#40 打ち上げ
「何その小さいの」
「あー、えーっと・・・なんか、いろいろ動かす力が詰まってるやつだ」
「なんでそんなものが転がってるのよ」
「それがわかったら・・・というかこれかなり古いな・・・錆がすごい」
サイズ的に単三だろうか。この世界では絶対に見る事が無いと思っていたものだが・・・というか、本来なら見るはずがないのだ。
(・・・なんで電気が存在しないこの世界で電池があるんだ?)
そう、この世界には電気が存在していない。雷などはあるが、「電気」と呼ぶべき概念が存在していないのだ。
夜の街を照らす明かりは魔法で事足りるし、電気を必要とする近代テクノロジーな装置なんて存在していない。どうやらこの世界の人々は電気に需要を全く感じていないらしい。
ならば、なぜ電池が存在するのか、という疑問にたどり着くのである。
(錆び・・・随分昔・・・この庭園の装置に使ったものなのか?だとしたらこの庭園には電気で動くものがある・・・じゃあこの庭園にある失われた技術ってのは―――)
滅多に使わない思考回路を張り巡らせて、仮説が閃くと共に地面が揺れる。
「おわっ!?何!?」
「この庭園が傾いてるわ!しかも凄まじいスピードで!」
「じゃあどうしろっての!?飛べって事!?」
「とにかくルリアさん探してこないと―――」
「ッせいやァッ!!!」
傾いたテラスの反対側、威勢のいい声と壁が砕ける音がした。見知った存在でなければありがたいなぁ、とも脳裏で思ったがそんなわけでもなく。
「ルリアさん!って金髪の人もいたんですね!」
「部下と一緒にのびてたから連れてきた!飛ぶよ!」
「「飛ぶんですか!?」」
「帰りの飛空艇が間に合わないもん!ほら早く!」
強引にルリアの右腕にパーカーのフードを掴まれて持ち上げられる。調査の証拠品として錆びた電池と砕けた金属片をズボンのポケットに押し込んで。
「いっくよー!せーのッ!!!」
「「わあああああああああああああああああああああああ!!!!?!!!!」」
まるで砲丸投げの如く、傾斜のついた通路を走った勢いを乗せて空へ身を投げる。なんで、何でこの人は数人を担いだまま飛べるんだ。
回転する視界と数人の叫び声によって何が何だか分からなくなって―――。
(―――たまるかッ!どうにかしてでもこのまま・・・)
もしかしてルリアさんは何か策があるのでは、と思い回る視界の中、顔を向けてみると。
「・・・めっちゃ楽しそうに回ってる・・・」
ああ、ダメだなこれ。上司が駄目だと部下が育つ、だったか。どこかで聞いた言葉だ。
こんな危機に瀕した状況、転生直後だったら脳がフリーズしてそのまま肉塊確定だっただろう。
だが、今は違う。慣れたのだ。城に攻め込んで、風俗店の壁を登って、檻に閉じ込められたりして。今更空中落下程度でフリーズなんてしてられない。引きつった表情でも、不安定な視界でも変わらない。生きたいのだ。異世界で落下死なんてしたくはない!
ほとんど条件反射のような手際でスマホを取り出して電話。着信履歴を取り出してリスト表示、そして一つの電話番号を押して叫ぶ。
「ルイラカモォォォォォォォォォォォオオオオオオン!!!!!」
繋がるなり一瞬でテレパスは接続解除になり、隣からギュオンと音が鳴る。
「いきなり呼ばれたと思ったらなんですかこれ!?何で落ちてるんですか!?」
「俺も知りてえ!ところで安全に着地できる方法知らない!?」
「王城の堀なら!大した干ばつも起きてないから水は十分にありますよ!」
「よしじゃあ全員そこによろしくッ!」
分かりましたの返事も無くルイラは消え、その代わりとばかりに目の前が一面の綺麗な水色にすり替えられていた。
市民の噂曰く、堀に落ちた時の水しぶきで王城の上空に一瞬だけ虹がかかったんだとか。
「「おつかれー」」
騒がしさが食堂を包む。カウンターで全身の疲労を露わにしながらもチキンステーキを口の中に押し込んで咀嚼。仕事の後の飯は何とやら。そんなセリフは高校生じゃなくて仕事終わりのリーマンが言うようなもの。
食堂は人口密度の関係でいつも通りに騒がしいが、都会の街並みなどと違って聞いていて楽しい騒がしさだ。
「そういえばヒサメ、帰りに何か持ち帰ってたけどアレどうなったの?」
どうやら一段落したらしく、思い出したようにレイラが訪ねてくる。
「女王様にそのまま渡した。『非常に興味深いものです』ってさ」
実はあの後、空中庭園は忽然と姿を消してしまった。街の人曰く「空に飛んで行った」んだとか。
そもそもいきなり現れて、なぜ浮いているのか分からない謎の建造物だったのだ。いきなり崩れてどうなるかはわかったもんじゃない。
せめてもの証拠品として錆びた電池と壁に使われていた金属の破片を持ち帰れたことは成果的には大きいだろう。
「・・・ところで、なんでアンタはあの錆びた小さいものが遺物だと分かったのよ」
「勘。・・・まあ理由はあるけど大体は勘だな」
あの錆びた電池は『用途が不明だが素材が周囲の物と違った』と理由を付けて回収してきた。
さて、どうして「エネルギーが入っている」と言わなかったのか。
この世界では電気が存在していない。自然の現象としての電気ではなく文明の利器としての電気だ。
そうなったら理由は一つだけ。「なぜ未知の文明の遺産の詳細を知っているのか」ということになる。
その後がめんどくさくなるかならないかは分からないが、使い道などの事情聴取は免れないだろう。意味のないことに時間を浪費するのはなるべく避けたいのだ。
(・・・でも、もし電池が失われた技術だとしたら―――)
この世界の過去の文明は電気を用いて発展していたのか?
「ちょっとヒっくん、聞いてます?」
「うぉう!?・・・あ、ルイラか。ごめん全然聞いてなかった」
「堂々と聞いてなかったって返されるとさすがの私もちょっと傷付くんですけど・・・」
「悪い悪い・・・ところで、なんでルイラは俺がテレパス繋いだ瞬間に来たんだ?」
ずっと気になっていた。繋いだ途端に切られたのだ。通話で状況を聞かずに、まるでこちらがまさにピンチだと分かっているような速度で。
「私にテレパスが来た時は直接聞きに行った方が速いですからね!」
・・・どうやらただの癖だったらしい。
テレパスは話によると本人の内蔵魔力を使って起動する常時魔法らしく、本人の魔力がある限りは相手から通話があると勝手に起動するものらしい。
なので繋ぐ相手の情報が分かればたとえどんな人であろうと魔力を自動消費して通話を繋げる、ということなんだとか。
(俺の場合は電話番号みたいに個人の情報が出てくるけど他の人ってどうなってるんだろうなー・・・)
ちなみに、ここのギルドでテレパスが繋がるまでにラグがある人は『通話に出るまでに時間が掛かる』この俺と『本人では通話に出られない』ルリアさんの二人だけらしい。
魔力があればどんな人でも通話が出来る。そう、『魔力が無ければできない』のだ。
素の魔力値が著しく低い(その日の体調によってちょっとだけ使える日もあれば全く使えない日もあるんだとか)ルリアさんは魔力貯蓄機構を取り付けた電話のようなもの(ジルオ製)を持ち歩かされているらしい。バイクも本人は魔力供給が出来ないため充電式。
「・・・そう考えたら魔力が普通にあるだけいい方なのかな」
「そうとも言えないわよ。魔導書の相性一つで将来なんて全部吹き飛ぶわ」
積まれたグラスを一つづつ丁寧に拭いていくレイラが溜め息交じりに口からこぼす。
「でもレイラはこの将来で満足してるんだろ?ならいいじゃん。こちとら他の奴叩き落とさなきゃ生きていけない格差社会で育ったんだぞ、将来もクソもねぇ」
「私が言うのもだけど・・・元の国は人生に満足しない人が多かったの?」
「多かったよ。大人も子供も高齢者もな。日々の生活なんて無意識に生きて終わるものだ。満足する人生ってやつを送ってみてぇよ」
「あら、あなたはここの生活に不満足?」
咄嗟に聞かれた質問に数秒固まり、遅れて理解をすると同時に答える。
「・・・いや、満足だ。毎日が生きていて楽しいからな」
「ならいいじゃない。過去を見すぎるのは良くないわよ。・・・まあ、全く参考にしないのもダメだけど」
布団に入って睡眠をとり、朝に起きて「今日は何があるんだろう」という気持ちが身体を動かす。布団から出たくない朝が来ないだけで十分だ。
「あ゛ぁぁぁ~疲れた・・・レイラ、ΣAXくれ、標準のやつ」
「なら私も頂こうかしら。酒で割るけどね」
「おまっ、それいつぞやの度数ヤバい赤いやつじゃねえか!」
確か・・・忘れた。カタカナ七文字くらいのヤバいやつとしか覚えてない。
「こういう時くらいしか飲まないからいいのよ。自分へのご褒美ってやつ」
しかも自分で入れるから実質無料、とレイラは笑いながら見慣れてしまったデカいジョッキにΣAXを注いでカウンターに置く。
「ご褒美の定義広いなぁ・・・まあいいや、飲むか」
「こういう時は疲労と明日の予定を全部頭から追い出す勢いで飲めばいいのよ。では―――」
「「乾杯!!」」
透明なジョッキが二つ、中に入った飲み物を揺らしながらキィンとぶつかる音を立てた。
やっと終わった・・・なんかやけに長引いちゃいましたね。
二回くらい内容が薄い回があったけどそれを含んでも今回は無駄に長かったと思ってます。
宴会ムードの賑やかな室内でグラスがぶつかる音がするのって私は好きです。皆さんはどうですか?
次はミズキのよく分かんないシリアスやるつもりです。また話が長そうだね。
戦闘描写多めの結構真面目な話を予定しています・・・戦闘描写は大の苦手ですけど。
伏線回収?うん、なんか・・・できたら、するかな・・・うん・・・はい・・・。
ネルギガンテの宝玉って(以下略




