#22 交渉
「武器の交渉権?・・・ああ、ここに作らせて買いたいのか。許可するとでも?」
「やっぱダメかー・・・じゃあ力ずくしかないわね」
「ならこちらも力ずくでお帰り願おう。やれッ!」
先ほどまで檻を囲んでいた集団が一斉に襲い掛かってくる。
「うーわこんな展開になるだろうとは思ってたけどもー!」
こんな展開になるだろうと思ってしまった時点でこの雰囲気に慣れてしまっているのかもしれない。
「ほい、ヒサメこれ」
頭を抱えて天を仰いでいた所にミズキから渡された鉄の棒。
「・・・これ檻に使われてた鉄棒じゃん」
「武器が無いよりかはマシだろ。ほら来るぞー」
前はルリア、右にミズキがいるからいいとして問題は左。迫って来ているのは三人。
ポケットから印刷しておいたウィスプを実体化、そして武器に触れないように一人ずつ顔面にシュート。
―が、効かない。
(げぇっ、マジかよ!?)
おそらくはドワーフ自体が火属性に耐性があるのだろう。火山の空洞を利用しているからかこの国は地熱で熱い。そんなところに住んでいたら火属性耐性は自然と付与されそうだ。
(だったら変則攻撃だな!弱点っぽいのは―――人型だから頭か!)
両足の裏にウィスプをセット、一歩下がったタイミングでウィスプを踏み込んで反発で前に勢いをつけて突撃。
「そこだぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!」
懐に潜りこむ体勢で突撃、そして突撃の威力で相手の顎に鉄棒を正面から当てる。
「もいっぱあああああああああああつ!!!!!」
空中でウィスプを固定し、それを片足で蹴ることで勢いを維持したまま方向転換。同じく顎を前から突き刺すように突撃する。
そこで相手の身体を踏んで着地。高校で剣道をしていた時はいつか空中機動で棒を扱うことになるだろうとは微塵も思っていなかっただろう。思っている訳が無かったし、まずそもそも雷に打たれて死ぬなんて予想もしていなかったのだから。
(とりあえず二人!あと一人は・・・)
考えてる最中に最後の一人が武器を振りかぶって攻撃モーションに入るのが横目で見えた。咄嗟に鉄棒で当てるようにガード。
―したら、驚いたことに鉄棒が斬れた。
「はっ?」
疑問符が口から飛び出た後に気づいた。この男が持っている斧・・・どちらかと言うとトマホークに近い。それには刃の部分に何かが塗ってるのが見える。
(特殊加工!?こいつを一番最初に倒すべきだったか!)
後悔と云う物はした時にはすでに遅いもの。防げば折れて死、防がなかったら直撃を喰らって死。ウィスプをぶつけても効果なし。魔方陣を貼れるほど時間も無し。どうしたら_。
そう思考を張り巡らした瞬間、パーカーのフード部分を引っ張られて体が後ろに傾く。
「んあ?」
それと同時に、頭上から少し曲がった鉄パイプが相手の顎を的確に撃ち抜いた。
静かに、目標地点目掛けて一寸の狂いなく正確な突き。それは体勢を崩しながらでもわかるほど美しく、フェンシングのようにただ一点を突き刺すように。
鉄パイプは刺さりはしないものの、相手は衝撃で大きく後ろに吹き飛ばされる。
「武器的な相性は距離取るのが一番って教えられてないのか?」
「ミズキ・・・・・・悪いな、俺が習ってたのは相手が剣のみのやつだったから」
「何だそれ、実践に何も活かせねえな」
「元々実践に活かすものじゃないからな・・・」
溜め息をついて後方を確認。確かに右側の敵は全て倒されている。
「・・・いやお前刀あるんだから使えよ!?」
「交渉相手に死体を増やすと関係が悪化するだろうが、気絶狙いが一番だろ」
「そうだけどミズキって峰打ちとか出来ないの・・・?」
「抜刀刎頸が俺のルールだから峰打ちは練習してねえ」
(やっぱコイツ練習めんどくさくてサボってたんじゃねえの・・・?)
戦闘前に放り投げたバッグを回収。どう見てもリュックサックなのだがこの世界では持ち歩き型のデカいポーチは何でもバッグになってしまうらしい。
「ヒサメくんバッグの中身大丈夫―?」
「あっ、大丈夫―・・・・・・ルリアさんの方こそ大丈夫ですかそれ」
「私は大丈夫だよ?」
「いや、お相手した方々の事を言ってるんですけど」
どうやらお相手したドワーフの方々はルリアの筋力を直に受けたらしく、ずいぶん遠くまで飛ばされている者や、付近の民家の壁にぶつけられた者もいるようだ。
・・・いや、何だこれ。20代前半の女性の正当防衛はうっかり相手を民家に叩きつけたりはしない筈なのだが。
「正当防衛だしへーきへーき!」
「なあヒサメ、俺あの人に一番組み合わせてはいけないワードが聞こえた気がしたんだけど」
「俺もだ、正当防衛ってあんな恐ろしいワードだっけ・・・」
きっと本人に言っても伝わらないだろうな、と静かに心の声を押し殺す。
「さて、力ずくでやってみたけど・・・まだご所望かしら?」
「これ以上は被害は出せないからな・・・よし、俺が直々に叩き潰そう」
どこからか出てきたのは紫色のハンマー。ただ、とてつもなく持ち手が長い。
至る所に茨のような装飾が施されている。もはや毒々しい。
「あら、国の特産品ね!御自慢品だとしても破損の責任は負わないわよ?」
「はい両者ストップ」
ほぼ臨戦態勢のルリアにジルオが制止を掛ける。
「おうクソ親父、俺がただの金属溶かしにこの国来たとでも?」
「何か理由があるのだろう?そうだとしても・・・」
「鍛冶職人である以上、未知の材料は扱ってみたいじゃねえの?」
ニヤリと笑うジルオ。お互いの事を熟知しているからこそ、真に心を揺さぶるものを知っている。
「・・・・・・何を・・・」
「おうヒサメ、アレ」
後ろを振り向いて名指しで呼ばれる。つまり。
「アレって呼び方雑ですね・・・はいよっと」
ジルオが指しているであろう『アレ』をバッグから取り出して地面に置く。長時間も抱えていられるほど軽くなく、その筋力がこの体に無いのも原因だ。
「こいつは調べた所アマルガムだ。こいつを溶かしたい」
「・・・アマルガム!?それが!?」
ジルオの父親が目を丸くして聞き返す。良い素材かどうかは分からない。ただ、この鉱物は『持っているだけで真偽を問われるほど稀有』な。素材であることがリアクションから伺える。
「常温で固体を維持できているアマルガム、それは稀少なんて比じゃない。鍛冶屋だって本質は科学者と同じだ。好きなことは『未知への探求』。そうだろ?」




