#29 混戦
神は、いるのだろうか。
いるとしたらどこにいるのだろうか。
神は人類を救済してくれるはずなのだ。
だとしたら、なぜ救済してくれないのか。
「まだその時ではない」と思っているのか、それとも救えぬものが多すぎるのか。
とにかく、この世は救われていない。
奴隷制、社会主義、身分制度、世の中は歪みを歪みと「認識できていない」。
そこに存在することが当たり前と感じていて、歪みに見えていない。
ああ神よ、あなたはどこにおられるのでしょうか。
この世は汚れてしまった。あなたが、人を見ていなかったが為に。
自ら生み出したものを管理できないなど生命体として失格だ。
その無意味な神を据え変えるにはどうしたらいいのか。
ああそうか、私が、神になればいいのだ。
逃げ惑う人の波で広場は大混乱。しかし、逃げるルートはある程度絞られているせいか人はすぐにいなくなる。
まあ、確かに目の前に刃物持った人間が上空から降ってきたら逃げるよな。
ヒトは刃物を持っていることが怖いわけでは無い。その理屈ならば戦場で見方が持っている武器に怯えることになってしまうから。
ヒトが恐れるのは「自らが殺される危険性があるかどうか」だ。人は刃物でなくとも死ぬ可能性がある武器、例えば槍や鎚などでも恐怖を憶える。つまりそういう事。恐怖を憶えないのはよほど信頼している人くらいだ。
加えて言えば、視認している場所の外から来るものも恐怖を覚えることもある。大きな箱などが横から倒れてきたらビックリするのと同じ、「急に出てくる」ことは恐怖だ。
「見知らぬ人間」が「上空から降って来て」「刃物を持っている」。うん、フルコンプリート。そりゃあ逃げるのも納得。
「さて司教様・・・あーっと、『コロル・ホースト司教』、何でこの国に来た」
とにかく警戒。聞きながら刀を抜き、眼を見ながら喉元へ。
「わ、私はただ、この国にわが神の教えを説きに・・・」
「ほぉう?出身国を言わないあたりが非常に怪しいぜ。外国で活動するときはまず最初に元の国の名前を言うのが礼儀じゃ?」
怪しい、とにかくこの男は怪しい。見た目こそ普通の司教なのだが、『その時点でおかしい』のだ。その理由は―。
「わ、私は遥か西のマケドニアス皇国から来た!今まで国を伝って、ようやくこの国に辿り着いたのだ!」
「へぇなるほど、それは御苦労さん」
それは確かに真実っぽいな、と呟きながら刀を下ろす。
まあ、確かにこの付近は小さな国が多い。国と言っても街1つレベルの小さな国だ。この国もその一つ、国と呼ぶには少し勇気がいる程に小さい。
「私一人で布教しながら歩き続けてここまで来たのだ!それが―――」
言いかけていたセリフを、喉に刀を再び突きつけて止める。
「そこが怪しいっつってんだよ。いくつ国を跨いで来たかは知らないが『なんでアンタは無事なんだ』?」
先程からそれがずっと気になっている。マケドニアス皇国とやらがどれほど遠いかは知らないが、この国に辿り着くまでの国全てが「盗みが絶対に発生しないほど治安のよい国」とは限らない。
この国に飢えずに辿り着いているということはどこかで食料を絶対に補充しているはずだ。つまり金は絶対持っている。通貨が通じなくとも、国家共通で金になりそうな貴重品とかは持っているはずなのだ。
そんなものを持っていたら絶対盗まれる、というか俺自身に盗みの技術があれば絶対盗んでる。
(つまりコイツは何かしらの戦力を持っている!・・・のはいいんだけど)
刀を突きつけながらさりげなく溜め息。うん、どうしたものか。
確かに怪しい。怪しいのだが決定的な証拠はない。証拠があれば一刀両断しても良いのだが、それがなければむしろこちら側が責任を問われる。あのギルドも流石に所属してない殺人犯を擁護してくれるほど面倒見も良くないだろう。
(うーん・・・それっぽいセリフで相手を待つか)
「いきなり剣を突きつけられて訳が分からないと思うが任務だ。俺が所属しているギルドに『コロル・ホースト司教の追放』って任務が来たんでね」
まあ、間違ったことは言ってない。言うとすれば俺自身はあのギルドに所属していないが相手からすればそんなことはどうでもいいだろう。
「だっ、誰が、何のために!」
「俺もよく分からねえ。でも結構な金額が懸かってるぜ。そんな依頼されるほどアンタがなんかしたんじゃねえの?」
自分の行いを振り返ってみな、と言いかけたその時―。
「ッ!!!」
視界の端で何かが光るように見え、目の前に一直線に飛んでくる光の槍を反射神経で避ける。
「・・・ノーモーションでなんて攻撃して来てんだよアンタ、やっぱ魔導師か」
「黙れサムライ、私は神の声を聞くまで死ねないのだ!」
「しかも割と好戦的。・・・まあいいや、アンタが次に攻撃してきたら俺は反撃するぜ。『脅し』ではなく『攻撃』としてな」
「ふむ?妾じゃが?」
「だろうと思った」
「だろうと思ってました」
ミズキが一人で広場に言った理由を知っていそうな奴に聞いてみたらこれ。
他にも聞いたら答えが帰ってきそうな人は何人か考えてはいたがまさか一人目で当たるとは。
「あー・・・何で行かせたんだよ、しかも一人で」
「あやつが暇そうに刀を研いでおったからの。それに外も騒がしくて眠れもせん。ちょいと沈めに行って貰おうとな」
多分行っていることは間違いない。ミズキの事だし金額を見てすぐさま飛びついたのだろう。・・・なんて単純。
「思ったんですけど、ルリアさんが言っていた『実力行使系』ってどういう意味なんでしょうね?」
「さあ?布教に実力行使もあるか?俺は無いと思うんだが・・・」
力で押しつけた物は馴染みにくい。それは全てにおいて共通する。
学校で嫌なことを勉強していても頭には残らない。それと同じだ。
宗教でも押し付けられたものを信仰する気にはならないだろう。
「じゃあ一体何が・・・」
「魔法使いとやらじゃろ。丸腰一人でこの国に来れてる時点で何か隠しもっとるのは明らかじゃ」
「・・・もしかしてその場合の実力行使って・・・」
「『喧嘩っ早い』という意味じゃろうな。向かってきた者は力でねじ伏せる、確かに実力行使じゃ」
魔法使いだった場合、単体魔法ならともかく全体的な攻撃魔法を持っているとしたら―。
「そんなの市街地でやられたらひとたまりもないぞ!?」
「おまけにあやつはここのギルドの甚平を着て行ったからの。何かあった場合は被害はこのギルドに来るじゃろう」
カリンが澄ました顔で言い切る前にルイラを掴んで部屋の外へダッシュ。
「っちょ、ヒっくん!?」
「加勢に行くぞ!ミズキ一人じゃ絶対にやられる!」
「えっ、ヒっくんってそんなにあの人信用してないんですか!?」
「そうじゃねえ!俺とアイツが戦った時のこと思い出してみろ!」
そう、ミズキには一度戦えば誰でも分かる致命的な弱点が存在する。
「アイツは魔法を知らなかった!火の玉しか打てない俺相手に負けたんだぞ!?魔法専門の相手と戦ったらどうなるか!」
カガミマチは魔術を拒んだ。その為ミズキは『対魔法に圧倒的に弱い』。
刀は一対一で相手の動きを研究する武器、魔法は一対一の常識を覆すものだ。刀と云う武器は見た事の無い物に弱い。本人の勘と適応力が試される。
「でもヒっくんもそんな戦えないですよね!?」
「そんなことは百どころか千も承知だ!だから俺はあの武器をジルオさんに頼んだんだろうが!」
ダッシュで階段を降りながらスマホを取り出してテレパス。今ならジルオはまだ広場にいるはずだ。3コールで繋がる。
「ジルオさん!あの大砲なんか弾詰まり起こしたんですけどどうなってるんですか!?」
『あ?何だ急に・・・弾詰まり?バカ言え、魔力を弾にしてんのに詰まるわけないだろ。クールタイムだクールタイム、暴発しないように内部のセーフティーシステムが起動したんだろ』
「じゃあそれ今は使えますね!?なら良し、ルイラ行くぞォ!」
「はっ、はいっ!どこに行くか知りませんけど!」
勢いよく電話を切ってスマホをズボンのポケットに。
工房に置いておいたエンタープライズを回収して工房の裏口のドアを開けて外に出る。
ここのドアも蝶番が強化されているがルリアが破ったのだろうか。
「やっぱここ空き地だったか!構造的に空いてるとは思ってたぜ!」
工房の裏口ドア、というか横のドアを開けると四方向が囲まれた空き地に出る。
ギルドに囲まれているからここの土地もギルドの土地扱いなのだろう、塗装のスプレーなどをやった後が壁に見られる。
エンタープライズを右腕に装着、左腕でレバーを握ってしっかりと装填できることを確認。
「よしルイラ、ミズキがいる広場ってのは行ったことあるよな?」
「南広場ですよね?ありますけど・・・」
なら大丈夫だ、と言いながらスマホを取り出して再びジルオにテレパス。画面を見なくても手癖で起動できる。
「ジルオさんまだ広場にいますか!?」
『またお前か・・・状況報告の為にいるぞ。他の人は逃げたがな』
よし、揃っている。「砲弾」、「飛距離」、「着弾位置」の3つの条件がすべて揃っているのならば列車砲は最強なのだ。さすがにこの大砲が列車砲までとはいかないだろうがそれなりの威力の自信はある。
『今から来るのか?どうせ来たところで・・・』
「今から大砲撃つんで弾着位置をお願いしますッ!」
これからは1つの章に大体6話くらいの感覚にしていこうと思います。
ときどき5話だったり7話だったりするかもしれませんが、それはまあ、誤差の範囲ってことで。
皆さんも正月は餅に十分注意してくださいね。一口ごとに水を飲むと良いですよ。




