#70 後日談
冷たくなりつつある体を担ぎながらルリアは全速力で走る。正面入り口でもお構いなしにドアを蹴り飛ばしてロビーに入った。ジルオを含むロビーにいた数人は運んだ死体を囲んで御通夜ムードになっていた。
「またやりやがった!今度は正面入り口か!?」
「今回ばかりは緊急事態!ルイラはどうなった!?」
「レイラが部屋に連れて行って今は安静にしてると思うが・・・」
「呼んで!ヒサメ君の心臓が止まったの!!!」
「「「「「はあ!?!?!?」」」」」
真剣な顔で駆け込んできたルリアの言葉を聞いた全員が驚愕の声を上げた。
ほぼ全員が前線で直接戦闘で疲弊、後方で数人の死者が出ている状況で唯一生き残っていた奴がなぜ急に死んだ、と。
ヒサメの遺体はすぐに自室に運ばれ、ギルドメンバーが部屋に入れるだけ入り、全員が何も言えなかった。不可解すぎる。
「……死んだ……のか?」
「心臓が止まってもう数分経ってる。これは、もう……」
「そもそも誰が殺した?竜の状態から戻った時には生きてたんだろ?」
「疲弊か?それとも傷が開いて失血死か?」
「竜化した時に傷は再生してる。外傷じゃないな」
「そもそもこいつ自体が異例みたいなものだ。亜人種なのに能力を使った途端に暴走なんてありえないぞ」
「暴走してしまうから使えなかったのでは?」
「まず本人は亜人種能力を使おうと思って使ったのか?」
様々な意見が交わされる中、ルリアとジルオは真剣に遺体を眺めていた。
「……どうなってやがる……死因が全く分からないぞ、心臓発作か?」
「分からない……私がこれを落としちゃった直後に……」
ルリアが取り出したのはヒサメの持っていた魔導書。ひびが入ったようには見えず、見た目は何も問題は無い。
(落とした直後……?何かが動作した?急性発作……いや、疲労?外的要因ではない……)
可能性を一通り考察した後、とある仮説をジルオはつぶやく。
「……連動してるのか?魔導書と、身体が……」
「……じゃあ、もしかして……」
「見た目は何も異常がないのに確かに動いていない身体。魔導書にも何か傷があるようには見えない。もしかしたら……」
2人の思考が一つの結論に辿り着く。
「もし連動しているのだったら、コイツに止めを刺したのは……」
ルリアも脳内で理解していた。しかし口から言葉を出すことが出来ない。
「……これは……どうすれば?」
「どんな技術で作られたのか分からないが……この魔導書、修理してみるか?」
「……できる?」
「間違いなく時間はかかるだろうし失敗の可能性も極めて高い。だが、そうしなかった場合、コイツはずっとこのままだ。この魔導書が壊れたままならコイツの身体は朽ちることはなく、生き返ることも無い」
ジルオが視線をヒサメの身体に向け、それに釣られるようにルリアも向く。
ルリア自身に人の未来を決める権利は無い。それは本人も十分に理解していることだった。……だが、ヒサメをこうしてしまった責任は、少なからずルリアにある。
スマホを壊したではなく、ヒサメをこのギルドに迎え入れた時から。人である以上の価値観を恐れて教えていなかった責任は間違いなくルリア自身にあった。
「…………彼にはまだ、教えることがあるんだ」
自分自身の行動がここまで他人に及ぼしたことは今まで一度も無い。それがましてや意図せず起こった事件で、あっさりと人の命が散ったのだから。
「よしきた、今回の戦果で国から貰える金の半分を研究費に回せ。後は工房でやってやる」
電源のつかなくなったスマホをジルオは手に取り、それを持って部屋の外へ出て行った。
ルリアはヒサメの死因を「原因不明の魔力障害」とし、ヒサメの部屋にはなるべく入らないように指示をした。
目が覚める。
本来ならば日の昇らないうちに起きていろいろやることがあるのだがここまでしっかりとした睡眠をしたのは久しぶりだった。
随分懐かしいように感じる天井を見上げた状態でルイラは目覚める。
「……あれ……」
「あなたの部屋よ。自分でやってみて初めてあなたの苦労を感じたわ・・・」
首を右に向けると、ベッドの横にある背もたれが無い木製の椅子にレイラが座っていた。
「お姉ちゃん!?なんで……」
「あなたが寝てても仕事はあるもの。私が代わりにやってたわ」
「お姉ちゃん、料理以外は出来ないんじゃ……」
「出来ないわよ。ほんっっっとに苦労したわ……」
ここまで出来るのかと感心するほど深い溜め息を吐きながらレイラは外を眺めながらリンゴを剥いていた。
「……あれ?でもお姉ちゃん救護担当じゃ……」
今更だがアルゴノーツに医者はいない。知識がちょっとだけあるような人が適当にやっているだけ。本来ならばギルド的には明らかに危ない状態なのだが亜人種派基礎回復力が高いのでそんなに気にならないとかなんとか。
「そうだけど……どうかした?」
「私に付きっきりでいいの?ほら、他の怪我した人のは?」
当たり前の疑問を抱くルイラの言葉にレイラは若干言葉が詰まり、渋々呟く。
「……『怪我人』はあなただけよ。怪我して生き残った奴はルイラ以外に一人もいないの」
あえて顔を見ないで語るレイラに、申し訳ない質問をしたとルイラは少し後悔した。怪我をしていて生きているのはルイラだけ、つまりそれ以外は怪我をしていないかケガをしすぎたかの二択。
(そっか……前線の怪我人はいないんだっけ、じゃあ後方の人たちか……)
ご冥福をお祈りします、と心の中で唱えると同時に新たな疑問が思い浮かぶ。
「……ヒっくんは?」
レイラはリンゴを剥く手を止め、表情を曇らせて何かを言おうとしたが言わなかった。
「ねえ!どうなったの……ッ!!!」
食ってかかるようにベッドから体を起こすと同時に脇腹に激痛が走る。
「ッ・・・!」
「その脇腹、治ってないんだからまだ動いちゃダメよ。臓物の被害が少なかったのは幸いね」
「……どうなったの?」
全身に寒気が走る。あの時、駆けつけた時には明らかに怪我をしていた。なのに怪我をして生きていたのは一人だけ。つまり―――。
「……ロビーから車椅子を持ってくるわ。アイツの顔を見るには十分でしょう」
鍵の掛けられた部屋。その部屋はつい最近まで人がいたことを示すかのように生活感があり、それとは裏腹に綺麗に掃除されている。
ロビーに保管してあった鍵でドアを開け、車椅子に乗せられたルイラとそれを押すレイラは部屋に入る。
ほとんど使われた痕跡の無い机、壁に掛けられた黄緑色のパーカー。ベッドには少し埃の被った身体が安置されていた。
「……なんで……」
倒れてからの記憶はない。でも、自分が生きてて守るべき人が死んだ。なぜ?
「理由は分からないわ。心臓は止まり筋肉も死んだ。肉体的に死んだと考えて間違いないわ。……でも不可解なのよ」
「……不可解?」
「腐らないのよ。どうやら角が生きてるらしくて……脳と頭皮はなぜか角に固定されたまま。それ以外の部分は劣化はしてるけどなぜか腐らないわ。まるで時が止まってるみたい」
本来ならば栄養が回っていない時点で肉体は腐敗する。筋肉は落ち、骨は崩れ、土に還さない限りは何とも見ていて惨たらしい有様になるはず。だが、それが起こらない。
「ルリアさんは『魔導書との魔力接続に何かあった』としてあの黒い板を分解してるわ。だからあの板か本人のどちらかが治れば……」
「……そっか。じゃあ戻ろう。私もそんなに体起こしてられないし」
「……いいの?」
「お姉ちゃんこそ、いつも通りに見えて声のトーン低いよ?」
「え?あ、うん……ルイラは無理しちゃダメよ?傷が完治してるわけじゃないんだし」
心配そうなレイラにルイラは「大丈夫」とだけ返した。ルイラの顔に、日々の生活で見せるような笑顔は無かった。その後数日は話しかけても適当な返事しかしなかったという。
やーっとVer 1.7終わった終わった、予想以上に長い……長くない?
次回からはVer 1.8、具体的には次の大型アプデ(と言う名の章跨ぎ)までの間の話になります。
Ver 2で出てくる人がちらっと見えてたりガッツリ出てきたりすることもあれば、うっすら伏線で使うような内容が出てきたり出てこなかったり。
ここの部分って書いたの随分前だから内容うろ覚えだけど改行チェックするときに読み直せば大丈夫でしょ(クソ適当)
(英語作文課題)あああああああああ!忘れてたああああ!




