#45 主従
「多少混乱しているようなので事情を説明させて頂きましょう。あなたは命の危機にあるのです」
「は?」
真面目な顔をして話す銀髪の男に即答で疑問符のみを叩き返すカリン。誰だって急に「命の危機」と言われても何言ってんだお前としか返せないだろう。すぐさま得体の知れない男の言う事を信じれるはずがない。
「私は昔から占術を得意としていまして。あなたの未来を占ったところ、どうやら生存の確認が出来るのが今日の深夜までなのです。時間で言えば・・・月が真上に来たときでしょうか」
月が真上に来た時・・・正確な時間は分からないが数時間しかない。
「ほう・・・で?妾は月が真上に昇った丁度に原因不明の事故に見舞われて死ぬと。誰がそんな戯言を信じるのやら」
「信じて頂かなくても結構です。ですが未来は必ずやってくる。この世の全てを遡ってみることが出来る私に外せる未来予知なんて存在しないのですから」
胡散臭い事を言う、とカリンは鼻で笑いながら平静を保つ。・・・だが、確かに厄介だ。
(あの男の占いの真偽は分からん。だがその占いで「妾が死ぬ」と結果が出たのならば、なぜ妾は誘拐されておる?見ず知らずの女に命の危機が迫っていることだけでなぜ?)
「なぜ、と考えてますね。それは勿論私が貴女に惚れたから。貴女を助けるために私は動き・・・それと同時に私の命の為にも」
「・・・・・・ん?」
少しだけ頭にピンときた。さてはこいつ・・・おかしい。頭とか行動とかではなく精神が。
(まるで自らの意志でやっていないような・・・まさか・・・)
PM 11:00
「ちょ、ルイラ、ストップ・・・!」
「どうしたんですかヒっくん、早くしないとミズキさん行っちゃいますよ!?」
「どうしたんですかじゃねーよ!かれこれ数時間走り続けてるぞ!?」
ギルドを飛び出したのはいいのだが分かっているのは城の方角だけ。ジルオさんがいた国、バルバロスがある山のさらに向こう、平原地帯に少し盛り上がった丘があるらしく、どうやらそこにあるらしい。
ルイラの空間魔法は距離は無視できるが、移動先は本人が見た景色でないと移動できない。そのためカガミマチの手前まで移動し、そこからひたすら走っている。
「まさかこの山また登らされることになるとは思っても無かったぞ・・・」
「あんまり関係ないですけどこんな感じの深夜に外に出歩くのってなんだかワクワクしません?」
「本当に関係ねえな!?・・・起きてはいたけど外には出てなかったな、青少年保護法が結構面倒だったし」
「外出ちゃいけなかったんですか?アズドラークは結構自由ですよ?」
「なんせ酒が二十歳になるまで飲めなかったから・・・俺は体質的に弱いから飲めないんだがな」
ぼやきながら傾斜のある地面を上向きに蹴りながら思う。
(ミズキは今頃どこら辺にいるかなー・・・単騎で突撃するとめんどくさいことになってそうだな・・・)
その瞬間に「電話すりゃいいじゃん」という、何とも都会人な発想が頭の中に浮かぶ。本人の意思に関係なく魔力があれば受信可能だったはず。通話履歴から探して接続。
「・・・あ、もしも―――」
ブッ、と切断音がした後に画面に表示される文字は『通話が終了しました』。
「あっんの野郎ォ繋がった瞬間切りやがったぞ!?」
「現在のミズキさんの位置分かるんですか?」
「テレパス繋げば一応は・・・でもどうせすぐ切られて―――」
言いかけた時に頭に閃きの電流。スマートフォンならではの便利な機能が存在するじゃないか。
速攻でテレパスをかけ直し、繋がった瞬間に切られる。ここまでは予想通り。
(相手の最終発信源の位置情報を取り寄せ!マップもGPSも使えなくとも『発信履歴』なら使えるはず!)
この世界に初めて来た時にマップは使えないものだと認識していた。あれは電波が無かったから使えないのではなく『GPSが存在してなかったから位置情報が存在しなかった』のだ!
スマホの画面に映し出されたのは山脈の岩肌。つまり数秒前にミズキがここを走っていたという事。
「ルイラどうだ!?」
「いけます!その画像の先にワープを・・・できました!」
もはやワープ穴に飛び込むことに躊躇が無くなってきた。自分自身でも慣れこそが一番大切であることを実感させられる。
ワープの先で着地した岩肌は先ほどまでいた山と変わらなかったが、それでも城が見える位置まで移動していた。
「ミズキィィィィィィィィィィ!!!!!」
「なっ!?」
前方から聞き慣れた声がしたのを確認。走りながらも振り向いて何事かと確認している。
「射撃!」
ズボンのベルトからディスペンサーを一本引き抜いてミズキに向けて発射。
「うおっ!?」
さすがに一直線に飛んでくる火の玉は走りながらでは避けられないらしく、右足でブレーキをかけながら止まり、一つずつ火の玉を刀で弾いた。
「・・・今更俺を止めに来たのか?ギルドの命令だとしても俺は行くぞ?邪魔するんなら―――痛みも無いように叩き斬ってやる」
「・・・あー、ミズキ君?俺達はギルドから来てないからな?むしろギルド脱走してきたからな?」
数秒間何を言っているのか分からなくなった顔をした後、「は?」と疑問符をそのまま発音した。
「実はヒっくんが先程まで部屋に閉じ込められてて。でも戦力的に二人だと大変だから脱出してミズキさんを追いかけようって事に」
「という事だ。納得したか?」
「・・・なんか納得できてないとこだらけなんだが・・・俺がバカなのか?」
「じゃあお前がバカって事にしておこう。・・・で、城はアレなのか?」
指をさす先にはうっすらと見える立派な城。左右対称な外観に立派な城門、明かりがついていることから人がいることは確認できる。
「方角的にアレだな。ただ・・・随分と人がいる」
「だよな・・・数人の明るさじゃねえもんな・・・城門前にも明かりは無いけど人がいるぞ?」
「警備だろ。城なんだからいて当たり前だな」
当たり前だとしてもなるべくいて欲しくない、と言いたげな顔をルイラが浮かべている。少なからずとも自分も同じ気持ちだ。自分自身が戦闘向きでない以上、正面からの戦闘は避けたいのだ。
「ミズキどうする、あの正面の警備全部やるか?100人はいそうだぞ?」
「さすがにあの量は骨が折れるなー・・・何か打開策あるか?」
「あるに決まってんだろ。その為のコレよ」
立ち上がるなりポケットから写真を取り出して魔力を注入。写真を持っていた右手の位置にキッチリハマるようにエンタープライズを引き寄せる。
「数的有利を覆せる拡散弾、空は晴れていて風も無し、おまけに相手はこっちに気づいて無いから確定で先手が取れる。チャンスタイムにも程があるぜ」
「今回ほど武器の相性を実感できる機会は無いな。じゃあそれ撃ったらワープな」
「城門前なら目視圏内だから大丈夫です!」
「よし・・・じゃあやるか。二人とも準備しておいてくれ」
「・・・そろそろ月が真上に来ると思うが?」
今が寒い季節でなくて本当に良かったとカリンは空を眺めながら思う。野ざらしのベランダなんて季節によってはいろいろ凍るのだ。
「・・・まだ信じておられませんか?」
「まだも何も、未だに何も見させられてないであろうに」
銀髪の男は何かほざいているが脳内で情報整理だ。まずこの男は私を連れ去ったことに意味があり、私がこの男と結婚することで私の命の危機とこの男の命の危機が同時に訪れる。もしくは『私がこの男をどこかの未来で殺す可能性があるから味方に引き込んでおいて先に殺す』。さて、どれが真実でどれが嘘だろうか。個人的にはどれも嘘であってもらいたい。
「・・・ところで、お主・・・未来が見えるのならば数分先くらいは当然見えるのであろう?何も起こらないのか?」
「確実に起こりますよ。剣を持った少年と銀髪の少女、二人で城に入ってくる光景が既に見えてます」
(ミズキと・・・ルイラか?何故その二人が・・・)
ちょっとした疑問が頭に浮かんでいるうちに、突如として背後の方角からとんでもない振動と人間の悲鳴が聞こえた。
「なっ・・・!?」
(カガミマチと火山の国の間の距離が約5キロ、確かこの城とカガミマチは火山の国からの距離はそう変わらない筈だから・・・)
カリンはカガミマチにいた頃に周辺国の地図は見て覚えている。この城が国からそんなに離れていないことも熟知していた。
(・・・ヒサメのアレは10キロ砲だったか。山の麓からならば余裕で届くだろうな)
「何が起こった!?城全体に何かが降ってくるなんて・・・人数的にあり得ないぞ!?」
『王子!突如降り注いだ流星により正面部隊が壊滅、侵入者が・・・ごぶッ!』
緊急用の無線通信が途絶える音。城全体は混乱、王子と呼ばれていた銀髪の男の頭の中も少なからずとも混乱しているようである。
「急に流星群が降って来て壊滅!?そんな奇跡のようなことが・・・」
まあ、確かにあの魔力弾は流れ星にも見える。そもそも20センチ級の弾が弾幕のように降ってくるのは誰でも恐怖を抱くほど。
「・・・一体、何が起こっている!?」
「おいミズキ!一体どこにいるのか分からんぞ!?」
「そんなこと知るか!全部探せば問題なしッ!」




