五か月後。既にスマホ内時間では一年をとうに過ぎていた。

「……できた……最後の一枚、破ったぞ!」

「やってくれましたね新人!無理難題にも近かったチップが……」

「改造人間の底力とはまさにこの事だ、普通の臓器なら倒れていたぞ……」

「私も基盤弄りのせいでふらっふらですよ~……触ります?」

イザベラが指をさして疑問を浮かべる。ルイエも若干興味が出ていた。

「触れるのは少し怖くもあるが……名も知れぬ魔術師がここまでのプロテクトを仕掛ける必要のあったデータが一体何なのか、解析した私たちに知る権利はあるはずだ」

「見てみない訳にはいかないでしょう!」

二人同時に作業机の上に置かれた金色のチップに手を伸ばし、触れた途端―――。


「「ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」」

突如工房内に響き渡った絶叫を聞きつけて気分転換に外に出ていたジルオが駆け込んできた。

「何があったお前ら!?」

二人とも目を抑えて悶絶しながら様々な工具が転がった床に横たわる。

「……ジルオさん……アレ」

「アレ?……チップか!?解術出来たのか!?」

「触れた瞬間に、中に……」

背筋に悪寒が走りつつも、さすがに触れずにはいられない。眼の前にある恐怖よりも、探究心と好奇心がその場で勝ってしまったのだ。恐る恐る手袋を付けて触ると―――。

(……なんだ……これ?)

その瞬間、ジルオの目に映ったのは灰色の建物の隙間を蟻のように蠢く人の波だった。

どの人も無表情で歩き、どの人も個人の自由なんて無いかのように黒い服を着て、どの人も小さな黒い板を眺める。

(この映像は……なんなんだ?体も動かん……)

その映像をひたすら見させられ続けた。

ずっと。

長い間。

永遠にも感じる時間を。

ただひたすら、眺めさせられる。

歩く人の声が騒音とすら聞き取れなくなるほどに―――。

―――。

――――――。

――――――――――――。

――――――人生は、歯車――――――。

―――決まったルートを歩まされ―――。

――――――同じように大人になる―――――。

―――その量産型のパーツの一つとなり――――。

――――――次の世代は我々を見習って個性を捨てる―――。

―――面白くも無い、灰色の世界―――。

――――――――――――。

――――――。

―――。

「…………っ!?」

気が付いた時には、工房の床に倒れていた。

「……今のは……何だ?」

「ジルオさん……見えました?人の波……」

「ああ……しかも飽きる程な。数時間は見させられている感覚だった」

身体を起こすと立ちくらみのようなものが身体を襲う。本当に倒れていたのか?

「私なんか日を跨ぐかと思いましたよ……素手で触ったのがいけませんでしたね」

「これは……解術するべきではなかったか。一つだけ魔術防御を戻しておこう」

頭を抑えながら起き上がるルイエは、すぐさまチップの下に魔方陣を敷いて魔力のコーティングをする。少なくともこれは二度と見たくないな、と苦笑い。

とりあえずこれで完成ですね、とはしゃぐイザベラをよそにジルオは考え事をしていた。

(あの世界にあった小さな板……これと同じだ。アイツはまさかあの世界から……?)

「……ジルオさん?」

「あ、いや何も。さて起動するぞー」

黒い板を手に取り、電源らしきボタンを押してみる。良く分からなかったのでついでに長押し。

だが、画面に映ったのは良く分からない画面だった。

「……なんだこれ」

四角い図形の中に赤い液体が微妙に入っている。どういう意味なのかが分からない。

「……失敗だったんですかね?」

「これは様子見しかないだろう。起動まで時間が掛かるものかもしれん」

「……そういえば、新人のほうは何か作ってたが完成しそうなのか?」

ジルオは、ルイエが同時並行で何か工作をしていたのを見逃していなかった。

「実用圏内にまで型を整える事には成功したが・・・内部があまりにも精密な工程が必要すぎる。あと新人ではない」

「精密な工程って……鍛冶系統なら俺がやるが?」

「確か黒い板の魔導書の持ち主の少年が持っていた黒い筒があっただろう。アレのような原理をかなり小型まで押し込むことになる」

エンタープライズ。ジルオがカガミマチの謎の技術を模倣して生み出してしまった魔力式大砲。つまりはあの小型大砲をさらに小さくする必要があるのだろう。

「そうなると……カガミマチの『銃』ってやつだったか。アレになってくるな。だが……さすがにあの精密さを再現するのは俺には難しいな」

グランツが適当にかき集めて持って帰ってきた品の中にあった「銃」。片手に収まる大きさでそこまで重量もなく、実際に使ったことは無いが使いやすいらしい。

「だろうな。それが出来ればかなりの物が作れるのだが……」

「……オルマトスに技術提携を頼むか、それともそれっぽい新人を探すか」

「だとしても私が要求する技術を持っている物など恐らくだがこのギルドにはいないぞ?」

「……あ、ジルオさん、なんかこの間蒸気機構(スチームエンジン)作ってませんでした?」

「女王様に見せたら『これは革命が起こるわ!』って喜んでたやつな」

「私がチップを解析している間にそんなものを作っていたのか!?」

「ジルオさんって変なもの作っては不思議と価値が出る感じですよね。で、その蒸気機関に興味持ってた子がいるんですけど……誘ってみては?」

「……なるほど、一考の価値あり」

そんな簡単に誘っていいのか、と疑問を投げるルイエに人手が増えるのは大歓迎だ、とジルオは笑って答えた。


「ヒっくん、おはようございます。あの大戦から今日で六か月、これからの国の方針がようやく決まったそうです。国内の農作物の為に領土拡大、産業改革による蒸気機関の導入、それによる水上移動技術の開発が今のところの目標らしいです。ルリアさんは最近は王城に出かけて古文書の山に埋もれているらしく、ジルオさんも工房からほとんど出てこないのでお姉ちゃんが代理でギルドを纏めています。……そうそう、ギルドの建物を新しくした時に地下に作っておいた空間の補強が終わったらしくて、トレーニングルームとして開いたんです。早速ミズキさんが魔法の練習をしてましたよ。魔法も知らなかったミズキさんが魔法の練習をしてちゃんと扱えるようになってるなんて……置いてかれちゃってますね。でも、私はいつでも待っていますから」




その日、ヒサメは動く。彼は死んでなどいなかった。ただ、生きてもいなかった。

スマートフォンが壊れたあの日から現実時計で約一年半、彼はずっと眠っていた。正確に言えば「起きることが出来なかった」。

スマートフォンが電源が付かなくなるほど壊れた場合、修理して復旧した際に表示される時間は壊れたその時を指す。

壊れたその時から時計を進める機能が動かなくなるからだ。だが、止まるのは中身だけ。外側の端末は経年劣化をする。

落としたらヒビは入るしスピーカーにもノイズが混じるが、つまり「内部は止まってもそれ以外の時間は進む」ということ。

その原理と同じように、ヒサメは止まった。彼の身体を残して彼自身が動かなくなってしまった。

ヒサメが壊れてから約一年、ジルオ達がスマホを修理した。だが彼は起きなかった。それもそのはず、「バッテリーが無かった」のだ。

ヒサメに寿命の概念は殆ど存在していない。それもそのはず、竜だから。

一応寿命は存在するが、竜の一生は人類が十回ほど生まれて発展して滅亡を迎えるまでの長さがある。

竜である以上、討伐されたり病に侵されたりで天寿を全うすることは殆どないのだ。

ならばバッテリーは何を示すのか。率直に言えば元気。体力なども含む。

「OSアップグレード」を使用したヒサメに残された体力は僅かしかなかった。その状態で動作が止まったら?

充電すればいい。だが彼に充電コードは存在しない。バッテリーは体力、つまり本人が元気にならないとバッテリーは回復しない。

その為、スマホが修理された後も約半年間起き上がることが出来なかった。

ならばなぜ、約半年後に偶然起き上れたのか?答えは「衰弱しすぎた」。

スマホは使えば使うほどバッテリーの「最大容量」が減る。充電があるにしろ無いにしろ経年劣化で確実に最大容量は減るものだ。

人間の身体も筋肉は使わなければどんどん落ちる。短いようで長い年月の間でヒサメの四肢は棒きれ同然に変わり果てていた。

ここでヒサメのスマホは誤認をする。バッテリーは年が経つにつれボロボロになり、ロクに電力を溜めることが出来なくなっていた。

バッテリーの最大容量が経年劣化によって著しく低下していたのだ。

そしてスマホに僅かだけ残された生存の為の電力、全快時の表示ならば2%も無いだろう。

だが、バッテリーの劣化により最大容量は低下して、たった2%をスマホは「約80%」と誤認した。

これにより、スマホに起動が可能と判定されてヒサメは起き上がる。

これにはルイラやレイラ、ルリアはジルオ達も驚いたが何よりも驚いたのはヒサメ自信だった。

先ほども言った通り、彼自身はずっと眠っていた。動いていなかったのだ。だから彼は「寝て起きたらなぜか世界が一年半進んでいた」という事になってしまった。

約一年半のタイムリープ、動かすに堪えられない身体。自分だけが置いて行かれた世界の中、彼はようやく目を醒ます―――。

みんなは設定を、作りすぎないようにしようね!(戒め)

めっちゃいい設定が思い浮かんでも元の設定と矛盾してたりで採用できなくなること、よくあります。頑張って作ったのに自分で没にしなきゃいけない悔しさ。

今回だけでめちゃくちゃ時間軸巻いたけどこれでVer 1.8は終わりです。いつまでも寝てるわけにはいかんでしょ。

本当はここまでを3月末に終わらすはずだったのに予定がガバガバすぎたね。そもそもVer 1.7が前後編になると思ってなかったからね、しょうがないね。


今回のスマホの説明の内容は今後頻繁に出てくる可能性が高いです。何がスマホの機能で何が亜人種の特性なのか、そしてヒサメは戦わなければならない時にはどちらの能力に頼るのか。そういう精神的な話もしようと考え中。

一年半放置されて、環境も知り合いも何もかもが変化してしまって一人だけ取り残されたヒサメはどうするのかなぁ。これから楽しみです。




Q.ミズキの刀は打刀?太刀?

A.これは設定ガバですね……これは痛い……

解説すると日本刀には2タイプあって、しなりがあって孤を描くような形をしているのが「太刀」、まっすぐで出し入れがしやすいのが「打刀(うちがたな)」です。ミズキの設定を作ったのは随分前(ヒサメより半年ほど前)なので私が知らなかったんでしょうね。

ミズキの「神鳴」は打刀です。全長120cm、柄が20cmの刃が1m。一般的な打刀のサイズが約1mなので「神鳴」は少し長め。腰に付けてたら振り向いた時にいろんな場所にぶつけるので手で持つ事が多いです。

ミズキは典型的な武士なので本来ならば脇差も持つべきなんですが、本人が刀一本でどうにかするスタイルなので持ってない設定。

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