#26 武器
時を遡る事十数時間前、ギルドに帰ってきた直後の話。
『さて、じゃあこれをお前はどうしたい?要望があるとかって前に言ってなかったか?』
黒く輝く金属。綺麗に延べ棒に加工されたそれは目の前にある。
『作ってほしいものはあるんですけど・・・若干夢物語って感じで』
『夢でも完全には無理だがある程度なら再現できるかもしれないからな、聞かせてみろ』
実際にやろうと思えばできる、という意思を言葉に乗せている頼もしいセリフ。
『えーっと・・・魔力で撃てる小型の大砲が欲しくて・・・』
『・・・・・・小型なのに大砲なのか?』
『やっぱそうなりますよねー・・・』
元の世界の言い方で言うと「ロケットランチャー」。片手で持ってもう片手で支え、全身で反動を堪えながら思い一撃を放つ。そんなのが欲しい。・・・が、どうにも伝わらない。
(やっぱ剣とかの方が良いのかなー・・・でも使え無さそうなんだよな・・・)
剣道はやっていたが学校の授業レベル。しかも竹刀と真剣は勝手が違う。上手く扱えないどころか捨てたほうが良く動けるとまで思える。
やはり剣か、と考えていた。そこでジルオは―――。
『・・・いや、出来なくはないな。魔力弾を筒状の重心から打ち出す・・・片腕の行動範囲が多少狭くなるがそれでいいなら作れると思うぞ?』
『本当ですか!?』
「よくわかんないけど出来そう」という職人特有の謎の自信はどこから湧いているのだろうか。疑問だが、ここはお願いしてみるしかない。
『カガミマチの任務の時にグランツが持って帰って来たものの中に銃が入っててな。アレの構造を真似たらどうにかなりそうではある。まあ試してみるさ。完成したら呼ぼう』
『お願いします!!!!!』
そして今に至る。工房に入っていつもジルオが座っている金床付近に行くと―。
「・・・あれ?いない・・・あ、来た」
「お、もう来てたか。お前の要望を受けて完成したのがこれだ。どうだ?」
構造はただの四角い筒。発射口側の少し手前に手持ち用のグリップポイントと、腕で固定するためのバンド。手持ち部分の側面にはいかにも「左手で握れ」という雰囲気を出しているレバー、外側には枝分かれした謎のライン。黒い金属光沢はロボットアニメの武器のような雰囲気を醸し出している。
「・・・構造はシンプルなんですね」
「右腕に装着して、左手でレバーを握って魔力を装填。そのレバーは出力を変えるための物だ」
右腕に装着して、真正面に向けて左手でレバーを握る。レバーは特定の角度に押し込むタイプ、分かりやすく言うと自動車のギアみたいな感じだ。ガッガッ、と力強く入力するレバーは嫌いじゃない。むしろ好き。
「・・・この外側のラインって何ですか?」
「ああ、それは今の出力を示すメーターだ。それを見て魔力消費と出力を調整しろ」
「つまりこれは・・・魔力の塊を豪速でぶつける機械と」
傷一つない輝く砲身は見ていて惚れ惚れしてしまう。問題があるとすれば・・・見た感じがアームキャノンな点だろうか。やってみたら分かるのだが・・・右腕の銃身を左手で支えるというのは、人物特定できたらハワイへご招待されそうなポーズで撃つことになる。しかもこれは大砲。中・遠距離戦を主軸に扱う武器なので近距離の狙いがまともに付けられない。そもそも遠距離戦でも大砲と云うのは頭数を並べて弾幕を作る武器。一台で全てを解決する遠距離砲なんて、かのヴィルヘルム砲くらいしか聞いたことが無い。
「気に入ったか?」
しみじみと眺めていたらジルオが訪ねてきた。本人も出来には満足しているらしい。
「お気に召しますとも。要望通りの物が完成して驚いてますよ・・・これ、名前は?」
「九六式弾道発射小型魔力砲『エンタープライズ』。グランツが持ち帰った銃が『九六式短距離銃』って名前らしくてな。そこから名前を抜いた」
96式、つまりは発射口が9.6センチメートルということなのかもしれない。この世界にセンチメートルの概念があればなのだが。
『エンタープライズ』という名前も格好いい。確か・・・ヨークタウンの空母だったか。あの時代の世界史は結構好きなのだ。空を飛ぶ攻撃機の如く砲弾を飛ばす、と言う意味なのかも―――待て。
「・・・ちょっと待ってください、ジルオさん『エンタープライズ』ってどこから引用したんですか?」
「空を飛ぶ侵略機を打ち出す基地だろ?そこからだが・・・」
「・・・それ、誰から聞いたんですか?」
空を飛ぶ侵略機を打ち出す基地。間違っては無い。空母は確かに爆撃機や攻撃機を飛ばす。
問題はそこじゃない。『なんでこの世界の住人があの空母の名前を知っている?』
学校も通じない、将棋も通じない。でもドイツ式の可否は返答が来るし、合衆国が生み出した空を制する怪物は認知されている。なぜ?
「ここのギルドに昔いた奴が言ってた昔話だ。それが?」
「・・・・・・いや、なんでもないです」
ギルドに今はいない人が言っていた昔話。それは、あちらの世界の史実だ。
(少し前までここのギルドに俺以外に転生してきた奴がいたのか・・・!?)
そうとしか考えられない。思いつきにしては情報の合致性が高すぎる。
少し前、ギルドが出来たのは8年前だから少なくともその間に、誰かが―。
「とりあえず試し打ちしてきたらどうだ?ルイラに国の外に連れて行って貰え。国外は基本的に何やっても自由だからな」
そして来てみた国外。アズドラークとカガミマチの中間、空の果てまで続いている青空。雲一つない快晴だ。
・・・思えば、この世界は『国』も少しばかりおかしい。
この世界の国は、自分の国を囲って一つの「集合住宅街」にしようとしている。
そして国と国の間には何にも邪魔されない自由なスペースがあるのだ。
お気づきであろうか。既にここがおかしい。
この世界の国(そこまで国を見ていないから断定的なことは言えない)は、『国土を広げようとしない』。
元の世界だったら面積を少しでも欲しいがために戦争だって起こすほどだったのに。
・・・まあ、あの世界は胡椒のために戦争するような世界だから何とも言い難いが。
「とりあえずメーターは・・・最初だから最大までやっちゃっていいや」
魔力弾なので実質弾切れしないのと、威力が分からないこともあってまずは最大火力で様子見。威嚇射撃だって力を見せつけるために火力は最大限で行う物だし。
右腕を斜め45度に傾け、左腕のレバーを握って魔力を注入。
キィィィィィィィィィン、と耳に響くような音が鳴り始め、魔力を込める田部井に音が高くなっていく。黒い筒に彫られたメーターは着々と溜まり、ついにメーターも音の周波数も最大に。甲高い音は耳の中で跳ね返り、思わず眉毛をハの字に曲げそうになる。
「どらっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええい!!!!!」
左手のレバーにあるトリガーを叫びながら力強く人差し指でプッシュオン。
パチン、とトリガーのボタン音がした瞬間、全身を大きく後ろに吹き飛ばす爆風のような衝撃。持ち手部分のグリップと右腕のバンド、左腕のレバーの三点で衝撃を受けたから全身に衝撃が来てるだけで、左手を少しでも離していたら右腕にすべての衝撃が掛かっていただろう。そうなったら腕が吹き飛ぶ大惨事になっていたかもしれない。
衝撃で後方に押し出され、中学に習った柔道を生かして後ろ受け身を三回。
煌々の技術ですら忘れ書けなのに中学の事を覚えていられただけ良い。実質、柔道は受け身と固め技からの抜けだし方以外は忘れてしまったのだが。
「がッ・・・・・・あっ!ぐぅぅぅぅ・・・何だこの衝撃・・・」
「ヒっくん大丈夫ですか!?」
全身がビリビリして上手く力が入らない。どうにか大砲を支えにして立ち上がる。
完成品で、これだけの反動。さすがにこの威力を連発するのは避けたい。
大砲は壊れやすいのが欠点だが・・・この威力だと大砲が壊れるかこの体が壊れるかのどちらが先かもわからない。遠距離はなるべく使わないようにしたい。中距離戦用の移動式重砲と捉えた方が良いだろう。
「俺は大丈夫、ルイラは・・・」
「私には何も・・・ヒっくんだけが吹っ飛びましたよ!?」
「なるほど、使用者だけか・・・ならまだマシ・・・かな?」
硬直した筋肉を無理やり動かして見上げた空には―――。
「まだ上がってますね・・・あんなに飛ぶほどの威力、人体に受けたら大変ですよ」
「全くだ。暴発は避けたいもの・・・だ、な・・・・・・」
そして、見上げた先にあった、打ち上げた水色の球体は空中で弾けた。
空中で、二つに、割れるように。ぱっかりと、斜め45度で見事な弧を描きながら。
「え?なんか弾が割れ・・・割れ・・・・・・」
目の前で起きていることが理解できなくて開いた口が塞がらない。
即座にメーターを見る。メーターの枝分かれは一本が二本に分かれていくようになっている。二本から四本へ、四本から八本へ。その意味を、たった今理解した。
メーターの分岐は六段階。フルチャージした場合、枝は64本にまで増える。
「空中で・・・弾が割れて増える・・・のか?」
先程「大砲と云うのは頭数を並べて弾幕を作る武器」と言った。確かにそれはその通りだ。大砲一つでは何もできない。出来るのだが、火力としては足りなさ過ぎる。命中率も乏しい。
だが、この大砲は違った。『命中率を上げるには頭数を増やす』を逆手に取り、『一度に討つ弾が増えれば命中率はその分上がる』という脳筋思考を織り込んだ無差別弾幕砲だった!
天を流れて行く流星群の如く、砲弾は分裂しながら重力に従いながら地面に落ちていく。
一発ごとに僅かながら爆発性もあるらしく、遠くから見ていると、その様子はまさしく「爆撃機による無差別攻撃」。かの空母の名前に恥じぬ殲滅力を肌で感じる。
「ひ、ヒっくん・・・えっと・・・・・・」
「・・・凄かったな・・・今の・・・」
「凄いというか・・・凄惨でした・・・」
これを人がわんさかいるような都市に打ち込んだらどうなるのか。
そして、そんな爆撃の雨が降ってきた国の人たちは何を思うのか。
前者は米国の作戦司令部が、後者は戦時中の日本に住んでいた人たちがきっと知っているであろう。思い出したくも無い、忌々しい記憶として。
(ヤベェ・・・スッゲェ強くて格好いい・・・!)
ロマンと実用性と威力を兼ね備えた武器は何と呼ぶか。至って簡単でシンプル。『最高の代物』だ。
射程あり、威力あり、手数あり、範囲あり、ついでに一発ごとのリスクもあり。こんな武器がゲームにあったならそのゲームは「最高」以外の何物でもない。
そんな素晴らしいものが目の前にある。何と嬉しい事か。
「・・・?ヒっくん?なにか嬉しい事でも?」
「へ?あ、ああいや、何も・・・よし、威力偵察も出来たし帰るか」
「一回だけでいいんですか?」
「・・・今の威力を何発も撃つのは体が耐えれん」
「それもそうですよね・・・」
使った感想をジルオさんに言っておかなきゃいけないしな、と言いながらルイラのワープでギルドに帰る―――のだが。
ガコン。
「え」
「はい?」
何か、内部から良く分からない重たい金属音が。
「・・・何今の」
「何か変な音しましたよね?」
内部の金属音。機械的なものがある程度時間が過ぎた時に勝手になる音と言えば。
大砲ならば至極当たり前とも言えるような、でも想定していなかったような。
「・・・これ、もしかして・・・」
経験したことは無いが、感覚でわかる。ゲームなどで見た、忌々しいあのエラー。
「・・・・・・詰まった?」
【分からない人向け:ヴィルヘルム砲】
正式名称は「カイザー=ヴィルヘルム砲」、一般的な呼び方は「パリ砲」。
第一次世界大戦時にドイツ軍がパリを撃つときに使用した列車砲の事を指します。
ヒサメは文中で「一台で全てを解決する」と言っていますが、実際は威嚇用なので一台でいいんです。
ただこれの化物な点は射程。成層圏まで砲弾を飛ばして、減少した空気抵抗によって遠くに飛ばす、というクレイジーな発想。
それでも威嚇とは言え、直撃してるのは事実。120キロ先から狙撃して命中させた大砲はこれくらいです。
こんな感じの解説ってあると良いのかどうなのか。これからも専門的すぎる用語が出てきたらこんな感じに解説したりしなかったり。




