#27 企み
忘れられていそうなことを思い出せるように語ろう。
ヒサメが持つスマートフォンは神様から貰った特別なもの。アプリケーションを魔法として扱える、魔導書の機能が搭載されている。
しかし、異世界の物をそんな簡単に持ち込めるはずがない。知られることはほとんどないがルールが存在する。
それは『人の価値観を狂わせないこと』。時代を超越しすぎた叡智の結晶は魅力を纏いすぎて、人どころか世界をも狂わす可能性があるからだ。
時代を超越した叡智の結晶、つまりスマホである。そう、本当は持ち込んではいけない物なのだ。
しかし持ち込めたのには理由がある。転生を許可するためにはその人物を知らなければならない為、神はその人物がどう生きてきたかを見るのだ。
ヒサメが転生する少し前、神の補佐官は彼の短い生涯を眺め、そして顔に手を当てて溜め息をついた。
「なん・・・なんだこの、無意味な、何も無い生涯は・・・!?」
特殊な才能も無く、学力は平均値の為さほど苦労せず、高校生になっても親から貰ったスマートフォンを眺めてばかり。そして無意味な一日がまた始まる、と思いながら家を出たその日に雷に打たれた。
「そもそもなんだあの板は・・・『スマートフォン』とやらだ。なぜあればかりを見ている?」
現代の人すべてに言える事だ。どこに行ってもあの板を見ている人たちばかり。外出先でも見ているのならば家にいても変わらないではないか。
神々も最近は現代技術を取り入れ始めて、ついには神が袖の下からオリジナルのタブレット端末を取り出す始末。最近死んだ、スマートフォンの製造技術を持つ人間に作らせたとか。
死亡証明書に書く死因は「落雷」で良い。だが、さすがに経歴を真っ白の状態で主に提出するわけにもいかない・・・のだが。
「な、何て書いたらいいかが分からん・・・文字通り何もない・・・」
全く、主は一体何をしでかしてくれたのやら、と補佐官は溜め息交じりに呟き、そこで悪戯にすら近いアイデアを思い付いた。
「・・・転生?転生はどうだろうか」
別世界に送り込む行為は神としてもあまり推奨されない。送り込んだ人間が何かした場合、責任は送り込んだ神・・・の補佐官に回ってくる。ああ忌々しい。
しかし、ここまで何も出来ていなくて、それでいて人生終了はさすがに同情すらしたくなる。ふと湧いて出た人間に近い感情だ。
それに、16年間で何もなかった男だ。異世界に送り込んでも世界を壊すほど暴れることはしないだろう。それくらいなら全然問題ではない。
だが、事態は予想外の方向へ飛んだ。その少年が転生時にスマホを持っていきたいと言い出したのだ。
「・・・一体あの板にどんな魅力があるというのだ・・・・・・」
神の補佐官には分からない。なぜなら人ではないから。
人の事は人に聞くしかない。その為、数百年に一度「神の声が聴ける人間」が誕生したりするのだ。
それは置いておくとして、スマートフォンはつい最近発明された文明の利器。どうやって持ち込めばいいのか。
補佐官はそれと同時に、彼の地球での生涯履歴をどうするかも悩んでいた。
そして補佐官は思いついた。二つの難題を同時に解決するアイデアを。
「・・・スマートフォンを体の一部にすればいいのか」
最近の人間はスマホを肌身欠かさず持ち歩いている。それはつまり体の一部と言っても過言ではないのだろうか。いや、絶対に過言ではない。きっとそうだ。
スマートフォンに生命機関をすべて連携させ身体の状況をすべて反映させる。これであのスマートフォンは『第二の身体』だ。
そして―――補佐官は、書く内容が思いつかない生涯履歴に「現在生存中」と大きく書いた。
人間一人一人のデータを見る物好きな神なんていない。このままだと彼が異世界で過ごした時間だけ地球でも時間が過ぎてしまうが、どうせ転生なのだ。地球に帰ってくるわけでもない。
その無彩色な人生に、これをきっかけに少しでも色が付くように。
そう願って、補佐官は神に転生申請書を提出した。
これにより、ヒサメのスマホは「魔導書の機能」に加えて「自分自身を映す機能」が追加された。
ヒサメが傷を受けるとスマホが傷付き、スマホの液晶の角が割れればヒサメの足の骨にひびが入る。亜人種補正によって彼は強くなったが弱点が多くなった分、彼は弱くもなったのだ。
ところで、『バッテリー』について。バッテリーは本人の元気度を表す。
100%が全快であり、0%になると身体が動かなくなって死に至る。
つまり、バッテリーの残り具合で現在の体調が分かるのだ。
ただ、人は死に方が多種多様に存在する。餓死や出血死、窒息死に衰弱死。
空腹や酸素、血液量など、元気に関係するメーターはいくつも存在する。その為バッテリーゲージは数十種類の元気に関するメーターで平均を割り出して反映させている。
ヒサメはバッテリーの確認は一応しているつもりだったが、バッテリーの仕様は分かっていなかった。見た目でわかるのは『平均』、詳細は分からない。
そしてこのシステムに、彼は後に苦しめられることになる―。
「と、とりあえずジルオさんに聞いてこないと・・・」
「俺そんな変な使い方したかなぁ・・・というか魔力を込めて撃つのに詰まるって何だよ」
色々と不明な点を抱えながらルイラのワープで帰ってくる。ワンタッチで時空の穴を開け、それでいて魔力消費は少ない。かなりチートに近い魔法だ。・・・羨ましい。
それはいいとして、ともかく初激でこんなになっていたら実用も叶わない。原因と対策を聞きに行ってみるとしよう。
そう思いながら工房に行ってみると―――いない。
いつもは長年使っているらしい金床の前に座りながら設計図でも開いているはずなのだが。
「どこに・・・あっ、ルリアさーん?ジルオさんどこ行きましたー?」
「ジルオ?大通りの広場に行ったよ?」
「・・・・・・広場?」
「・・・お主は一体いつまで刀を研いでおる」
「いやぁ姫様、これ凄いんですよ。いくら研いでも擦り減らない」
「着眼点はそこでは無かろうに・・・」
そういえばこいつ刀自体が好きだったな、とカリンはほとほと困り顔で溜め息。
ミズキ自身がこのギルドのメンバーでないため部屋が無いのと護衛の目的の二つで、ミズキはカリンの部屋の隅に小さなスペースを作ってもらっている。
当の本人は「立って寝るから大丈夫です」と断ったものの、「さすがにしっかり寝ないと任務に支障が出る」というルリアとカリンの意見によりやむなく仮眠スペースが勝手に作られているのだ。
「・・・そういえばヒサメが『武器が完成した』とかってはしゃいでましたよ」
「ほお、魔導書を持っているのに武器を持つのか。呪文詠唱者にならないとはこれまた」
「アイツの魔導書は随分特徴的なのになんででしょうね。まあ俺は魔導書すら持ってませんけど」
「このギルドのメンバーで魔導書持っている方が稀だとルリアから聞いたが?」
ははっ、さすが無法者集団だ、と言いながらミズキは研いだ刀を光に当てて様子を見る。
刀身は陽の光を受けて銀色に輝き、特徴的な刃紋を映し出す。うん、悪くない。
この刀はジルオが何を使って作ったのかは分からないが、とにかく硬い。
研いでも殆ど擦り減らない硬さ。ただ、硬い分刃こぼれしやすいので定期的に研ぐことが必要。
聞いた話によると魔力伝導率も高いと聞くが・・・まず魔力が良く分からないのでパス。魔力伝導率と云う単語も良く分かっていない。
ここでふと、何を思ったのか外に耳を傾ける。特にいつもと変わらない街の賑やかさ。このギルド自体が街の裏通りにあるのでここからはあまり聞こえるわけでは無いのだが―――今日は何かが違うようだった。
「・・・なんか、今日騒がしくないですか?今日って市場の価格対抗日でしたっけ?」
この国に来てからそんな時間が経っているわけでは無いのでこの国の仕様は良く分からないが、それでも今日は一段と賑やか、というか騒がしい。
「価格対抗日は昨日やっておった。原因は特定できておる」
「姫様この国来てから妙にアクティブじゃないですか・・・?」
「命令したらすぐに動く駒が無いから自分で動いておるだけじゃ。ほれ」
顔を上げたらいきなり顔面に叩きつけられる一枚の紙。これも魔力操作の類かな、と思いながら紙を眺めると。
「これ、任務の依頼書ですけど・・・・・・報酬金25万!?」
そんな金額を投じてまで依頼する任務って何だ、と思いながらミズキは紙面上部の内容を確認。
「・・・・・・何ですかコレ、『司教の追放』?宗教絡みですか?」
宗教。聞いただけで顔をしかめたくなるほどに関わりたくない。
基本的に神を信じている奴は神を優先しすぎて自分の周りを疎かにする、という経験則があるからである。
それと、カガミマチにも宗教はあったが『多神教』。万物に神が宿る考え方だ。一神教の信者とはことごとく話が噛み合わない。
「他国からの来訪者だそうだ。国に入るなり広場で神の教えとやらを説いて信者を増やそうとしているとか」
「へえ、それの任務がこのギルドに。決行は・・・明日ですか」
「・・・お主もこの国に来てけっこう染められたな」
「はい?」
つい素で返してしまう。染められた?この国に?
「それに書いてるであろう、『任務遂行者山分け25万』と」
「ああ、それは読みましたよ。でも一人あたりの貰える量減るだろうし、やらなくていいかなって・・・」
「昔のお主だったら『じゃあ一人でやったら全額貰えるじゃん』って言ってたじゃろうに」
言われて気が付く。確かに『山分けならば一人でやったら全額』だ!
そんなことにすら気が付けなかった。平和ボケでもしているのだろうか?
「なるほど・・・で、追放ってどうすればいいんでしょうね」
「掴んで国の外に放り出せばよかろう。問題を起こせばもう一度入ってくることも出来なくなるしの」
「ハッ、国外からの来訪者を追い出すとはとんだ自虐ネタですよ」
厄介者が厄介者を追い出す、確かに最高級の自虐かもしれない。
だがここに住んでいる以上、居場所を守るという名目上は正当防衛。
実際に任務も出ている。・・・誰の依頼かは見当もつかないが。
「そこは『任務とあらば』ってやつじゃ。ほれほれ、聖者の福音は待ってくれんぞ?」
「んなこと百も承知ですよ。俺は神様なんか信じないって、昔から決めてますから」
そろそろ年末ですよ、年の末で年末です。もう今年も終わるんですね。
冬の長期休みでのんびりしながらマリオオデッセイとFGOしていたら更新分を書いてないことに昨日気が付きまして。
キーボードを打つのすら3日ぶりの手でボケてる頭を叩き起こしながら書きました。
作業中に寝ちゃってキーボードにもたれかかるのは・・・壊れるからやめようね!




