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雑竜種《デミドラゴン》とスマートフォン  作者: 皇 咲麻
Ver 1.7.5 神と少年と純黒化《オルタナティヴ》-黒-
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#67 起動

人は何か強烈な出来事があると目の前がスローに見えることがある。

実際にそれは起こっていた。今まで親しかった人物が貫かれた。

助けるべきだ。安否を確認するべきだ。相手を攻撃するべきだ。

けれども、足は微動だにして動いてくれなかった。

身体が地面に落ちる音がする。聞きたくなかった。本来ならば自分自身がそうなるべきであった音。

目の前が揺れ、一瞬で脳内が焼き切れる。何も、考えられる、ことがない。

「散々自分のターン繰り広げておいてやられるときは一瞬。まあ、人ってそんなもんですよね」

アズマは興味の無さそうな顔でそう呟き、魔導書を閉じる。

「……ハッ、ハハ、ハハハ……」

ああ、笑いが止まらない。軋んだ全身で節々の痛みを感じながらも笑いが止まらないのだ。

「おや、どうかしました?何か面白いことでも?」

「……ああ、面白いよ。俺は結局、普通の高校生だった」

もはや瞬きの仕方すら忘れた。一瞬の出来事、涙すら反応が遅れている。

乾いたまま潤いが戻らない眼を広げながら、無意識に広がる笑いを放つように仰向けに転がる。

異世界に転生して何かが変わったと思ってた。竜の亜人になって何かが変わったと思ってた。魔法で何かが変わると信じていた。

それがこのザマ。女の子一人助けられない、以前と何も変わらない臆病者だった。

「俺は普通なんだ。特別じゃない。刀は使えないし、魔法の才能は無いし、臆病で、脆弱で、何の役にも立たないモブだったのさ」

「今更ですが……それが何か?」

「それに比べお前は特別だ。才能があって、力があって、魔力があって、人殺しに何の躊躇いも無い。人間としては完成されているのさ。俺みたいな平凡な奴は敵いっこない」

そう、勝てない。どう考えても初期ステータスで負けている。いくら技を磨こうが、いくら心を強くしようが、素質に敵うものは無い。

技を磨いて得られる経験値は一定。初期ステータスが高ければ高い程、最終的な経験の差が出てくる。

お互いに無個性だったが、一方は変わらぬ日常を望み、もう一方は変わりゆく非日常を望んだ。

それの違いがこれだ。つくづく人生ってのは一回の選択で自他を巻き込むほどの運命力があるロールプレイングなクソゲーらしい。

「―――人間のままだったらな」

折れた左足をどうにか支え、いつ倒れてもおかしくないようなバランス状態で立ち上がる。

俺は許さない。たとえ俺が平凡で、モブで、ゴミ虫で、何も守れないクソ野郎だとしても。

「俺は決めた。己の全てを散らしてでも――――――お前を殺す」

自分にそんな力があるだなんて思えない。自分に人を殺す勇気があるだなんて思えない。ならば、自分以外の何かで相手を捻り潰せばいいだけの事。そしてその答えは、既に最初から渡されていた。


一瞬、悪寒が背筋を直撃し、顔に冷や汗が走る。なんだあの、言葉に籠った執念は。

今まで散々やられておいて、瀕死の状態で立ち上がって、それでいてなぜあんなに刺々しい殺意を放てるのか。

心を折られ、対抗できる術も無いのに、今にでも言葉が刃となって心臓を突き刺すかのような感情が籠った殺意。

狂気を身に沁み込ませた人間よりも恐ろしく感じる、「初めて狂気を味わった」感情。

「俺は前から知っていたのさ。平凡な俺が強くなれる方法を」

顔を下に向けたままパーカーのポケットに手を入れる。そして取り出したのは―――。

「でも使ってこなかった。安全性が証明できないし、なにより名前からヤバかった」

一体何に使うのか、用途が意味不明な両方雄端子の充電ケーブル。

「でもお前になら使える。後先なんて考えてたまるか、俺は、お前を、殺す」

勢い良くスマホを取り出してパスロックを開け、スマホをタップすると同時に顔を上げる。その眼に潜んでいたものは、誰が見ても納得できるほどの復讐心そのもの。

『警告。O.S.アップグレードを実行します。バッテリーの消費に十分注意して行ってください。よろしければ、デバイスとメディアを接続してください』

突如スマホから音声案内が流れる。それと同時にケーブルをスマホに差し、もう片方を首筋に。

「お前は殺す。人間として殺せないのなら―――人を捨ててでもお前を殺すッ!」

吠えるようにヒサメは言葉を放ち、勢いでスマホの画面をタップする。

『認証。O.S.アップグレードを開始、再起動します』




突如、ヒサメは糸が切れたように前に倒れる。

「……え?」

反応は無し。あれだけ何かあると思い込ませておいて何も無し?そうは思えないほどの行動だったが、いくら待てども起き上がるようにも見えない。

「……ハッタリだったみたいですね。それでは・・・」

剣を抜いて心臓に突き刺そう、と思ったその時。

「……何だ、これは」

黒い角が、メキメキと音を立てている。

死んだのではないのか?角が変形?一体何が?

そう思っているうちに角からする音は次第に大きくなり、角自体が下から生えてきているようにすら見える。

(何が起こっている?まさか何か残っているのか?)

そう思った瞬間、ゴシュッと角から黒い塵のようなものが吹き出し、その塵はヒサメだった何かの体を覆ってゆく。

そして体全体から骨が軋んでいるような音がするようになり、人であった原型が見えなくなってしまった。

「……一体何が……」

そして次の瞬間。その黒い塊は動いた。左足だった部分を使って体を押し上げる。

右足も使って二足歩行の形になり、うなだれた体勢で立ち上がる。

(変形?亜人種の力?ならばなぜ最初から使わなかった?)

そう考えていた最中、背中から骨が形成される音と共に黒い塊が飛び出す。

ゴキゴキと何かを突き破る音、バキバキと何かを作る音。どちらも人の耳にはよろしくない。

黒い塊は二本飛び出し、完全に出し終わると続いて腰のあたりからも黒い塊が生成され始めた。

背中の塊は扇状に広がり、背筋は徐々に丸くなってゆく。元が本当に人間だったのか疑いたくなるほどに。

「何だ……何を、している……!?」

さすがにクライマックスなんだし、主人公っぽいとこ見せて貰わないと……ねぇ?

あ、ここのおまけ欄では三点リーダは気を付けてるけど改行は気を付けてません。こんな読んでも読まなくてもさして変わらないようなコーナーに気を遣わなくてもさすがに問題ないでしょ(適当)

振り返ってみれば#10くらいまでは普通に一行ごとに改行してるみたいなんですよね。一体いつから読みづらさを捨てたのか、コレガワカラナイ


実は今回のケーブル使用技で、ヒサメが現段階のスマホで使える魔法は最後です。これ以降はバージョンアップグレード後です。主に時計とカメラ。

実はその二つがあるだけで異世界無双できる系のヤバいものです。なので出来るだけ使わせないし、使うとしてもデメリットもりもりにする予定。強力な魔法をただの高校生がデメリット無しに使えると思ったか。


実はVer 1.7でとても影の薄い人たちがいるんですがそれは理由も含めてまた今度にお話しします。コイツ今回の話でレギュラーなのに一回くらいしか出てきて無い気がする……


Q.長いんだよ後半!これで11話目だぞ!

A.完全にペース配分間違えましたねこれは痛い……。

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