#32 空中庭園
ああ、自然に囲まれているのは心が安らぐ。
都会で疲れ切った体や心は森などに行って休ませるのも大事だろう。
現代人はリラックスすることに極端に弱い。リラックスする休憩すら与えさせてくれない会社などにも責任があるが、本人に責任がある場合も少なくない。
例えば、仕事が休みの日にゲームをして楽しもうとする。ゲームのしすぎて翌日の仕事に支障が出たらどうだろう?休憩どころか悪影響しか出ていない。それでは本末転倒だ。
休憩するならば「何もしない」がもしかしたら一番の正解かもしれない。
だから森に行って何をすることも無く帰ってくる。一時間弱や数十分で十分だ。それだけで足を動かしたり目を休ませたり腰の調子を整えたりできる。
それらのことから、心身の疲れが感じるようなほど出てきたのならば、一度は森に行ってみてはいかがだろうか。落ち着くことで様々な効果を受けられる。
・・・まあ、それも落ち着いていられればのお話なのだが。
「なんで俺はわざわざ走らされてるんですかああああああぁぁぁぁぁ!?」
「五月蠅いわよヒサメ、気合い入れて走らないと歯車でミンチよ?」
「うっせぇ!そしてうっぜぇ!レイラお前自分で走れ!それか魔法でも使えよ!なんで俺の背中しがみついてるんだよ!」
「あら、決まってるじゃない。走るのが面倒なのよ」
「マジで放り投げるぞテメェ!?」
拝啓どうも皆さん、私の心の声が届いていることを願います。アサカヒサメです。
現在は一歳年上のお荷物を背負いながら坂道を転がってくる石の歯車から逃げている最中です。
なんでこうなったのかって?むしろ逆になんでこうなったと思いますか?少なくとも私には何も分からないし、多分私は何も悪くないと思います。
「ルリアさんともはぐれちゃったし・・・どうしようかしら」
「危機感を抱け危機感を!約50キロ担いで走ってる俺の身にもなりやがれ!」
「失礼ね!私はそこまで重くないわよ!」
「細かい数字はどうでもいいから重いっつってんだよ!さっさと降りろ!」
「降りたら自分で走らなきゃいけないじゃない!嫌よ!」
「何当たり前のことを拒否しようとしてんだオイィ!?」
「運動不足の象徴のような私を走らせるの!?それよりアンタお手製の試作品はどうしたのよ!」
「アレは戦闘を少しばかり快適にするものであって走りやすくするものじゃねぇぇぇぁぁぁああ追いつかれるうううぅぅぅ!!!」
なぜこんなことになっているのかは―――。
「空中庭園・・・ですか?」
司教を撃退し、街にも活気を含んだ騒がしさが戻ってきた頃。スマホ内の時計だと約二日。
カウンター席で昼飯を食べている時にルリアに持ちかけられた話だった。
「そう、空中庭園。文字通り空に浮いてる庭よ。面白そうじゃない?」
「そりゃあ面白そうですけど・・・そんなの存在するんですか?」
フォークに巻きつけたスパゲティを口に含みながら疑問を返す。
空中庭園と言えばRPGなどでゲームの終盤に行くような場所。
経験値効率が良い敵が出てきたり、特定の敵にだけ強い謎武器が出てきたりで嫌いじゃない。なにより未知のテクノロジーっぽくてワクワクする。
「それがまあ、存在する・・・というか、『現れた』って感じ?」
任務の手紙が来たんだけど読む?とルリアに言われて依頼書の中身を見せてもらったがやはり読めない。仕方がないので音読してもらおう。
「要約するとね・・・『いきなり良く分からないのが出てきたので調査してください。王室管理局』って感じかな」
「絶対重要なこと省きましたよね!?王室管理局からの依頼ってそんな適当じゃないですよね!?」
「いや、これが本当でね・・・かしこまった表現を抜いたら本当にこれくらいしか書いてないの」
それにしてももうちょっと普通はあるよね、とルリアは呟きながら頭を掻く。
「その空中庭園ってのはどこにあるんですか?」
「この国の南側。カガミマチとの中間位だよ」
「・・・それどうやって行くんですか」
「・・・だよねぇ・・・」
一体どういう事だ?空でも飛んで行けと?それを可能にする道具か魔法があるのか?
「とりあえずは様子見かな。他のギルドが行ける方法を見つけたらそれをパク・・・真似しようかなって」
パクるって言った。途中で止めたけど絶対に今パクるって言った。
「だから行けるかどうかは分からないけど行けるようになったら行く?って事。どう?」
「喜んで。ここにいてもすることないし、昔からそういうとこって行ってみたかったんですよ」
「でも、うーん・・・ヒサメ君働き過ぎじゃない?」
「あっ、そういうのちゃんと意識してたんですね」
働くこと自体が生活になってる以上は何かあったら駆り出されるのかと思っていた。
良く考えたら一日三食で住むところがあって給料も出る。労働環境としては結構ホワイト。それでいて住み込みにしては悪くない給料額。・・・元の世界より過ごしやすいかもしれない。
(・・・そういえば、俺がいなくなったあの学校はどうなってるんだろうな)
生徒が落雷で死んだ、なんて学校が建って以来の一大事だろう。普通は落雷に綺麗に撃たれて死んだりはしない。しかもそれが生徒だなんてなおさらだ。
両親は悲しんでくれたのかもしれないが・・・学校はそうでもない。学校であまり関わる友人がいなかったこともあるし、高校二年生の十月にそんな悠長に時間を割いていられる暇はない。なんせ進路面談が始まる頃だ。一ヶ月もすれば俺が座っていた机や椅子は綺麗に跡形もなく撤去されていることだろう。
あの世界から抜けてしまった身からすれば、何とも窮屈で退屈な世界だっただろうか。
一日八時間座らされて興味のない講義を延々と聞かされ、帰ったところで学校の宿題と向き合う。そして寝て起きたらまた学校に行かなければならない。
社会人は仕事をする関係で八時間以上働いているかもしれないし、定年退職して家の長椅子にふんぞり返って座っているジジイババア共は「そんなの甘い、それが普通だ、わしらの時は」みたいなことを述べるのだろうが。
(『普通』の価値観が時代に合わせて変わってるのに、昔の事を言われても正直言ってどうでもいいよなー・・・)
祖父がまさにそんな感じだった。一日中長椅子に座ってテレビを眺め、ワイドショーの言ってることに対して肘をついて偉そうに物を言う。正直に言えば嫌いだった。
狭苦しい律儀な行動を押し付ける大人たちも歪んでいるし、窮屈な世界に対して「窮屈」と言えない世の中も歪んでしまっている。
(・・・まあ、今となってはどうでもいいんだけどな。こんな状態で知り合いにあったところでどうせわからないだろうし)
視線を上に向けて、少し伸びてきたオレンジ色の前髪をつまむ。元が黒髪だったこともあってイメチェンどころではない。本物の角も生えちゃってるし。
「さて、久々にちょっとした工作でもするか」
食べ終わったミートソーススパゲティの皿をカウンターに置き、口を拭いて席を立つ。
「あれ、ヒっくんどこかに行くんですか?」
「ちょっと買い物。ちょっと作りたい道具があってね」
Q.いつもどんな感じに書いてるの?
A.やる気が出た時。でも書き溜めを作れるほど計画性があるわけでもないので書くのは投稿日の1~2日前、忙しかった時には当日。一回の投稿する量をだいたい三時間くらいで書いてます。
空中庭園ってなんだかワクワクしません?訳が分からない歯車とか、用途が謎すぎる機械とか。
きっとワンダと○像で城の屋上に登ろうとした人は私だけじゃないはず。行っても何もメリットないところがまた良いんですよ。




