#64 少年
部屋のドアを一つずつ吹き飛ばしながら中を確認して上るルリアの元に連絡が入ったのは、レイラが屋敷で虐殺をしている最中の事だった。
「もしもしこちらルリア!さっきから何!?」
ルリア自身の魔力は使えるものがほとんど存在していないためにテレパスも備え付けの魔力貯蓄器、いわゆるバッテリーを消費する。使える限りがあるのでなるべく通話は避けたいのだが、ギルドメンバーには予め「テレパスは緊急時にのみ使え」と言ってある。つまり緊急時だ。
『もしもしこちらジルオ、凶報が入った』
「誰か死んだの!?」
『どうやらアズドラークに向かって謎の物体が飛んできたらしい。噂によれば隕石にも似ていると報告が来たが・・・それは女王様が防いでくれたからいい。問題は防いだ流れ弾が、国の正面に構えていた仮拠点に直撃した』
「仮拠点・・・仮拠点?え?」
『女王様のバリアとやらがあるのは説明されてただろ?アレは名前の通り防ぐものだ。だが、国は守れても国の外は守れなかった。バリアにぶつかった結果、起動が逸れちまったらしい』
仮拠点にいるのは前線司令部の十数人、そして各ギルドへの情報伝達係。統計的に見れば配置されている人数は少なく、被害としては本国が被害を受けてないだけマシな方なのだが―――。
「・・・今の配置で、仮拠点の情報伝達係をやっていたのは・・・」
『・・・マジか。本当に運が無いんだなアイツ』
「ハズレはよく引くとは言っていたけど・・・まさか襲撃犯よりも先に後方で被害が出るなんて!」
あらかじめこんなことになるならば意地でも前線に連れてくるべきだった。確かに仮拠点は前線の頭脳とも言える集団とすべての部隊への情報網が集約されている、あそこを叩けば脳を抜き取られたようなものだ。だがそれを想定できていなかった。
(魔法かそれ以外かは分からないけどやってくれたわね!まさか超遠距離で狙撃手段が存在するなんて予想もしていなかった!)
エンタープライズは偶然手に入れた素材を加工して作ったもの。だが、その素材と技術が必ずしも他の国に存在しないとは言い切れない。ここの国にもあるかもしれないのだ。こちらに手段がある以上、相手がそれを使えるかもしれないと想定することを先入観のせいで忘れていた。
だが、もうこうなってはどうしようもあるまい。お互いに引けず、どちらも被害は出た。これ以上はお互いが肉を切らせて骨を断つ戦いになる。いかに自分の被害を我慢して、相手の被害を大きく出来るか。
こちらの情報網は謎の攻撃によって壊滅させられてしまった。つまりこちらが出来ることはそれに匹敵する破壊。つまり、司令塔を叩き折る事。
ルリアはひたすら階段を駆け上がる。王政の便利な点は全ての権限が王に集約されている点だ。王は全てを把握していなければ指令を出せない。だから全てを知ることが出来る位置にいる。玉座は先ほど見に行ったがいなかった。この国で全てを知るとならば―――この国で一番高い場所にある、王城最上階のベランダだ。螺旋の階段を足音なんて気にせずに駆け上がり、目の前に現れた木製の扉を数段下の階段から飛んでドロップキックで突き破る。
「お覚悟ッ!!!」
木の両開きのドアが床に転がる。その空間にいたのは重鎮そうな白髪の老人ただ一人だった。
「・・・誰?・・・いや、この間玉座の裏にいたよね?」
「ひいぃっ!?」
どうやらリアクション的に合っているらしい。つまりこの人が側近か。以前の王の側近をそのまま使っているのだろうと一目で分かる。少し溜息を吐いて、床で怖気づいていた老人のかみのけをつかんでひっぱりあげる。
「さて、答えろ。王様はどこへ?」
「わっ、わからん!先ほど真剣な顔になったと思ったら急に外へ・・・」
「いや、わからんって言われてもさぁ・・・」
それは側近としてどうなのさ、と呆れたくなったがこれ以上聞けることも無さそうだ。怯えようからして偽っている様子も無し。
「外に・・・え?この高さから!?高いとこが怖くないのかな・・・いや、飛行魔法持ちかな?」
逃げられたか、それとも隠れられたか。もし浮遊か飛行魔法を持っていたら勝ち目がない。
「ねえお爺さん、王様ってどっち方面に行ったの?」
「そこのベランダから飛び出して西じゃ!本当にそれ以外は・・・」
「西・・・?―――そうか」
少し考えて、ルリアは思いついてしまった。王様はなぜ消えてしまったのか、そして仮拠点への攻撃は何だったのか。本人の性格を考えれば納得できてしまう。全身から這い上がる恐怖を感じながらテレパスを起動し、ジルオに連絡。
「ジルオ!女王様に伝言!『防御の気を抜くな』ってお願い!」
返事を待たずに切る。そう、あの王様はとても単純なのだ。見た目の割に自分でどうにかしようと策を練る。悪く言えば「他人を信用していない」。国内に侵入された時点でさらに信用度は落ちたのだろう。そして起こした行動は―――。
「後は女王様に祈るしかない!その間に少しでもここを・・・!」
助かった。生きている。それが喜びだ。今もこうして考える頭が残っている。
震える手足が残っている、塞がらない口が残っている、心拍数が高まったままの心臓が残っている、そして何もできないこの命が残っている。
エンタープライズの発射衝撃を抑えるための塹壕は役に立ったのだ。衝撃を抑えたのは勿論、塹壕としての機能も果たしてくれた。だが、外にいた人たちは―――。
立ちこめる砂埃の中、ゆっくりと塹壕と呼ぶべき穴から顔を出す。先ほどもこうやって顔を出していた。しかし謎の衝撃がこの仮拠点を襲い、反応しきれなかった俺の頭を押し込んでくれた人がいたおかげでこうやって生きている。
「・・・まさか・・・全滅、なんてことはないよな」
ゆっくりと砂埃が薄くなる。顔を出した目の前に転がっていたのは。
「・・・えっ?ひっ、ひぃぃぃ!?」
顔。先ほどの衝撃で四肢がもげたのだろう、首の部分は荒々しく吹き飛ばされたであろう銅の痕跡とも言える脊髄が少しだけ見えていた。それが首と認識できるまで時間が掛かり、そして認識すると同時に急に感じる血の匂い。久々に嗅いでしまった。
「こ、この人・・・さっきの・・・」
そう、先ほどエンタープライズを構えていた時に心配してくれていた人。先ほど首を押し込んでくれた人でもあるだろう。なるほど、これが、先ほどまで生きていた人が生物から「モノ」へと変わる瞬間か。
「なん、だよ、これ・・・・・・」
今まで実際に人が死んでいることは知っていた。だが、目の前に死体が転がっているのは初めてだ。人は死んでしまうとここまで無機物らしく、光の入らない水晶玉のような暗い澄んだ眼をするのか。
「ッ・・・!とにかく、出ないと・・・」
後ろは見たくない。きっとそっちにも死体が転がっているからだ。前を見ているだけで視覚と嗅覚を刺激されてるのに情報量を増やしたくない。いつ次の攻撃が来るかもわからないが状況を知らないと何も分からない。一度出てみるしかないのだ。
「誰か・・・生きてますか・・・」
顔の筋肉が引きつって固まったままで声が思うように出せない。砂埃が若干晴れてきても足元に転がるのは肉塊と吹き飛んだ四肢、そして赤く染まった大地。仮拠点の骨組みがパーツごとに散らばり、それに敷かれてしまった人もいるようだ。一瞬だけ確認した感じだと頭が潰されているから助からないだろう、一瞬以上に見るのは吐き気を催すからダメだ。
「生きて、ない・・・誰も・・・俺だけ?」
もはや前に足を進める事すら怖くなった。信頼できる味方は呼んでもそう簡単に来れる距離ではなく、戦力的なことはともかくサポートが出来る見方を失った。国境は侵入を防ぐために国全体に貼られているバリアのせいで戻ることは不可能。この場所で、たった一人生き残ってしまった。
「・・・嘘だろ?そんな展開、アリかよ・・・・・・え?」
背筋が寒くなり、前線化突撃班の誰かに連絡を入れなければとスマホを手に取ったその時、うっすらと人影が見えた。まさか生き残っている人が他にもいたのか?ハッキリ言っていてくれるだけでも心持ち的にはとてもありがたい。
「・・・おや?まだ生きてる人がいますか」
その希望は、完全にその一言で断たれた。聞いたことの無い声、こちらの陣営でそんな声を発する人物は一人とていなかった。だとすれば敵、だとしてもこんなところに単騎で?駆け巡る脳内の思考が整理を終える前に、砂埃は完全に晴れる。
「う~ん、やはり生きてたか・・・全員決まったと思ったんだけどなぁ・・・」
「・・・誰だ、アンタ」
金髪、そして全体的に白色ベースの服。形状は軍服になんとなく近い。
「不意打ちしてこないだけマシですね、では御挨拶でも。初めまして、ウェルギスの方で国王をやっています、シノノメアズマです」
「国王・・・・・・へ?国王?え?なんでこんな場所に・・・?」
「いやぁ、なんかウチに結構攻め入られてるらしくて。こうなったら被害を抑えるより相手を削った方が良いかなって。それで飛び出してきました」
ぽやんとした表情で頭を掻きながら話すその内容は確かに国王。だけどこんな実力行使する王様があっていいのか?
「へぇ、それでここを襲撃と。すごい王様なんだな」
「まあそれほどでも。いや、ちゃんとここの国にも話の分かる人いるじゃないですか!亜人種だけど・・・」
「俺は元々人間だからそんな気にしなくていいですけどね」
・・・この王様、どこかおかしい。性質的にもおかしいが、なんか存在自体に違和感がある。自分自身の言っていることに慣れてないみたいな、少し聞いていてもどかしい感じ。
「・・・王様ってつい最近なられたんですよね?それまではどこで?」
「ずいぶん遠いんですけど日本という国にいまして・・・大変だったんですよあそこ」
「なるほどなるほど」
これはもはや確定だな、と頭を抱えて嘆きたくなる感情を抑えて話題を振る。
「ところでこれ、おそらくですがご存知ですよね?」
ズボンのポケットから取り出し、見せるのはスマホ。神様に要求したのは最新モデル。つまり元の世界でもある程度認知度があるはずだ。未発売のオリジナル機種とかを望まなくて良かったと実感している。
「それは・・・!一体どこで!?」
「さあ、一体どこでしょうね。あなたの詳細もいくつか知りたいことがあるのですよ、県立天掴高校所属二年、東雲東!」
「そこまで詳しく知られているともはや同期としか思えないのですが・・・お名前は?」
「朝夏日鮫、少し前にこの世界に放り込まれた、ただのしがないモブ野郎さ」
似た者同士で同じく神の不注意で死んだ二人。日常を望んだ少年と非日常を望んだ少年は、似て非なるお互いを叩きのめすまで満足しない。
これあと何話あるんだ・・・?あと5回か6回くらいですかね?なんか回を重ねる度に伸びてない?
Q.剣を使う人はいないの?
A.それもそうだね、今まで出てきたのがハンマーとか拳とか刀とか魔法だからね。確かにまともな剣使いっていないね。
はい、これは私自身に原因があります。剣って、宝剣って言葉があるくらいには装飾が付けられることがあるんです。しかもファンタジーものの剣は見事なまでに宝石とか埋め込まれてたり。
そういう細かい描写、私が苦手です。この発言自体が小説としては破綻してる気がするけど。
ミズキが刀なのもそんな理由です。刀って細いし薄いし、装飾を施したらバランス崩れるからあまり施さないんです。だから書きやすい。動きも軽いし戦闘系の描写も刀の方がやりやすいんです。
ちなみに、主人公に剣を持たせないのは描写以前に「なんか主人公っぽいから嫌」という理由から。いきなり剣なんて渡されても使える訳がないじゃないですか、そういう常識を飛び越えるシナリオが嫌いです。
まあ、私は大剣とか結構好きなのでいつかやります。ヒサメもいつか使うことになりますけど実際に剣を持つことはないんじゃないかな、と。アイツだったら「こういう武器って俺が持つべきじゃないだろ、ミズキかレイラに渡せ」って言いそうなので。




