#65 助っ人
さて、これはどうするべきか。いや、どうすれば良いと言うべきか。控えめに言ってどうしようもないのが本音。
まずは手持ちの武器の確認。手元にあるのはエンタープライズと魔導書。スマホはまだ使い道があるにしても、もともと遠距離戦を想定されて設計されているエンタープライズを至近距離で相手に使うのはハイリスクローリターンな手段。
(となればスマホしかないんだが・・・どう使えと)
写真で何かを実体化して戦うことは出来るが、自ら相手国領土目前まで突っ込んで来るような奴相手にただの火の玉が効くかどうかが課題。他の物を使おうとしても今までに使ったことのあるモノ以外は何があるかわからないために今から探さなければならない。敵の目の前でそんな悠長なことが出来ると考えられるわけがないのだ。
電話で誰かを呼ぶことは出来るが、ギルドメンバーはいささか距離が遠すぎる。今から呼んだとしても到着してくれるまでに俺が生きていられるかどうか、おそらく不可能。
ボイスメモとカメラはどう使うべきか考える暇が必要なくらいに使えない。そもそも相手が何をしてくるかわからない状態なのにそんな思考判断が出来るのか。
(相手の出方を伺うのが一番かなー……何をしてくるか……)
おそるおそる前を見て相手の武器などを確認しようと視線を振る。
「……考え終わりました?」
「えーっと、あの、その明らかにやべー物は一体?」
「伝説の剣らしいです。なんか僕には資格が無いらしくて岩盤が先端から外れてくれないんですけどね」
なるほどなるほど、持ち主認定されていなくても使えてしまう伝説の剣って何だ。しかも先端に岩盤が残ったままでも使えるってどういう事だ。一瞬の間に情報量が多すぎる。
「これ凄いんですよ、振ったら斬撃が飛ぶし驚くくらいに軽いし。これ一本で全部解決しそうなんですけど個人的に剣ってあまり得意じゃなくて……」
なら持ってくるんじゃない、と心の底から叫びたい。つまりどういうことだ、お手軽気分で聖剣を振り回す王様と戦わなければならないのか。
(どう考えても無理ゲーな気がする……人生終わったとしか言いようがないだろ)
こんなことになるんだったら突撃班についていくべきだったなと嘆きつつも、心の中で決意を定める。どれだけ逃げ回ってもいつかは戦わなければならない、それが偶然この時に訪れただけの事。
「どう戦っても勝てそうな気がしないが・・・精一杯の応戦はするさ。正々堂々とな」
唯一の安心点は相手が剣を持っていることだろうか。いわくつきの聖剣、だけれども性能は本物。だが、所詮は剣だ。剣で処理が可能な量などたかが知れている。
ニヤリと口角を釣り上げ、ズボンのポケットからディスペンサーを三本取り出し、右手の指の間に挟んで掌で押し込む。発射口から弾丸の如く発射される火の玉が十八発。
「俺は正々堂々って言葉は嫌いだけどなァ!!!」
それぞれの火の玉を放射状に、一つだけ隠し玉を用意しておいて十七発を一斉射撃。
相手の持っている者が剣ならば数で押せる。どんな剣だろうと一秒間に振れる回数と剣の面積は変動しない。どんな攻撃も捌くのだとしても捌ききれない量をぶつければいい。
「おっ、火属性なんですね、ふむふむ、手数重視なのか……」
顎に手を当ててなるほどとうなずく相手をよそに隠し玉を発射。放射状に投げた火の玉の一番後ろに配置して発射。
昔に何かのマンガで読んだ、銃弾の後ろにもう一発用意しておく技。たとえ一発目が防がれたとしても一発目の軌道にもう一発仕込まれているとは気が付きにくいとかなんとか。
「この量を剣で防ぎきるのはなぁー……よし」
国王は剣を地面に放置し、魔導書を開いていくつかのページに触れた後に右手を前に向ける。その瞬間―――。
魔導書から広がるように噴き出た水の波動で、隠し玉も含めて放射状に飛ばした十八発の火の玉は一瞬で跡形もなく消された。
「有利属性で範囲攻撃を出せば安心!」
「…………は?」
いや、この場合は剣以外も使えることを想定していなかった俺が悪いかもしれない。だとしても範囲攻撃って?
「次はこっちからやらせてもらいますよ」
(来るか!?この体で防ぎ切れるような物かどうか……!)
言葉を聞いた瞬間に腰を引いて出来る限り防御しようと身構えた、直後。
目に見えない、でも確かに衝撃が乗せられた波動のようなもので広報に吹き飛ばされた。鉄球に突き飛ばされたような感覚。
「なん、っだ今の……!?骨が軋んだぞ……!?」
今の攻撃は恐らくだが水属性ではない。だが先ほどの火の玉を消した攻撃は水属性にしか見えなかった。つまりどういう事だ?
(固定属性以外も使える?だとしたら風と水?属性を切り替えられる魔法かもしれない、そうだったら属性魔法はいくら使っても不利確定!)
じんわりと痛みの拡がる両腕を抑えながら思考を張り巡らせる。遺体、転んで擦りむくような痛みとは段違いだ、後で青痣になるだろう。
だが、痛いだけだ。痛いと感じなくなるほどの重症ではない。
「属性攻撃が無理なら……魔力の塊だな!」
先程得策ではないと自分自身で分かっていたのに使うことになってしまうとは。写真の実体化で仮拠点の残骸に埋もれたエンタープライズを引き寄せる。幸いなことに壊れてはいないようだ。
(チャージ50%、分岐するギリギリ手前!隙を見せるくらいなら当たるかわからないけど早めに撃った方がマシだ!)
高い機械音が鳴り響く黒い筒に魔力を流し込み、標準を闇雲に前へ。悠長に狙ってられる暇など無い。直撃を狙えなくても足元に当てて砂埃で―――。
「まあ、そんなことがありましたよ、と。2分程度でしたけどね」
どこかでそんな声がする。最後に意識があったのはいつだ?数時間前のようにも感じる。
全身に細かい斬撃のようなものを叩きこまれた。それなのに体自体は傷付いていない。神経への攻撃とかだろうか。
「なんか・・・結構な強敵感出しておいてあっさり過ぎません?」
「後方にいる奴に……まともな戦闘が出来ると思うか……」
それもそうですね、とケラケラ笑うアズマの顔を確認する事すら出来ない。
麻痺ではない、だが体が動こうとしない。自分の限界をどこかで思い知らされた、そんな感覚だ。
「じゃあ僕は今から国の方に行くので、それでは」
どうにか精一杯の力を振り絞って身体を仰向けに転がす。ぼんやりと霞んで歪む視界に映ったのは既にこちらに背中を向けているアズマだった。
ああ、悔しいな。結局俺一人が生き残っていても何の意味が無かった。こんなことになるんだったら塹壕に他の人を詰め込んでおくべきだった。
(転生するときに……もっと真面目に質問に答えておくべきだったか……)
転生して何が出来た?他人に流されて、意味もなく毎日を過ごして、死にもの狂いで環境に適応しようとして。
(……ハハッ、俺、何も変わってないじゃん……)
結局、転生したところで本人はそのまま。体が変わろうと性別が変わろうと、その体を操作する中身はそのままだ。
ありとあらゆる脅威を排除して温室と化した現代の日本に育ったただの高校生には、異世界転生なんて夢にまで見るようなことが起きても何の意味も無かったわけだ。
「あとでルイラにちゃんと仕事しろって怒られるのかな……」
「自ら後方を志願してるんだから怒りはしませんよ。今は別の要因で怒ってますけど」
……なんだ、今の声は。聞き慣れてはいる声だが、こんなとこで聞くはずの無い声が聞こえた気がした。
声のした方向を振り向くと、そこにはスーパーボールの如く吹き飛ばされる人の影が。一体何が、と目を開いて呆けていると目の前に見知った顔が急に現れる。
「なんで勝手にボロボロになってるんですか!危なくなったら呼んでくださいって言いましたよね!?」
「……ルイラ!?突撃班のほうは……」
「お姉ちゃんとルリアさんがどうにかしてくれてるからいいんですよ!それよりこっちからいくら呼んでも出ないのはさすがにどうかと思いますけどね!ワープ使ってきましたけど遠いんですよ!?」
「あ、うん……はい……」
頬を力強くつままれていてしっかりとした発音が出来ない。正直な所、すぐに助けを呼ばなかったのはこちらが悪い。
でもそんな早くに来るとは思ってもいなかったし、そもそもこんなヤバそうな相手で味方を呼んだところで、という考えもあった。
「……そうあ、アズマは!?」
「さっきいた人ですか?あっちの方に殴り飛ばしましたけど」
先程飛んで行った人影はそれか。……アレは殴り飛ばす?
「応戦されると面倒そうだったので多重ワープで攪乱した後に胃落で殴りましたけど」
「……おまえ……そういうとこだぞ……」
それもそうだ、あのサイコパスな金髪の妹だった。確かに人を殴る事にはそれほど躊躇し無さそうだし戦いが苦手な訳ではない。
「結構痛かったんですけど今の……今の何?空間移動?そんなのが使える人がいるのか……」
「うげっ、まだ生きてる」
ルイラがここまでいやいや思惟顔を出せるのかと問いたくなるほどの苦い顔をする先には腹部を抑えながらどうしようかと立ち上がるアズマが。
「あの人一体何なんですか・・・絶対に悪そうなのは確かですけど」
「俺の知り合いで今は国王やってるらしい……」
「なんで国王がこんなところにいるんですか!?」
俺が聞きたい。400字詰め原稿用紙五枚分くらいの理由を書かせて提出させたい位に意味不明だ。
「とにかくヒっくんはそこにいてくださいね。起きれないんでしょうし」
「その通りだけどなんか悔しい……」




