#56 決戦前夜
そう遠くなかった昔の話。少年は超がつくほど平凡であった。
運動神経は中の下、部活は帰宅部、成績もそれほどよくなく、両親は共働き、兄弟もおらず、家が裕福でもなかった。
だが、とある日。少年はいつも通り学校に通う。ただいつも通りに登校している時に、少年は落雷を浴びて死んでしまった。心肺停止、身体の大部分を落雷により焼失。どんな医者が見てみようと生き返る見込みはなく、少年は不幸にも16歳で生涯を終えた。
だが、その少年があまりにも救いようがない程つまらない人生を送っていた事、そして少年が死んだ責任は神にあるとし、少年は別世界で生き返る事となった。
神は少年に申し訳なく思い、少年の望みを一つだけ叶えようとする。
少年は考える。少年は平凡に生きてきた。だからこそ―――。
少年は今と変わらない平凡な生活を手に入れるために、富でも名声でもなく、ただのスマートフォンを要求した。
アズドラーク王国東側、他の区画と比べて農耕地が多く、食材などの流通の要はここの区画が握っている。食料という人類には必要不可欠な物を牛耳る者が多いせいか、何かとこの地域の人間はプライドが高い。
そこの中央にある東のギルド「ワントシン」、そこでは団長が自室のベットで絶賛療養中だった。なぜ療養することになったのかは前略。
「だっ、団長―ッ!」
「うるさいぞ、私の部屋に許可なく入り込んで来て一体何が目的だ」
観葉植物のような緑色の頭髪をした団長は本を読んでいる時間を邪魔されたことに軽く苛立ちを覚えたらしく、緊急時であると叫びながら入ってきた部下にキツイ睨みをきかせる。
「えっ、あ、すいません!大変なんですよ、入り口が、あっ、ぎゃぁぁぁぁ!!!」
ドアを開けた部下は左開きのドアごと右に勢い良く吹き飛び、部屋の中に轟音がこだまする。
「・・・一体何の用だ、赤紙の蛮族」
「お久しぶりアロエ頭、ウチの部下に斬られてどうにか再生させた右腕の調子はどう?」
「部分再生なら慣れているから問題ない。お前に首すら飛ばされたからな」
「もうー、それいつの話?随分前でしょ?」
「十七年二ヵ月十三日前だな」
「そんな細かい日にち覚えてられるかっての!ねえヒサメ君」
「いやいやいやいや、首吹き飛ばされたら結構インパクト強いですよ?」
なぜついて来てしまったのだろう。少し前の自分に問いただしてみたいが多分明確な答えは出てこないだろう。「戦うなら安全な位置にいたい」と言ったら「じゃあ人数集めするからそれ手伝って」と言われただけである。
「む、この間のガキ・・・まだ生きていたか」
「この人喧嘩売るの得意すぎません?絶対部下からの信用度マイナス振り切ってますよ」
「やっぱそんな気がするよねぇ・・・前からもうちょっと優しくしたらって言ってるのに・・・」
どうやらSNSを見ると、部下からの信用度は本当に低いらしい。フォローはしているがミュートされている、つまり「人間的には嫌いだけど上下関係的に仕方なく」って感じだろうか。そしてそのことを本人は多分自覚していない。
「なんか・・・アルゴノーツのほうがよっぽど人間関係マシですよ・・・」
「そりゃあウチはみんな仲が良いからね。喧嘩したら私が両成敗ってシステムあるし」
「なるほど、道理で喧嘩が起こらない訳だ」
「で、なぜここに来た。私はお前がここに来ることは許可していないしお前もここに来たいわけでは無いだろう」
「用事くらいはあるさ。はいヒサメ君」
説明どうぞとばかりに渡される一枚の紙。相変わらず何が書いてあるかは読めないが内容は先ほど教えて貰った。
「えーっと、一文で言うと・・・東にある国と戦争が起こります。それに手伝ってねって事です」
「断る。なぜお前らと肩を並べねばならんのだ」
まあ、ここら辺のリアクションはまだ想定内。策はまだある。
「そこでコイツです、王室管理局からの許可証。これによりこの度の戦争における『戦略・戦闘配置の一括統帥権』がウチのギルドにあります」
これは本来発行される予定はなかったのだが、この戦争の大元の原因がルリアにある事と、女王様が「私は戦略系統には詳しくない」と自ら指揮権を放棄したことが理由。
指揮権の放棄は国王としては一大事なのだが「これは仕方ない」と王室管理局が頭を抱えた末に仕方なく発行した物。なんたって未知領域の為だけに開発された国に戦争経験なんてあるはずもなく、参考に出来る過去のデータベースも存在しない。確かに外務省が揃って匙を投げたくなるくらいには詰んでいた。
「・・・なるほど、それで私を動かそうと言う訳か」
「まあそうなんですけどそれとは別に・・・これをどうぞ」
背負っていた突撃銃の片方を乱雑に扱わない程度に投げる。相手もベッドにいるから投げた所でさして問題はないだろう。
「これは・・・何だ?」
「アルゴノーツ工房班が独自開発した魔力装填式遠距離武器です。ちょっと窓開けますよ」
背負っていたもう片方の銃を取りだし、装填部分に自分自身の固めた魔力を装填して構える。簡易サイトで標準を合わせて、空を飛んでいた野鳥に向けてトリガーをスライド。
「ふんッ!」
十数メートル離れた位置を左から飛んでいた野鳥は右へと墜落していった。ぶっつけ本番だったがなかなかの威力。
「・・・とまあ、こんな武器です。鍛冶大国バルバロスとウチの工房班が技術提供をして生まれたこの遠距離武器、射程も威力も投石器なんかよりよっぽど有能。おまけに装填トリガーを逆に引いたら銃身に魔力が流し込まれて魔力刀になります」
近中遠距離完全対応、銃剣をさらにハイスペックにした完結武器。銃身を魔力刀にする案はミズキが「姫様がかんざしに魔力を付与してる奴みたいにそれにもできねーの?」と言い出したことから始まった。ジルオさん曰く「『出来ないの?』と言われたら『出来るようにする』のが職人」らしく、魔力注入の回路を独自開発して成功したんだとか。空中庭園に行ってたりしてる間に着々と兵器研究が行われていたとは。
「なるほど・・・それで?」
「それが最近完成したモデルで、バルバロスに同じ物の量産を委託しました。量産型事態が上手くいくか分かってないのでとりあえず初期ロット500で。でもウチのギルドはこれ使わないらしいんですよ、ですよね?」
「アルゴノーツは奇襲担当になったから正面戦闘はしないことになってね。思いっきし余っちゃった」
アルゴノーツのメンバーは約60人、カロライナは約40人。それに比べて東と南は合わせると人数は千を超える。カロライナは事務作業多めのギルド、アルゴノーツはそもそも普通の人間が適応しにくい環境だから人数が少ないのだろう。
「そんなわけで本題です。突撃銃全部渡すので主戦線担当お願いします」
「これを持って・・・主戦線に出ろと?」
相手の表情が変わった。良かったのか悪かったのかは分からないが今がチャンス。
「相手は物量で来ます。魔法を弾としてストックすればいくらでも対応できるそれで、近距離専用の槍や剣を持っている連中を遠距離から撃ち抜き。さぞかし楽しいでしょうね」
武器で反応する時点で分かっていた、この人は戦闘は好きだが負ける戦は挑まないタイプ。なら協力を仰ぐには「負けない戦にするための武器を提供する」。数と武器を持った戦闘狂の恐ろしさは第二次世界大戦が教えてくれる。
「・・・分かった。前線はやらせてもらう。ただ、一つ条件がある。南を呼ぶのならば中間防衛・・・伏兵対策に当てろ」
「楽しみは取られたくない、ですね。よし、東は大丈夫そうです」
「よーし撤退!帰るよー!」
何かと騒がしい赤紙と真顔で淡々と条件を提示してくる橙髪が帰った後の部屋は予想以上に静かだった。
「・・・なぜあのガキは私の思考を・・・一体どうやって・・・」
「だ、団長、何があったんですか!?」
台風が過ぎ去ったかのごとく荒れている廊下と部屋を見て部下が一堂に駆けつけてきた。
「戦略会議だ。そう遠くないうちに大戦が起こるらしい、備えるぞ」
「にしても、ヒサメ君はよくあのアロエ頭の考えてること分かったね?」
「考えてることが分かる魔法がありますから。それに・・・多分、今の武器に飽きてたんですよあの人。突撃銃見た瞬間に目が輝いてましたもん」
好戦的とは前から聞いていた。プライドが高く、それ相応に本人の戦闘能力も統率力も高い。そんな指導者には時代をブチ壊しかねない革命兵器をプレゼントだ。
「相手だって全員が全員主戦で魔法を使うわけじゃない。多分最前線は近距離武器とか・・・そんな連中をリーチの長さで押し切るんですよ」
銃はいつだって時代を変えてくれる。長篠の戦いもリーチで相手を押し切った結果だ。
「そんなの良く思いつくね・・・西の人たちはそういうのに詳しいの?」
「数百万人規模で大戦争を起こしていた経歴がある国にいましたから。最終的に負けてましたけど」
「すごいねその国・・・私もあの平原の向こうは行ってみたいんだ」
「気が狂いますよ、景色はいつも同じ、水が無くて、食料も無くて、おまけに日中ずっと日照り」
「ひえぇ、場所によってはヒサメ君死んでたかもね」
「というか平和ボケしてた世界から一転こんな世界だから俺はいつ死んでもおかしくないですよ」
そもそもこの世界に転生した時にあんな場所に出現させられたのが悪い。あの神様、いつか会える時が来たらいろんなことを考慮してでも最低一発は殴りたい。歩く方角を間違えてたら確実に詰んでた。
(・・・思えば、この世界に来てから俺って何してたんだろうな)
別に何かした覚えはない。何かをしようとした覚えも無い。ただ、いつも通りに生きて、普通の日常を過ごしたいと願ってきた。
それの割には、何かと毎日が楽しかった気がする。いっつもどこかで騒ぎが起こってたし、二日に一回ペースでルリアさんは裏口のドアを蹴り飛ばすけど、それでも退屈ではなかった。記憶は存外鮮明に、脳内にしっかりと焼きついていた。
(・・・なんか走馬灯みたいだな、やめとこ)
「どうしたの?」
「いや何でも。南のギルドはどうするんですか?」
「アルバが行ったよ。団長が不祥事起こして追い出されてるからトップが居なくて不安になってるらしくて。協力仰ぐくらいなら簡単に出来そうだって」
「こんな時期に何やってるんですか・・・」
その後は何日も王城に行って武器の在庫管理と作戦確認。武器の在庫管理が予想以上に多くてなかなかに手こずった。
「・・・疲れた」
「さすがにお風呂に入ってから寝てくださいね?」
「・・・あのさルイラ、俺が布団に飛び込もうとした瞬間にそれって何なの?どこかで見てたの?」
「いえ、丁度そこで見かけたので」
コイツの場合は嘘なのか本当なのかが分からない。ギルド内を一日中歩き回ってるルイラなら確かに見かけることはあるだろう。ただ本人が壁抜けを使える関係で尾行されていたとしても気づけない。
「・・・いや、まあいいやめんどくせ・・・」
「・・・最近動きすぎじゃないですか?いつ見ても忙しそうでしたよ」
お前に言われたくはない、と返したいが確かにここ数日はかなり動いている。今までが全然動いていなかっただけとも言えるが肉体の疲労が尋常じゃない。一度だけ布団に辿り着く前に寝落ちした日もあった。
「・・・俺が忙しそうに見えたか?」
「ずっと見えてました。生活習慣崩してまで書類整理してた時もあったじゃないですか」
「・・・・・・そうか。近々大戦が起こるってわかってから動きすぎなんだな、俺」
普段から面倒なことは後回しにしてなるべく動きたくないのがスタンスだったのだが、いつの間にか張り切っていろんなとこに走るようになっていた。自分自身の得意な生活習慣すら忘れるとはよほど疲れているようだ。
「こういう時こそ落ち着きが必要なんだろうな・・・風呂行って寝るか。・・・足動かないからルイラ風呂場まで送って」
「本当に大丈夫ですか・・・?まあいいですけど」
その後、ヒサメは風呂に入りながら睡魔に負けたことにより溺れそうになっている所をグランツによって引き上げられた。
「・・・ほんとにすいません・・・」
「いいっていいって。それにしても風呂で寝る奴は初めて見たぞ」
「ヒサメ、アンタ結構疲れてるんじゃないの?しっかり寝なさいよ」
「それルイラにも言われた・・・レイラ、ΣAX」
「寝ろって話してるのにすぐに眠気覚まし注文してんじゃないわよ」
それでもジョッキで出てくるあたりはさすがここのギルド、自分で注文しておいてこう言うのもなんだが胃袋を何だと思ってやがる。
「気分転換なしには生きてられねぇのさ、というか俺は酒飲めないし」
学校の保険の授業でやったパッチテストではこれでもかと言うほど肌を赤くした記憶があるし、そもそも16歳が堂々とジョッキに注がれた酒を一気飲みってのも見た目的にどうかと思う。少し前にルイラがしてたから既にアウトとも言えるが。
「徹夜して昼に動けなくなってたら元も子もないからね?あ、レイラ、肉」
「せめてもうちょっとマシな注文の仕方を・・・」
裏口から入ってくるなりカウンターに一直線で隣に座ってきたルリア。この人に徹夜がどうだのって言われても全然信用できないって前から言ってるのに。
「こんな時間まで何してたんですか、武器整理は昼に終わったって……」
ルリアは目の前に置かれた、つまみとは思えない量のつまみを右手で掴んで口に放り込む。何回か噛んでいる所を見るにスルメイカのようなものなのだろうか。
「何時間も望遠レンズ持って王城から観察。まあ意味なかったんだけどさ」
「無かったんですか・・・」
「無かった。向こうが攻めてくるのを公言したからね」
会話が聞こえていたカウンター席と近くの丸テーブルに座っていた数人が静まり返る。
「・・・相手は本気ですか」
「本当にやるみたいよ。グランツ、情報刷っといたから配っといて」
「え、俺が?こういうのって広報のアバカンにやらせるべきなんじゃ……まあいいや、レイラちゃんごっそさん」
ルリアが右手で取り出した、百枚はあるだろう紙の束を受け取るなりグランツはズボンのポケットから金を出して椅子から降り、宿舎の方に走り出した。ドアの連絡口に一つずつ入れた後にロビーと食堂で配るのだろう。
「いつ開戦ですかね?」
「明日の正午。天気はあまり良くないって。雨は降らないそうだけど」
雲が濃いなら好条件。山脈側からの奇襲ルートを成功させやすくなる。
「他のギルドに情報は回してます?」
「伝達済み。ウチは昼なんかじゃ間に合わないから早く行けってアルバに言われたよ」
「まあ、確かに・・・今回の作戦はウチのギルド及びルリアさんに懸かってますからね」
「了解了解、メンテナンスもバッチリしてあるよ。防衛班もよろしくね。・・・さて、今日くらいは私もしっかり寝るかなぁ」
ある程度腹が膨れたのか、ルリアは金貨を一枚だけ取り出してレイラに投げ、裏口から食堂を出て行った。
「・・・え、一枚だけ?」
「あの人はお祭りムードでもない限りはつまみくらいしか食べないわよ。一体どうなってるんだか」
「・・・ところでさ、ここの宿舎ってルリアさんの部屋ってあるのか?」
「あるけどほとんど物置よ、個人で集めた変な武器とかが適当においてあるわ。布団なんて敷けるスペースは無いわね」
「・・・じゃああの人が『しっかり寝る』ってどこで寝るんだ?」
陽が既に暮れて辺りが暗くなった時刻。ギルドの西側、アズドラーク王国国境付近の路地。中心部から離れているがために開発が少しばかり遅れており、街灯があまり付いていない。
ぽつぽつと明かりが点いた路地に並ぶ家のような廃墟の隙間に、大人には少しばかり狭い、秘密基地のような空間があった。
「・・・私は明日の朝、戦争に行くんだ」
誰もいない小さな空間にルリアは喋りはじめる。
「一人の兵士じゃなくて、他の人を連れて突撃するリーダー。おかしいよね、みんな死ぬ危険があるのに戦争があるよって言ったら逃げずに黙々と準備するんだもん」
正確には怯えている者もいた、だが逃げなかった。「逃げても居場所がない」ではなく、「生きるために相手を倒す」という逆転の発想になってまで。
「私は昔から変わってないよ。気に入らない奴は殴るし、人の話もちゃんと聞かないし。でも、そんな私にちゃんとついて来てくれる仲間がいるんだ」
月光が小さな空間の裂け目から差し込む。その空間にあったのは、一つだけ置かれた青色の花瓶と古びた懐中時計、そして錆びた短剣。
「・・・おじいさん、私は大きくなった。強くなれた。胸を張って歩けるようになった。昔みたいに泣き虫じゃない。だから―――」
ルリアは拝むと同時に花瓶の前に置かれた錆びた短剣を手に取り、埃を払って右手に持つ。錆びているけども使える。切り裂く力が無くてもいい、自らの信条をその刃に込めて。
「―――行ってくるよ。私の、おじいさんの夢を全否定したあのクソガキをブッ潰しに」
憎悪と信念を込めた言葉を口から放つ。決意を胸に、力をその手に。
戦争に「正しい」は存在しない。お互いの利潤か信念か宗教か、はたまた別の何かがぶつかり合った時に発生し、どちらかを再起不能にするまで終わらない。勝った方が正しくて、負けた方が間違った判断をしたことになる。知的生命体の間で起こる、分かり合えない者達の醜き最終手段。
人々に嫌われた少女は、人々を守るために力を振う。
「そろそろ寝るかなぁ・・・明日早いだろうし・・・」
「さっさと寝なさいよ、さっきから欠伸止まってないわよ」
「なんかそわそわして寝る気にならないんだよ、なんでだろうな?」
「知らないわよ・・・」
自分自身が俗に言う「遠足前日にワクワクして寝れないタイプ」なのは昔から知っているがここまでだとは。いや、ワクワクはしないのだが責任感とかそんな感じのプレッシャーに近い何かのせいでそわそわして仕方がない。
「目を閉じても眠気がなー・・・さっき風呂場で溺れてたのにどうしてなん・・・」
不意にSNSを開いてタイムラインを流し見していた時、一枚の写真が目に留まった。それはあまりにも美しく、画面越しですら息を呑むほどの満天の星空の写真。そしてその写真に同時に映っていたのは、昔から密かに憧れていたものが写っていた。
「ツイート時刻・・・2分前!?マジか!」
「どっ、どうしたのよ急に?」
リアクションで椅子から不意に立ち上がってしまった。レイラの声を無視して即座にルイラにテレパスを発信。繋がると同時にカウンターの隣の席にルイラが現れる。
「どうしました?今日は何も・・・」
「ルイラ、外行くぞ外!しかもギルドの外じゃねえ、国外だ!」
「えっ、どうしたんですか!?」
「いいから行くぞ!この間の平原でいいから!」
「わ、分かりました!」
理解が出来ないがとりあえず言われた通りにワープを発動するルイラについていく。ワープ先はエンタープライズの試し撃ちをした場所。周囲には明り一つすら無い、一面の闇。
周囲には建物すら無く、人もいないため無音の暗闇が広がっていた。アズドラークがある方角を眺めれば街にはぼちぼちと明かりがついている。
「来てみましたけど何が・・・」
「上だよ上。・・・・・・スッゲェ・・・初めて見た」
暗闇の中、指をさす先にあったのは―――。
「・・・わぁ・・・流れ星ですか・・・」
「しかも一つじゃねえ、流星群だ。こんなにくっきり映るのか・・・」
濃紺の天幕を滑るように落ちる流星の雨。ところどころに見える星の間を通り過ぎるように、流星は上から下へと窓にしたたる雨水のように落ちる。
「・・・ヒっくんはこれが見たかったんですか?」
「ああ、見たかった。子供の頃からずっと望んでた」
幼少期、親になぜか買ってもらった天体の資料本。宇宙とか太陽とかが大好きで、何百ページもある資料本を一つもこぼすことなく暗記したほどだった。それのおかげで高校に入ってからの地学は得意だった。
そしていつしか、本ではなくて自分の眼で見てみたいと思うようになった。だが、都会の電気に溢れた明るい空では流星群が見えることは無かったのだ。
「結構可愛い趣味あるんですねぇ、意外です」
「可愛いって何だよ、ずっと見たかったんだからいいだろ」
満点の星空に映る流星群。明日の事すらすっかり忘れてしまうほど脳裏に強く、そして鮮やかに焼きつく。
「写真撮っておこ・・・・・・綺麗だ、ああ綺麗だ」
「・・・ヒっくん?」
「俺が生きてきた汚い世界で映らなかった幻が、こんなとこで見れるとは。あのまま生きてたら本当に俺は無彩色な毎日を過ごしていたのかもな」
「ヒっくん、涙・・・出てますよ?」
「えっ?・・・うわっほんとだ!」
全然気が付かなかった。気が付けなかった。無意味に過ごしてきた日々で流すことの無かった涙。一体何年ぶりだろうか。
「・・・そうか、これが『生きてて楽しい』って感覚か。なんかやる気出てきた」
「元気になれました?もう時間も遅いし・・・早く帰りますよ~」
「ほいほい。・・・ああ、楽しい」
眼で見た光景が、全身で感じる世界が、楽しい。一分一秒を生きるこの時間に退屈が無い。それは「生きてて楽しい」と分からせてくれるし、「死にたくない」という感情も同時に強める。生きていたい、この幸せな状態を終わらせたくない。もっと幸せでいたい。
「・・・おし、ルイラ―――生きるぞ」
「へ?・・・はいっ!」
偶然が重なって失った第一の命、手に入れた第二の命。こんなところで無駄にしてはいられない。人はいつだって幸せを求め続ける貪欲な動物。満足するまで、この世界を楽しんでやる。
(・・・さて、どうなってんだろうな)
ギルドに戻りながらヒサメは新しく生まれた疑問に頭を悩まされていた。
スマホのロック画面に表示される日付は「12月13日」、既に現世で死んでから二か月が経っていた。もう冬なのに寒くないとかそんな事ではない、なぜ流星群が起こったのか。12月、つまり冬の空にピークで起こる流星群はふたご座流星群だ。
問題なのは「地球で観測できたものがなぜこの世界でも観測できるのか?」。
ただの偶然?それとも別の何か?この世界は元の世界の一部が引き継がれている。そもそもアズドラークに初めて来たとき、俺は看板の文字を読めた。英語で書いてあったからだ。じゃあ「英語を知っている奴がいた」ということ。俺が住んでいた時代か、はたまた別のどこかかもしれない。少なくとも、俺よりもずっと昔にあの世界から来た奴がいる。
(・・・まあ、そんなのどうでもいいけどな。俺は俺らしく生きる)
嫌な未来は目を背けたくなるが、さすがにいつまでも背いてはいられない。嫌な未来を受け入れるのではなく、嫌じゃない未来に作り替えるために。
アズドラーク王国戦力、奇襲班を含んで約二万五千。お互いの信念を賭けて、いざ開戦。
前半終了!疲れた!飽きた!もう続き書きたくねえ!
と言ってられないのでがんばります。春季課題が絶望的なんですけどあの。
ところで最近やけに分量が多いです。最近ってか前回と今回。前回が約5500文字、いつもの約3倍くらいの量がありました。今回はさらに増えて約9000文字、5倍近くあります。理由は二つあって、「ここまでしないと収まり切らない」って理由と「Ver 1.0見返してたらめっちゃ分量あった」って理由。どちらも個人的な事情ですね。
さて、次回から後編なのですが、後編をどうするかは何も決まってません。そもそも前編後編で分けたは良いけど前編と同じくらいの話数になるのかも検討がつきません。なんで計画してなかったんですかねぇ・・・。
とにかく気合い。それしかないと思ってます。お休みを頂くときはあらすじのお知らせ部分に記載するのでそちらの方をご参照ください。まあ、そんな時って多分同人誌即売会くらいしか無いでしょうけど。




