#55 宣戦布告
日は変わって翌朝。全員が王城の前に集合。アルバは「王城に入るメンバーは選んだ方が良い」と言ったので王城に入るメンバーは遠征メンバーの中から半数程度に。
「・・・大きい、ですね・・・」
「大きい・・・確かにアズドラークの王城よりも大きいね」
「こんな所に住んでいる人に私が会って大丈夫なのでしょうか・・・」
「大丈夫大丈夫、いざとなったら人をいくらでも盾に出来るのが王様の特権だからね」
「こらルリア、君はいつもそうやって余計な事を言う」
「間違ったこと言ってないでしょ?それに、私たちはその為に来てるんだから」
「むしろこれを嫌がったから東と南は来なかったんだろうな・・・」
護衛、それはつまり盾。何かが起こったときに対象を意地でも守り抜かなければならない。守り抜かなければ生き残ったところで結局死と同等かそれ以上の罪を背負わされるのが護衛というもの。そんな責任を自ら背負う者などいないし、いたらそれは間違いなく世捨て人か狂人そのもの。
「アイツら死にたくないからって国王様の命令に逆らうってどうなのよ、あとで処した方が良いって」
「確かに命令に逆らうのは後でいくらでもつつけるが、死にたくないという意味では私も来たくなかったな・・・」
「それだったらウチのメンバー100%になっちゃうじゃん?いざって時の保険でもあり人質でもあるからね」
「面と面を向かって人質なんて言われるとは思ってもなかった・・・」
それと同時刻、ギルド内部の食堂カウンター席。人がいないからってテンションが上がってミズキと夜更かししたために爆睡中なヒサメの元にテレパスが入る。
『ヒっくーん・・・あれ、お姉ちゃん?』
「急にどうしたのよ、コイツは寝てるわよ」
『なんでヒっくんにつないだのにお姉ちゃんが!?・・・さては夜の間に・・・』
「バカ二人のお祭り騒ぎよ。で、どうしたの?」
別に誤解を生まれたところでどうという事はないが、事前に『ギルドにテレパスを使うときは緊急時ね』とルリアが全体に話をしている。なんでも「どうでもいいことでテレパスかけたらギルド側で何事かって慌てるかもしれないから」だそうだ。
『これから王城に入るんだけど、ルリアさんがヒっくんにテレパスを繋いでって。繋ぐだけでいいらしいけど・・・』
「らしいわよ。バカ一号起きなさい」
スマホの画面に映るルイラの顔から目を離してカウンター席に突っ伏したまま寝ているヒサメの頭に手刀を入れる。
「おヴっ!?」
「ルリアさんから何かの合図らしいわよ」
「・・・了解・・・レイラ、パンとニューミー、あとΣAX」
「酒のつまみみたいな注文するわね・・・ルイラからテレパスだって」
寝ぼけた目を擦りながらスマホを手に取ると確かに画面越しにルイラが映る。
「あ、これビデオ通話にもなるんだ・・・おし、良く聞けルイラ。ルリアさんが合図したらすぐテレパス繋げ。繋がるかが重要じゃない、とにかく俺にかけろ。オッケー?」
『わ、分かりました!』
何か余計な事を言う暇もなくテレパスは切れてしまった。現場は結構張りつめている雰囲気なのかもしれない。
「さて・・・確か食堂の机って動くよな?中央空けるぞ」
「動くけど・・・何やるの?試合?」
「やるわけねえだろ・・・魔法の準備だ。ルリアさんが一回目の合図をしたってことは『使う用意をしておいて』って事だからな」
置いてある長机を一つずつ両手で押して端に寄せ、ロビーと同じくらいの空間を確保する。
「何かの魔法?それにしては魔方陣とか無いけど・・・」
「魔方陣・・・まあ、面積が結構いるな。でも俺がこれを成功させないともしかしたら遠征メンバーは全員死ぬ」
「・・・え?」
正直に言えば博打だし、なるべく使って欲しくない。完璧に成功する保証も無い。
だが、ルリアさんは多分俺が考えた作戦を本気で使おうとしている。失敗すれば遠く離れた国で余所者の屍が大量発生だ。
「思いつきで提案なんてするんじゃなかったなぁ・・・ルイラに頼めばよかった・・・」
そして遠征側。ヒサメがギルドで机を押している間に遠征メンバーは半数を残して既に王城に入っていた。大きい城門を抜けた先から既に一面が白い。地面や柱、壁や装飾までもが大理石に近い輝きを放っており、横から差し込む日光がその輝きを強くさせている。
「うわっ、眩しい・・・しかも通路が一直線。機能性とかって考えてるのかな」
「基本は見栄だからな。この綺麗さだと本当に人が住んでいるのか疑わしくなる」
「客人専用の建物って事かもね・・・そうだ王女様、どうぞお先に」
「えっ!?」
「いや、だって私ただの護衛だし・・・国の代表なんだから胸張って先頭歩かなきゃ」
城の装飾とかはどうでもいいからとにかく先へ、なんて事はしない。一応マナーは備わっているのと、この遠征の主役は王女にある。人の名誉に関わるようなことをしでかすのは人として失格だ。
「大丈夫!今回は侵入者じゃないんだから!」
「ルリア、『今回は』ってのが余計だぞ」
「はいはい、とにかく前へ!王女様としてのプライドも大事だよ?」
この場には盾の役割で来ている。それは主君を守る壁である事と、主君に守れていることを感じさせて自信を付けさせる意味でもあるのだ。
「・・・はい!」
王女の表情から不安の表情が消えたのを確認して、自分自身も笑うように顔を整える。
通路の最奥にあった扉を両側から開け、そしてその部屋の奥にいたのは―――。
あまりにも広大な部屋に玉座が一つ、それに少年が座っていた。
玉座がある部分の地面は若干高くなっており、目線が自然と少し上に行くようになっている。上から目線を保つ意味合いを込めて作られているのだろう。
「どうも初めまして、わざわざ西から来てくださいました」
「え、えっと・・・あの、この度新しく即位された国王様、でしょうか?」
「まあ、そんなところですね・・・あれ、もしかして名前書いてなかった・・・?あっちゃー、やっぱり自分で書いたほうが良かったのかな・・・あ、申し遅れましたアルマ王女、ウェルギス王国現国王、シノノメアズマです。お見知りおきを」
玉座から降りてこちらに一例をした金髪の少年は、国王とは思えないほどのきちんとした礼儀正しさがあった。傲慢でもなく、暴虐でもない。一対一の挨拶のようにその少年は振る舞ったのだ。
「隣国とは言え長い旅だったでしょう、ここまで・・・」
「あー、少しよろしいかな国王殿」
手を上げて質問する体制になっていたのはルリア本人だった。
「ええ、どうぞ。えっと・・・」
「ルリアで構わないよ。今回私たち一行がここまで遠征に来たのは国王同士の挨拶、親睦を深めるのと周辺国の状況交換、でよろしい?」
アズマと名乗った少年に対して、ルリアは敬語を混じらせながらもどこか不機嫌そうに言う。
「ええ、今回はそのように。それ以降は書面での・・・」
「それ以降とかはいい。穏便に済ませる気があるならドアの後ろの重武装した兵士を今すぐ下げて貰おうか」
その場にいたほぼ全員が「えっ」と言って入ってきたドアを振り向く。ドアは誰かが閉めたわけでもないのに勝手に閉まっていた。列の最後尾にいたジルオがやれやれといった表情でドアを開けるとそこには確かに金属をふんだんに使った防具を着こんだ兵士が。
「・・・一体いつから?」
「最初から。通路に兵士がいなかった時点で怪しかったし、そもそも隠れている最中に金属音が後ろからしてた。あの重くて音が鳴る防具は伏兵には向いてないと思うね」
「背後からは一番危険だから一番装甲が高いものにしたんですが・・・やはりデメリットも大きかったですね」
アズマが指を鳴らした直後、部屋の左右に並んでいた柱の影から、それほど重装甲ではないが十分に防具をつけている兵士が。背後の数人を含めるとこちらのメンバーよりも多いだろう。
「な、何でこんなことに・・・」
「王女様も前から聞いてたんじゃないの?ここの国、『亜人種差別が激しい』って」
ルリアは既に分かっていた。この国は亜人種自体を根本から嫌う国。そこに亜人種主体のギルドの団長が招かれている時点で自ら罠にかかりに行くようなもの。
「・・・一つ、お聞かせ願おうか。亜人に対する意見は?」
「嫌い、の一言に尽きますね。だって人の形をした何かが街を歩いているって嫌じゃないですか。差別とかどうこう以前に人の形をした化物なんですから」
「・・・あァん?」
ルリアの左の額の血管が、目視できるほどに浮き出ている。言うなれば「最高に機嫌が悪い」。
「よし決めた、国交とかそれ以前に殴る」
ルリアが右腕を鳴らしながら玉座の方に一歩ずつ歩いていく。そして―――。
「―――かかった」
5歩目くらいの時に、ルリアが足を踏み込んだ瞬間に足元に魔方陣が浮かび上がる。
「麻痺と伝達遮断の魔法を混ぜ合わせた特殊魔法です。これで―――」
「これで、正面から殴れるって訳だ」
ルリアは魔方陣を何事も無かったかのように素通りし、アズマの座る玉座の前まで迫って右手を鳴らしていた。
「・・・え?なん―――」
高笑いに近い笑い声をあげていたアズマはその直後に鼻でルリアの右拳を喰らい、その威力で玉座ごと大きく後ろに吹き飛ぶ。とても広い部屋のおかげで壁に激突はしなかったが、それでも玉座は転がって壁にぶつかり大きな音を立てた。
「麻痺と伝達遮断の魔法?要するに四大属性から外れた特殊属性だろ?魔力カラッカラの私に効くわけがないじゃん」
四大属性、炎水風雷の属性魔法は身体にダメージが入るのだが、麻痺や神経操作などの特殊魔法は本人の魔力によって作用する。つまり魔力が存在しないに等しいルリアに拘束系の妨害魔法は効かなかった。勿論、アズマがルリアの魔力値を知っているはずがない。
「ルイラ!ヒサメ君に連絡!」
「はっ、はい!」
ルリアがルイラに指示を出すと同時に鼻を潰されたアズマがよろめきながら立ち上がる。
「こ、殺せ!拘束なんてしなくてもいい、とにかく殺せッ!」
鼻を押さえながら叫ぶアズマの命令によって囲んでいた兵士たちが剣や槍を持って突撃してくる。
「さすがに分が悪いから変えるわ。次は正々堂々と戦いましょう」
襲い掛かってくる兵士に動じずにルリアは腕を組んで仁王立ちで言葉を投げる。その瞬間―――。
遠征メンバーは、その場から突如姿を消した。
「おお~本当に帰って来れたね!」
「え、ここは・・・ギルド!?」
「一体城からどうやってここに・・・!?」
「こっちなんか宿にいたはずなのに!?」
「空間魔法!?何がどうなって・・・」
同時刻ギルド食堂、一瞬で場所が変わってほぼ全員が混乱している様子。というか混乱してないのはルリアさんくらいだ。
「ただいまヒサメ君!うまくいったね!」
「おかえり、と言えばいいんですかね・・・?まさか本当に使うハメになるとは思ってもいませんでしたよ」
「え、今の空間魔法ヒっくんだったんですか!?と言うかそんなの使えたんですか!?」
「ああ、ちょっと用意がいるけどな・・・」
今回ヒサメが使用したのは「写真」のみ。カメラも使ったが魔力は使用していない。
少し前にエンタープライズで「物を増やすことは出来るか」という実験をした。
結果は「この世界にある物の写真を実体化するとその場に引き寄せられる」と言う結果だった。
さて、このルールで人を写真で撮って実体化したらどうなるのだろうか?
答えはご覧の通り、「同じく引き寄せられる」。写真に写っていた人全員が対象になるので宿に残っていた人もこうやって連れて帰らされている訳である。
「で、遠征の結果はどうだったんですか」
「最悪。話が通じないどころか向こうから喧嘩売ってきた」
「王様相手に顔面殴り飛ばしたのはコイツだがな」
「だってジルオさぁ、さすがにあそこまでゴミを見る目してたらいくら自分じゃないとしてもムカッってこない!?」
「うん、大失敗だったんですね、アルバさんと王女様の様子見てたらそんな気はします」
急に転送させられた驚きが抜けきると同時に暗い表情になって俯いている二人を見ているとそんな気はしてくる。そもそもちゃんと成功したのならこんな危ない方法で帰ってきたりはしない。
「これから一体どうなるんですかね・・・」
「多分あのガキ大将は私の事が嫌いになっただろうから絶対に攻めてくるわ。・・・私たちをバカにしたこと、国を滅ぼしてでも後悔させてやる」
呟くルリアの眼は明るくなく、どこか遠くを見つめた怒りの色だった。
「王城襲撃に潜入任務、空中庭園ときてついに国家間大戦、こんな経験したくなかったなぁ・・・俺、戦略方面入っていいですか」
「そういうの得意?私は戦略とか苦手だから出来るなら頼むけど」
「自分が戦わない戦争なら喜んで」
自分自身、争いは避けたい。平和に過ごしたいし、平凡に生きたい。
だが、どうしても避けられないのならば仕方があるまい。精一杯死なない場所に逃げ込んで、自分が死なないように味方を操作できる役割になればいい。自分が死なない戦闘なんてゲームそのもの。やることが無かったせいで昔からゲームは得意だ。
引くに引けない状況、既に火蓋は切られてしまった。お互いの信念を人の数でぶつけ合う国家間の押し相撲、参加はしたくないけど観戦するなら大好物。
「今まで培ってきた近代世界史の教養がここで活かされるって訳か、『その教科は社会に出てから役に立たない』って言ってた教師ブン殴りたいぜ。まあ、社会には出てないんだけど」
国家間の間にある土地、付近の山脈、周辺国との関係、どれも有利に使える。初めから負け戦じゃない、開戦の時期を見極めて、周辺国に協力を仰いで、そして地の利を生かす。
戦争は数が肝じゃない。いかに相手の行動を先読みして対策を重ねられるかの読みが最重要。
「徹底的にやるわ、楽しい楽しいkriegの時間よ」
Q.HELLSING好きなの?
A.好きです。なぜか家に単行本が結構揃っていていつの間にか読んでました。一コマごとに静止画なはずなのに動いているように見えるほど躍動感のある戦闘シーンが好きです。
あと関係ないですがBLACK LAGOONも好きです。戦闘能力皆無の主人公が話術でどうにかするってのが初めて読んだ時に「あ、こんな形の主人公もあるのか」って思ったのを覚えてます。
そういえば今日はエイプリルフールですね。




