#58 王国(2)
「・・・・・・すっげぇ・・・」
今は酒場に来ている。入っていいのか、とも思われがちだがRPGの序盤では必ずと言っていいほど来るし、その時の主人公も大抵の場合は未成年で入っているから問題はない。・・・と思う。
入ってみれば溢れかえる人の数、テーブルは殆どが埋まっており、夜にもなっていないのにアルコールのようなものをジョッキで一気飲みする人の多さ。
ゲームとかで見た事はあるけど実際に自分の眼で見てみれば迫力が凄まじい。
「・・・ん、旅人かい?」
カウンターに座ってた銀髪の飄々とした男性がこちらに声をかけてくる。一人で辺りを見回していたからだろうか。
「あっ、はい・・・この国に来てみたは良いんですけどどこに行ったらいいかわからなくて・・・」
「この国はどこ行くにも金が結構いるぜ?ケチくせぇからなぁ、金は持ってんのか?」
「金・・・持って・・・るかな?」
と言ったはいいものの持っているはずがない。すぐさま魔導書を開いてそれらしい呪文を探す。
(・・・『錬金術』、これかな?あれ、でも錬金術って対価とかいるんじゃないの?使って大丈夫?)
懸念はしたがそれよりも先に手が動いていた。すぐさま右手に写してページに叩きつける。
「・・・お?」
呪文が写ったページに発動した魔方陣からは特に何もでない。
「何かいるのかな・・・それとも使い方、が・・・」
何か細工が必要なのか、と考えながら魔方陣に触れた瞬間。入れた手は魔方陣の中に入り込む。その魔方陣の中から右手を引き抜くと、掌の上には薄暗い部屋の中でも十分に輝く金貨があった。
「・・・これ、万能魔法ってか・・・まるでチートだな」
なるほど、これは出来ないことを探した方が早そうだ。呪文の組み合わせが出来る以上は対応の幅はあり得ない程に広がる。ざっと見ただけでも瞬間移動や空中飛行くらいは苦なく使用できそうだ。
「そんなに金があるんならいろいろ見て回ることは出来るんじゃないか?この国は結構広いからな。地図あるから持っとくといいぞ」
左手で適当に投げられたパンフレットのような物には国の全体図とさまざまな地名が記されていた。観光パンフレットなのだろうか。
「あ、ありがとうございます!」
「礼には及ばねぇよ、俺も旅人だしな。・・・あ、でも今は―――」
銀髪の男性が椅子を回して、入り口の方を指さす。そこにはいかにもガラが悪い数人の男が。大声で話しながらドアを雑に開けるその姿は、なんだろう、世間一般的に呼ばれる典型的なDQN。
「アレに絡まれたくなかったら動かない方が良いんじゃねぇの?」
「あ~・・・確かに、接したくはないです・・・」
しかし、ここで問題が発生する。この場合はコンビニの前で屯するヤンキーと同じだ。同じ場所に留まったままなかなか動かない。
「さっさと外に出たいからどいて欲しいんですけどね・・・」
「・・・ふむ、ならどかせばいいじゃん?」
え?とリアクションをする前にその銀髪の男性は―――。
「おいそこの知能基準値足らず野郎共!この少年がそこ通りたいからさっさとどけボケナスってよ!」
店中に響く大声と慣れに慣れを重ねたかのような煽り、そしてその責任はこちらに擦り付けときた。ここまでひどい喧嘩の押し売りがあっただろうか。少なくとも今までの人生ではなかった。
「ちょ、ちょっとなにしてくれてるんですか!?」
「へーきへーき、無理だったら俺が相手するから」
生まれてこの方、穏便に過ごし続けて十六年。喧嘩なんてやったことないしやれる強さも無い。本を読んでゲームして寝て生きてきたこの身にそんなスキルなど不必要だった。
あれよあれよと言う間に、目の前には目つきの悪いチンピラ集団が迫っていた。
「もうこうなったらヤケだ、店がどうなろうとぶっ飛ばす!」
単純に相手を倒せばいいのだ。幸いなことに倒す手段は山ほどある。全部盛りして物量で推し勝つ、店及び街の被害は知った事か。自身の安全が第一なのだ。
「とりあえず強そうなの全部入れときゃいいんだ!『刀生成』『二刀流使用可能』『魔力放出』『確定急所』『斬撃拡張』『刃投げ』『自動追尾』『火属性追加』『水属性追加』『風属性追加』『雷属性追加』『火属性追撃』『水属性追撃』『風属性追撃』『雷属性追撃』『打撃判定』『追い打ち』『防御破壊』『防御貫通』『衝撃追加』『燕返し』『一刀両断』『波動』『降魔の炎』『滅魔の炎』『威力上昇+9』『衝撃上昇+9』・・・これで・・・どうだ!」
チンピラたちの「こいつは何をしてるんだ」という視線をよそにはんこの如くページをめくっては押し付けめくっては押し付けを繰り返し、右手がもはや呪文で真っ黒になった状態で白紙のページに掌を叩きつける。
呪文は全てページに吸い取られるように写り、その呪文が文字となって白紙のページに黒い魔方陣を描き、魔方陣から刀の柄が二つ飛び出した。反射的に勢いよく引き抜く。
「―――えっ」
そうしたらどうしたことか、日本刀なのは持ち手だけで、鍔より先は何とも言い表せない異形の何かと化している。棘のようになっていたり、先端が燃えていたり、火花が散っていたり、そもそも剣全体が謎の青いオーラに包まれていたり。
「・・・おりゃああああああああああ!!!!!」
一瞬だけ戸惑ったがすぐさま前に構え、突撃しながら両手を上から下に振る。
瞬間、目の前で何が起こっているのか見えないほどの超常現象が起き、様々な効果が働いて直前までそこにいたチンピラはドアごと店の外へ吹き飛ぶ。店の外ではいきなり人が飛んできたことで騒ぎになり、店の中では一体何が起こったのかと口を開けて静まり返っていた。
無論、口を開けて静まり返っていたのはアズマ本人もである。
「やっっっっっっっべ・・・何が起こったんだ・・・?」
剣圧で相手が飛び、それに様々な追い討ちが発生していろんな効果が発動した、としか言いようがない。使った側も何が起こったか分かってないし、おそらく相手も一瞬で何をされたのか分かっていないだろう。
「中々強烈な魔法使うじゃん、最初からそれ使えるんだったらビビらなくてよかったのに」
「いや、さすがにここまでは・・・」
「ところで・・・店主と警察があっけにとられてる間に逃げた方が良いと思うぞ?捕まったら厄介だと思うが」
「えっ、あっ、分かりました!ありがとうございます!」
言われるがままに店の外に飛び出し、道路に飛ばされたチンピラたちを通り過ぎて来た道とは逆側に走り出す。なるべくなら店主の人に謝罪でもしておきたいのだがあんな状況で出来るわけがないし、まずそもそも絶対に面倒なことになる。
「いつかまたあの酒場行くことになったら店主さんに謝ろう・・・」
人の流れに逆らうようにアズマは走り出す。その走っている方向は奇しくも王城へ一直線だった。
「おーおー、見事にやられてんなぁ。あの魔法絶対に禁術だろ・・・それか法則無視にしか見えねえなぁ。属性混ぜてるモーション見えてたから法則無視だろうな」
銀髪の男性は道路に飛ばされたチンピラを見て深々と頭を悩まされていた。あんな魔法は見た事が無い。いや、正確には『見た事はあるがあんなに複合して使える奴は見た事が無い』。一つ一つはそう難しくない魔法だがほぼ別系統の魔法まで詰め込んでいたし、なにより技能魔術を使用していた。あの少年が『燕返し』や『一刀両断』と叫んでいたもの、あれは魔法ではなく技術だ。技術の無い者に一時的に特殊技能を授ける魔法、それがスキルマギア。
(先祖によほど剣の達人がいたか・・・いや、それだったらあんな戦闘下手にはならない。不思議だ・・・)
「テメェ、さてはあのガキの強さ知っててふっかけたな!」
「いや全然。ちょっとあの少年の強さを見てみたくて。アンタがそれ以上に弱かったって事が分かっただけだったがな」
「テンメェ・・・!」
「ん、俺にも向かってくるのか?なるほどなるほど、いかにも定番って感じのチンピラだな」
ここまで定番なのは初めて見たぞと頷きながら感心する銀髪の男性。
「―――だが、喧嘩を売る相手を間違えるのはいささか関心しねぇな」
どこに隠し持っていたのか、包丁サイズの小刀で向かってくるチンピラの右拳を受け流し、左手を掴んで下に引っ張る。そしてチンピラのバランスが崩れた所で、右の手首少し下を切りつける。
「『伝雷』」
チンピラの手首からほんの少しだけ流れる血に小刀の先端が触れた瞬間、銀髪の男性は魔力を流す。直後、チンピラの身体には目で見える程に集められた電流が突き抜けた。迸る電流に全身を焼かれたチンピラは一言も発することが出来ずに地面に倒れた。
「あ、やべっ、死んだかな・・・さすがに街中で殺すのはマズイな、生かしとこ」
動けなくなったチンピラを仰向けにして、心臓付近に少しだけ小刀を刺して電流を流し込む。
「よし、これでいいだろ。さてどうすっかなー・・・この国は・・・ダメだな」
銀髪の男性は左目を閉じて空を見上げる。やれやれと表情を浮かべながらつまらなさそうに溜息を吐いた。
「隣の国も・・・ダメそうだな、こことあそこがダメとなると・・・やっぱり海しかないな、行くことになるのかぁ・・・」
行きたくはないがしょうがない、と呟いて男性は小刀についた血を落としながら道路を歩きだす。
「弟の為にもなるべく海は行きたくないんだが・・・もう行く当てが他にないからなぁ。船酔いしないことを祈るか・・・」
彼は旅人であった。愛用の小刀一つで世界を歩き回る旅人。自分が仕えている女王様に旅の冒険伝を聞かせるために旅を続けている。
だが、彼は知らない。少し前に、彼が仕えていた女王様はその国から突如姿を消していたことに。そんなことは旅をしていた彼の耳には入って来なかった。
既にいなくなってしまった女王様に旅の話を聞かせるために、彼はひたすら世界を歩き続ける。
新しく入ってくる人を眺めていると「あぁ、俺の時もこんなだったのかな」としみじみ感じます。
毎日を生きている上では一分一秒が長く感じるのに、長い一年を過ごした後では「結構あっという間だったな」と言うのです。思い出が重なれば重なるほど、思い出の間にある「何も無かった時間」を忘れるから時間の経過が速く感じるってことですね。
一年を早く感じることが出来ればできる程その年はいい年だったと年度末に思えるかもしれません。私自身は去年はクッソ長かったと思ってます。
全然本編の話してなかった。後半に出てきた人はVer 1.7だと出番がありません。さらに言えばヒサメには全然関係がないタイプの人です。




