#20 閑話休題
同時刻、アルゴノーツ内部、カウンター席にて。
「ふむ、なるほど、『蕎麦』とやら・・・うん、悪くない」
「あなた麺好きね・・・今日はきつねうどんじゃなくてよかったの?」
「いつも同じものを食べてられるほどしたが欲に富んでいないわけでは無い。それに、知らない物は試してみるタチでな」
日が落ちたギルドで夕食を食べるカリン、そしてそれを見ながら「姫様なのに好奇心旺盛ね」と、けなす意味合いを含めながら笑うレイラ。
一日中騒がしいギルドだが、この時間帯は全員が一斉に食堂に集まるため騒がしさは段違い。なんとなく騒がしさで部屋が震えているようにすら感じる。
食後に一服とカリンはキセルを取り出して丸く縮めた煙草を詰め、キセル上部の溝を勢いよく擦ることで摩擦で煙草に火が付く。輸入品として手に入れた、特殊な技術を利用した着火装置内蔵式キセルである。
「その言葉は昔から慣れておる。・・・ああ、実は来たのには意味があってだな」
「あら、私に?急用はミズキさんにでも頼んだら?」
「あやつは今任務中だし、ヒサメに聞いても恐らく良い答えは得られ無さそうなもので」
「・・・それほど私に何か?」
「ああ、『魔法』を知りたい。その為には『人間』で『この国にいる』必要があってな」
「私はここの出身ではないわよ?」
「要するにカガミマチ出身だとダメなのじゃ。あの国は魔術を全面的に否定しておったからな。人間である必要は・・・努力が一番わかりやすいからかの」
まあそれもさほど意味は無い、と言葉を零すカリンにレイラは少し笑う。
「ふふっ、努力、か。まあそう言う面ではルイラに聞くよりかは私に聞いた方がまだマシでしょうね」
「おや、あの娘は努力が足りないと?」
「違うわ、『努力しても成果が出ない』の。あの子はどうやら四大属性から外れているようだし」
「ふむ、当たり前のように話しているかもしれないが魔術は素人でな、一から千まで頼む」
「そうね・・・まず知っておくべきのは『四大属性』のことね」
沸騰して蒸気が噴き出すポットを持ち、用意しておいたコーヒーに注ぐ。
ゆっくりと、円を描きながらお湯を注ぐその姿は淑女そのもの。
「この世界は火雷水風の四属性が基本的な属性。生物である以上、全ての生物が生まれつきで魔力に属性を持っているわ」
「ほお、私の魔力刀が青色だったのは関係が?」
「あるでしょうね、あなたの属性は水属性なのでしょう。むしろあんなの魔力操作を熟知していないと出来ないわよ」
「魔力操作なら随分昔から愛用していてな。それの応用だ」
フフン、と鼻を高くして自慢げに言うカリン。
「魔法は本人の属性魔法以外を使うには魔導書を使う必要があるの。それでも随分苦労するらしいけれどね」
「ふむ、お主は?」
「私はこの国生まれじゃないから魔導書を持ってないわ。その代わりに自分が使えるただ一つの魔法を磨き続けた」
レイラが右手を出し、その手のひらの上にあったのは小さな球。
「これは『エアロ』、風属性の基礎よ。私はこの系統しか使えないの」
「ほお、その魔法は一体?」
「風を起こす。以上よ」
「・・・・・・・・・それ、需要あるのか?」
思わず心からの疑問を口からこぼしてしまう。
「無いわ。でもこれを変化させ、その人だけのオリジナルの魔法にしていくの」
「使い手によって魔法の形を変えていくのか。それは面白いな」
「私のは『断風裂征』って言って・・・まあいつか使うときが来れば言うわ」
「ここで見せてくれても良いのにのう・・・」
「時々喧嘩を治める時に使うくらいよ。使い勝手がいいような、素晴らしい魔法でもないわ」
「そりゃ面白い。人が唯一使えるような切り札を浪費させるような連中がここにいるということだろう?よほど自信があるのだろうな」
「ほんと大変よー・・・。酒が回ってたら記憶が残ってないから反省しないし・・・」
げんなりするレイラをカリンは小ばかにするようにケラケラ笑う。
「あ、カリンさん夕食ですか?」
カウンター席の隣に座ってきたのは先ほど話題に出ていた妹の方。
「・・・ところで先ほど『あの子に聞くよりかはマシ』と言ってなかったか?」
「ああ・・・簡潔に言うとルイラには属性が無いのよ」
「属性が、無いとな。誰にでもあるものが無いと。なるほどなるほど」
「私は空間魔法が最初から使える魔法なんですけど、空間魔法はどの属性にも適応しないらしくて・・・」
「それは大変だな、周囲からいろいろ言われただろうに」
「元々不法侵入の孤児ですから何を今更って感じですけどね」
吸っていたキセルを愛用の吸い殻皿に灰を落とす。さすがに食堂兼酒場に煙草盆があるわけないので予め吸い殻を捨てる皿は持ち歩いているのだ。
「魔法の扱い方はミズキは知らないだろうし、ヒサメにも聞いたが知らないようなのでな・・・やはり練習が必要かの。むしろヒサメにもう一度聞いてみても良いが・・・」
「ヒっくんに何かありました?」
「いや、ずっと疑問に思っていることがあるのだが・・・それが魔術と繋がるかは不明。まあ、任務から帰ってきたら聞いてみようかの」
カリンがずっと気になっていること、それはヒサメの体内構造。
竜種でありながらそう見える部分は角しかなく、尻尾が生えている訳でもなく、それを間術で隠しているわけでもない(カリンの尻尾は妖術で消している。魔術ではなく護身術に近い)。亜人種にしては何かと不完全すぎる。
(その点では人間らしさが多い部分もあるが・・・実際のところは分からんな)
真実は本人に聞いてみないと分からないのだろう。俯いて溜息を吐き、そして顔を上げてキセルで一服。
「任務はちゃんと遂行できてるといいんですけどね・・・ルリアさん大丈夫かな・・・」
そしてその頃彼らは―――。
変な所から入ってしまったために侵入者と間違えられ、いきなり檻に閉じ込められていたのだった。




