#59 洗脳
時刻は既に日が暮れた頃。先ほどの店から逃げに逃げてひたすらダッシュ。方向感覚なんて分からなくなり、どこに向かえばいいのかも良く分からなくなった。
「ハァ、ハァ・・・どこだここ・・・」
渡された観光マップを見ている暇もなくひたすらに逃げた。チンピラはなぜか追いかけてこなかったから大丈夫だったのだが、この国の警察らしき集団に随分としつこく追いかけ回された。顔は見たくないし相手もしたくない。
「・・・どうしようか」
正直な所、することがない。住む場所も無ければ食事も無いし、これからすることもない。こんな世界だったのならばまだ以前の世界の方が住む場所と食事はあったからましだったかもと思ったが、それ以上にあの世界は退屈で窮屈で息苦しい空間だったことを思い出して首を横に振る。
「いやいやいや、折角こんなファンタジーな世界に転生できたんだ、前向きに生きなきゃ」
数多の人類が望んできた夢の世界、そして実現を諦めた理想の空間。幸運にもそんな世界に入り込めたのだ、楽しむことは楽しんで過ごす。つまらない人生など生きている価値を捨てているようなものだ。
「・・・そうだ、この手の中には万能な魔導書があるんだ、これがあれば・・・」
やりたいことが自由にできる。アズマの胸の内は悪だくみをするのような、はたまた悪戯をする時のような熱い感情が湧きあがっていた。
人として重要な三大欲求、性欲食欲睡眠欲。だが、彼の心の中に湧き上がっていた欲はそのどれでもなかった。
「・・・人を支配することが出来る!」
変なテンションとなり染めの自尊心で出来上がった支配欲が、彼の中で渦巻いていた。
なぜ彼がそんな発想になったのかは不明。分かることは「万能な魔導書がある御蔭で何でもできるような気分になっていた」ということだけ。
そしてこの後、彼は王城に忍び込んで現国王を暗殺。実際には適当に作り出した小刀で突き刺しただけだが、『音消し』『透明化』『武器隠し』『気配除去』などの隠密魔法でガチガチに固めて突き刺したためほぼ暗殺に近い。
そして死体が目撃される前に国全体への洗脳衝撃波を放つ。こちらも『円形波動』『記憶改変』『記憶除去』『人物像形成』などを以てすれば容易いことだった。
一夜にして国民の脳内をすべてすり替え、自分自身が王である事の証明をする。「今までの王は役目を終えた、我こそが新たな王である」として。
「・・・めんどくさいなぁ・・・」
それから数日後、周辺国との国交関連の仕事を集めて眺める。事務系統はいくらでも下にやらせればいいのだが面会系統はどうしても自分自身がやらねばあるまい。そもそもしっかり姿を見せておかないと信用に関わったりもする。
なぜノリでこんなことをしてしまったのか、あまり良く覚えていないがとにかくハイテンションだった。つまり理由など無い、ということだ。
「・・・ノリですることじゃないよなぁ・・・いや、むしろノリですることだったか?」
魔導書が万能だからって安心感と、よく読んでいたライトノベルの主人公は結構気ままに行動していつの間にか王様になっちゃってたりするような小説だったからそんな感じでノリでどうにかなるかなと思ったが・・・どうやら異世界転生する人間でもどいつもこいつも適当なノリで過ごせるわけでは無いらしい。こう、2ページで展開が180度変わるくらい自由に生きたい。
(昔から一度はやってみたかったシリーズ『玉座に座る』ってのは達成できたけどそれと同時に付きまとう仕事がなぁ・・・どうしようもないとは分かっているけど仕事したくないなぁ、魔物討伐とかで生きてられないかな)
適材適所、適正職業。ここまでやっておいて言うのも申し訳ないのだが、王族経験なしの16歳にいきなり王族はつらすぎる。仕事の多さとか、規律の多さとか。掃除が大変だからって人を強制的に締め出して強風で埃を吹き飛ばす掃除方法とかも怖い。
「『魔法があれば何でもできる』って本当に思ってるのが怖いよな~・・・なんか、魔法以外の化学兵器とかが出てきたときに何も対抗できなさそうで・・・」
人間は分かっていればいくらでも対策を重ねることが出来る賢い動物だ。だが、分かっていないものに対しては「わからないんだからどうしようもない」と言ってほとんど何もしない。本当に起こるかすら怪しいものに労力を割く暇がないからだ。そして記録的な大災害が起こるたび、「こんなものは対策しきれていない」と言い出す。いつか起こりそうなものから起こるかわからないけど不安な物まですべてを含んでの「対策」なのだろうに。
ノリでなってしまったとはいえ仮にも国王だ。威厳と国民の信頼を保つために仕事をしよう。他国からの侵略を防ぐ「対策」として周辺国の信頼を得ておくのも重要だ。
「えーっと、周辺国・・・北に二つ、南に三つ・・・西に一つ。西のこの国は最初が良いかな。北と南は少しでも意見がずれたら国交組んで突撃して来てもおかしくない配置だし・・・西のこれにするか、・・・あー、何て読むんだコレ・・・アズドラーク?」
そうしてアズマは頭の中を改変した部下に手紙を書かせて送り、一番穏便に仕事が出来そうな弱小国をターゲットに選んだ。その後、彼はその弱小国遠征団のリーダーに顔面から殴られて鼻の骨を折られたのは言うまでもない。
サボってました(白状)
まだ投稿まで時間あるだろ~って気分で呑気に過ごしていたらいつの間にか前日。大急ぎでキーボードをじたばたしました。四月初めって何かと変な理由で忙しくなりがちですよね、次回から頑張るから今回の分量の薄さは許してください。
前回と今回でアズマの魔導書の仕様シーンがあったので解説、というか小ネタ。
アレは行ってしまえば魔導書ではなく、本の形をした願望器、世間一般的に呼ぶ「聖杯」です。
アズマが神様にお願いしたのは「異世界で十分な能力」。魔導書じゃないんです。
だからあの魔導書は本の形をしているだけであって、本人が願えば別の形にもなったりします。
魔導書は所持者が死んだら消えてなくなるけどアズマの物はまずそもそも本じゃないので消えません、聖杯に戻ります。何かに使うかもしれないけど聖杯はチートすぎるので恐らくは使わないようにするか、使ってもずいぶん後の方の奥の手になると思います。
ちなみに、前回のアズマの魔法合成シーン。あそこの魔法パーツ考えるのにすごい時間かかりました。




