#30 横槍
光の球から瞬時に生える無数の光の槍。
花が咲くように球体から槍が生え、そして抜け落ちた槍がすべてこちら目掛けて飛んでくる。
スピードはあるが一直線に飛んでくるのがまだ救いだろうか。
(だとしても量が多い!相手の魔力よりも先にこっちの体力が尽きる!)
刀で槍を正面から斬っても勢いは殺せない。割るように斬ったとしてもその破片が必ず当たる。
避けきるためには自分自身が動きながら横に受け流すように斬る必要があるのだ。細かい動きが必要で、それでいてなおかつ体力を使う。
(このオッサンがなんか手段を持ってるとは思ってたがここまで強いとは全くの予想外だ!遠距離魔法相手じゃリーチ的にどうやっても無理!)
「どうしたサムライ、先ほどまでの威勢はどうした!」
「うっせぇ!そっちこそさっきまでの私は戦えませんよアピールはどこに行ったんだよ!専コン投げるレベルの鬼畜弾幕放ってきやがってッ!」
魔力の塊と金属がぶつかり合う無数の音が人がいなくなった広場に響き渡る。
魔法が使えない以上、先手は取れない。具体的に言えば「先手を取ってはいけない」。
先手を取る、つまり先に仕掛けた場合は『相手が何をしてくるかが分からない』。それが魔法。衝撃吸収魔法があるかもしれないし動作模倣魔法があるかもしれない。魔法は「可能性」を与えるものだ。ヒトの限界値をいくらでも引き延ばす。時には人ならざる者へと昇華させる場合もあるかもしれない。つまり魔法は素質によるが、何でもできるのだ。
相手が何をしてくるかわからない、それは対人試合に於いて凄まじい恐怖。
勝ち方は見つけなければいけないのに負け方はいくらでも存在するということ。
だから先手は取れない。相手が乱れた時、例えば魔法が尽きた時や邪魔が入った時に不意打ちを差し込むことしかできない。
(だけどこの状況でどう一閃刺し込めってんだよ!!!)
刀一本で無数の光の槍を防いでいるだけでかなりの疲労。ここから少しでも形を崩せば被弾し、さらなる追撃を喰らうだろう。おまけに光の槍に何か仕込まれてるかもしれない。相手の事が分からなさすぎる。
どうやら司教が何やら言っているようだが防御に手一杯だ。聞く事すらままならない。
(相手が尽きるのを待つか・・・果たして待てるのか?)
どうにか、どうにか相手に隙を作ることが出来れば。
『もしもおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおし!!!!!』
突如、頭の内側から大声で鳴り響く声。背中から飛び跳ねるように驚いて集中力が切れ、刀を振りきれなくて後方に弾かれてしまった。頭の中に掛かるノイズに交じって声が聞こえる。今の声は―。
「なんだヒサメ!?急に話しかけてくんなってかお前どっから話してんの!?」
『後で解説するから!いいからまず避けろ!以上!』
脳内に掛かっていたノイズが晴れる。今のも一種の魔法なのだろうか。
「避けろって何が―――」
そう言えば槍が飛んでこないな、と思って司教をちらりと見ると上を向いたまま口が塞がっていない。上に何かが―。
「・・・なんだあれ、なんだ、なんだよあれは!?」
時を遡る事約30秒ほど。
ギルドの中庭、ヒサメとルイラは中庭から―――大砲を撃とうとしていた。
「ジルオさん今広場にいますよね!?ギルドから直線距離どれくらいですか!?」
『1キロもないだろ。ただ南西に風が吹いてるからそれを考慮しろ。・・・言っておくが、爆撃モードを使って街に損害が出ても俺は知らないからな』
「その為のルイラですよ!一応当たる可能性あるから広場から離れておいてくださいね!」
話すことは終わった。なら急いで魔力を溜めて上空に射出。
弾着位置を固定しても風などでいくらかずれる場合がある。元の世界の列車砲ならば風の五社は仕方ない程度だったがこちらの世界は違う。空間魔法で弾着位置からずれそうになった場合は修正することが出来る。
彫られたメーターに溜まる魔力、もちろん威力はフルチャージ。
高周波の機械音を周囲に反響させながら右腕を上空に構え、空に向かって吠えるように叫ぶ。
「どらっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええあああああ!!!!!」
トリガーを左手で力強く人差し指でプッシュオン。ガチャコン、と機械音の後に全身を吹き飛ばしてギルドの壁に叩きつけられる。・・・いつかこれで関節を痛めそうだ。
蒼い流星は空に撃ち上がり、重力に囚われるまでひたすら上昇を続ける。
「っつぅ・・・!撃ち上がったぞ!ルイラ頼んだ!」
「ばっちこいです!!!」
空間魔法で上下にループ式に穴を作れば着弾のタイミングを計れる。着弾する前に本人に確認しておこう。
反動で節々が悲鳴を上げているがお構いなしだ。スマホを取り出して電話。テレパスは本人に魔力が存在すれば勝手に作動する魔法だ。ならばきっと通じるはず―。
「もしもーし!?もしもーーーーし!?!?!?」
『なんだヒサメ!?急に話しかけてくんなってかお前どっから話してんの!?』
(よし通じた!えっと、何から言えばいい!?なんか凄い音してるから余計な話は出来ないし・・・)
とにかく最優先で伝えることを伝えて、そして邪魔にならないようにすぐ切る。これだ!
「後で解説するから!いいからまず避けろ!以上!」
そして切断。本人はテレパスを使ったのが初めてだろうから困惑しているかもしれないが今はそれどころではないのだ。
「ルイラオッケー!解放!」
「了解です!」
ワープによって上空に留められていた砲弾が重力に従って落下していく。
魔力の溜め威力の通り、落ちる際に分裂しながら。
「・・・あれでよかったんですか?」
「さあ。でもあの武器は避けることは神的にやりやすいからな。あ、ルイラもう一回ワープ用意できるか?」
「できますけど・・・まだ何かあるんですか」
「予備だよ、予備。俺はゲームのラスボスは死体蹴りしてでも第二形態を省きたいタイプなんだ」
上空から、隕石が降ってくる。
隕石にしてはちょっとおかしいがとにかく何かが降ってくるのだ。
「なっ・・・!?」
「なんじゃありゃああああああああああ!?!?!?」
しかも割れてる。落ちながら拡散弾に変わっていってる!
(アイツが言ってた『避けろ』ってのはこれの事か!こんな俺にも当たりそうな支援砲撃くらいなら直接来てくれた方がありがたかったんですけど!?)
確かにこれは当たったら相当なダメージだろう。だが、それは相手も然り。
「なっ、何なのだこれは・・・!」
そして雹のように降り出した砲弾の豪雨。相手は防ぐことしかできない。
こちらも防がなければ被弾する。だが、ここで防いでいては状況は何も変わらないのだ。
(味方のせいで死ぬ確率が上がるとかとんでもねえ戦いだぜ全く!)
数歩後ろに下がって屋根の下で深呼吸、刀を鞘に戻す。そして姿勢を低くして右足を曲げ、左足で地面を蹴ってから右足で勢いをつける。
「なっ―」
カガミマチの武術はすぐ終わる。なぜかすぐ終わるのだ。剣道よりはフェンシングの方が近いだろうか。とにかく「相手に一本叩き込んだら勝ち」。
そのため相手の元に潜り込む動作は他の武術を凌駕する速度になる。
ミズキがいた流派『神薙流』はカガミマチの中でも随一の速さ。
剣を振ることは気にしない、とにかく勝つ。その為には速さがいる。
そして生み出された足捌き。剣を振ること以外にあまり関心を示さなかったミズキが唯一「ためになる」として覚えた足の裁き方。
前傾姿勢で、刀を前に構え、前足で低空を飛ぶように踏み込み、二歩目以降をつま先で一瞬だけ力強く地面を蹴る。
研ぎ澄ました感覚と砲弾の音で背後を確認し、地面を電撃のように蹴りながら一瞬で近づく。
そして懐に潜り込んだら瞬時に右足で体を押し上げて―。
鞘に入ったまま刀を抜き、司教の顎を下から強引に叩き上げた。
下から体を起こした力も加わって司教は体を宙に浮かされ、降り注いでいた砲弾を腹に見事に喰らって地面に叩きつけられた。
「・・・ハァ・・・なんだ、今の・・・俺が死ぬとこだった・・・」
刀を出したままでは素早く動けない。納刀した状態で走り、抜刀刎首が出来る間合いになって始めて刀を抜く流派であるため走る時は刀を出してはいけない。うっかり砲弾が当たっていたらこちらが屍だ。
「にしてもとっさの判断で鞘打ちにした俺スゲェな・・・」
実はそのまま斬るつもりだったのだが「ギルドの任務的には生きてないと困る」みたいな感じに言われることもあるかもしれない。別に殺すのなら後でも出来る。
「ッまだだ・・・!」
ぼそりと聞こえた声に反応して振り向くと同時に抜刀して光の槍を横に受け流す。
「まだ生きてやがったかテメェ!・・・いや今回は殺してないな、まだ起きてたか!」
これはもう一回あるか、とげんなりしながら刀に手を当てたその時。
倒れた状態から体を何とか起こした司教の横腹に謎の物体が横から直撃、司教は右から左へ視界からフェードアウト。
「・・・へっ?」
「おっ生きてる生きてる、ミズキー?どうだったー?」
謎の物体が飛んできた方角には空間ごと切り取られたようなワープの穴。
「おうヒサメ、こちとら砲弾の雨避けるのに集中力使いまくって疲労困憊だ」
「喋れる余裕あるじゃん、俺なんか魔力カラッカラだぞ」
ワープ穴から顔だけ覗かせているヒサメは確かに顔から疲れが出ている。
「で、今のは何だ、すごい勢いで何か飛んで行ったが?」
「予備弾。街中で戦闘を起こす奴は第二段階があるって法則があるから」
「どんな人生を送ったらそんな経験則が得られるんだよ・・・まあいいや、助かった」
周りが静かになって体がようやく戦闘が終わったことを感じ始めると一気に力が抜ける。
ワープ穴からヒサメが砲弾でバキバキに割れた地面でバランスを崩しそうになりながら歩いてくる。
「・・・なんでお前がそんな素直にお礼なんかしてんの、気持ち悪」
「して悪いか。さすがに今回は分が悪すぎた。耐久勝負してたら負けてただろうな」
相手はただ槍を作って打ち出すだけだがこちらは槍を見て避けて受け流して見てをひたすら繰り返す必要があった。あのままだったら数分で体が追いつかなくなっていただろう。
「お礼はカリンさんに。お前が分が悪いってこと知ってたぞ、あの人」
「姫様は昔からそんな感じだぜ。死なない程度に他人を痛めつけるのが趣味だからな」
「うっわ趣味わるっ・・・ほら帰るぞ、なんかルリアさんめっちゃキレてるけど」
「なんでだろうな」
「なんでだと思う?」
申し訳ないが心当たりは何も、と鼻で笑いながら思うようにい動かない体を起こして立ち上がる。刀一本で魔法使いと戦うのはさすがに無理があったのだろうと思う。
だが勝った。生き残った。ここに立っている。それが重要なのだ。
任務をやって死んでは意味がない。任務をこなし、金を貰って初めて任務をやった意味がある。今は多々、任務をこなした達成感に浸っていればそれで良いのだ。
「あ、この任務俺も手伝ったから山分けな」
「は?」
なんか、なんかこう・・・なんだこのやるせない感じ・・・。
正月の間に私的な問題がいろいろありまして内容の割に文量が少ないです。
いつか内容を変えずに描写追加することになるかもしれないです。
皆さんも・・・インフルエンザにはお気を付けください・・・。




