#23 錬成
「ふむ・・・本当に主成分が水銀だ・・・これは君が見つけたのか?」
「いえ、街にあった古物商に売ってたもので・・・空から降って来たとか」
(なんかジルオさんの親父さん、急に冷静になって調べ始めた・・・)
現在は街の中心部、十階建てのビルに匹敵するほどの高さの溶鉱炉がある『総合製作所』にいる。上り下りの階段が手すりが無くて本当に不安。
「水銀の割合がここまで高くて固体なのは非常に珍しい。混和した金属が何なのか見当もつかないな」
「・・・じゃあこれどうなるんですか?」
「まずはこの割合のまま延べ棒にしてみよう。そこからは息子に任せる。そちらの方が君としても加工のアイデアが出しやすいだろう?」
「え、ええ・・・まあ・・・」
(素はこんな人なのか・・・いや、これをあそこまで怒らせるとかジルオさんは一体何をしたんだ・・・)
一方その頃、総合製作所から50mほど東にある商業管理場。
ここは主に外注などを管理し、納品順番などを正しく並べて整理する場所。・・・だが。
国交を今まで断ってきたがために、ここの仕事はゼロに等しい。
「そーんな給料泥棒さんたちに仕事を回そうとしているのに断るとはどういう見解なんだろうねぇ?」
「そ、そう言われましても・・・」
ルリアとミズキが担当職員に脅すかのように交渉を持ちかけていた。
「別に注文したいのは今じゃないの。今欲しいのは『こことパイプがある』というだけよ。武器庫とパイプがあるということはそれだけで脅威になるわ」
「い、今はちょっと・・・工房との兼ね合いもあるし・・・」
怯えながら首を横に振る担当職員。思わず二人とも溜め息が出る。
「・・・リーダー質問、脅していい?」
「怪我させなければいいよ」
許可が取れたのですぐさま実行。刀を抜いて担当職員を即座に壁に叩きつけ、刀を首元につきつける。何かあったらすぐさま斬る、という目つきを添えて。
「手荒で悪いな。・・・まあご挨拶が手荒だったのはそっちだからお互いさまとでもしておこう。リーダー、交渉」
「さて、最後にもう一度だけ問おう。ヤー?それともナイン?」
何層にも重なった耐熱窓から溶鉱炉の中に入れた鉱物の様子を見る。内部はかなり温度が上がっていて中の様子は目を凝らさないと見えにくい。
「あの鉱物が乗っている網から金属が溶けだした時が狙い目だ。その一瞬だけ温度を急激に上げて一騎に溶かし、不純物を除きながら熱で純度を上げて、底から液体状の金属を輩出して延べ棒に固まらせる」
「一瞬だけ温度を上げるのはなんでなんですか?」
「あの金属が分からない以上、何度で溶けるかが分からない上に、溶ける温度にこの溶鉱炉が耐えきれない可能性がある。だが一瞬だけ上げてすぐに下げる事なら負担は大きいが全壊はしないだろう」
「なるほど・・・・・・」
詳しいことは分からないが、とにかく「ドロッとしたらそれ」ということが分かった。むしろそれ以外が分からない。後でジルオさんにでも聞いておこう。
そして、それから約2分。
ぼんやりとしか見えない鉱物の輪郭が、ゆっくりと崩れ始める。
「「今だッッッ!!!!!!!!」」
パチン、と手元レバーのトリガーボタンを押す音。突如溶鉱炉が甲高い音を上げ始める。
「うおおおおおおお!?ちょっと、一番奥の耐熱窓割れましたよ!?」
「その為の十層構造だ!」
「良く分かんないけど凄い事起きてる!手順間違えたら消し炭になるくらいのやつ!」
そして耐熱窓から見える鉱物が完全に無くなったのを確認。
「ここで一気に冷やすッ!」
さらにボタンを押す音。いきなり溶鉱炉から「ゴシュン!」と蒸気を吐く音がした。
「お、おお・・・いった?これいきました?」
「どうだろうな・・・溶かすことは出来たから後は純度だが・・・」
そして一番下まで行って液体排出口の前で待機。
「さて、後は祈るくらいか・・・」
「成功してるといいんですけど・・・」
「ヒサメくーん!どんな感じー?」
どうやら交渉に向かったルリアとミズキが帰ってきたようだ。
「そっちはどんな感じでした?」
「バッチリ契約結んできたよ!いやー、話が通じる人で良かったね!」
この屈託のない笑顔には裏があるのかないのか。分かったら勲章ものだ。
「ヤーかナインで聞いたら一発で許可してくれたよ!やったね!」
・・・訂正。この顔は裏とか表じゃなくて力ずくでもぎ取った顔だ。
(脅したのはミズキが溜め息吐いてる事からも明らかだな・・・・・・ん?)
・・・待て。さっきおかしな単語が聞こえなかったか?
「ヤー」と「ナイン」。確か・・・ドイツ語の「はい」と「いいえ」だったはずだ。
この世界の言語は(仮説だが)翻訳アプリを通じて日本語に翻訳されて耳に届いている。喋っても通じる事から話す事にも効果があるのだろうと仮定する。
なら日本語ではない「ヤーとナイン」は「はいといいえ」に翻訳されるのでは?
しかし翻訳されていない。それでも「はいといいえ」として意味は通じている。
浮かぶ疑問は一つ。『なぜこの世界でドイツ語が通用する?』
「・・・お、流れてきた」
・・・とにかくこの疑問はギルドに帰って検証しよう。もしかしたら言語が日本語で統一されているかもしれないから翻訳アプリの事も。
溶鉱炉の液体排出口から水のように滑らかに流れる。そして予め置かれた四角い方の中に注ぎ込まれる。ただ、そこで疑問に思ったのは―。
「・・・・・・黒い?」
そう、よく分からないが黒い。普通、金属は溶かす時などは赤くなったりするものだと思うのだが・・・液体状でも黒い。
「・・・この鉱物ってこういう物なんですかね?」
「さすがに高温液体状の時に黒い金属は私も見た事が無いな・・・」
「とりあえずこれを・・・うわっ、固まるの早っ!」
溶けにくく固まりやすい、よほど融点が高いものなのだろう。だとしてもここまで固まるのが早い金属は見た事も無い。こちらの世界特有の金属の可能性が高そうだ。
「よし、これで完全に冷えて固まるまで放置だな。あと何分くらいだろうか・・・後でもう一度加工することを考えると急速冷却してもいいな。ところで息子を見かけてないか?一応渡すものがあるんだが」
「あ、先ほど『出来るだけ口は利きたくない』って山の頂上付近から出て行きましたよ」
「そうか・・・ふむ、昔から頑固なのは変わらないな」
ジルオの父親、ハークという男性は頭を掻きつつ下を向いて溜め息を吐く。
「できればアイツに渡してほしいものがあるんだ。頼めるか?」
「ええ、まあ・・・ある程度の重さなら一応は・・・」
「ならいい。そんな大した量も無いんだ。これを」
渡されたのは少し古くて薄汚れた布に包まれた四角いもの。
包みの上からでは何が入っているのかは予想もつかない。
「後で息子に加工してもらうのであればすぐに持ち運べるように急速冷凍するが・・・それでいいか?そんなにこの国に長居する予定も無いだろう?」
「だそうですけど、どうしますルリアさん?」
「ここ熱いからねー・・・なるべく早く出たいのが本音かな」
「本音がド直球ですね・・・じゃあそれで」
「わかった、一気に冷却して型から取り外すから待っててくれ。30秒程度で大丈夫だろう」
聞いてて思う。ここの鋳造技術は一体どうなってるんだ。
(あり得ないほどの高温が出せる溶鉱炉、一気に安定固体状に出来る冷却器・・・一体どこから技術が出てるんだ・・・)
ここの国にも疑問はいくつかある。それも個人ではどうしようもなく、調べるにはここ数十年か数百年の国の状態を知らないといけないようなくらいの知識がいるだろう。
「あ、金属は私たちが受け取ってるからジルオにそろそろ帰るよって言ってきて!」
「俺はめんどくさいからスルー」
「どうせ帰り道なんだからいいんじゃ・・・じゃあよろしくお願いしますよ」
いやあ、そろそろクリスマスが近いですね。




