#53 出発準備
そして翌朝、遠征前日。
「完成したよーっ!」
満面の笑みでギルドの玄関ドアをタックルするようにこじ開けてルリアは入ってきた。
「ルリアさん・・・元気ですね・・・」
「ヒサメ君・・・今日何時間寝た?」
どうやら朝一番に心配されるくらいには顔に疲れが出ているらしい。それもそのはず、昨日からひたすら書類整理の事務作業。他のメンバーが時々顔を出して手伝ってはくれるものの、レイラは食堂のカウンターにいなきゃいけないし、他の人たちも食料調達などで到底手が空いている状態には見えなかった。
「えっと・・・二時間くらいですかね・・・」
カウンターの横に積んだΣAXの缶は6本。現代日本に200円で売っているエナドリと量が同じだとして、普通の人間だったら4本以降はカフェイン中毒が現れ始めるだろうから今頃倒れているのだろうが・・・亜人種になって全体的に薬物耐性と胃袋が強くなっているのだろうか。
「寝ないと効率落ちるよ?時間を浪費するよりも万全の体調で効率よく仕事した方が良いって」
「ルリアさんは何時間寝ました・・・?」
「んー・・・最後に寝たのは三日前じゃない?私の場合は寝なくても最高効率で動けるように自分に言い聞かせてるだけなんだけどね」
これは驚いた、睡眠欲は自分に言い聞かせてどうにかなるものだったのか。
「聞いた俺がバカでしたね・・・どんな感じになりました?」
カウンターの上に積まれた書類もずいぶん減った。残った書類をいったん端に寄せてルリアが持ってきた包みを開ける。
そこにあったのはあまり変わっていない制服。だが丈がかなり長くなっており、ポケットの数を減らしてシンプルなデザインに変わっている。
「すっげえ丈が長いな・・・硬めの黒い白衣みたい」
「解剖して各素材に魔力糸を斜文状に織り込んで貰ったよ。耐久テストはバッチリ検証済み。元のデザインを崩さずに性能の向上・・・なかなか上出来だね!」
「これどうやって着るんですか?内側とかは・・・」
「ズボンと白いシャツも作ろうと相談したけど時間が間に合いそうにないのと、おそらくすぐに着脱が出来るものの方が利便性が高いかなって」
なるほど、時間的に間に合わないのはしょうがない。そもそも二日前なのにいきなり注文して一日で試作品を作ってくれただけ素晴らしい功績と言えよう。
「で、これを今日中に全員分量産ですか?」
「あ、いや、既に作り終ったみたいだよ?今日の昼には全員分来るって」
「ちょっと速すぎません?生産ロットどうなってるんですか・・・え、全員分?それって66人全員ですか?」
「正確にはミズキ君含めて67人分ね。メンバーじゃないけど多分いるだろうなって」
「え、いや、俺とかは遠征行かないんですけど・・・」
「その後が問題なの。今回の遠征、なんか嫌な予感がするのよねー・・・何かあったときの為に全員戦闘態勢にさせれるくらいには準備しておかなきゃ」
ルリアさんは確か魔力がほとんど無いとか(ほんの少しはあるため魔導書は存在する)。つまり魔力感知系統の魔法は一切使えない。そんな人が何かを感じるという事は、魔法などでは測れないような何かを感じているという意味だ。
「・・・遠征先・・・王都、でしたっけ。亜人種の扱いはどうなんですか?」
「最悪。差別どころか根絶やしよ。国に入った時点で絞首刑だわ」
「なんでそんな国にここのメンバーわんさか連れて行くんですか?」
「そもそも私が呼ばれている時点で狙いは割れてるの。だからいっそ一戦交えるくらいなら盛大にブッ壊してやろうってこと」
たった今、今回の遠征の裏の目的を聞いた。そして「自分は選ばれなくて良かった」と心から思った。
「なるべく穏便に済ませたいけど向こうが既に爪を出してるならこっちも牙をむき出しにして襲い掛かるしかないわ。そういうことなの」
「なるほどですね。俺は変わらずここで事務作業してますよ。領収書の嵐でなんとなく文字読めるようになってきました。読めるワードは偏ってますけど」
徹夜明けのテンションは辛い。些細な事でも目を虚ろにして大笑いしたくなってくるから大変なのだ。いい加減に寝たい。
「あ、それでルリアさん、ちょっとお願いがあるんですけど―――」
翌朝、遠征当日。
「すごい!ここがアルゴノーツの内部!まるで居酒屋のような居心地!」
「姫様!さすがにギルドの中で走り回るのはやめてくだされ!」
「ここのギルドいつの間にか拡張してたのか。カウンターだけはすっきりしているな」
「ヒサメ君がここ数日ですっきりさせたからね!」
「やっとまともに寝れましたね・・・倒れるように寝ましたけど」
朝にしては生半可ではない人の量にギルド全体が妙に騒がしく、ルイラがこっそり訪ねてきた。
「ヒっくん、なんでこんな人多いんですか?」
「ちょっと俺の要望で遠征メンバーの集合場所をここにしてもらった。広さ的にも十分だし、ここのギルドから行く人が大多数なんだからここでいいじゃんってことで」
「まあ、そうですけど・・・」
「それに、ちょっとした狙いもあるが・・・それはルリアさんに。ルリアさーん、全員揃いましたー?」
「W-43がいないんだけど・・・」
W-43、つまりは西のギルドの43番だ。
「西の43番・・・ルイラじゃねーか!」
「あっ、私ですか!?ちゃんといます!」
「ならオッケー!全員集合完了!」
「了解です、『えー、遠征参加メンバーの皆さん、玄関ドアを背中側にして前を向いてください、なるべく一塊になるように、所属ギルドで別れたりはしなくていいです』
なぜだかは知らないがボイスメモは音声の拡大機能がある。ここのギルドに初めて来たときにグランツ戦で使ったように爆音波動が放てるほか、このようにメガホン代わりに活用できる。音声の大きさを調整できるのは何かと便利な機能だ。
『全員の顔が映るように、背の低い方は前に、背の高い方は後ろにお願いします。人数の関係上横の列は五列まで、カウンター横の柱より内側に全員収まるようにお願いします』
メンバーの人たちは指示に若干疑問を覚えつつもしっかりと内容を理解して動いてくれている。団体行動における情報伝達の大切さを身に染みて分かっているのだろう。
『あ、端の方ちょっと内側に・・・よし、そこでお願いします』
ボイスメモを切り、スマホに魔力を流すのを中断してカメラを開く。横持ちにしてフラッシュなどの設定をオフに。
「じゃあいきますよー!こっち向いてくださーい!っせい!」
振り向いて欲しいときなどの呼びかけは必ず全員が一瞬だけこちらを向く。その瞬間を見逃さずにシャッターを切る。
「・・・おし、撮れてる。あとはルリアさんどうぞ!」
「オッケー了解!とりあえず生きて帰る!できれば成果を持ち帰る!自分にとって大切な物をいつでも思い出せ!そして心にそれを留め続けろ!以上!」
朝一番の力強い声で緊張感が生まれた状態で、隣国の国王に挨拶に行く遠征が始まった。
それから数時間後、静かなギルドには数人しか残っておらず、カウンターにレイラとカリンがいた。
「ねえ、ヒサメ、朝にやってたあれは何なの?意味が分からなかったんだけど」
「写真を撮ってた。以上」
「いや、それが意味わかんないって言ってんの」
「まあまあ、理由はルリアさんにだけ言ってるから。もしもの手段、奥の手ってやつさ」
3月があと一週間?嘘でしょ?
このままじゃ3月中に終わるどころか前半すら終わり切らねえ!どうなってやがる!
はい、完全にペース配分間違えましたね。分量は今までと同じだから分割部分を間違えたか、それとも週2ペースがいけなかったのか。
話は変わりまして、ようやく正式に進級が決まりました。一番危なかったのはテストの点でも出席日数でもなく関心意欲態度でした。一体何がいけなかったんでしょうかね(すっとぼけ)




